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NODUS カルドランドの冒険者  作者: 澁谷晴
クエスト2 ダガーピークの怠惰なるもの
12/17

3 技能獲得

 それからジャネットは大通りで、道行く人々の〈雲〉を眺め続けた。他愛のない素性の者が大半だったが、後ろ暗い人間もそれなりにいた。

 技能を持っている者がいれば、それを見るのも忘れなかった。


 あるとき、見た目は地味な学生みたいな少年を見ると、彼はスリで、しかも結構な手だれということが分かった。

 人ごみで気づかれることなく、財布を抜き取っているのだろう。

 そう考えると、スリというのも魅力的だ。そんなことをジャネットは思った。

 こっそりと財布からいくらかを抜き取り、こっそりと元に戻せば――


 そのとき、もしかしたら、と思い、少年の持つ雲に意識を集中する。

 すると彼が所持していた〈スリピックポケット系統技能 早業〉の文字が消え、急いで自分の頭上の〈雲〉を見ると、〈慧眼〉の下にそれが追加されていた。


 ジャネットは少しばかり慌てた。彼を引退に追い込むのは心苦しい。

 少年を少し離れて追いかけながら、今度は自分の雲に意識を集中する。


 彼に返さねば。だが少しばかり惜しい――


 そう思っていると、自分の〈早業〉の文字がぶれ、一瞬〈雲〉の中から消えて再び現れる。

 失敗か、と思って見ると、青年の〈雲〉の中に〈早業〉が戻っていた。しかし依然として自分は〈早業〉を所持したままだ。

 ジャネットは他者の持つ技能を奪取するだけでなく、複製できる、あるいはできるようになったのだ。


 それからジャネットは人々の有用そうな技能を見て、いくつかを自分に複製した。


 現在所持しているのは、


 〈怠惰者ブーマー系統技能 労働意欲喪失〉

 〈転生者リインカーネーテッド系統技能 ハルミナの慧眼〉

 〈スリピックポケット系統技能 早業〉

 〈盗賊シーフ系統技能 隠密行動〉

 〈聖職者プリースト系統技能 癒しの光〉

 〈社交家ソーシャライト系統技能 好印象〉


 といったところだ。

 あまりいたずらに収集しても混乱するだろうし、今はこのくらいでいいだろうとの判断だ。


 もともとジャネットは魔術の才能はあったが本格的に訓練したわけではなく、簡単な水と風の魔術を使える程度だ。

 それでも空中の水分を集めて水を作ったり、ぬれた服を乾かすくらいはできる。


 今後、危険に巻き込まれそうならば〈隠密行動〉で隠れ、傷を負えば〈癒しの光〉で回復する。

 いざとなれば〈好印象〉を与える技能で――どれほどの効力なのかは分からないが――食べ物をたかったり、あるいは〈早業〉で日銭を頂戴するのもいいだろう。


   ■


 何の努力もなく――本人は割りと疲れた気でいるが――技能を獲得した夜、酒場でジャネットが食事していると、声をかけられた。


「なああんた……ちょっといいか」


 相手は灰色の髪の青年だ。酔っているのか、ひどく眠そうな顔をしている。話し声もぼんやりとしたものだ。


「おいウィリー、あたしと飲んでるってのに他の女に手を出そうってのかい?」


 低い声で、ウィリーと呼ばれた青年の連れが言った。風生まれウィンドボーンの女性だ。


「そういうわけじゃ、ないんだけどさ……姉さん。彼女たぶん〈加護持ち〉だ……」


「本当かい? あんたが言うってことは眠り神の?」


「いいや……のほうだ。隊長に会わせたほうが、良くないか?」


「そうだなあ。なあお嬢ちゃん、あんた冒険者かい?」


 聞かれてジャネットは、自分を勧誘するつもりなのだと理解した。


 ウィリーと呼ばれた青年は、自分がハルミナの加護――〈慧眼〉のことだろうが――を持つことを見抜いた。この眼に限らず、神の加護を持つ人間は優れた技能を持つことが多い。

 それは冒険者ギルドが欲する才覚だ。


「私は冒険者ではないし、なるつもりもありません」


 ジャネットがそう言うが、風生まれウィンドボーンの女性は食い下がる。


「そう言わずにさあ、一回くらい支部に顔出してくれよ。ご馳走するからさあ」


 ジャネットはその言葉に、これは好機と考えを改める。

 冒険者ギルドに寄生するのだ。

 もちろん働くことはあり得ないが、自分を無碍にはできない彼らは、囲い込みのためにたっぷりもてなしてくれるだろう。

 光明を見たジャネットは、一度出向くくらいはかまわない、と告げる。


「よし、決まりだ! 薬師横丁三番隊をよろしく! なあウィリー、あんたからも一言挨拶を……」


 と、姉さんと呼ばれた女性は相手を振り返るが返事はない。

 ウィリーは座ったまま、いつの間にか寝入っていた。

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