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シャドウズ  作者: saji
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第49夜 夜を照らす者

この作品を見つけていただき、ありがとうございます。

最後まで読んでいただければ嬉しいです。

 

 ――目を開けるとそこには、異様な光景が広がっていた。



「な......何が......」


 唸り声はもう聞こえない......。

 迫りくる足音も、狂気的な殺気もない......。

 あるのは――見えるのは、石像のように動かなくなったシャドウの群れだった......。


(生きてる......まだ生きてる......)


 信じられなかった。

 死ぬはずだった――殺されるはずだった......のに、まだ生きている。

 結衣(ゆい)も、俺も、みんな生きてる......。


 なんで......なんでだ......。今の状況が全く理解できない。

 目の前にいるのに......どうしてシャドウは襲ってこないんだ......。


「あきやん!」

「......っ!」


 カイトさんが庇いに入ってきた。


 それを見て、自分の上体も起こしてみる......。


 ――動ける。動かせるようになっている。


「なんだか分からないが、チャンスだ! 今のうちに逃げるぞ!」


 結衣――結衣は――


「大丈夫です。 まだ死んではいません」


「よ......よかった」


「ですが酷い傷です。 急いで治療しないと、手遅れになります」


 謎の男に付けられた傷跡から、血がどくどくと垂れていた。


 まだ死んでないとはいえ、このままじゃ結衣は――


「俺が背負います」


 時任(ときとう)さんに手伝ってもらいながら、慎重に結衣を背中に背負った。


「トモッち! 大丈夫か!」


 全員で工藤さんのもとへ駆け寄る――。


「......っ!」


 全員の足が止まった......。


 光の壁を貫通し、その体を貫く無数のアルムが見えたからだ。


 反応がない......。何も......。俺たちに背を向けたままだ。

 ずっとかがんだまま、地面に突き刺した武器に手をかざしている。

 その背中からは、もう生命を感じることができなかった。


 体を貫かれ、意識がこと切れても、工藤さんは最後まで、後ろから迫りくるシャドウの群れから、俺たちのことを守ってくれていたんだ......。


「トモッち......ありがとな」


 カイトさんの手が肩に触れた瞬間――光の壁が砕け散った......。


「ゆっくり休んでくれ......」


 静かに工藤さんの体を横にする。


 何も言えなかった......言葉が出なかった。

 工藤さんの死が唐突すぎて、信じられなくて、心が痛くて、悲しくて――。

 涙をぬぐう手も使えなかった。結衣を背負っていたから......。


 俺はボロボロと目から涙をこぼすしかなかった......。


「さぁ、先を急ごう」


 頭に当たる水滴――雨が降ってきた。

 瞬く間に、それは量と激しさを増し、着ていた服が水分を含んでいく......。


 カイトさんの表情はよく見えなかった......けど、その雨がカイトさんの気持ちを代弁しているように、俺には感じてしまった――。




 ■




 振りそそぐ雨の中、急いで合流地点に向かう。


「あき......にぃ」


「結衣! 大丈夫か!?」


 背中越しに聞こえてくる結衣の声。かなり消耗しているように感じる。


「もう少しの辛抱だ! 頑張れ、結衣!」


「見えた! あそこだ!!」


 目の前に見えたビル。

 あそこに霧生さんたちが――


 突如激しい爆発音が鳴った。それと同時に目に入ってきたのは、激しい光の点滅。

 雷かと思ったが、それはビルの屋上付近で起こっているようだった。


「霧生さん! 着きました! すぐ真下です!!」


 カイトさんの声。

 フラグメントで連絡を取っているようだ。


(あれは......)


 屋上に目を向けると、鳥のような影が無数にうごめいているのが見える......。

 あれはいったい――


「......っ!」


 見上げていた視線の先、上空に赤い光が現れた。

 それは次第に大きくなって――


(こっちに来る......!!)


 と身構えた直後――それは激しい音を立てて俺のすぐそばに着地した。


「うわぁああ! なんだ!!?」


 急いでカイトさんの後ろに回る。

 もの凄い速さで迫ってきたそれを警戒しながら、そっと顔を覗かせた......。


 1羽......2羽......全部で3羽。人の倍以上はある巨大な羽を持った......(わし)だろうか。赤く光っている。


「心配はいらない。 霧生さんの守護霊だ」


 そういうと、カイトさんはなんの躊躇もなく、その鷲に近づき、背中に上った。


「あきやんたちも! 急いで乗って!!」


「は、はい!!」


 呆気に取られ、立ちすくんでいた体を動かす。

 結衣を先に乗せた後、急いで俺もその背中に乗った。


「乗りました!」


「よし! 行くぞ!!」


 赤く光る3羽の鷲がビルの頂上目掛け、上空へ上がっていく。

 大きな翼を広げて飛んでいくその姿は、人を乗せているとは思えないほどの身軽さを感じさせた。


「人間だ! こっちにも人間がいるぞぉ!」


「......っ! シャドウだ!」


 上から降下してきたシャドウの群れ――黒い羽を生やし、殺意を持った紫色の目がこちらに向かってくる。


 鷲が向きを変え、風を切るかの如く旋回した。


(うぷっ――)


