プロローグ「追放」
「駄目じゃったな」
力を使いはたして身動き一つとれない僕の頭上から、容赦ない言葉が浴びせかけられた。
「心苦しいが、これも里の掟だからなア」
字面とは裏腹の、むしろ嬉しそうな声が僕の右から聞こえる。
「だっせー」
僕より一回りは小さい、小さな子供すら僕を罵っている。
僕の周囲を村人が取り囲んでいた。僕を心配して集まったのではなく、今日のこの日に笑い物にするためにやってきたのだ。
村と言うのは閉鎖的な空間だ。
村の掟を順守し、他の村人に従順な人間は暖かに、穏やかに接する。だが村の掟を守らない、守れない者には徹底して排他的だ。
たとえ個人的に同情していても、村の空気を読んで表面上は周囲と同じように排他的に接する。
それが続いていくとやがて排他的に接する方が自分の本心だったと錯覚させられてしまう。
「この村では十五歳になる前に」
「自らのパートナーたる精霊を召喚できなかった者は」
こうして僕を取り囲んで、容赦ない言葉を浴びせている人たちの中にも僕に優しく接してくれた人たちはいっぱいいた。
それが時がたつとともに一人減り、二人減って。
今ではもう誰もいない。
時間はよく人を裏切る。思い出は色褪せ、情報は劣化し、気持ちは曖昧になる。
「「「「「出ていけ」」」」」」
この日、僕エルンスト・シュトイデは村を出て行かなくてはならなくなった。
みっともなく地面に伏せ、罵声に囲まれる中で僕はこの日に備えてきた日々が思い出される。