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シャドウズ  作者: saji
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第44夜 脱出

この作品を見つけていただき、ありがとうございます。

最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

 

「いつまで寝てんだぁあああ!! お前らぁあああ!!」


 霧生さんは倒れていた工藤さんたちを呼び起こしていった。


 その間に、俺は貴族の足から靴を抜き取り、それと今履いてる靴を履き替えた。

 あのクソ貴族の履いていたものを履くのは、かなり抵抗があったが、仕方がない。


 パージストが使っている機動靴(モビリティ)――霧生さんの話だとそれよりも、性能がいいそうだが......


(俺に上手く使えるのか......?)


 足にしっくりくる。思っていたよりも軽く、それでいて頑丈そうだ。


 少し跳んだりして靴を確かめていると、ボロボロになりながら、起き上がったカイト、時任(ときとう)、工藤、倉持たちの姿があった。


 俺は全員が無事だったことに、心底ほっとした。




 全員が一か所に集まり終わると――


「あきやん、すまん......。 守り切れなかった」


 カイトがボロボロな体で、頭を下げてきた。


「そんな! 守ろうと戦ってくれただけでも嬉しかったです。 ありがとうございました!」


 俺はカイトだけでなく、戦ってくれた全員に頭を下げた。


「ったく......まだまだ訓練が必要だな、お前らも」


 霧生の腕には、眠ったように倒れたリナの姿があった。

 いつの間にか、気絶――していたのだろうか。


 戦闘中、急に取り乱したリナ......その理由を霧生さんたちに聞きたかったが、今は脱出のことを考えよう、と俺は口をつぐんだ。



「さて、急いでシスト市から脱出するわけだが、まだひと仕事やる必要がある」


「......っ!?」


 カイトがぎょっとした顔で、霧生を見た。


「明希也の妹が、家に取り残されている。 んで、妹を連れて脱出したいとのことだ。 あっ、あと友達も二人ほど助けたいんだと」


 人の口から自分の要望聞くと、なんか......めちゃくちゃ我がままだな......おれ。


 それを聞いてカイトはうーん、と唸った。


「 いや~、協力したいのは山々なんだけど、今の状態じゃ無理かもっす......」


「私も、この街に長居するのはあまり良くないかと」


 無理もない......か。


 全員、街の現状を霧生から聞かされている。脱出に専念するべきだと考えるのは当然のことだ。

 しかも激しい戦闘の後......体もボロボロで体力が削られた状態だし、俺が彼らに無理強いすることはできない。


 霧生さんには、『俺を説得するよりも、他の連中を説得する必要がある』と言われたが......全員を説得するなんて、とても――


「私は......明希也くんに協力したいです」


「えぇ!? 正気かよトモッち!」


 予想外だった......。

 まさか、いつも冷静だと思っていた工藤さんが協力してくれるなんて......。


「救助対象を救うことができなかったのは、私たちの責任です。 このまま終わるわけにはいきません」


「でも! 本来俺たちの任務はあきやんの救出だけだろ!? これ以上の任務は今の俺たちじゃ――」


「なら、私だけでも明希也くんに協力します!」


「......っ!」


 カイトは工藤の言葉に動揺を隠せないでいた。


「トモッち......なんでそこまで」


「一夜にして、大切なものを全て失う......そんな経験を彼にしてほしくないからです」


「工藤さん......」


「滝川に平和な暮らしを奪われ、目の前でシャドウに家族の影を取られた。 それに加えてさらに、彼の友達や他の家族の命が奪われようとしている......。 その状況が分かっていて、私は黙って逃げることはできません!」


