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シャドウズ  作者: saji
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第48夜 叫び

この作品を見つけていただき、ありがとうございます。

最後まで読んでいただければ、嬉しいです。

 

「【守護光盾(ホーリーシルド)】!!」


 シャドウの群れに飲み込まれるその直前――目の前に光の壁が現れた。


「トモッち! 霊力(シン)が戻ったのか!」


 振り向くと、武器を地面に突き刺し、かがんでいる工藤さんの足元に紋章が浮かび上がっていた。ショッピングモールで使っていたものと似ている。


(た......助かった)


 身体の緊張がいっきに解ける......。


結衣(ゆい)、大丈夫か?」


「あきにぃ......足が......動かない」


 がくがくと震わせていた。無理もない。俺もまだ体中の筋肉がこわばっている。

 過度の恐怖感――それが結衣をこの状態にさせたに違いない。


「カイト、時任(ときとう)、2人は!?」


「......ダメだ、まだ戻ってない」


 時任さんも首を横に振った。


「私だけか......」


 そう呟くと、険しい顔していた工藤さんの顔つきが変わる。


「カイト、時任、明希也くんたちを連れて先に行ってください」


 その不意な言葉に一瞬、思考が停止した。が、すぐにその意味を理解する。


「はぁあ!? なに言ってんだよ!」


 俺と同じように、カイトさんも目を見開いていた。


「どのみち、今のままじゃ逃げ切れない......。 霊力が使える今の私なら、逃げる時間を稼げる! だから早く――」


「置いて行けるわけ......ないだろ!」


「置いていけ!! いま技を解けば、全員死ぬ! 私が残るしかないんだ!」


 パキパキッ――と音が鳴る。

 工藤さんの張った壁に、ひびが入り始めていた。


「そんな......工藤さん」


 死ぬ気なんだ......。工藤さんはここで......。

 自分を犠牲にしてでも、みんなを逃がそうとしている......。


「明希也くん、行ってください......」


 でも、置いて行きたくない......。置いて行けない......。


「くそっ! もうすぐに脱出できるってのに!!」


 カイトさんも頭を抱えていた――が、


「カイト、時任......頼む」


 ――その目が、決死の覚悟を自分たちに訴えてきた。



「......カイトさん、行きましょう」


「あぁあああ!! くそ! くそ! 分かった! 分かったよ!! あきやん!!」


 時任さんもカイトさんも行く気だ......。

 俺は......俺は――


「明希也くん」


「は、はい!」


「妹さんを最後まで守るんですよ」


「......っ!」


 俺の迷いを晴らすかのように、工藤さんの言葉は自分の心に響いてきた。


「......はい」


 すでに結衣を掴んでいた男は力尽きていた。


 今の状態を見るに、結衣は走れそうにない......。

 そう感じ、男の手から結衣の足を引き抜き、結衣を背中に乗せた。


(俺を......地獄から助けてくれて......ありがとうございました!)


 涙をこらえ、俺たちは工藤さんを置いて足を――


「......っ!!」



 とんっ――背後ろから音がした。

 視線をすぐさま移動させるが、視界から消えていくように、人影が移動した――。


「【大罪縛り(クリミナル・チェーン)】」


「がはっ......!!?」


 その声と同時に体が石のように動かなくなった。


「な......なんだ......これ」


 いや、俺だけじゃない。カイトさんと時任さんも動けないみたいだ......。


「あき......にぃ?」


「......っ!」


 動けるのか......結衣は。


「きゃっ!! いやぁあああ!」


「ゆ、結衣!!」


 ぐっ――と、結衣の体が後ろに引っ張られている。

 いったい何が起こっているんだ......。振り向こうにも、首が動かない。


 俺の背中にぎゅっとしがみつく結衣。だが――


「痛いぃ!! やめてぇえ!! 離してぇええ!!」


 乱暴に引き離される。そして、そいつが俺の視界に入ってきた......。


 右手には剣を持ち、左手で結衣の髪を掴み、どこかへ連れていこうとする男。

 泣き叫ぶ結衣には目もくれず、俺たちの逃げようとしていた方向に足を進めている。


「あきにぃいい!! 嫌ぁあああああ!! たすけてぇええええええ!!」


「くっ......結衣......」


 ダメだ......足が上がらない。身体が動かない......。

 何もできないのか......目の前で結衣が連れ去られるってのに......。



 ドクン......。



(やめろ......これ以上俺から、大切な物を奪うな......)



