第46夜 最悪のトラブル
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「あれです! あれが俺の家です!!」
すぐ近くまで見えてきた自分の家を指さした。
「りょ~かい!」
時任さん、カイトさんは家に向かって勢いよく飛び、綺麗に着地した。
「明希也くん、下ろしますよ」
「はい!」
高度が次第に下がっていき、ぱっ、と手が離された。
強い衝撃もなく、家のすぐそばで工藤さんに優しく下ろしてもらった。
休むことなく、俺は家の玄関ドアへと急いで向かった。
取っ手に手をかけ、ドアを開く。
「結衣! ......結衣!」
返事が返ってこない......というか――明かりが付いていないのはなぜだ。
「結衣!! どこにいるんだ!」
何度も呼びかけるが、人の気配が全くない......。
――嫌な予感がする。
明かりをつけるためスイッチをパチッ、と押す――が、暗いままだ。
やはり何かおかしい。
靴を履いたまま中へと入り、リビングに向かう――。
「......っ!?」
ガラスのようなものを踏んだ音がした。
「あきやん、あんまり一人で行動しないの!」
ライトを手に持ったカイトが後から入ってきた。
その明かりで初めてリビングの状況が把握できた......。
ソファーはめちゃくちゃに切り裂かれ、中の綿が所々に飛び出ている。
テレビ、テーブル、棚ももう使えない、と一目で分かった。
照明器具の破片、家具の残骸、それだけじゃない。床にぶちまけられた食器と夕食――結衣が準備したものだ。
「ひどい荒れようだ......これって、やっぱり――」
泥棒なんかじゃない......。
シャドウだ。シャドウが侵入してきたんだ。
(結衣は......結衣は無事なのか!?)
心臓の鼓動が早くなる。
先ほどから声が返ってこないのは、もしかすると――
(いや! 何考えてんだ!!)
即座に頭を振った――。
脳裏に浮かんだ最悪の想像をかき消すために。
「カイトさんたちは一階を! 俺、二階探してきます!!」
「ちょ! あきやん!」
手探りで明かりのスイッチを押していくが、全部付かない。
静かで......真っ暗だ。
ほとんど何も見えないが、探しに行くしかない。
足を滑らせないように――でも、急いで階段を上り、二階へと移動する。
二階には、俺と結衣、そして姉の部屋がある。
「結衣! いるのか! いたら返事してくれ!」
相変わらず、返事はない......。
俺はなんとか壁を伝って、結衣の部屋へと行き着いた。
がちゃっ、とドアを開ける......。
窓から入る月の光のおかげで、薄っすらと物の輪郭が見える状態だった。
「うっ......うぅ......ひぐっ」
目を凝らして部屋を見渡していたその時――すすり泣きのような声を耳が拾った。
「結衣! ゆ――」
突如――身体に重い衝撃がのしかかってきた。
床に激しく体が倒れる。
後ろから何かに跳びつかれた......。
いま、俺の背中に......何かがいる。
「ヴァアア!!」
それが泥棒ならどれほどよかっただろうか......。
俺を押さえつけたのは、獰猛なうなり声をあげるシャドウだった。
不気味な音を立てて、影殻を鋭く変形させている。
(はっ......! )
唐突な死の恐怖で腰が抜け、抵抗する力も失ってしまった......。
(こ、このままじゃ......っ!)
ベッドの下――小さな明かりのような物を持って、怯える結衣の姿があった。
「結衣!」
ドクン......。
――その怯え切った目を見て、何がなんでも生き延びなければと、体が動いた。
「くっ......!!」
頭を大きく横に動かし、突き下ろされた影殻を回避する。
勢いをつけて体を起こす――。
攻撃後の不意をつけたのか、シャドウの拘束を解くことができた。
お互い立ち上がった状態――距離がかなり近い......。
怒りと殺意に満ちた紫色の目が見える。
武器も何もない......攻撃を防げるようなものは――
(くそっ! 何があるのか見えねぇ!!)
「グガァアアアアアア!!」
「......っ!」
無防備な俺に向かって、再びシャドウが飛び掛かってきた――。
「はぁあっ!!」
その直前、短い叫びを上げて、どさっと倒れるシャドウ。
「ごめん、あきやん! 下にも1体いて、助けるの遅くなった!」
「カイトさん!」
助かった......と、俺は肩をなでおろした......。
「妹ちゃんはいた!?」
それを聞いて、はっとする。
「はい! いました! 生きてます!」
「ならすぐに連れてきて! 下で待ってるから!」
カイトはそう言い残し、階段を下りていった......。
「結衣!」
俺はベッドに視線を移し、呼びかけた。
「結衣、もう出てきて大丈夫だぞ」
なかなか出てこない......。
「結衣?」
ベッドの中を覗き込む......。
まだ恐がっているのか、泣きながら体を震わせ、動こうとしない。
「もう安心だ。 シャドウはいなくなったから、な?」
「......あき、にい?」
俺は手を伸ばして結衣の腕を掴んだ。
ぐいっ、と引っ張り、ベッドの下から出してやった。
「あきにい!!」
「うお!!」
ぎゅっ、と抱きしめられる――。
そして......押し殺していた恐怖を発散させるかのように、結衣は泣き出した。
「......ごめんな。 ひとりにさせて」
俺はそっと頭を撫でた。
「結衣、よく聞いてくれ」
だが、いつまでもここにいることはできない。
「いま、この街はシャドウの襲撃を受けてる。 俺たちはこの街から逃げないといけないんだ」
結衣は泣きながら、顔をあげた。
「どうして......どうして、こんなっ、ことにっ」
「説明は後でちゃんとする。 今はこの街から逃げる事だけ考えよう」
このシスト市で何が起こっているのか――結衣はまだ知らないのだろう。
不安な気持ちだろうが、説明している時間もない。一刻も早く脱出しなければ......。
困惑の表情を浮かべる結衣――しかし、少し間をおいた後、小さく頷いてくれた。
結衣と一緒に部屋を出る......。
「あっ!」
時間もないし、何も持っていくつもりはなかった......けど――
「結衣、外で俺の仲間が待ってる! 悪いが先に行っててくれ!」
一つだけ持っていきたいものがあった......。
それは一枚の写真――家族写真だ。
急いで、自分の部屋に行く。
こっちも電気は付かず、薄暗かった......が、それがある場所は明確に分かっていた。
手探りで、机に飾っていたその写真を小さな額縁から取り出す。
俺も覚えていない、両親が映っている家族で取った写真だ。
(いつか......いつかまた、みんなで......)
目に湧き上がってくる涙をぐっと抑え、俺はその写真をポケットにしまった――。
■
「すみません! 遅くなりました!」
玄関で待っていたカイトさんに呼びかける。
「よしっ! あきやんたち来たよ、トモッち! サイちゃん!」
「これは......」
「何してんの! トモッち早く行くよ!!」
外で棒立ちしている工藤さんにカイトが呼びかける。
「カイト! まだ気づかないのか!?」
「何が!?」
工藤さんはカイトさんにゆっくりと振り向いた。
「機動靴のエネルギーが......ない」
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