第45夜 助けを乞う少女
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カイトさんは屋上よりもさらに上空へと飛んだ。
施設の外――眼下に広がる景色に目を向けるとに出ると、そこは――
「な......なんだよ、これ」
ホントなら、家の明かり、そして街灯と月の光だけが夜の街を照らしていた――はずだ。
しかし、暗闇に沈んだシスト市の街には、赤い炎がそこらじゅうに広がっていた。
(本当だったのか。 倉治の言っていたことは......)
この全てが、街に潜んでいたシャドウのしわざなのだとしたら......
「シスト市はもう終わりだな」
霧生さんのつぶやきが、わずかに聞こえた。
「保護対象は3人だ! うち二人は俺が、もう一人は明希也が案内してくれる。 お前ら3人は明希也に付いて行ってくれ!」
俺が友人と妹を助けたいと言った後――倉治は助けたいやつの名前を俺に聞いてきた。
その行動に最初、疑問しか浮かばなかったが、あいつはそれを聞いて、俺の助けたい友人――快斗と彩華の位置データを、霧生さんに送ってくれた。
なぜ俺の友人の家まで知ってるのか――を尋ねたくなったが、それは無事にここを出られたら、直接聞いてやろう。
「了解です! あきやん! どの方角だ!」
「ええと......あっちですけど、霧生さんひとりで大丈夫なんですか!?」
「だいじょうぶだいじょうぶ! あの人精霊使えるし!」
俺が指を指した方へ、すぐさまカイトたちは空中で方向転換し、
「じゃあ行くぞ!」
勢いをつけて空を蹴った――。
■
光や希望など微塵も感じない世界が、すぐ下に広がっていた。
そこら中で鳴っている悲鳴と絶叫が、この都市が終わりであることを、嫌でも感じさせる。
昨日までは、平和な都市だったのに......いや、もともと平和なんてありはしなかったのだ。
滝川によって作られた仮初の平和は、一夜にして地獄へと変わってしまった。
「ひどい、ひどすぎる......」
考えないようにと視線を上げていたが、無駄だった......。強制的に――街で起きている地獄が頭の中に入ってくる――。
どこに逃げても、意味がない。
何も知らない街の人々は、わけも分からず虐殺される人々。
逃げ場を失い、街にあふれかえるシャドウによって、殺されるのを待つだけ......。
恐怖で、気がおかしくなりそうだ。
「カイト、いったん安全な場所で下りよう。 機動靴のエネルギーを補給しないと」
工藤さんの指示で、カイトさんとともにきょろきょろと辺りを見回す。
「あっ! あそこ! まだ大丈夫そうですよ!」
まだシャドウの被害がなさそうな小さな公園を指さす。
カイトたちもその公園を安全だと判断し、足を進めた――。
「よっ......と!」
衝撃の全くない見事な着地で、公園の地面に足を付ける。
いったん、カイトさんの背中から下り、彼らの補給の完了を待った。
「霧生さんから......というか、さっき一緒に戦ったシスト市のパージストからもらった予備だ」
工藤さんは2人にそれを渡した。
「さんきゅー!」
3人とも少しかがんで機動靴にエネルギーを入れ始める。
公園を見回していると、ふと昔の記憶がよみがえってきた――。
ここは昔、快斗と彩華と三人でよく遊んだ場所だっけか。
あそこのブランコも滑り台も、あっちの鉄棒も......昔のままだ。
小学生の頃は、学校が終われば毎日のようにここに来て、飽きずに夕方まで遊んでいたな。
中学に上がると、たまり場としてたまに使う程度になって、今ではもうほとんど来なくなってしまった......。
でも、俺にとってここは楽しくて大切な場所......だった。
(ふたりとも無事でいてくれ......)
懐かしい記憶が、俺に二人の大切さを再確認させた。
「あきやん、あとどれくらいで着くの?」
「ええと......さっき家がちらっと見えたので、機動靴を使えば、あと3分ほどだと思います」
「ありゃ、家に着いてから入れればよかったかもね」
「いや、残量も少なかった。 途中で空になる危険を抱えるよりはいい」
補給が終わったのか、3人が立ちあがる。
「よし、あきやん! 乗って!」
「は、はい――」
「ちょっと待ってください~!!」
出発しようとしたその時――近くで人の声がした。
振り向くと、今にも泣きそうな顔をしながら、こっちに走ってくる女の子が見えた。
ツインテールで小柄な体――中学生くらいだろうか。
「あなたたちパージストですよね!? さっき機動靴使ってるの見ましたよ!」
と、少し息を切らしながら、膝に手をついて立ち止まった。
「助けてください! 街じゅうシャドウだらけで大変なんです!」
女の子は工藤さんの腕をがしっ、と掴んだ。
「......すみませんが、助けにはなれません」
「そんな!!」
「私たちも余裕がないんです」
「......どうしてもダメなんですか!?」
今度は、時任さんの腕を掴んで女の子は訴える。
すると、時任さんは何も言わず、困った様子でカイトさんの方に目を向けた。
「え? なに??」
女の子も時任さんの視線の先、カイトへと視線を移動させ――
「ダメ......ですか?」
するするっと接近した女の子は、カイトの手を両手で握った。
潤んだ目で、カイトをじーっと見つめる。
それを受けて、カイトさんは「うっ」と声を漏らしていた。
これはかなり断りづらいだろう......。
俺もパージストじゃないから、何か意見を言い出せる立場ではない......けど、できれば助けてあげてほしいと思っていた。
「トモッち――」
「ダメです」
と言う工藤さんの言葉は、食い気味だった。
「カイト、分かってるのか? 明希也くんに明希也くんの妹......それに、その子まで一緒に――となると、私たち3人が背負う状況になる」
「は、はい」
「そうなると、誰もシャドウから守れない。 最低でも1人はすぐ戦えるようにしておかないと――」
「でもこんなにかわい......か弱い女の子を見捨てるなんて――」
「おい、今なんて言った? 私たちの最優先は明希也くんを助けることだというのを――」
言い争いを続ける2人。
止めた方がいいのか――時間もないだろうし......。
「あなたはどうなんですか?」
いつの間にか、俺の真後ろにいた女の子にビクッとした。
「あ、いや、俺はパージストじゃないから何も――」
「ひっ!」
「え?」
一瞬の悲鳴みたいなものが聞こえた。
肩を触れられたような気がしたんだが......