 ドクン......。



(動けうごけうごけうごけうごけうごけうごけぇええええええ――)



 ドクン......。



 全身に力を込めて、この拘束に抗う。

 先ほどよりも体が動けるみたいだ......だが、これは――


(いぃっ......痛すぎる......だろ)


 1ミリ動くたびに感じる激痛。体の骨が折れ、筋が千切れる――のではないかと感じるほどの痛みだ。

 だが、黙って妹を奪われるわけには――


「いか......ねぇんだよ!」


 ようやく、一歩目を踏み出せた。たったそれだけで、どっ――と疲労感が襲ってくる。


「ふっ、大したやつだな」


 男は立ち止まり、俺の様子を見て不気味に笑った。


「結衣を......離せ」


 懸命に足を動かしていく。

 重い、重すぎる......。まるで何十キロもの重りを付けられているようだ......。


「言われなくとも、すぐに離すさ」


「うぎっ......!」


 男は結衣の首を掴み剣を構えた。

 俺に見せつけるかのように、俺と結衣を向かい合わせるような形をとって――


「な......何を――」



 明希也はその光景に目を見開いた......。



 鋭い刃で切り裂かれた結衣の背中。

 噴き出る血――床に飛び散っていく。


 悲鳴が鳴り止み、呼吸ができなくなった魚のように、結衣は息を詰まらせる。

 先ほどまで、恐怖で染まっていた結衣の表情はコントロールができなくなってしまった。


 自分に起こった出来事を整理する余裕もなく、ただ充血した目を、明希也と同じように大きく見開いていた。


「ふんっ」


 男が首から手を離す。

 地面に落とされた結衣の体がピクッ、ピクッ――と痙攣(けいれん)する......。


「ゆ......い......?」


 明希也の思考は停止していた......。頭の中が真っ白になっていた......。


「あ......あぁ......」


 受け入れがたい現実......。

 本能的に脳の機能を停止してしまうほど、それは明希也に絶望を与えた。

 だが――


「あぁあああああああああああああああああああああああ!!!」


 ぐちゃぐちゃになった感情で、明希也は叫んだ。

 怒りと悲しみとが入り混じり、爆発するような絶叫。


 ――大切な家族を傷つけられた。


 それを認識し始めた脳が、明希也を残酷な現実へと引きずり戻した。


「くそっ......くそっ!」


 未だ動くことができないカイトと時任。

 工藤も結界を維持するので精一杯だった......。



 ――このままでは結衣が死ぬ。殺される。


 容易に想像できてしまう男の次の行動に、明希也は恐怖する。


 この男はいったい何者なのか。

 なぜ先に、結衣を殺そうとするのか。


 そんな疑問は、頭から消し飛んでいた。

 ただ結衣のことしか、明希也の目には入っていなかった。


「......っ!」


 しかし、明希也の予想とは裏はらに、男はそれ以上の追撃をしなかった。

 上空へと人間離れした跳躍――そして、明希也たちの目の前から消えていった......。



「あき......に......ぃ」


「......っ!」


 今にも息絶えてしまうようなその声にはっ――とする。

 男の謎の行動に呆気に取られていたが、明希也は再び結衣のもとへと体を動かした。


 男は去ったはず――だが、まだ体は自由に動かない。


 後ろを守っていた工藤の結界は、もういつ壊れてもおかしくない状態。

 しかし、それだけではなかった――。


 前からもぞろぞろとシャドウの群れが近づいてきている。


 ――早く、早く結衣を連れて逃げないと。急いで治療しないと。


 それだけが頭にあった......。



 ドクン......。



 狂気に満ちた怪物たちがまっすぐ迫ってくる。

 カイトたちも拘束に抗うが、まだ明希也のように動くことができなかった。



 ドクン......。



(くるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるな――)


 足がもつれ、ごんっ――と鈍い音が鳴る。

 明希也の頭、(ひざ)(ひじ)、体中が激しく地面に衝突した......。


 苦痛の表情が顔に出る......。明希也は歯を食いしばり、その痛みを必死に抑え込んだ。



 ドクン......。



 倒れてもなお、進み続ける......。ゆっくりと......這いずって......。

 しかし、目の前のシャドウの群れがすぐそこまで迫ってきていた。



 ドクン......。



「......っ!」


 明希也の頭の中に、その光景が流れ込んだ。



 シャドウの群れに飲み込まれる結衣の体。

 無数の影殻(アルム)で串刺しにされ、人の原形を留めぬほどに、身体を引き裂かれていく。

 叫び声はない......ただ周りに飛び散る血、血、血――。


(やめろ......やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ――そんなもの......俺に......見せるな......)


