第51夜 小さな希望
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「あきやん起きろ、着いたぞ」
という声がスッと耳に入り、重いまぶたを上げる......。
まだはっきりとしない寝ぼけた視界の中、カイトさんの姿が目に映った。
「着い......た?」
「俺らの帰る場所だ。 もう安心していい」
いつの間にか眠っていたようだ......。
ヘリが移動している感覚ももうないし、どこかに着陸したのだろう。
機体のドアからすでに、彩華を担いだ快斗が外に出ていた。
「医者を呼んでおいたから、負傷者がいれば、急いで見てもらいなさい」
機内の奥――ハッチも開いている。
そのすぐそばの座席では、結衣にかけたシートベルトを外して時任さんが運び出そうとしていた。
それを見てハッとした俺は、時任さんに手を貸そうと――
「明希也」
とっさの呼び止めに足が止まる。霧生さんだった。
「姉の方は操縦席のとなり――助手席に乗せている。 お前はそっちだ」
――それを聞いて、いっきに目が覚めた。
即座に助手席に目を向ける......いた。
ぐったりと力なく脱力しきった体。
開かないまぶた。
寝ているのではない。
その体には......魂が入っていないんだ......。
それを見て、頭の中に姉を失った記憶、シスト市での悪夢が、一瞬にしてよみがえってきた。
「助けてあげられなくて......ごめん」
自然とそんな言葉がこぼれた。
いつまでも、こうしているわけにはいかない......。
今は早く姉の体を運んで、休ませてあげないと......。
せめて体だけでも......。
■
近くに見えるアレがそうなのだろう。
中庭もあって、建物も大きく、立派だった。
中庭を通り過ぎ、玄関を開ける――すると、
「お疲れさまです! 遅かったんで心配しましたよ!!」
いきなり、同い年ぐらいの見知らぬ男が、飛び出すように出迎えてきた。
「お? 生存者か? ほら! 早くあがれあがれ!」
腕を怪我しているのか、包帯が左腕に巻かれていた。三角巾を首の後ろに回して固定している。
その男に手伝ってもらいながら、美奈を部屋の奥へと運んで行く......。
室内はとても暖かかった。一番先に目を引いた大きなレンガ造りの暖炉。
2階の階層まで吹抜けた天井が、1階を明るく開放的な空間にしている。
「やっと来たわね」
声のした方に視線を向ける......。
低いテーブルをはさんで向かい合っている3人用ぐらいのソファー、そこに真っ白な白衣を着た女性が座っていた。
「負傷者はこっちよ」
すっと立ち上がった彼女は、視線と首で奥の部屋を示すようなしぐさをした。
どうやらこの人が医者のようだ。
その後、一向に目を覚まさない彩華、影を奪われた美奈、そして負傷具合が酷かった結衣を彼女の用意した部屋へと運び、特に結衣を最優先で治療を任せることにした。
カイトさんや時任さんの負傷具合も決して軽いものではなかった......のだが、『パージストは鍛えてるから大丈夫だ』と言い、自分で傷を治療し始めていた。
霧生さんはというと、リナを別室へ寝かせると、はやばやに外へと出ていってしまった。
なにやら、家の周辺にシャドウ避けの結界を張るため――らしい。
みんな強いな......。
俺は......俺は何もできない。
快斗に声をかける事さえ、今の俺にはできなかった......。
パチパチッ――と音を出して燃える暖炉の火。
ソファーに腰を下ろすと、ちょうどいい暖かさで眠気がのぼってくる。
結衣たちの治療が終わるまで、俺はみんなとソファーで静かに休むことにした――のだが、
「――あ......あの、工藤さんはどこですか?」
出迎えの時に顔を合わせた少年の一言が、俺の眠気を一瞬でかき消した。
「先ほどから見当たらないんですが......?」
静まり返る室内......。
先ほどまで安らぎをもたらしてくれていた焚火の音――今はそれが、嫌な沈黙の時間を刻む時計の音のように聞こえた。
「......死んだよ」
さり気なく――といった感じだった。本当に......。
何も言えず、おどおどしていた俺の横で、カイトさんは平然とした態度でそう言ったのだ。
「......カイトさん?」
その少年の呼びかけに、カイトさんは応じなかった......。
少年に背を向け、自分の傷を治療している。
「......っ!!!」
不意にゴンッ、という大きな音が鳴った――。
「どういうことですかああ!!」
テーブルに振り落とした少年の拳から、血が出ていた。
自分が殴られたわけでもないのに、心臓に強い衝撃を受けた感覚だった。
「今言っただろ」
「なんで工藤さんが死んでるんですか?」
「今回の任務はかなり危険だったんだ」
