第五章 宇宙人は本当にいる
「これは亀甲縛りって言うのよ。スミレさん、知らないの?」
中学生とは思えないほど巨乳のコハク先輩が、文芸部の部長である二年生のメガネの少女の口にガムテープを貼って、制服の上から縛り上げながら、そう言うので、私はすかさず突っ込む。
「いや、コハク先輩、私は縛り方の名前を聞いたんじゃありません。そんな縛り方にした理由を聞いたんです!」
「あら、だって、この縛り方ならそう簡単には解けないし、こうやってスカートの上から股間にロープを通しておけば、このノーパンのメガネの少女が再びビキニ型宇宙人に寄生される恐れもないでしょう?」
「……それはそうですけど、何もこんなに変な縛り方をしなくても、その条件は満たせたんじゃないですか? …………しかし、先輩、骨折して片腕しか使えない状態で、よくこんな複雑な縛り方ができましたね…………」
そう言って私はあきれる。
しかし、ノーパンの少女を亀甲縛りにして部室に監禁するなんて、もしも宇宙人の侵略から地球を守るという理由がなければ、本当にただの犯罪だ…………。
ちなみに、この文芸部の部長であるメガネの少女がノーパンなのは、六日以上前から緑のビキニ型宇宙人に寄生されていて、ちょっと前に、その宇宙人を私たちが抹殺して死体を回収したせいだ。
あと私とコハク先輩が、こうして文芸部の部室で、その部長であるメガネの少女を縛り上げているのは、ついさっき、この部室がある建物の階段の下で、黒いビキニ型宇宙人を捕まえようとしていたところを、このメガネの少女に目撃されてしまったので、それを他の人たちに言いふらされないようにするためだ。
もちろん、本来ならばこういう時は、すぐにビキニハンターである私たちが持つ水鉄砲に入った特別な液体をかけて、目撃者であるこのメガネの少女の身体をマヒさせて前後の記憶を消すのが普通だけど、あいにく今は私もコハク先輩も水鉄砲が空で、さらにこの少女はちょっと前まで緑のビキニ型宇宙人に寄生されていたから、たとえその液体があったとしても今は効かないので、仕方なくこうして縛り上げて監禁しているという訳だ。
それから私たちは、その所持品から、そのメガネの少女の名前がヒスイ(翡翠)という事を知る。
しかし、くせ毛の髪をショートにしてメガネをかけたヒスイは、頭が良さそうな上に、とても気が強そうに見えるから、扱いには気を付けないと、かなり面倒な事になりそうだ。
私はコハク先輩にたずねる。
「でも、これからどうするんですか、コハク先輩? この子をこのままずっと監禁しておく訳にもいかないでしょう?」
「いいえ、スミレさん、最悪そうするかもしれないわ。地球の侵略をもくろむビキニ型宇宙人を抹殺するという、私たちビキニハンターの活動の邪魔になるというのなら、一人の少女の自由を奪うくらいは、やむを得ないもの。もちろんこのまま監禁を続けるのなら、今夜のうちに、こんな部室ではなくて、もっと誰も近付かない場所に移す必要があるんだけど…………」
「ええ? いくら地球の平和を守るためでも、少女を監禁するなんてダメですよ! ちゃんと説明すれば、この子だって事情を分かってくれるはずです!」
「それはそうかもしれないけど、今はそんな事よりも、この水鉄砲の液体を補充するのが先だわ。だって私たちは、さっき黒いビキニ型宇宙人を逃がしてしまったんだもの。あの宇宙人は、今の私たちが宇宙人を抹殺する手段を持っていない事を知っているから、たぶん今夜のうちに別の少女に寄生して、もう一度、私たちを襲って来るはずよ。その前にこの液体を補充しておかないと、今度こそ私たちの方が殺されてしまうわ」
そう言ってコハク先輩は、私のものと自分のものの二つの水鉄砲を持って、この部室の扉を開ける。
「スミレさん、今朝、寮の食堂であなたに、放課後は私かツキヨちゃんのどちらかが必ずそばにいるって約束したのを、いきなり破る事になるけど、そのヒスイさんを一人でここに残す訳にはいかないから、あなたはここに残ってちょうだい。私は、あのドーナッツ好きの少女に付き添っているツキヨちゃんと合流して、水鉄砲に液体を補充してからここに戻って来るわ。私はこの学校のマスターキーを持っていて、自分でここの扉を開けられるから、あなたは絶対にこの扉を開けたりしないようにね」
「え? あの、コハク先輩、私たちもトイレくらいは行ってもいいんですよね?」
「スミレさん、宇宙人に殺されたくないなら、おしっこくらい、ここの部屋で漏らしなさい。……あっ、そうだ、そのヒスイさんに飲んでもらえばいいのよ! それで、ヒスイさんのおしっこは、あなたが飲むの! それなら二人ともトイレに行かなくてもすむわ!」