 嬉しかった......。今日会ったばかりの俺のために、そこまで......。

 パージストとしてだけじゃない――人を助けることに対して、彼には何か他に、大きな理由があるのかもしれない......そう感じた。


「どうすんだ、カイト、時任」


「......しゃーない、俺も最後まで付き合うよ! カッコ悪い結果のまま、終われないしな」


「......仕方ありませんね」


「カイトさん......時任さん......」


 俺は再び、彼らに深々と頭を下げた。


「グガァアアアアアアアアアアアア!!!」


「......っ!」


 ショッピングモールの出入り口から大量のシャドウが押し寄せてきた。

 下されていたシャッターをぶち破り、次々と外から入ってくる。

 あそこから入ってきたってことは......最初、ここに来た時にいた群衆も、すでに外のシャドウに襲われたのかもしれない。


「まずはここから脱出するぞ!」


 と言う霧生の言葉を聞きながら、工藤が姉を背に乗せようとしていた。


「工藤さん!? 何を――」


「大切な家族なんでしょう? お姉さんの体は私が連れていきますよ」


「あ......ありがとうございます!!」


「待ってください!!」


 そう呼びかけてきたのは、生存者のひとりだった。


「私たちは助けてはもらえないのでしょうか!?」


 ――その一言が、俺の心を深くえぐった......。

 今から俺の妹や友達を救出しに行く霧生さんたちにとって、全員を助ける余裕はないと感じたからだ。


 まだ生存者は10人ほどいる......。

 俺はパージストではないが、今の状況で、目の前で助けを求める人に何を言えばいいのか――それを考えるだけで、胸がえぐられる気持ちになった。


「悪いが、全員救うことはできない」


 でも、霧生さんははっきりと現実を突きつけた。


 絶望の表情を浮かべる生存者の顔が俺の目に映り込む......。

 心がさらにぎゅっ、と締めつけられた。


 それが苦し過ぎて、俺は彼らから目を背けてしまった。


「私が残ろう」


「倉持隊長、あんたが残ったところで――」


「分かっている......だが、私はシスト市のパージストだ。 ここに住む人々を最後まで守る義務がある」


 そう言うと、倉持さんは懐からガラス管のような物を取り出した。


「川村と安田、そして私の分のルミナエネルギーだ。 君たちの機動靴の足しにしてくれ」


 ルミナエネルギーはたしか......光兵器(グランズ)機動靴(モビリティ)にも使われている特殊なエネルギー、だったか。

 けど、死んでしまった二人はともかく、自分の分まで渡すなんて......。


「本気なんだな」


「あぁ」


 霧生は迷わず、それを受け取った。


「倉持さん......ありがとうございました」


 霧生の張ったバリアも永遠に彼らを守ることはないはず......。

 霧生がこの場を離れれば、きっとこのバリアも消えるのだろう。


 そしたら、倉持さんは――


「生き延びるんだぞ、少年」


「......っ!」


 強くて、とても暖かな目をしていた......。

 自分が助からないことを理解したうえで、彼は最後まで戦おうとしているんだ。


「......はい!」


 倉持の眼差しに応えるように、俺は強く頷いた。


「......天井から抜け出す! 俺が抜け穴を作ってやるから、全力で跳べ!!」


 霧生の張ったドーム状のバリアがシャドウたちを食い止めてはいたが、すでに天井までシャドウが張り付いていた。うなり声とバリアを攻撃する音が全方向から聞こえてくる。


「あきやんは俺が担ぐよ! まだ使い方分かんないだろうし」


「よ、よろしくお願いします!」


 すぐさまカイトの背中にまたがる。


 全員の準備が整ったのを確認すると、霧生は両手で刀を構えた。


「はぁっ!!」


 刃が強く光り出す――と同時に、霧生は刀を大きく振り上げた。


 飛び出した巨大な弧の斬撃が、バリアをすり抜け、張り付いていたシャドウたちを吹き飛ばす。

 その勢いのまま、二階、三階と天井を突き破り、月の明かりが差し込んだ。


「行くぞ!!」


 霧生の合図で、みんな一斉に跳び出していく――。


「しっかり掴まってろよ!」


 カイトは俺を背中に乗せたまま、勢いよく地面を蹴った――。


 一瞬で天井までたどり着くほどの、信じられない跳躍の中――俺はずっと下に視線を置いていた。


 次第に遠ざかっていく倉持さんの姿――いつまでも上を見上げ、俺たちの脱出を見守っていた。




 ――俺はあのパージストの勇姿を、決して忘れないだろう。




 ■




「クハハ......逃げられると思うなよ」


 霧生たちが出ていくのを見て、ヴァンプはふらふらと起き上がった。


「まさか、あいつがあんなに強かったとは......想定外だったぜ。 ......さてと」


 倉持を睨むヴァンプ。

 その視線に気づき、倉持もヴァンプに対して、武器を構えるが――


「......今日はもう疲れたし、大人しく帰るか」


 ヴァンプは倉持に背を向けて、黒い空間を作った。


「おおおいいぃぃぃぃヴァンプ!! 何やってるんだぁああ!! 早く俺を助けろぉおおお!!」


 この場から去ろうとするヴァンプを見て、貴族が怒鳴り散らかす。


「えぇ~いやだよ。 だって君を運ぶとシャドウが君を奪いに襲ってくるんだもん」


「な、なに言ってやがる! 俺は襲われないはず......だよな!!? そうだよなぁあ!!? 」


「残念だけど、君も外のシャドウに襲われることになるよ」


「な、なんだとぉおお!!?」


「もはや、僕の制御は効かないんだ。 この街にいる人間が全員死ぬまでやつらは止まらないよ」


「ふ......ふざけるなぁああああああああ!! だったらとっとと助けろぉおおお!! ......っ!」


 次第に光の壁が薄くなっていくのを見て、貴族はさらに取り乱す。


「待て待て待て待て待て!! 待ってくれ!! 今の俺は精霊も呼べないんだ!! 立てないんだ!! 助けてくれよ!!」


 這いつくばって、ヴァンプのもとへと体を運んでいく。


「助けて......くれよ......」


 ヴァンプの目の前まで来た貴族は、足元を掴んだ。

 しかし、ヴァンプはそれを払いのけ――


「嫌だっつってんだろ、ゴミが。 君の命なんか興味ないし、めんどいからここで死んどけ」


 そう言い捨てた。


「そんな......助けて......助けて助けて助けて助けてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてぇくれええええええええええええ!!!!」


 必死な命乞いも空しく、ヴァンプは暗闇の中へと消えていった......。


「俺は――」


 もはや逃げ場はない。なす術はない。

 次第に薄くなっていく光の壁の中で――


「俺はぁああああああああ!!! かの高名な七大貴族――グリード家第9国王の息子――カーサス・ジック・グリードだぞぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 貴族は泣き叫んだ――。


 そして、次の瞬間――霧生の張っていたバリアが完全に消失した。


 取り残されたわずかな人間たち。

 ショッピングモールを埋め尽くしていた化け物たちが、それに向かって襲い掛かっていった。


「うっ、ぎっぃいいいいぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――」


 鳴り響く絶叫――。


 地面に這いつくばっていた貴族に容赦なく、シャドウの群れが次々にアルムを突き刺した。

 貴族の体はぐちゃぐちゃに切り裂り裂かれ、大量の血が辺りに飛び散っていく。

 一つの肉を無数の獣が奪い合うかのように、絶命してもなお、人であったその肉の塊に、化け物たちは強い殺意をぶつけ続けた。


「人類の未来に......光あれ!」


 全てを受け入れ、黙って死を待つ生存者たちを後ろに――押し寄せるシャドウの群れを前に、倉持は勇敢に斬りかかっていった――。


読んでいただき、ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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