5 好印象
二人が出て行ってから隊長は、社会はそう甘いものではないとか、働くことの喜びとかをジャネットに説いたが、のれんに腕押しだった。
ネーヴェはひとまず食事でも、と料理を振舞ってくれて、ジャネットは気を良くした。
「なあジャネット、いやあたしもジャンって呼ばせてもらうけどさ、ジャン、あんたはすごい才能を持ってるんだ。そいつを無駄にするのはもったいないだろう?」
「しかし労働は疲れます。時間も取られます。百害あって一理なしかと存じます」
隊長が口を開く前にネーヴェが言う。「なら、疲れず、時間がかからない仕事をすればいいんじゃないのかい?」
「そんな都合のいいものがあるか」
「まあまあ隊長、まずはジャンが何をできるかを把握するところから始めよう」
やけにネーヴェはジャネットの肩を持ってくれる。これは〈好印象〉の技能のおかげだろうか。隊長にはあまり効いていないようだが。
ジャネットは正直に、自分はハルミナによって祝福された眼を持ち、これによって他者の情報、名前や簡単な経歴、そして技能を把握できることを告げた。さらに、技能を奪ったり複製することができるとも。
ネーヴェと隊長はこれに驚いた。
「そいつはすごいね! 確か、モーンブルワークに現れた転生者も鑑定眼は持っていたそうだけど、今のところ技能の複製なんてのはできないはずだ。あんたはまさに奇跡だよ」
「しかし、持ち腐れもいいところではないか、ネーヴェ。こいつは働くつもりがないのだ。どんな才能があろうと、活かすつもりがなければ凡才以下だろう」
「そこはほら、あたし達でうまいこと考えてやろうじゃないか」
顔をしかめる隊長だったが、大きく息を吐いて考えを述べる。
「まあ、ジャネットの労力を最小限にするならば、援護役として使用すべきだろうな」
「援護役ですか?」
「お前は幸いにもあらゆる技能を獲得できるのだろう。まずは移動に適した技能を探せ。自力で魔法を学ぶつもりはないのだろうから、他者から魔法系統の技能を複製しろ。〈瞬間移動〉や〈同行〉、ああ〈憑依〉という手もあるな、あるいはこれが最適か? とにかく、労力を使わずに移動する手段を確保し、戦いに備える。
しかる後、仲間が敵と遭遇したところで援護を放つ。理想としては力を大きく削ぐものがいいだろう。あるいは一撃必殺の――いや、もはやお前一人で行動しても良かろう。移動の技能と討伐の技能、この二つでな。瞬時に敵の懐に潜り込み、一撃で始末する。そうした暗殺者のような働きだ」
隊長はネーヴェをちらりと見て言う。
「あるいは技能を奪えるというのなら、それじたいが強力な攻撃手段だろう。技能に依存している敵が相手の場合はな。防御の技能も忘れずに確保しておくべきかも知れぬな。回復は既に獲得している? なら申し分ない。とにかくジャネット、働く時間をゼロにはできんぞ。しかし、最小の働きで最大の成果を挙げるように準備することはできるだろう。お前はまず、有効な技能を探せ。わたしとしても、良さそうな技能の所持者を探しておくから」
ジャネットは隊長に一礼し、深慮への感謝を述べる。
「ああ。まったく、いくら加護持ちと言えど、なぜこんな怠け者に対して協力せねばならんのだ」
愚痴る隊長だったが、どうやら彼にも〈好印象〉は有効だったらしい。