 ――涙がこぼれた。

 結衣を失う恐怖、そして何もできない自分の無力さに......。


 先頭の1体がうなり声をあげ、走り出してきた。



「おれは......なんにも守れずに......死ぬのかよ」



 結衣に向かって飛びかかるシャドウ。

 絶望で、ぐりゃりと視界が黒く染まっていく――。



 思考も......視界も......はっきりしない......。



 暗い......。

 寒い......。



 暗闇の中に落ちていく感覚の中、一瞬にして駆け巡っていく結衣と過ごした記憶......。



 そのうちの一つだけ、明希也の頭の中にゆっくりと、はっきりと流れ込んできた。




 ■




『結衣~、ちょっといい?』


『なに~? みなねぇ』


 結衣は起きたばかりの目を、手でごしごしっ、とした。


『ほら、明希也』


 小声で美奈(みな)は、明希也に声をかける。


『わ、分かってるよ......その......ええと』


 そう言ったものの、明希也はなかなか言い出せないでいた。

 不思議そうに明希也を見つめる結衣。

 しばらく、沈黙の時間が流れる......。


『あのさ......昨日のことなんだけど......あぁああ!! もう!』


 なかなか口に出せない自分に腹が立ち、明希也は頭をかきむしった。


『ごめん! 結衣! 昨日、お前の誕生日だったのに!』


 頭をぎゅんと下げ、せきを切ったように次々と思いをぶつけた。


『突きとばしてごめん! ちゃんと祝ってやれなくてごめん! お前の気持ちも考えないで......おれ......おれ――』


『いいよ! 別に!』


『え......?』


『許してあげる! あきにいのこと!』


 結衣は満面の笑みを明希也に向けた。


 明希也は困惑した......。

 こんなに早く、簡単に許してもらえるとは思っていなかったからだ。


『ほ、ホントに?』


『うん!』


『ちゃんと許せて、結衣はえらい子だね~』


 美奈が結衣の頭を優しく撫でた。


『よかったね、明希也』


 気持ちを伝えることができ、ホッと肩をなでおろす。

 だが、まだ結衣に伝えたいことが明希也にはあった。


『じゃ、私朝ごはんの用意して来るね~』


『う、うん』


 そのことで頭がいっぱいで、美奈に空返事をする。

 美奈が台所へ向かったのを確認すると――


『ゆ、結衣』


『なーに?』


『お前のことも......俺が守ってやるからな』


 少し照れくさそうにしながら、小さくそう言った。


『急にどうしたの? あきにぃ』


『昨日、姉ちゃんと約束したんだよ。 大きくなったら、姉ちゃんのこと守るって』


『そーなんだ!』


『だから、結衣のこともこの先、俺が守ってやるよ』


『えー! それじゃああきにぃが大変でしょ?』


『え?』


 明希也は予想外の返事にきょとんとした。


『あきにぃ、2人も守ることになるじゃん! 大変だよ!』


『た、大変じゃねぇって! 俺は男だぞ!』


『結衣もあきにぃと一緒にみなねぇのこと守る!』


『えぇええ!?』


 美奈に聞こえないように、思わず口を押えた。


『結衣はね! まだ守る......とかよく分かんないけど、あきにぃと、みなねぇとずっと一緒にいたい! ずぅ~っと! ただそれだけなの! それだけで結衣は大満足なんだ~』


『結衣......』



 同じだった。結衣も同じことを考えていた。

『守る』なんて、難しく考えていた自分が馬鹿馬鹿しい――と、明希也は感じた。


 ――3人でずっと一緒にいたい。


 ただそれだけだったのだ。希也にとっても......。

 そのことを、結衣が気付かせてくれた。



『そうだな......3人ずっと一緒だ』


『うん!!』


 結衣はまた明希也に満面の笑みを向けた。


『あ......あぁあああっ!!』


 何かを思い出した明希也が、大声を上げる。


(しまった! 姉ちゃんに料理させちゃダメだった!!)


『あはは! あきにぃヘンなかお~!』


『笑い事じゃねぇって!!』


 顔を真っ青にして明希也は台所へと走り出す。


『あ! 待ってよあきにぃ~!』


 その後を、結衣は笑いながら追っていった――。




 結衣......お前はそう言ってくれたけど......どんなに大変でも、辛くても、俺はお前のことも守るよ......。



 絶対に......。





 ■




「おれの――」


 心の奥底から湧き上がる『怒り』という名の黒い感情。

 頭の中は、そのたった一つの感情に埋め尽くされていた。


「おれの家族にさわるんじゃねぇえええええええええええええええええええええええええ!!!」



 爆発する衝動――。


 シャドウの群れに向かい、明希也は喉がつぶれる勢いで叫びを放った――。


読んでいただき、ありがとうございました。

ようやく、あと2~3話ほどで一章が終わりそうです汗。

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