表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウズ  作者: saji
9/55

第8夜 怯える男

シャドウズ8話目です。

それではどうぞ〜٩('ω')ﻭ

 

「というわけで、倉治とかいう奴の助けを受けることにした」


「おいおい、大丈夫かよ」


『大丈夫だよ~信じて~』


「快斗、気持ちは俺も同じだけど、俺たちじゃ何もできない。 こいつはめちゃくちゃ怪しいが、頼る以外に方法はないんだ」


「……それもそうか。 明希也が言うんなら、付いて行くよ」


 疑いを払いきれず、怪しんでいた快斗だったが、俺の説得でなんとか承諾してくれた。


『ところで、ラディウスに通報すれば、君たちがやらなくてもいいんじゃない? やらないの?』


 そうしようと最初は考えた。

 しかし、文化祭も控えているし、問題に巻き込まれると、最悪中止って可能性もある。


 そうなると、責任を一番感じるのは、誘拐された彩華だ。

 彼女自身は全然悪くないのに――。


 彩華は人一倍責任を感じるタイプだし、今回のことで、必要以上に自分を責めることになる――ってことだけは、なってほしくないと思った。


 こんなこと、倉治に話しても理解されないと思った俺は――

「色々事情があってな……できるだけ穏便(おんびん)に解決したい」とだけ答えた。


『穏便にはいかないと思うけどね~。 了解、できる限り協力しよう』


 快斗も俺の意図を汲み取ってくれているようで、目を合わせて頷いてくれた。


「それで、やつは今どこにいるんだ?」

「少し離れた開発センターだよ。 今案内するから移動して~」

「くるま……って、俺ら運転できないぞ!?」

「いやいや、ちゃんと運転手雇ってるから大丈夫だって」


 準備が良すぎて不安でしかない。こいつホントに大丈夫かよ。


 そう思いながら、俺と快斗は倉治と通話を繋げたまま、用意されている車の場所へ移動した。




 驚いたことに、車はショッピングモールの駐車場に停めてあった。

 四人乗りの車の運転席には男が一人乗っており、『そのまま乗って』と言う倉治に従い、ドアを開けて後部座席に乗った。


「よ……よろしくお願いします……」


 男は無言だった。

 無表情で前を見つめ、ハンドルを握っている。

 その様子はどこかマネキンのようだ。


 不気味な運転手を見て、たまらず快斗が小声で耳打ちしてきた。


「なぁ、やっぱり危なくなったらパージストに連絡しよう。 俺たちまでダメだったら、元も子もない!」


 俺も、そうした方がいいのかもしれない――と思うようになってきた。


『それじゃあ、出発しようか!』


 倉治の指示の直後、運転手が車を動かし始めた。


 マネキンのような男性が、いきなりテキパキとした動き方をしたので、俺らは少しビクッとした。


 その後、この運転手との関係性や倉治の自慢話などを携帯越しに聞かされたが、内容は全く耳に入らなかった。


 彩華は無事だろうか――

 どうやって助ければいいのか――


 車での移動中、ずっと彩華のことが気がかりで、俺の思考が休まることはなかった。



 ■



 目的場所である工場地帯に車が停まり、俺と快斗は車から降りた。


「ここに彩華がいるのか?」

『間違いないよ~ここのどこかにいるよ絶対に』


 とはいえ、結構広い敷地で、いくつもの建物があった。

 しらみつぶしに探すとなると、ちょっと時間がかかってしまうかもしれない。


「どの建物にいるか分かんないか?」


『ごめ~ん。 そこまでは分からないかな~』


 口調が嘘を言っているやつにしか聞こえないんだが……。

 さすがに、嘘を言っているとは断言できないし、それ以上の追及は無駄だろう。


「仕方ない、二手に分かれよう」


「了解だ!」


「倉治、探すから通話切るぞ」


『おけー、頑張ってね~』


 快斗と分かれた俺は、さっそく走って開発センターの敷地を探し回った。


 ここはもう解体が決まり、工事が始まろうとしている場所。今日は解体業者が休みなのか、敷地内が静まり返っており、人の気配もないように感じた。


(どこだ……どこにいる)


