第38夜 乱入者
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「どんどんペース上げてくよ~」
「くそが! なんで追いつける!?」
苦戦していた状況から一変して、彼らはヴァンプと互角以上に戦っていた。
(カイトさんたち......すごい)
「パージストはな......暗闇の中、敵が見えない状況でも戦える訓練を受ける。 彼らはその能力が圧倒的に高いようだ」
空間と空間を繋げる能力。
回避と攻撃――それを瞬時に切り替える立ち回り。
目の前から消えたと思ったら、死角から攻撃される。
とても敵わない相手だと思っていたが......
死角に回り込まれ、攻撃されてもカイトたちは背中に目でも付いているかのように避けている。
ヴァンプが空間を開き、離れた場所に移動しても、3人のうち1人は必ず先回りできている。
「断罪する雷撃!」
ヴァンプがまた空間の中へと逃げ込む――。
「さっきと動きが全然ちげぇじゃねぇか!」
「閃光ノ印――緑!」
「......っ!」
移動したヴァンプのすぐ後ろ――すでにリナが接近していた。
風を切るような素早い振り――だったが、影殻でリナの攻撃が防がれてしまう。
「はあぁぁ!」
しかし、リナはそのまま影殻を斬り裂いた。
「閃光ノ印――青!」
追撃を狙う――。
だが、ヴァンプはまた瞬時に黒い空間を出し、その中に逃げ込んだ。
リナの刀が風を切る――。
(あとちょっとだったのに......)
「クハハ......今のは惜しかったな」
ヴァンプが離れた場所から姿を現した。
「そだね~、あと数センチ踏み込めてれば倒せたね~」
「はっ、 なに言ってやが......!」
ヴァンプの胴体からは赤黒い血とともに、黒煙が上がっていた。
避けられたと思っていたが、リナの刃はヴァンプの胴体を斬っていたんだ。
「斬られたことに気づいてなかったの~?」
リナの体、そして武器が青い光を放っていた。
「お前ら......なんで急に動きが――」
「適応した――ただそれだけだ。 まぁ、ほぼリナのおかげだけどな。 どこに移動するのか、目で合図してくれる」
「なっ......! そんなバカな」
人間の想像をはるかに超える化け物――シャドウ。
彼らはそんな存在と、毎日戦っている兵士なんだ。
ヴァンプのような敵との戦いも、彼らにとっては当たり前......ということなのか。
「そろそろ決めちゃうよ~!」
「舐めやがって!」
(臨機応変な判断と戦闘......あれがパージスト)
俺も......あんな風に姉さんや結衣を守れるようになりたい。
人を救えるように、強くなりない......。
(この戦いが終わったら......俺もパージストに――)
「何やら騒がしいと思って来てみたら、随分と楽しそうな状況じゃないか」
「......っ!」
工藤の張っている光の壁――その外側から人の声がした。
(あいつは......誰だ?)
歳は自分と同じくらいだろうか。
白い軍服のような服装。金色のボタンが付いており、金色のラインが肩から腰までかかっている。あんな軍服......見たことがない。
腰には剣をさげており、シャドウの群れに遠慮なく近づいている。
(パージスト......なのか?)
しかし、あのまま近づけばシャドウの群れに飲み込まれる――。
「おいあんた! 早く壁の中に......」
俺はその光景に驚愕した――。
その男はシャドウの群れをまっすぐに進んできた。
彼の周りのシャドウが......全く彼に見向きもしない。工藤の張った結界に攻撃を続けている。
何かがおかしい――シャドウが目の前にいる人間を襲わないなんて......。
「くそ野郎が......やっぱりか!」
カイトの表情が険しくなった。
(いったいどういうことだ......彼は何者なんだ......)
