第40夜 美奈との約束
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「へぇ、よく見たら、なかなかの上玉じゃ~ん! お前、俺の奴隷にしてやるよ」
貴族の男は、美奈をじっと見ながら、舌なめずりした。
「......っ!? なに......言ってんだよ」
この状況でよくもそんなことが......。
呟いたような声が思わず漏れる。
「ちょっ! あれは俺が先に目を付けたんだけど」
「いいじゃねぇか、遊んだら返すって」
泣き崩れている美奈に、ズカズカと近づいていく。
次第に縮まっていく距離――貴族が剣を抜いた。
「ね、姉さんに近づくなぁぁ!」
我慢できず、俺はそいつに武器を構えた。
あいつを姉さんに近づけさせちゃいけない......。
『奴隷してやる』とかなんとか聞こえてきたが、そんなことを言う奴を、あのまま近づけさせるわけには――
「なに? お前も死ぬか?」
貴族に睨まれた瞬間――全身に恐怖が走った。
立っていられず、力なく地面に崩れ落ちる......。
俺は今、自分に起きていることが信じられなかった。
急に体が重くなった......。睨まれただけなのに......。
睨むだけで、人の心にこれほどまでの恐怖を植え付けるのか......。
「......ふんっ、愚民が」
あれが貴族......あいつがシスト市を支配していたんだ。そいうに違いない......。
あんなやつを相手に俺は戦っていたのか......。
だとしたら......最初から敵うはずがなかったんだ。
「お前、家族いる?」
目の前で立ち止まり、貴族が美奈に話しかける。
「俺は人間の絶望した表情が大好きなんだ。 シャドウみたいだろ? 今のお前の顔もかなり俺好みなんだけど、まだ足りないんだよね~」
美奈はずっと友人の亡骸を抱きしめていた。
貴族に顔を向けることなく、涙でとぎれとぎれの声を漏らして......。
「......もし家族がいるなら、まずはそいつらの両手両足斬り落とす」
「......っ!」
途端に顔をあげる美奈。
「そんで、そのまま家族の前で、俺さまがぶち犯してやるよぉ! 光栄に思えよ?」
そう言うと、貴族は手を叩いて笑い始めた。
その発想に顔が青ざめる......。
ホントにやろうとしてるのか......そんな恐ろしいことを。
そんなの、人間のする行為じゃない......。
あいつはもはや化け物――いや、悪魔だ。
「その前に、まずは味見だな」
「......っ! いやぁ!!」
「姉さん!!」
貴族が美奈から亡骸を引き離す。
「やめ、てぇ!!」
「あはは!! いいねぇ! 興奮するわ」
両腕を押さえつけて、衣服を剣で切り裂き始めた。
(何やってんだおれ!! なにやってんだ!!)
止めないと......助けに行かないと......。
家族があんなゲス野郎に襲われてるんだぞ。
(どうして......どうして動かないんだよ!!)
衣服ごと切り裂かれ、切り傷の付いた姉の肌から、血が少しずつ垂れてきた。
その光景を見ても、立ち向かう勇気が出てこない......。
あの男の強烈な視線――あれを思い出すと、体が前に進まない......足が動かない......。
シャドウに立ち向かった時とは、比べ物にならない恐怖。
俺の心はもう、折れてしまったのかも......しれない。
「この......くそ野郎がぁぁあああ!」
「カイト......さん」
カイトが貴族に狙いを定め、稲妻のような斬撃をくり出した。
「ボルガ! 殺れ!」
巨大な獣が斬撃をはじく――と同時に猛進してきた。
口を広げた獣――身体を嚙み千切ろうとする鋭い牙がすぐ近くまで迫ってくる。
「下がれ! 明希也!」
後ろに俺の体を引っ張り、カイトが獣の牙を受け止める。
強烈な突進――だったが、カイトはその場で踏ん張り、俺やリナを獣に近づけさせなかった。
「なっ......!」
そのまま獣がカイトの双剣をくわえた。
「離せ! このっ!」
口の中が赤く光り出す。
抜け出そうにも、噛まれてるせいで、武器が抜き取れないんだ――。
「明希也! 2人を連れて離れろ!!」
「え――」
「早くしろ!!」
すぐさま、倉持とリナの腕を掴む。
その場から全力で離れようと、カイトに背を向け――た直後、激しい爆発に体が前に吹っ飛んだ......。
「うっ......ううぅ」
背中が焼けるように痛い......。耳鳴りがひどい......。
2人は......なんとか運べたが、カイトさんは――
「......っ! カイト......さん。 カイトさん!!」
顔を上げると、視線の先に吹っ飛ばされたカイトの体が見えた......。
床にぐったりと倒れ、ピクリとも動かない......。
「そんな......」
「よくやった。 ボルガ」
うそだ......カイトさんまで......。
「ん? どうしたボルガ――おいおい」
うめき声をあげる獣の口を見て、貴族は眉をひそめた。
「牙がボロボロじゃねぇか......一本残らずやりやがって......。 初めてだぞ、こんなの」
なんとか体を起こしたが......戦える仲間はもういない。戦えるのは俺だけだ......。
でも......俺じゃ何もできない。一瞬で殺される。
「口の中で、あいつの出した技と拮抗したのか......ま、どうせ数分で治るさ」
貴族は再び、美奈の体に視線を移し――
「ったく、邪魔すんなよ。 こっからがいいところなのによぉ!」
揉みしだいた。下着が露わになった美奈の胸を......強引につかんで。
「うわっ、すっげ! お前やっぱ俺の奴隷決定な!」
美奈の悲鳴だけが耳に入ってくるその空間で、明希也はうずくまり、地面に額を擦りつけた。
ごめんごめんごめんごめん――恐くて止められない。
あいつの存在が恐ろしくて、俺じゃ立ち向かえない......。
凌辱される姉から、目を背け、強い悔しさで地面に拳を何度も叩きつける......。
虚しさと無念で、次々と、目から涙をこぼした。
「あ......きや」
くそっ......くそっ......俺にもっと力があれば......。
なんでだ――なんでだ。なんでこんなことに......。
俺たちが何をしたって言うんだよ......。
こんな地獄......あんまりだ......。
何もできない自分が憎い......ただただ憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い――
「......あきや」
姉の声に、はっと気づく......。
恐る恐る顔をあげ、視線を移すと――涙で、目をはらした姉と目が合った......。
「......っ!」
その表情に、俺は目を見開いた......。
――大丈夫だから。あなたは逃げて。
そう、言ってるような表情が、俺の目には映った......。
体を弄ばれているのに......ずっと、俺に優しい目を向けてくれている。
なんでだ......なんで責めない......弱い俺を。
安心して――とでも言うつもりかよ......。
こんな俺に......そんな目を向けるな......。
家族が凌辱されてるってのに、一歩も動けない役立たずを......そんな目で――
『姉ちゃん』
『ん?』
『お......俺が今よりも大きくなったら、強くなったら、その時は俺が......俺が姉ちゃんを守ってやるよ!』
『えぇ~? 明希也が~? ホントに守れるの~? お姉ちゃん心配だな~』
『い、今に見てろ! すぐに姉ちゃんも結衣も、余裕で守れるぐらい、強くなってやる!』
『......分かった! じゃあ、約束ね!』
『うん! 約束!』
『ほらっ、もう夜も遅いんだし。 さっさと寝なさい』
『分かったって。 お休み、姉ちゃん』
『......お休み、明希也』
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