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努力なんて、報われない

家に帰りつき、扉を開ける。僕の家は隣の家と違い、帰っても明かりも食事を煮炊きする煙もない。みんな僕一人でやらなくはいけない。

まずかまどに火を入れる。真っ暗だった部屋が茜色の光に照らされ、それだけで心が落ち着く。寝床と、トイレと、最低限の家具や食料しか置いていない。

これが僕の家。二年前、両親が流行病で死んでからずっと一人暮らしだ。精霊の召喚になかなか成功しない僕を、初めはかばってくれていたが二年もたつと疎んじられていた。家での生活がぎすぎすしていた時に急逝したから、ほっとする気持ちもあったけれど遺骸を棺桶に入れた時はやはり悲しかった。

かまどの火で残り一日分になったスープを温める。この量なら明日の朝には丁度空になるだろう。家の食料も明日の朝には何もなくなるように調整してある。

明日、村に残ることが決まればお祝いにいつもより豪華な食料を食べる予定だ。残れなければ綺麗になった家を後にできる。

どっちに転んでも後始末は大丈夫だ。

このリンツと言う村は少し特殊で、精霊使いの集まる村として知られている。

『精霊使いの村』というステータスを保つため、村の住人全員が精霊使いであることが求められており、この村で生まれた子供は九歳から年に一度、召喚の儀式に挑戦する。

 ほとんどの村人は一度か二度で成功し、召喚した精霊を伴侶とは別の、生涯のパートナーとして共に暮らし、護り、護られる。

 ほとんどの精霊は小動物程度の力しか持たないが、ヒアやゲーリングのように人並み外れた力を持つ傑物がごく稀に現れる。そういった者は村の外に出て貴族や王室に仕えたり、見聞を広めるために遠く旅をしたりすることが許される。

 だが僕のように精霊の召喚に成功できなかった者は村を追放されるのだ。精霊使いの血を濃く保つためらしい。

このリンツでは十歳にもなれば精霊を持つのが当たり前で、十四歳にもなってまだ精霊を召喚できない僕は落ちこぼれだ。この村は精霊を持って一人前と認められる里だ。そして十五歳になっても召喚できない者は里にいる資格なしとして追い出される決まり。

僕は明日が十五歳で召喚に挑戦する日だ。つまり明日成功させないと村を追い出される。

 僕は後片付けと明日の準備を終えた後、最後の練習を始めることにした。

 部屋の中央に足を肩幅に開いて立つ。そのまま全身の力を抜いて、ゆっくりと呼吸してリラックスする。

 十分にリラックスするのを確認したら、両掌を肩の高さにまであげて、ボールを抱えているように向かい合わせにする。こうすると両掌から放出される魔力が中心の空間に蓄積されるのだ。

 確かな魔力の集中を感じる。

 空間に魔力が集まっていくのが感じ取れる。

 これを月と大地と太陽が一直線になる時、つまり新月の真昼に定められた地で行なうことで精霊たちの世界とのチャンネルが開いて、召喚が可能になるのだ。

 だが僕は未だ精霊を召喚できていない。父も母もそこそこの精霊を召喚できたし、魔力の扱いに関して劣っているわけでもない。

 それなのに。

「なんでだよっ!」

 僕は拳を机に叩きつけた。やつあたりであることは分かっているけれどそうでもしないとやっていられなかった。

 努力した。何度バカにされても、ゲーリングみたいなやつからひどい扱いを受けても、腐らずに頑張った。僕のほかに何人か精霊使いになることを諦めて十五になる前に村を出て行ったものもいた。その時一緒に出ないかと誘われたが、断った。

 逃げるのは、嫌だったから。

 それにヒアを一人にしておくのも心配だった。

 強いし、才能もあるし村人からの尊敬を一身に集めていたけれど、どこか常識に欠けていると言うか危なっかしいところがあった。

 水を飲もうと言ったら砂の混じった水が入ったコップに口をつけて飲もうとするし、村祭りの日に着て行くはずだった服がびしょぬれになってしまったといって村長の娘が普段着で出かけようとしていた。

 そんな普通じゃないところがあったけれど、根は誰よりも優しくて明るかった。

「ヒア……」

 今はずっと遠い存在になってしまった幼馴染の名を呟く。

 できるなら、昔みたいに気軽に話したい。

 気軽に遊びたい。山を駆けまわったり、二人で部屋の中で遊んだり、一緒に食事の準備を手伝ったり。

 僕がヒア並みに凄い精霊を召喚できたら、それが叶うんだろうか?

 淡い期待で不安を押しこめながら、僕は明日に備えて床についた。



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