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シャドウズ  作者: saji
49/55

第45夜 助けを乞う少女

この作品を見つけていただき、ありがとうございます。

最後まで読んでいただけたら嬉しいです。


 カイトさんは屋上よりもさらに上空へと飛んだ。


 施設の外――眼下に広がる景色に目を向けるとに出ると、そこは――


「な......なんだよ、これ」


 ホントなら、家の明かり、そして街灯と月の光だけが夜の街を照らしていた――はずだ。


 しかし、暗闇に沈んだシスト市の街には、赤い炎がそこらじゅうに広がっていた。


(本当だったのか。 倉治の言っていたことは......)


 この全てが、街に潜んでいたシャドウのしわざなのだとしたら......


「シスト市はもう終わりだな」


 霧生(きりゅう)さんのつぶやきが、わずかに聞こえた。


「保護対象は3人だ! うち二人は俺が、もう一人は明希也が案内してくれる。 お前ら3人は明希也に付いて行ってくれ!」


 俺が友人と妹を助けたいと言った後――倉治(くらじ)は助けたいやつの名前を俺に聞いてきた。


 その行動に最初、疑問しか浮かばなかったが、あいつはそれを聞いて、俺の助けたい友人――快斗(はやと)彩華(あやか)の位置データを、霧生さんに送ってくれた。


 なぜ俺の友人の家まで知ってるのか――を尋ねたくなったが、それは無事にここを出られたら、直接聞いてやろう。


「了解です! あきやん! どの方角だ!」


「ええと......あっちですけど、霧生さんひとりで大丈夫なんですか!?」


「だいじょうぶだいじょうぶ! あの人精霊使えるし!」


 俺が指を指した方へ、すぐさまカイトたちは空中で方向転換し、


「じゃあ行くぞ!」


 勢いをつけて空を蹴った――。




 ■




 光や希望など微塵も感じない世界が、すぐ下に広がっていた。

 そこら中で鳴っている悲鳴と絶叫が、この都市が終わりであることを、嫌でも感じさせる。


 昨日までは、平和な都市だったのに......いや、もともと平和なんてありはしなかったのだ。

 滝川によって作られた仮初の平和は、一夜にして地獄へと変わってしまった。


「ひどい、ひどすぎる......」


 考えないようにと視線を上げていたが、無駄だった......。強制的に――街で起きている地獄が頭の中に入ってくる――。


 どこに逃げても、意味がない。

 何も知らない街の人々は、わけも分からず虐殺される人々。

 逃げ場を失い、街にあふれかえるシャドウによって、殺されるのを待つだけ......。



 恐怖で、気がおかしくなりそうだ。


「カイト、いったん安全な場所で下りよう。 機動靴(モビリティ)のエネルギーを補給しないと」


 工藤さんの指示で、カイトさんとともにきょろきょろと辺りを見回す。


「あっ! あそこ! まだ大丈夫そうですよ!」


 まだシャドウの被害がなさそうな小さな公園を指さす。

 カイトたちもその公園を安全だと判断し、足を進めた――。



「よっ......と!」


 衝撃の全くない見事な着地で、公園の地面に足を付ける。

 いったん、カイトさんの背中から下り、彼らの補給の完了を待った。


「霧生さんから......というか、さっき一緒に戦ったシスト市のパージストからもらった予備だ」


 工藤さんは2人にそれを渡した。


「さんきゅー!」


 3人とも少しかがんで機動靴にエネルギーを入れ始める。




 公園を見回していると、ふと昔の記憶がよみがえってきた――。


 ここは昔、快斗と彩華と三人でよく遊んだ場所だっけか。


 あそこのブランコも滑り台も、あっちの鉄棒も......昔のままだ。

 小学生の頃は、学校が終われば毎日のようにここに来て、飽きずに夕方まで遊んでいたな。

 中学に上がると、たまり場としてたまに使う程度になって、今ではもうほとんど来なくなってしまった......。



 でも、俺にとってここは楽しくて大切な場所......だった。


(ふたりとも無事でいてくれ......)