「…………いえ、二人とも我慢しますから、早く戻ってきてください…………」
そしてコハク先輩が出て行くと、私は文芸部の部室の中で、ノーパンで亀甲縛りにされた、ここの部長のヒスイと二人っきりになる。
ところで私も、ついさっき自分のパンツをドーナッツ好きの少女にはかせて、今はノーパンなので、この少女をノーパンのまま亀甲縛りにして監禁しているこの状況は、どう考えても、誰かに見られたら、いろいろと誤解されるのは確実だ。
だから私は、黒いビキニ型宇宙人に寄生された誰かがここに来るよりも、一般の生徒や職員がここに来る事の方が恐かった。
それで私は、このままコハク先輩が戻って来るのをただ待っているだけでは、この緊張感に耐えられそうになかったので、ヒスイの口に貼ってあったガムテープをはがす。
するとヒスイは、私の目を見ながら口を開く。
「あんたの事、私、知っているわ。スミレという名前なのね……。確か私のとなりの教室の生徒でしょう? ところで、あんた、ここの生徒のパンツを脱がせて代わりに自分のパンツをはかせるなんて意味の分からない変態行為を、今までずっとやっていたの? それと、私もここの階段でパンツを脱がされて気を失っていたんだけど、それもあんたの仕業かしら?」
「…………あの子のパンツを脱がせて、代わりに私のパンツをはかせたのは、変態行為じゃないわ……。それに、そんな事をしたのは、あの時が初めてよ……。それと、あなたのパンツを脱がせたのは確かに私だけど、それらの事には、ちゃんとした理由があるの…………」
そして私は、どう話せばいいのか迷いながら、その話を続ける。
「…………信じられないでしょうけど、あの子やあなたがはいていたパンツは、実はパンツじゃなくて、もっと危険なものだったのよ……。それで私たちは、あの子やあなたを助けるためにそれを脱がせたの。そして、あなたは気を失っていたから、そのままにしておいたんだけど、あの子はすぐに正気に戻ったから、パンツを脱がせた事をごまかすために、私がはいていたパンツを代わりにはかせた訳よ……」
そこで私は言葉を切って、ちょっと考えてから再び話を続ける。
「それから、そのパンツの正体なんだけど、それを知った者は命を狙われるから、なるべくなら知らないままでいる方がいいの。だから本当は、あなたは私たちがしていた事は見なかった事にして、それを誰にも言わないでいる方が安全なのよ……。そんなの絶対に無理でしょうけどね…………」
「さっき、コハクっていう名前の先輩が言っていた、ビキニ型宇宙人っていうのが、そのパンツの正体だって、あんたは言うんでしょう? …………でも、あんたたち、そんなものを本気で信じているの?」
そう言われて、私の声は大きくなる。
「ビキニ型宇宙人がいるのは本当よ! 私だって寄生された事があるもの! それで、寄生されると意識を乗っ取られて、その間にあった出来事を何も憶えていないから、宇宙人が離れた後で、自分に記憶がない期間がある事に気が付いた時に、初めて自分が寄生されていたって分かるのよ!」
それから私は、それを証明しようと必死になる。
「ところで、あなただって、六日以上前から宇宙人に寄生されていたんだから、その間の記憶がないはずよ! だから、あなた、自分が最後に受けた授業の内容を言ってみて! それは六日以上前の内容のはずだから!」
それで、同じ二年生である私が、ヒスイが憶えている最後の授業内容を聞いた後に、それからずっと進んでいる今日の授業内容を言うと、ヒスイは驚く。
「え? 今日の授業はそんなに進んでいるの? うそでしょう?」
「こんな事でうそを言っても、明日、授業を受ければすぐにバレるじゃない! だから私の言った事はうそじゃないわ! 信じて!」
「でも、ちょっと待って! 私が一週間近くの記憶を失っていても、それが宇宙人に寄生されていたという証拠にはならないわ! だって私の記憶は、宇宙人とは関係なく、薬か何かで消されたのかもしれないもの!」
ヒスイはさらに言葉を続ける。
「そもそも、この学校の生徒はみんな、権力者でお金持ちの子供なんだから、生徒の中の誰かが特別な薬を使って、そういういたずらをしたのかもしれないじゃない? そして、そう考える方が、宇宙人なんてものの仕業と考えるより、よっぽど現実的でしょう?」
その言葉を聞いて、このままでは何を言っても信じそうにないなと思った私は、ヒスイに寄生していた緑のビキニ型宇宙人の死体を、制服のポケットから取り出す。
でも、そのビキニは、ちょっと前までヒスイ自身がはいていたもので、それを知ったら嫌がられるのは確実だから、その事は黙ったまま、私はそれを差し出す。