光の壁まで歩いてきたその男は剣を抜くと――
「弱そうな結界だな~」
「え......」
一瞬で壁に穴を開けた......。
「開けろよ。 高貴な僕が通る前に」
「トモッち!」
「くっ......!」
工藤がとっさに塞いだおかげで、外のシャドウは1体も入らずに済んだ。だが――
「あいつは......敵なんですか?」
「そうらしい......でもまさか、貴族が計画に加担していたとはな」
「え? きぞく?」
学校の授業で習ってはいたが、本物を見るのは初めてだ......。
遥か昔から、絶大な軍事力・経済力を持ち、支配的地位を独占してきた者たち。国々の統治、技術開発への投資、そして、ラディウスへの軍事的・経済的支援もしている......はずだ。
「でもなんで......貴族はパージストの味方のはずじゃ――」
「貴族様だ!」
「貴族様! どうかお助け下さい!」
急に生き残った人々が貴族の男に向かって救いを求め始めた。
まるで、神にでも祈っているかのように......。
「き......ぞく?」
「え......?」
貴族の姿を見た途端――リナの顔色が悪くなっていった。
「まずい! カイト! リナを守れ!」
隙だらけになったリナの背後から、ヴァンプが迫る――。
「クハハ! 死ねぇ!」
「リナぁぁ!!」
腕に形成された鋭い刃の形状をした影殻――それが大きく振り降ろされた。
「うっ......! ぐぅあぁぁ!!」
「......っ! く、倉持さん!!」
棒立ち状態だったリナをかばった倉持。しかし――
(防ぎきれなかった......!)
ヴァンプの攻撃を受け、肩から胴体へ大きく切り裂かれてしまった。
「てめぇえ!!」
カイトがヴァンプを退かせ、追撃を阻止する。
「隊長さん! 大丈夫か!」
がくっ、と地面に膝をつく倉持。
カイト、時任とともに俺も急いで駆け寄る。
「倉持さん!!」
「私のことはもういい......早く逃げろ......」
傷口を手で押さえているが、血が止まらない。
「たすけて......」
「......っ!」
弱弱しい声が聞こえ、リナの方に目をやる。
大きく見開いた目から涙を流し、顔を真っ青にしていた。
今まで......見たことのない表情だ。
こんなに怯えて......いったい何に......。
「リナ......どうしたんだよ!」
俺はリナの傍に寄り、肩を揺する。
「今はリナの力が必要なんだ。 リナが戦わないと......みんなやられる!」
「あ......あぁ......たすけて......こわいよぉ」
俺の声が......全く聞こえていない......、
リナは俺の袖を強く引っ張り、ぎゅっと身を寄せてきた。
――そこで俺は、リナの異変を肌で強く感じた。
異常なほど、手も体も震えて、目の焦点があっていないようだ。
地面にへたり込んだ彼女は、先ほどまでシャドウと戦っていたあの強いリナ、ではなくなっていた......。
「リナ......どうして」
「貴族様ぁぁぁあ!!」
「どうか我々をお救い下さい!!」
その間も鳴り響く、生き残った人々の叫び声。
「ボルガ、出てこい」
突如――貴族が立っている地面が青く光り出し、紋章のようなものが浮かび上がった。
人々の声をかき消す地響きが鳴り始め、光が強くなっていく――。
風と空気の流れが変わり、貴族を中心に激しい突風が巻き起こり――
「な、なんだぁ!?」
雷のような轟音と共に、紋章から巨大な青い光の柱が噴き出した。
「まさかあいつ! 精霊を召喚できんのかよ!!」
「せ、精霊!?」
精霊......ってなんだ。何をしようとしているんだ。
そんなの、授業で出てきてないぞ。
しばらくして、巨大な光の柱が小さくなり、吹き荒れていた風とともに、ふっと消滅した。
「......っ!? な、なんだあれ......!」
青色の毛並み。眼前の動くものを威嚇する鋭い目つき。一噛みだけで胴体を食いちぎられそうな鋭利な牙。荒々しいうなり声。
貴族の隣には、全長5mはありそうな――巨大な狼が、圧倒的な存在感を放っていた。
「これは......かなりヤバいぞ......」
カイトがそう呟いた。
「リナはもう戦える状態じゃない......倉持さんも重傷、トモッちも限界だ」
「ほ......ホントに敵なんですか」
「味方ならどれほどよかったか......逃げるしかない」
逃げる......そんなのできない。
だって、まだ......姉さんを助けられてないじゃないか。
「か......カイトさん、冗談ですよね? まだ何か隠してるんですよね?」
「あきやん......」
「ボルガ!」
「......っ!」
貴族の男が人々の方を指さしていた。
獣は、今にも嚙み殺しに来そうな勢いだ。
「あいつ......何しようとして――」
「全員殺れ」
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