「危険......って、街の調査だけですよね?」
「そうだな。 お前にはそう言ってたんだったな」
「......っ! 街の調査以外に、何か目的があったんですね!? でなきゃ、街の調査ぐらいで、あの人が死ぬわけがない!」
少年の顔を見ることができなかった。
息を切らしながら放つその声に、とてつもない怒りを感じたからだ。
そして......それと同じくらい、強い悲しみも伝わってきたような......気がした。
「答えてくださいよ......カイトさん!!」
「......今日はもうへとへとなんだ。 明日にしてくれ......」
この場から離れるつもりなのか、カイトさんは立ち上がった――。
俺もこの空気のまま、ここにいるのは気まずすぎる。
そう思い、顔を上げて立ち上がろうとしたその時――
「......っ!」
――タイミングが悪かった。少年と目が合ってしまったのだ。
俺にも怒号がくる――と身構えたが、その少年は俺の顔を見て、ハッとした様子を見せた。
「街の調査だけなのに、生存者を連れてきたことと......何か関係があるんですか?」
「彼らは......目の前で襲われそうになっていたところを、俺らが運よく助けただけだ」
「嘘だ!! 街がシャドウに支配されていたなら、1人や2人、助けても意味ないじゃないですか!! それなら、全力で逃げた方がいい! いいに決まってる!」
「パージストなら、助けられる命が目の前にあるなら、放っておくわけにはいかないだろ!!」
「そんなの! 工藤さんが死んでいい理由にはならない!! カイトさんが認めても、俺は認めない!!」
少年の顔には血管が浮かび上がっていた。
血走った目。怒りで震える身体。
そんな彼の張り詰めた空気にあてられ、俺はその場から動くことができなかった。
「あの人は......あのひとは! こんなところで死んでいい人間じゃない......」
少年の言葉はどれも、俺の胸を深くえぐり、心の奥底まで響いた。
俺や結衣が助けられた理由を、俺自身も理解していない。
霧生さんからは、俺たちが【親の子供だったから】という風に説明されたが......。
本当に――それだけの理由で、あんな危険を冒すだろうか。
こいつの言うとおり、滝川の計画を暴くことだけが目的だったのなら、工藤さんは死ななかったかもしれない。
俺や結衣たちをかばいながらの脱出だったから、工藤さんは死んだんだ......。
俺が結衣や美奈、彩華、快斗たちも一緒に助けたいと言ったから、死んだんだ......。
(なんだよそれ......それじゃ――)
工藤さんが死んだのは......全部俺のせいじゃないか。
あの状況で、ただの一般人の俺たちを最後まで守り抜いてくれた......。
その本当の理由はなんだ......。
霧生さんが何か隠しているのなら、本当の理由が知りたい。聞き出さなければならない。
そうでないと、俺も納得できないだろう。
工藤さんの【死】に......。
「おいお前!!」
ビクンっ、と身体が反応する。
ついに少年の矛先が俺の方へ向けられた。
「あの十光のおっさんに何か聞いてねぇのかよ!!」
クロス――なんだって。もしかして、霧生さんのことか。
「いや......俺は――」
「やめろ翔!!」
「悔しくないのかよ!! カイトさんは!! 工藤さんが死んで!!」
「く、悔しいに決まってんだろうが!!」
「じゃあ、ちゃんと話してくださいよ!! 何で死んだのか!! どこで死んだのか! 殺した相手は!? シャドウですよね!? 脅威度はどれくらいなんですか!! 」
「だから! ぜんぶ明日話すって言ってるだろ!!」
「あの十光のおっさんは何してたんすか!? 元十光なら全員守って帰るぐらいの強さはあるはずでしょ!! 俺からしたら、あの人が本当に十光かも怪しい――」
「霧生さんを悪く言うな! 翔!!」
カイトさんのその言葉は、今までで一番大きな声だった。
口論前と同じ静寂が、再び室内に訪れる......。
呼吸を整え、落ち着きを取り戻したカイトさんが口を開いた。
「今日はもうみんな疲れてる......。 疑問があるなら霧生さんも含めて、明日話そう」
少年はまだ何か言いたそうな様子だった。しかし――
「......分かりました。 とりあえず、この話は明日にします」
それ以上の言及をすることなく、俺たちに背を向けて――
「工藤さんの死を無駄にしないためにも、 俺が納得いくように話してくださいよ......カイトさん......」
去り際、そう言い残し、少年は二階に上がっていった――。
「はぁああああ~」
少年が立ち去ったのを確認すると、カイトさんは深くため息を吐いた。
「あきやん、すまん。 疲れてるのに......びっくりしただろ?」