「ねえ、ちょっと、この緑の布の匂いを嗅いでみてほしいの」
「なに、それ? ずいぶん派手な緑の布ね」
そう言ってヒスイは、ちょっと前まで自分がはいていたものとは知らずに、私が差し出したビキニ型宇宙人の死体の匂いを嗅ぐ。
でも、ノーパンで亀甲縛りにされた少女に、ちょっと前までその少女自身がはいていたビキニの匂いを嗅がせるなんて事は、地球の平和を守るためとはいえ、完全な変態行為だ…………。
そして、何も知らずに、その匂いを嗅いだヒスイは驚く。
「なんなの、この匂い! こんな匂いは生まれて初めてだわ! 一体なんの匂いなの?」
私は、ちょっと悪い事をしてしまったなあと思いながら、それを広げて本当の事を話す。
「…………実はこれ、あなたに寄生していたビキニ型宇宙人の死体なの」
「ちょっと待って! あんた、今、私にパンツの匂いを嗅がせたの? この変態! なに考えているのよ! くそ! この後、ただじゃおかないわよ!」
「ごめんなさい! これがパンツだって事を黙ったまま匂いを嗅がせたのは謝るわ! でも、このパンツの匂いが地球上にないものだって事は分かったでしょう?」
「その匂いが地球上にないものかどうかなんて分からないわよ! 私はまだ十四年しか生きていなくて、地球上のあらゆる匂いを嗅いだ訳じゃないもの! もちろん、その匂いがかなり珍しいものだって事は分かるわ……。だけど、地球上にないものとまでは言い切れないじゃない!」
そうやってヒスイは、ビキニ型宇宙人の匂いを嗅いでも、まだ私の言う事を信じようとはしないので、私は自分の教室でノーパンになって目覚めた時からこれまでにあった出来事を、全て話して聞かせる。
すると文芸部の部長であるヒスイは、私の話を全て聞いた後で真剣な顔になる。
「スミレ、あんた、だまされているわよ」
「ええ? だまされているって、どういう事?」
「あんたねえ、そんな事、ちょっと考えれば分かるでしょう? あんたは、あのコハクって先輩にだまされているのよ」
「え? ちょ、ちょっと待ってよ! なんでコハク先輩が私をだますのよ!」
「たぶん、あの先輩は、退屈な学園生活を刺激的なものにするために、ビキニ型宇宙人なんていうものをでっち上げたんでしょう。あんたも私も、そして、あんたと同じ部屋のツキヨちゃんも、運悪くそれに巻き込まれてしまったのよ。あんたの話を聞く限り、あの先輩はそういう変な事をいかにもやりそうな感じじゃない? それは、あんたも認めるでしょう?」
「いや、確かにコハク先輩は、退屈しのぎに変な事をやりそうな人だけど、だからといって、これまでの出来事の全てが先輩の自作自演だったなんて言うのは、いくらなんでも無理があるわ!」
「いいえ、あんたがさっき話した今までの出来事なんて、全て宇宙人なしでも説明できるわよ!」
それからヒスイは、どういう方法を使えば、今までの出来事の全てをコハク先輩がでっち上げる事ができたのかを説明する。
「まず、あんたたちの水鉄砲に入っている特別な液体で、人間の身体をマヒさせて、前後の記憶も消せるのは本当だとしましょう。でも、だったら、あんたや私が記憶を失ったのも、宇宙人に寄生されて意識を乗っ取られたからじゃなくて、その液体をかけられたせいかもしれない訳よね?」
「う…………だけど、その液体で記憶を消せるのは、それをかけた前後の短い時間だけのはずよ! でも、私は二十時間くらい、あなたは六日もの間の記憶がないわよ!」
「コハク先輩は、その水鉄砲に入っている液体よりも強い効果がある液体を、別に持っているのかもしれないわ。それで、あんたたちが目を離した隙に、その強い液体の方をこっそりかけたんじゃない? そう考える方が、宇宙人がいるなんて考えるよりも、よっぽど現実的よ」
「それは、そうかもしれないけど、だったら、宇宙人に寄生された少女の身体には、水鉄砲の液体をかけても効果がなくて、その少女がはいているビキニに液体をかけた時だけ気絶するのは、どうやって説明するの!」
私のその突っ込みに、ヒスイは少し考えてから答える。
「たぶん、そのビキニの中に、液体をかけると溶け出して気絶する薬が仕込んであったんじゃないかしら? つまりコハク先輩は、自分で目を付けた少女の寮の部屋に忍び込んで、その少女がはく予定のパンツを、こっそり薬を仕込んであるものに交換したのよ。あんたたちは、この学校の全ての扉を開けられるマスターキーを持っているんでしょう? だったら、そういう事もできるわよね?」
さらにヒスイは言葉を続ける。