 懐かしい記憶が、俺に二人の大切さを再確認させた。



「あきやん、あとどれくらいで着くの?」


「ええと......さっき家がちらっと見えたので、機動靴を使えば、あと3分ほどだと思います」


「ありゃ、家に着いてから入れればよかったかもね」


「いや、残量も少なかった。 途中で空になる危険を抱えるよりはいい」


 補給が終わったのか、3人が立ちあがる。


「よし、あきやん! 乗って!」


「は、はい――」


「ちょっと待ってください~!!」


 出発しようとしたその時――近くで人の声がした。


 振り向くと、今にも泣きそうな顔をしながら、こっちに走ってくる女の子が見えた。

 ツインテールで小柄な体――中学生くらいだろうか。


「あなたたちパージストですよね!? さっき機動靴使ってるの見ましたよ!」


 と、少し息を切らしながら、膝に手をついて立ち止まった。


「助けてください! 街じゅうシャドウだらけで大変なんです!」


 女の子は工藤さんの腕をがしっ、と掴んだ。


「......すみませんが、助けにはなれません」


「そんな!!」


「私たちも余裕がないんです」


「......どうしてもダメなんですか!?」


 今度は、時任さんの腕を掴んで女の子は訴える。

 すると、時任さんは何も言わず、困った様子でカイトさんの方に目を向けた。


「え? なに??」


 女の子も時任さんの視線の先、カイトへと視線を移動させ――


「ダメ......ですか?」


 するするっと接近した女の子は、カイトの手を両手で握った。


 (うる)んだ目で、カイトをじーっと見つめる。

 それを受けて、カイトさんは「うっ」と声を漏らしていた。


 これはかなり断りづらいだろう......。

 俺もパージストじゃないから、何か意見を言い出せる立場ではない......けど、できれば助けてあげてほしいと思っていた。


「トモッち――」


「ダメです」


 と言う工藤さんの言葉は、食い気味だった。


「カイト、分かってるのか? 明希也くんに明希也くんの妹......それに、その子まで一緒に――となると、私たち3人が背負う状況になる」


「は、はい」


「そうなると、誰もシャドウから守れない。 最低でも1人はすぐ戦えるようにしておかないと――」


「でもこんなにかわい......か弱い女の子を見捨てるなんて――」


「おい、今なんて言った? 私たちの最優先は明希也くんを助けることだというのを――」


 言い争いを続ける2人。

 止めた方がいいのか――時間もないだろうし......。


「あなたはどうなんですか?」


 いつの間にか、俺の真後ろにいた女の子にビクッとした。


「あ、いや、俺はパージストじゃないから何も――」

「ひっ!」

「え?」


 一瞬の悲鳴みたいなものが聞こえた。

 肩を触れられたような気がしたんだが......


(何か虫でも付いてたのか?)


 自分の体中を確認してみるが......特に虫とかは付いてないようだけど。

 しかし、なぜか少女の顔色は真っ青になっていた。


「あのー......大丈夫ですか?」


「あっ......いえ、何でもないです! だだだいじょぶです!」


(ホントかな~?)


 明らかに動揺しているけど......。


「グガァアア!!」

「......っ!」


 前方の草の茂みが大きく揺れた――。


「シャドウだ!」


 数は2体......どころではない。

 公園の入り口からシャドウの群れが集まってきていた。


「言い争いは時間の無駄だったみたいですね」


 冷静な口調でそう言うと、時任さんは女の子をひょいっ、と背に乗せた。


「さっすがサイちゃん! その子任せたよ~!」


「仕方ないですね......明希也くん!」


「は、はい!」


「今後のためにも、今ここで機動靴を使ってみましょう」


「え!?」


「大丈夫です。 習得が間に合わなければ、私が運んでいきますから」


「わ、分かりました」


「では、私の言葉をよく聞いてください」


 すぐさま工藤さんは俺の隣に立ち、説明を始めた。


「この靴は心の力に反応します」


(なるほど、心の力に......って――)