「い......いえ」
と言いつつ、内心めちゃくちゃびっくりしていた。
手汗もびっしょりだ......。
「あいつは俺らの後輩の風巻翔っていうんだ。 って言っても、まだ訓練生だからパージストじゃないんだけどな」
「訓練生......?」
「あ、あぁ。 訓練生ってはな。 対シャドウ軍事機関『ラディウス』に入るための学校に通って、日々勉学・訓練に励む若者のことを指すんだ」
「そ、そうなんですね......すみません、無知で」
無意識のうちに、説明を求めてしまったみたいだ。
そんなこと、シスト市の外では当たり前のことなんだろうな......。
「......今日は俺も寝ることにするよ。 今後のことは明日霧生さんと話そう」
「わ、分かりました......」
カイトさんの足取りは、まるで沼の中を歩いているかのように重そうに見えた――。
どれくらい時間が経っただろうか――。
1時間、いやそれ以上か......。
1階の広いリビングルームには、もう俺と快斗しか残っていなかった......。
不思議だ......暖かいはずなのに、少し寒いような気もする。
他のみんなは自室で寝ているのだろうか......。
横に座っている快斗をチラッと見る。
静かに暖炉の火を眺めている......。
俺が起きてるのは、結衣たちの治療が終わって、少し様子を見てから寝ようと思ってるからだけど......快斗がまだ寝ようとしないのは、なんでだ。
俺が何かを話すのを待っているのか......。
なんか、そんな感じがする。そんな感じがしてきた。
何か話してみるか......ずっとこのままじゃ、気まずくてトイレにも行けないし――
「......は、はや――」
ガチャっ、というドアの開いた音――俺は口を閉じた。
「あら? まだ起きてたの、君たち」
目の前に現れたのは、結衣たちを任せていた女医さんだった。
「せ――」
「先生! 結衣ちゃんたちは!?」
俺よりも先に、快斗が言葉を投げた。
「......静かに入ってね」
案内されたのは結衣たちを運んだ治療室だった。
女医さんが静かにドアを開ける。
俺たちも女医さんの後に続いてそっと中に入った......。
とても静かだった......。
左右に、そして奥にも2つ――合計4つのベッドがあった。
今は使ってなかったが、隣と仕切りができるようにカーテンが設置されている。
「まずこの子についてだけど――」
先生から3人の体の状態を説明された――。
最初は彩華。
体の方は傷もなく、特に問題はなかったらしい。呼吸も安定しているし、朝には目を覚ますとのことだった。
大きな音、振動でも起きないのを見て、少し心配していたが......それを聞いてホッとした。
美奈については、分かり切っていた。
影を取られ、仮死状態。しかし、俺が聞きたかったのは、
――影を取られた人間の体はどうなるのか、ということだった。
ことことについては、色々難しい部分があるらしく、先生は今理解しておくべきことを、簡潔に2つ話してくれた。
一つは、体は歳をとらないらしい。だから、このまま衰弱死――っていうことはない......とのことだった。
二つ目は、実態を持たないシャドウに狙われやすくなってしまう......らしい。
シャドウには、二種類のタイプがあり、その違いは人間の体を乗っ取ったか、そうでないか。まだ人間の体を持たないシャドウは、影のない人間を襲い、体を奪うのだ――いまの話は全部先生から初めて聞いた知識だった......。
ホント、無知すぎるな......おれ。
とはいえ、先生の話を聞いても、俺だけでは今後の美奈の対応について答えが出るわけもなく、霧生さんに相談するしかない......と思った。
そして最後は――
「結衣は......どうでしたか?」
ゴクリっ、と唾をのむ。
先生は表情を柔らかくし、優しい口調で話し始めた。
「かなり衰弱していたようだけど、なんとか一命はとりとめたわ。 応急処置が正しく行われていたおかげね」
その言葉を聞いて、安心で涙が出そうになった。
「よかった......」
「あき......にぃ」
「......っ! 結衣!」
俺は結衣の声がよく聞こえるように、急いで駆け寄った。
「もう大丈夫だ。 俺たちは助かったんだ。 よく頑張ったな結衣――」
「みな......ねぇは?」
「......っ!」
一瞬、言葉を詰まらせてしまった――だが、
「......心配するな、姉さんも無事だ。 だから今日はもう、しっかり体を休めた方がいい」
「明希也......」
俺はそう続けた。
だって......だってそうじゃないか。
結衣はもう心も体もボロボロだ......。
これ以上、結衣を苦しめるようなことは、俺にはできない。耐えられない。