「それで、その少女を攻撃する時だけは、かけても身体がマヒしない液体が入った水鉄砲をあんたたちに持たせたんじゃない? そうすれば、ビキニに液体をかけた時だけ気絶するでしょう?」
そのヒスイの説明は、さすがに文芸部の部長をしているだけあって、確かに論理的で、宇宙人の仕業と考える事よりも、はるかに現実的だった。
だけど、それでもまだ、これまでの出来事の全てが説明できた訳じゃない。
それで私は、さらに質問を重ねる。
「……でも、宇宙人に寄生されていた少女たちは、私たちを本気で殺そうとしていて、明らかに普通じゃなかったわ! それはどうなの?」
「うーん。それも何か薬を使って、あんたたちに特別な敵意を持つように暗示をかけたのかもしれないわね。その暗示が夕方以降にだけ効果が現れるものならば、まるで宇宙人に寄生された少女が、時間が遅くなって人目に付かなくなってから、あんたたちを襲って来たように見えるでしょう?」
ヒスイは考えながら、さらに続ける。
「それと、その少女が自分のパンツに液体をかけられるのを極端に恐れるのも、そういう暗示をかけたと考えれば説明が付くわ。そして、そういう暗示も全て記憶といっしょに消えてしまうのならば、パンツに液体をかける事で、寄生していた宇宙人が死んで、その少女が正気に戻ったように見えるんじゃないかしら」
そうやってヒスイの話を聞いていると、なんだか自分でもだんだん宇宙人がいるなんて思えなくなってくるけれど、それでも私は、まだ説明の付いていない部分の質問を続ける。
「…………じゃあ、あなたに寄生していた緑のビキニ型宇宙人を脱がせているところを目撃した、ドーナッツ好きの少女の事はどう説明するの? あの少女は、最初は普通の状態だったのに、コハク先輩とツキヨちゃんに液体をかけられて身体がマヒしてから、目を離した隙に、はいていたパンツが黒いビキニに変わって突然攻撃的になったのよ!」
ヒスイは、それにも冷静に答える。
「たぶんコハク先輩は、普通の状態のその少女に、いつもとは違う液体をかけたんだと思うわ。そして、その液体は、一時的に身体がマヒした後で、あらかじめかけてあった暗示を解放するカギのような効果があったんでしょう」
さらにヒスイの言葉は続く。
「それから、その子が最初にはいていたパンツは、黒いビキニよりも大きな普通のパンツだったのよね? だったら黒いビキニは、そのパンツの下にはいていたのよ。それでその少女は、自分でこっそり上にはいていた普通のパンツだけを脱ぐように暗示されていたのに違いないわ。そうすると、あんたからは、まるで普通のパンツを脱がされた後に黒いビキニが寄生したように見えるじゃない?」
「だけど、その少女は、黒いビキニを脱がせたとたんに正気になったのよ!」
「その時、コハク先輩は、ツキヨちゃんといっしょに、その少女の身体を押さえ付けていたんでしょう? だったら、その少女にかけた暗示を消すための薬を、こっそりと注射することだってできたはずよ…………。どう? これで全ての出来事の説明ができたんじゃない?」
しかし私は、まだ一つだけ気になる事があった。
「…………あの時、あなたからは見えなかったのかもしれないけれど、あなたが階段の下にいた私たちを呼び止める直前に、私が持っていた黒いビキニが暴れて、窓の隙間から外に逃げたの! あれは黒いビキニが生きていたとしか考えられないわ!」
それにもヒスイは、冷静に反論する。
「その時のあんたは、その黒いビキニをはいていたドーナッツ好きの少女が、ツキヨちゃんに連れられて建物を出るところに気を取られていたんでしょう? その隙にコハク先輩が、こっそりと小さな釣り針が付いた糸を、あんたが持っていた黒いビキニに引っ掛けたとしても気が付かなかったんじゃないの? それで、外にいたコハク先輩の協力者が、その糸を引っ張って逃げたのを、あんたは、黒いビキニが暴れて逃げたと感じただけかもしれないでしょう? あんた、そうじゃないと言いきれるの?」
そう言われて、私は完全に黙り込む。
私には、そのヒスイの言葉を否定する、客観的な証拠はなにもないのだ。
でも、そうすると、私がノーパンで学校を歩いた事も、昼休みに少女のパンツを観察していた事も、クリーニングに出された少女のパンツの匂いを嗅いだ事も、このヒスイがはいていたパンツに液体をかけてそれを脱がせた事も、あのドーナッツ好きの少女がはいていたパンツの匂いを直接嗅いだ事も、そのパンツを脱がせてから自分のパンツを代わりにはかせた事も、全て地球の平和とはなんの関係もない事になってしまう。
だとしたら、今までに私がやった事は全て、ただの犯罪じゃないか!