(何か虫でも付いてたのか?)
自分の体中を確認してみるが......特に虫とかは付いてないようだけど。
しかし、なぜか少女の顔色は真っ青になっていた。
「あのー......大丈夫ですか?」
「あっ......いえ、何でもないです! だだだいじょぶです!」
(ホントかな~?)
明らかに動揺しているけど......。
「グガァアア!!」
「......っ!」
前方の草の茂みが大きく揺れた――。
「シャドウだ!」
数は2体......どころではない。
公園の入り口からシャドウの群れが集まってきていた。
「言い争いは時間の無駄だったみたいですね」
冷静な口調でそう言うと、時任さんは女の子をひょいっ、と背に乗せた。
「さっすがサイちゃん! その子任せたよ~!」
「仕方ないですね......明希也くん!」
「は、はい!」
「今後のためにも、今ここで機動靴を使ってみましょう」
「え!?」
「大丈夫です。 習得が間に合わなければ、私が運んでいきますから」
「わ、分かりました」
「では、私の言葉をよく聞いてください」
すぐさま工藤さんは俺の隣に立ち、説明を始めた。
「この靴は心の力に反応します」
(なるほど、心の力に......って――)
「なんですかそれ――」
「いいから! 目を閉じて、想像力を働かせてください。 きみの体の中で今、不思議な力が循環していることを――」
言うとおりに、俺は目を閉じ、その『力の流れ』みたいなものを想像してみた。
「少しずつでいいですから、その力を足の方へ移動させるイメージを繰り返してください。 手から、頭から、胴体から、足の方へ力を溜めていくんです」
足......足......足。
ちゃんとできているのか、これ......。
と、不安になってくるが、イメージを続けていく。
「私が合図したら、思いっきり飛んでみてください」
イメージをしながら、飛ぶ姿勢に入る......。
「まだです......まだ......周りに気にせず、力を溜めることに集中してください」
シャドウのうなり声が大きくなっていく。近づいてくる。
早くしないと......早く溜めないと......。
生まれてくる焦燥感が、集中を妨げる。
「......っ!」
――落ち着ついて。と、そっと肩に置かれた手。
「大丈夫です。 私が付いてます」
それを聞いて、さっきまでの焦燥感が消えていった――。
「今です!」
足にぐっと力を込める。腰を低くし、今までため込んでいた力を出し切る勢いで、地面を強く蹴った――。
(......うぉ!!?)
体が上空に押し上がる感覚。
まるでロケットにでもなったかのように、まっすぐ空へ飛んでいる。
目を開けてみる......。
「......っ!」
自分の下に広がる世界――夜の街。何もかもから自由になったかような、最高の気分が沸き上がった。
(やった! 飛んだ! 飛べたぞ!)
――抑えきれない興奮。俺は深く息を吸い込んでいた。
数秒前とは全く違うその景色を見れば、誰でもこうなってしまうだろう。
「まだです! 足の力を維持しないと落下しますよ!」
「え――」
その通りだった。
だんだんと上昇する勢いが弱まり、浮遊感がなくなっていく――。
「うぉおおおおおお!!」
飛べた余韻で、気を抜いてしまった。
力の流れを切らしてしまったんだ――。
(まずい。このままじゃ地面に!)
体勢が上手く立て直せない。もはや力の流れをイメージする余裕もない。
落下の恐怖が......俺の頭を埋め尽くす。
「明希也くん!」
「......っ!」
工藤さんの手が上から伸びてきた――。
すぐさま俺も手を伸ばす――が、わずかに届かない。
「くっ......!」
しかしその時、工藤さんが空中で踏み込むのが見えた――。
「......ふぅ。 危なかったですね」
(た......助かったぁ)
そう思い、安堵の息を漏らす。
空中で踏ん張っ入るような体勢で静止する工藤さんの体。
まるで、空中に地面でもあるかのようだ。
これも機動靴の能力なのだろうか......。
なにはともあれ、工藤さんの移動速度が加速し、空中で静止してくれたおかげで、俺は下にいるシャドウの群れに落下せずに済んだ。
そのまま俺の腕を両手で掴み、高度を上げながら、ゆっくり移動を再開した。
「今は飛べただけでも良い結果です。 維持は少し難しいですからね。 私が運んでいきます」
「よ、よろしくお願いします......」
正直悔しかった......。最後まで自分で移動できなかったから。
集中を切らさず、イメージし続けるのは難しいんだな。
「トモッちも、顔に似合わず無茶するよね~。 あきやんの霊力がゼロだったら、使う以前の問題じゃん」
「いや、私は最後まで明希也くんならと信じてましたよ」
でも、さっき俺は......本当に空を飛ぶことができたんだ......。
その事実に胸が高鳴った――。
(待ってろよ、結衣! すぐ行くからな!)
読んでいただき、ありがとうございました。
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