たとえ、嘘をついたとしても、今はもう休ませてやりたかった。
「......うん......それなら、よかった......」
そう言うと、結衣は静かに目を閉じ、小さな寝息を始めた。
「......朝までは私が付いてるわ。 もう夜も遅いし、あななたちも休みなさい」
「はい......」
その言葉に甘え、俺と快斗は治療室から静かに出ていった......。
「......くっ!!」
――込み上がる怒り。それは自分に対してだった。
「明希也......!?」
快斗には目もくれず、廊下を走り抜け、靴も履かずに玄関から外へ飛び出した。
「う......うぅぅうううううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――」
結衣の寝ている部屋から出た途端、今までせき止めていた感情が溢れてきた。
結衣を最後まで守れなかった自分に、美奈を連れて帰れなかった自分に、
そして......結衣に嘘をついた自分に対しての怒り、憤り......。
俺はなんて弱いんだ......。
弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い......悔しい。
雨が降っていた。
大声で叫ぶ俺の声をかき消すように、激しく降り注いでいた。
冷たい......寒い......苦しい――。
外の世界は真っ暗でほとんど何も見えなかった。
それでも、俺は自分の内側に溜まった感情を全部追い出すように、全力で脚、体を動かし続けた。
途中、何度も何度も転び、顔から転んだ時にはすさまじい激痛でうずくまった......。
それでも、立ち止まらなかった。
止まりたくなかった......。
――もう戻れない。
あの頃の、平和な時間にはもう、もう戻れない。取り戻せないんだ。
何もかもが嫌になる......嫌なことばかりが頭に浮かんでくる――。
そんなこと考えるな。
消えろ......消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消え――
「うおぁっ!?」
足が何かに引っかかったのか、体勢が前に崩れた。肩、続けて背中が激しく地面に衝突する。転んだ場所が坂のようになっていたのか、体が下へ――下へと転がり落ちていく......。
「いっ......いてぇ」
体中にズキズキと痛みを感じた......。
こんなに走ったのに――黒い感情が、まだ消えてくれない。
まだ足りないのか......まだ俺に苦しめってのか......。
「だったらいいさ......死ぬまで走って――」
「そこまでにしておけ」
上体を起こそうとしたその時、暗闇の中から声がした。
「そこから先は結界の範囲外だ。 今のお前じゃ、そのまま進めばシャドウに殺されるだろう」
背後から現れたのは、霧生だった。
「......消えないんだよ。 黒い何かが、ずっと俺に付きまとってくる......だから、追い出さないと――」
「そんなことをしても、シスト市で起きたことは、死ぬまでお前を苦しみ続けるぞ」
「うるせぇええええ!! ほっといてくれ!!」
痛みに耐え、立ち上がる。
「止まれ! 明希也!」
がしっ、と腕を掴まれた。
――邪魔すんな。
思いっきり腕を振って振り払う――が全く引き離せない......。
「うっ......がぁあ!」
やけくそになって、掴んできた霧生の腕に思いっきり嚙みついた――。
「くっ! このっ!!」
しかし、すぐに引き離され――たと思った次の瞬間には、首を押さえられた状態で地面に拘束されていた。
だが――それでも、残っている力を振り絞って、体を暴れさせた。
「まるで、自分が世界で一番不幸だ――って顔だな。 悪いが、お前よりも辛い人生を歩んできた奴を、俺は何人も見たことがあるぞ」
「うるせぇええ!! 俺にはもう、希望も! 未来も! 何もかもない! このまま生きてたって苦しいだけだ!! 」
「もう何も見えなくなったのか!! 姉を助けようと、友を救おうと必死に足掻いていたお前はどこへ行った!!」
「こんなに......こんなに苦しむくらいなら! あのままシスト市で、シャドウに殺されてた方がマシだったよ!!」
「ふっ、それをあの妹の前でも言えるのか? 言えないだろ。 妹に今の自分を見せたくないから、こんなところまで逃げてきた――違うか?」
「だま......れ」
「お前のために死んでいったやつ、傷ついたやつが、少なからずいるんだぞ!! そいつらの死を無駄にするつもりか!!」
「黙れぇええええええ!! そんなの知らねぇよ!!! あんたらが勝手にシスト市に来たんだろうがぁああああ!!」
それ以上は、息がもう限界だった......。