それで私が、自分がやってしまった事に呆然としていると、天井から何かの布が落ちて来て、私と、亀甲縛りにされたヒスイの間の床にふわりと広がる。
それは、天井にあったエアコンの、空気が流れ出る隙間から落ちてきたようだ。
ところが次の瞬間に、その布は突然、まるで生きているかのように床をはじいて、私の顔に貼り付いてきて鼻と口をふさぎ、それを見てヒスイが叫ぶ。
「スミレ!」
その布は、あの黒いビキニ型宇宙人だったのだ。
それから私は、息ができない状態で、必死にその黒いビキニを引きはがそうとするのだけれど、どうやってもはがす事ができない。
どうやらビキニ型宇宙人は、そうやって少女を窒息させて意識を失ったところを寄生するのが、いつもの手段らしい。
たぶん、狙った少女が一人でいる時は、いつもこの方法で寄生しているのだろう。
今この部屋には二人いるのだけれど、ヒスイは亀甲縛りにされて身動きができないので、私は一人でいるのと同じ状態だったから、こうして襲われている訳だ。
もしも、このまま私が寄生されてしまったら、宇宙人は私の身体を使って身動きのできないヒスイの首を締めて殺すはずだ。
さらに宇宙人は、その後で私の身体に寄生したまま、ここでコハク先輩とツキヨちゃんが戻って来るのを待ち構えて、私が寄生されているとは思っていない二人を、不意を突いて襲うだろう。
だから私は、そんな事をさせないように、顔に貼り付いた宇宙人を必死にはがそうとするのだけれど、宇宙人はびくともしない。
そして、ヒスイが叫ぶ中で、私はそのまま意識を失ってしまう。
それから次に目が覚めた時の私は、床に倒れた状態で、コハク先輩にチューされながら、胸をもまれていた。
それで私は、コハク先輩を押しのけながら起き上がって叫ぶ。
「何をするんですか! 先輩!」
「何って、人工呼吸をしていたのよ、スミレさん。あなたが宇宙人に窒息させられて意識を失っていたから、それを助けようとしたんじゃない」
「ウソだ! 先輩、今、舌を入れていたじゃないですか! あと、胸のもみ方も変でしたよ!」
「あら、あなた思春期だから、そんなふうに感じたのよ」
「違います!」
そして、コハク先輩の横には、すでに亀甲縛りを解かれていたヒスイがいて、私に謝る。
「…………ごめん、スミレ……。宇宙人なんていないって言って、あんたが言っていた事をぜんぜん信じなくて……本当に悪かったわ…………。それと、緑のビキニ型宇宙人を抹殺して、私を助けてくれて、ありがとう。……あんな宇宙人に寄生されて、意識を乗っ取られたままだったらって考えたら、本当にぞっとするもの」
それから、髪を三つ編みにしたツキヨちゃんが、私が意識を失っている間にあった事を教えてくれる。
「今回は本当に危なかったんですよ! コハク先輩と私がこの部室棟の階段を上がっている最中に、ヒスイ先輩が叫んでいるのが聞こえたので、急いでこの部屋に入ったら、ちょうどスミレ先輩が倒れて、顔に貼り付いていた黒いビキニ型宇宙人が離れた瞬間だったんですから! あと、もうちょっと私たちが戻るのが遅かったら、スミレ先輩は、そのまま寄生されていましたよ! …………でも残念ながら、今回も黒いビキニ型宇宙人を捕まえる事はできずに、逃げられてしまったんですけどね……………………」
しかし、その時の私は、自分がもうちょっとで再び宇宙人に寄生されていたという恐怖よりも、今回の出来事で、宇宙人が本当にいるというのが確認できた安心の方が大きかった。
だって、もしもビキニ型宇宙人なんてものが存在しなくて、自分が今までにやってきた事の全てが本物の変態行為だったとしたら、いくらなんでも悲しすぎるもの。