「なんですかそれ――」


「いいから! 目を閉じて、想像力を働かせてください。 きみの体の中で今、不思議な力が循環していることを――」


 言うとおりに、俺は目を閉じ、その『力の流れ』みたいなものを想像してみた。


「少しずつでいいですから、その力を足の方へ移動させるイメージを繰り返してください。 手から、頭から、胴体から、足の方へ力を溜めていくんです」


 足......足......足。

 ちゃんとできているのか、これ......。

 と、不安になってくるが、イメージを続けていく。


「私が合図したら、思いっきり飛んでみてください」



 イメージをしながら、飛ぶ姿勢に入る......。


「まだです......まだ......周りに気にせず、力を溜めることに集中してください」



 シャドウのうなり声が大きくなっていく。近づいてくる。



 早くしないと......早く溜めないと......。

 生まれてくる焦燥感が、集中を妨げる。



「......っ!」


 ――落ち着ついて。と、そっと肩に置かれた手。


「大丈夫です。 私が付いてます」


 それを聞いて、さっきまでの焦燥感が消えていった――。


「今です!」


 足にぐっと力を込める。腰を低くし、今までため込んでいた力を出し切る勢いで、地面を強く蹴った――。


(......うぉ!!?)


 体が上空に押し上がる感覚。

 まるでロケットにでもなったかのように、まっすぐ空へ飛んでいる。



 目を開けてみる......。


「......っ!」


 自分の下に広がる世界――夜の街。何もかもから自由になったかような、最高の気分が沸き上がった。


(やった! 飛んだ! 飛べたぞ!)


 ――抑えきれない興奮。俺は深く息を吸い込んでいた。


 数秒前とは全く違うその景色を見れば、誰でもこうなってしまうだろう。


「まだです! 足の力を維持しないと落下しますよ!」


「え――」


 その通りだった。

 だんだんと上昇する勢いが弱まり、浮遊感がなくなっていく――。


「うぉおおおおおお!!」


 飛べた余韻で、気を抜いてしまった。

 力の流れを切らしてしまったんだ――。


(まずい。このままじゃ地面に!)


 体勢が上手く立て直せない。もはや力の流れをイメージする余裕もない。

 落下の恐怖が......俺の頭を埋め尽くす。


「明希也くん!」

「......っ!」


 工藤さんの手が上から伸びてきた――。

 すぐさま俺も手を伸ばす――が、わずかに届かない。


「くっ......!」


 しかしその時、工藤さんが空中で踏み込むのが見えた――。


「......ふぅ。 危なかったですね」


(た......助かったぁ)


 そう思い、安堵の息を漏らす。


 空中で踏ん張っ入るような体勢で静止する工藤さんの体。

 まるで、空中に地面でもあるかのようだ。


 これも機動靴の能力なのだろうか......。


 なにはともあれ、工藤さんの移動速度が加速し、空中で静止してくれたおかげで、俺は下にいるシャドウの群れに落下せずに済んだ。


 そのまま俺の腕を両手で掴み、高度を上げながら、ゆっくり移動を再開した。


「今は飛べただけでも良い結果です。 維持は少し難しいですからね。 私が運んでいきます」


「よ、よろしくお願いします......」


 正直悔しかった......。最後まで自分で移動できなかったから。

 集中を切らさず、イメージし続けるのは難しいんだな。


「トモッちも、顔に似合わず無茶するよね~。 あきやんの霊力がゼロだったら、使う以前の問題じゃん」


「いや、私は最後まで明希也くんならと信じてましたよ」


 でも、さっき俺は......本当に空を飛ぶことができたんだ......。


 その事実に胸が高鳴った――。



(待ってろよ、結衣! すぐ行くからな!)


読んでいただき、ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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