 ぐるぐると回る視界、俺の脳は一瞬で【酔い】状態の一歩手前になった。

 だが、しっかり掴まっていないと......体中に押し寄せる突風で振りほどかれそうだ。


 後ろから羽音が聞こえる――さっきよりも数が増してるかもしれない。


「くそ......これじゃ霧生さんたちと合流できない!」


 空に逃げても......奴らからは逃げられないのか。


「死ねぇえええ!!」


「......っ!」


 ――やばい、当たる......。


 先回りしていた数体のシャドウが目の前に現れ、明希也の乗っている鷲に、アルムを突き伸ばした――。


 まさにその攻撃が当たる直前――鷲は咆哮(ほうこう)を放ち、体から赤い波動を放出させた。

 突如として、凄まじい振動が体中に――痛いほど響いてきた......。

 必死にしがみつく。手だけでなく、全身で鷲の体に――。


 ほどなくして、振動が止む......。


「......っ!」


 明希也が目を開くと、シャドウの姿はもうなかった。

 鷲の放った強烈な攻撃が、シャドウをアルムごと吹き飛ばしていた。


(や、やった! けど――)


 後ろのシャドウは振り切れていない。

 囲まれるのも時間の問題だ。


「あきやん!」


 カイトさんが俺のすぐ横に付いた。


「このままもう一度、屋上に飛んでいこう!」


「え!? でも、上にはシャドウがたくさん――」


「霧生さんの指示だ! あの人を信じよう!」


 屋上付近でうごめいていた影――たぶん、あれは全部シャドウだ。

 空を覆うほどの数の群れの中、突破するのはかなり危険じゃないのか。


「う......うぅ......」


 だが......迷っている暇はなさそうだ。一刻も早く結衣を治療しなければ。

 苦しそうな結衣の声に、俺は首を縦に振った。


「よし! 全員、できるだけ1か所に集まれ! 全速力であの群れを突破するぞ!」


 再び、鷲たちがビルの屋上へと上がっていく。


 次第に近づいていく、黒い群れの壁へと――


『全員、目を隠せ』


「......っ! みんな! 目を隠せぇえ!!」


 聞こえてきたカイトさんの声。

 俺はぎゅっと目を閉じ、結衣の目を手で覆った。


「【覇者の威光(フル・スパークル)】」


 目を閉じていたのに、強烈な光がまぶたの裏に広がった――。





 体が衝撃を感じ取る。さっきまでの浮遊感が無くなった。


 着地したんだ......屋上に。

 どうやってあのシャドウの群れを突破できたのか分からないが、とにかく結衣を――。


「あきやん! 大丈夫か!」


 カイトさんの声だ......。

 目を少しずつ開いていく......。


「休んでる暇はないぞ。 早くヘリに!」


 まだはっきりしない視界の中で、肩を担がれ、どこかに運ばれる。

 ヘリが近いのだろうか。回転する羽の音が耳の奥に響く。


「ゆ......結衣は――」


「妹ちゃんならサイちゃんが運んでる! ほら、乗って!」


 ふらふらした体を押し込まれる。

 ()つん()いの状態のまま、奥へと入る。


 やっと......視界がはっきりしてきた......。


「明希也!? 明希也なのか!?」


「......っ!? その声......快斗(はやと)か!?」


 聞きなれたその声に即座に振り向く。

 俺は大切な友人の姿が目に映り、心の底から安心感が湧きあがった。


「よかった......無事だったんだな」


 快斗の後ろに、体を横にしている彩華(あやか)の姿も見えた。


「あ、あぁ...... だけど何なんだよこれ! 何が起こってんだよ!!」


「話はあとだ」


 ヘリのドアを閉じて、霧生が中へと入る。


「き、霧生さん! 結衣が......結衣が!」


 泣きつくように霧生のコートを掴む。

 明希也は傷を負った結衣の体を指さした。


「細! そこに応急箱がある! お前はその子の手当てにあたれ! カイトと智則(とものり)は――」


「霧生さん!」


「なんだ!」


「工藤智則は......死にました」


「......そうか」


 沈黙が降る......。だがそれは、ほんのわずかな間だった。


「お前は明希也たちを頼む......クラレス!」


「おーけー! 出すわよ!」


 少しずつ機体が持ち上がっていく......。


 霧生は屋上を覆うように張り巡らせていた光の壁を拡張させ――


「ふっ!」


 いっきに外側へと破裂させた。


 強い衝撃の波――周囲のシャドウが一斉に吹き飛ぶ。

 上空を支配していたシャドウの群れが消え去り、その隙に機体は大きく揺れながらも、その高度を上げていく。


「スピードを緩めるな! すぐに次の追手が来るぞ!!」


 そのまま市外へと、重低音の羽音を鳴らして飛行する。


「時任さん、結衣は!?」


 治療を行っていた時任のもとへ駆け寄る明希也。

 時任は少し間を置いて、気まずそうに口を開いた。


「助かる見込みは50%......ってところです」


 明希也の表情が険しくなる。

 歯を食いしばり、妹をこんな状態にしてしまった不甲斐ない自分を悔いた。


「俺も......俺も何か手伝います」


「ありがとうございます。 ですが、いま私のできる範囲のことはやりました。 後は結衣さんの気力次第です」


「結衣......」


 苦痛の表情を浮かべる結衣――明希也は両手で、小さく震えている妹の手を握った。


「霧生!! 来たわよ!!」


 機体の中から見えるその景色に明希也はゾッ――とした。



 夜空に浮かぶ、無数の紫色の光――それは決して星などではない。

 機体の存在に気付き、街からぶわっと次々に飛んでくるシャドウの眼光。

 そして、それはまるで一つの小さな餌に、大量の蠅が群がってくるかのようだった。


(シスト市に......こんなにシャドウが潜んでたのかよ......)


「あぁ......ぁあああ!! ななな何なんだよ......なんでシャドウが......あんなに――」


 快斗も頭を抱え、軽い錯乱状態に陥っていた。


「前からも来てる!! このままじゃハチの巣よ!!」


「全員何かにつかまってろ!」


 そう言い放つ霧生。

 明希也たちの状況を確認しないまま、急いで機体のドアを開けた。


「【疑似太陽(プロメテウス)】」




読んでいただき、ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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