今まで、呼吸を整える――ということを忘れていた俺は、過呼吸気味になりながら、息を整えた。
「お、俺には、もう、希望、なんて、ない。 諦め、る、しか、ないんだ」
もはや、言葉ではなく、単語だった......。
「最初、から、希望、なんて、なかったんだ!!」
でも、俺は自分の抱えている感情を――思いをぶつけつために、途切れ途切れになりながら、声を発した。
「......じゃあ聞くが明希也、お前はどうして泣いてるんだ?」
突拍子もない問いに、一瞬思考が止まった。
「......はぁ? いきなり何言って――」
「いいか明希也、よく聞け」
霧生は間を置いて答えた。
「涙が出るってことは、そこにまだ、希望があるからだ」
「......っ!」
その言葉を聞いて、自分の目に意識が向いた。
俺はそこで初めて、自分が泣いているのに気が付いた――。
「諦めたやつが、涙なんか流すはずがない......そうは思はないか?」
沈黙で返す俺に、霧生は続けた。
「滝川からシスト市の真実を聞いた時、お前は絶望した。 だが、諦めはしなかった。 姉を助けるために必死になることができた。 それはなんでだ?」
なんで、なんでだったっけ――。
そう黙って自分に問いかけるが、答えが出ない。
「お前には確かにあるんだ。 絶望から這い上がる力が! 希望を持ち続け、立ち向かう強い心が! なのに、その時の【自分】を【今のお前】が否定してどうする!!」
――晴れた気がした。
その言葉が、今まで付きまとってきた黒い感情をかき消してくれた――そんな気がした。
「明希也、さっきの言葉が、本当にお前の本音なのか?」
「お、俺は......」
「もしそうなら、俺もこれ以上は口出ししない。 だがもし――」
霧生の拘束が解かれる。
「もし、お前がまだ希望を捨てきれないのなら、本当のことを言え。 お前が思っている本当にしたいことを!」
霧生は立ち上がり、煙草に火をつけると一口吸い、ふっと煙を吐いた......。
「もう一度聞くぞ明希也、お前は今後、どうしたい?」
「おれは......俺は――」
ゆっくりと立ち上がる......。
自分の本音――本当にしたいこと――そんなの、決まってる。
雨の中、俺は霧生に向かって――
「強く――強くなりたい!!」
大きく叫んだ。
「強くなって! 結衣も! 快斗も! 彩華も! もう大切なものを失わないように! 守り抜ける力が欲しい!!」
叫び続けた――。
「美奈の影だって! あいつから取り返してやる!! 俺の大切な家族の、影を奪ったことを、後悔させてやる!! だから――」
最後、残った気力を振り絞って思いっきり――
「強くなりたい!!!」
そう叫び終わると、体の力が抜け、ドサッ――と地面にまた倒れ込んでしまった......。
「そうか......」
その声を聞いて、霧生の放つ空気が和らいだのを感じた。
「パージストになれ、明希也」
「えっ......!?」
「パージスト入隊試練が、年をまたいだ3月、今から5か月後にある。 俺がそれまで、みっちり鍛えてやる」
「パージスト......入隊試練......」
考えてもみなかった......。
自分がパージストになるなんて......。
「......俺にも、なれますかね?」
「知らん」
「そ、そこは嘘でも『なれる!』って言ってくださいよ!!」
霧生の手を借りて立ち上がる......。
怒り、迷い、不安、そして絶望――俺の中にあった黒い感情が消え、代わりに芽生えてきたのは、小さな希望だった......。
霧生の背中を追い、家へと戻る。
視界に入った小さな光――それに気づき、俺は空を見上げた――。
そこにはたくさんの星が輝きを放っていた。
真っ暗で何も見えないと思っていた夜の世界――希望など微塵もないと感じてしまうような暗黒の世界は、自分が思っていたよりも明るく、そして――
美しかった......。
読んでいただき、ありがとうございました!
これで、第一章は最後となります!!
ここまで、書ききった自分、グッジョブ!!お疲れ!!
そして、ここまで読んでいただいた読者の方々に感謝の言葉を!本当にありがとうございました!
次回から、第二章 試練編になりますが、なにぶん執筆速度が遅く、次の投稿もいつになることやら......。
ですが私自身、この「シャドウズ」という作品が大大大好きなのです!なので、自分の気持ちの変わらない限りは、話の続きを書き続けていきたいと思っています!
まぁ、この作品一筋で頑張ってきましたが、なにか系統の違う他の作品にもチャレンジしてみようかな......とも思っているので、その時はよろしくお願いしますね!
感想があれば、遠慮なくかき込んでほしいです!励みになります!
それでは、次回までお楽しみに!!