 注意深く探す。工場の内部には様々な機械があり、大量のペットボトルがあったので、どうやら飲料水を作っている工場のようだった。



「ん? あれは……」


 見覚えのある車が敷地内に停めてあった。それに近づき、ぐるりと全体を観察する。


 ――間違いない。これは彩華をさらっていった車だ。


 倉治の案内が真実であるという確信が生まれ、俺の中で小さな希望が出てきた。

 停めてある車の位置から推察し、近くの建物を探すことにした。



 入った建物は奥に長く、広い倉庫のようで、甲鉄版の屋根で作られた天井には、太い鉄骨が下地を作っていた。

 中にはスチール製の棚がズラッと並び、段ボールが大量に積まれている。

 照明はついておらず、外よりも薄暗い。入口で大型シャッターが上がっていたが、そこから入ってくる光だけが中を照らしている状態――当然奥に進むにつれ、暗くなっていく。



 ――ここに、彩華をさらったやつらがいるかもしれない。

 それをしっかり頭に入れながら、慎重に奥へと進んでいく。


 自分の足音だけが静かに耳に入る。

 気を常に張り詰めている状態なので、少し動きが硬い――と自分で感じる。


「……ん?」


 しばらく進むと、何かの匂いがしてきた。それは進むにつれて強く漂ってくる。

 途中、その強烈な匂いに顔をしかめた。


 これはいったい――何の匂いなんだ。


「ふっ……ふっ……ふっ」


 ――誰かがいる。


 一定の間隔で聞こえてくる呼吸音。もしかしてあいつらかもしれない。距離もかなり近い。

 俺は今まで以上に気を引き締め、慎重にその音を辿っていく――と、


 一人の男が膝を抱えて、うずくまっているのが目に入った。


 俺は状況が読み込めず、その光景を棚の影から観察していると、男が俺に気づいた。


「ひぃ! た……たすけてぇ!」


 男はまるで亀のように丸くなり、びくびくと身体を震わせていた。


「おい、どうしたんだよ!」


 俺はその異様に怯える男のもとへと近づき、声をかけた。


「な……なんだ。 人間かよ……」

「なんでそんなに怯えてるんだ?」


 少し間をおいて、男が口を開く。


「お……おれら、タクヤが女連れてくるって言うから、4人で……いつも集まってるこの場所で、待ってたんだ。 そ……そんで……あいつと合流して、女起こして輪姦(まわ)そうとしたら――」


「お前……彩華をさらった奴の仲間か!」


 俺は男が話し終わる前に、胸ぐらを掴んで怒りを露わにした。

 こいつが何に怯えてるかは知らんが、彩華をさらったクズ野郎と分かれば、容赦は必要ない。


「お、お願いだ! 今は大人しくしてくれ! 殺されるぅ!」


 相も変わらず、びくびくとしている男。だが、俺は男を睨みつけ、彩華をどこへやったか聞き出そうとした。


「あぁ? 何言ってんだおまえ。 それよりも、早くさらった女の子の――」

「いぎゃゃゃゃゃゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 突然、耳の奥を震わせる悲鳴が鳴った。


 数秒後――悲鳴が鳴り止むと今度は、ぐちゃぐちゃ――と何か物を切ったり潰したりしているような音だけが、聞こえてきた。



 俺は、男の胸ぐらを掴んだまま、身体の動きを静止させていた。


 この男の怯えきった様子と、さっきの悲鳴――。


 何か危険なことがこの場所で起きているのだと、悟った。


「な……何が起きてる」


 俺は男の胸ぐらから手をゆっくり離す。

 直後――男はさっきの様に膝を抱え、またうずくまった。


「……だ」

「え?」


 俺は男の声が聞こえるように、しゃがみ込んで近づいた。


「今なんて――」


 突如――強烈な匂いが鼻を刺激してきた。

 その匂いに、思わず手で口ごと鼻を覆った。


 何か荒い息遣いと物音が強烈な匂いとともに、こちらに近づいてくる。

 一つ後ろの棚の列を移動してきているようだ。


 息を殺し、そっと顔を覗かせ、俺はその音の正体が姿を現す瞬間を見守る。


 そして――俺はその正体を視界にとらえた。




 ――引きずっていた。


 上半身だけになった人間の死体を。まるで、ゴミでも持つかのように。


 あれは人の姿をしているが、人ではない――。

 紫色の目、浮き出る黒い影、獣のようなうなり声。


 俺はその日、初めて人類の敵であるシャドウという存在を目の当たりにした。


さぁ、次回は一体どうなっていくのでしょうか?お楽しみに~٩('ω')ﻭ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