第37夜 立ち向かう勇気
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安田と川村のいた場所に移動する。
2人が持ってた武器――あれが使えるかもしれない。
「うっ......!」
赤く染まった床。漂う強烈な匂い。むせ返りそうだ。
そして......あまり見ないようにしていたが、嫌でも目に入ってくる二人の死体――切り口の首から血がポタポタと垂れている。
――死体を見るのはこれで何度目だろう。何度見ても、最悪の気分だ......。
1回目は誘拐犯たちの死体――吐き気と恐怖ぐらいしか感じなかった。
あとは、シャドウ化の状態から元に戻したおっさん......そして裏切っていたパージストたち......。
次第に自分の中で、「死」が身近になってきている......。
「はぁ!」
倉持の声と共に、金属同士をぶつけたような激しい衝突音が耳に入ってきた。
彼は2体のシャドウを相手に、懸命に戦っている。
工藤と......紋章を守りながら......。
――もう誰にも死んでほしくない。
姉さんを助けるために、ここまで協力してくれた工藤さん、時任さん、カイトさん、そしてリナ。倉持さんにも、死んでほしくない。
俺も......覚悟をもってここに来たんだ。
「死」が身近にあろうが、一緒に戦ってくれた安田さんと川村さんの分まで、俺も戦わなければ――。
(敵は......必ず取ります!)
死体のそばに落ちていた刀を拾い上げる。
初めて持つ――自分には無縁だと思っていた物......。血で濡れていた。
うまく扱えるか分からないが、敵に向かって振ることぐらいは俺でもできるだろう。
(......あれ)
――戦わなければ。
頭では分かってる――分かってるんだ。
それなのに......足がなかなか動かせない。
倉持とシャドウの戦闘――そこに自分が入るイメージが全くつかなかった......。
恐い......鋭い刃物の形をしたそれが、俺の命を刈り取ろうとしてくる。
鋭利に尖ったそれが俺の心臓を突き刺そうとしてくる。
(俺の覚悟じゃ......まだ弱いのかよ......)
シャドウの影殻による恐ろしい攻撃ばかりを想像してしまう。
自分がもし、あの攻撃を受けたら――そればかり考えてしまう。
「――きや......明希也!! なにしてるの!!」
はっ、と正気に戻る......。
美奈の声――。
さっきから呼びかけられていたみたいだ。全く気が付かなかった......。
心配そうな表情を俺に向けている。
そりゃそうだよな。
『死』が身近にある戦場に、一般人の――訓練もしていない俺なんかが行こうとしてるんだ。
武器を持ちながら、足を震わせて......。
そんな顔するのも納得だ......。
(でも――)
やってやる。やってやるよ。
――決めたじゃないか、俺が姉さんを救うって。
――約束したじゃないか、必ず連れて帰るって。
姉さんと生きて帰るために、また結衣と3人で、あの平和な日常を送るために――
「う――ごけぇぇぇぇええええ!!」
「待ちなさい!! 明希也ぁ!!」
恐怖を振り払い、俺は倉持のもとへ加勢に行った。
■
「くっ!」
「倉持さん......やはり先ほどの傷が――」
「工藤くん......きみは結界の維持だけに集中してくれ! 私が持ちこたえてみせる!」
「倉持さん! 工藤さん!」
「......っ!」
2人と合流し、シャドウに向けて武器を構えた。
「何をしている! 子供の出ていいところでは――」
「家族を! 仲間を守るためです!」
そう決意を示す。
倉持の説得......もあるが、俺自身を鼓舞するつもりで言葉を放った。
「......2人も守れんぞ」
「覚悟はできてます!」
「あ......明希也くん」
工藤が服の裾を引っ張ってきた。
「頼りにしてます......よ」
「......っ! はい!」
再びシャドウと対面し、刃を向ける。
ボーっとしていれば、すぐに死ぬ......。
冷汗が止まらない......。
また足が震え出した......。
(き、きたっ......!)
シャドウの影殻が向かってくる――。
鋭くとがった槍のような形状――その先端が自分の体を目掛けて迫ってくる。
あれ――どうやって防ぐんだ、これ。
横に受け流せばいいのか――だったら、いつだ。どのタイミングなんだ。
力はどれくらい入れれば――
やば――てかもうそこまできて――間に合わな――
「このっ!」
目の前で影殻の攻撃が止まった――。
そのまま倉持は剣を大きく振り、シャドウを横に押し流した。
「集中しろ! 少年!」
「はっ、はい!」
分かってはいたが、反応と判断が追い付かない......。
このままじゃ、本当にきた意味がないじゃないか。
(くそっ......くそっ......)
ドクン......。
「......っ!」
予知だ――。
このタイミングで起こってくれるなんて......。
今度は鎌のような形状で影殻が迫る――。
予知と同じ横振りの攻撃――俺は即座にしゃがみ込み、攻撃を回避した。
「......うぉお」
打ち震えた――こんな俺でもシャドウの攻撃を避けられた。
変な興奮で、自然と口角があがる。
――捨てたもんじゃないな......この能力も。
ほとんど予知のおかげだが、これさえあれば戦える――はずだ。
「よし......」
予知が起こるように、念じる......。
こいこい――こいこいこい、と。
ドクン......。
(......っ! またきた!)
再び来る攻撃――それも冷静に避けていく。
予知で敵の動きが分かる――それだけで俺の心に余裕が生まれていた。
「ふっ、先ほどとは別人のような身のこなしだな。 私も負けてられん!」
――調子がいい。今なら、何回だって予知を起こせそうな気がする。
あのヴァンプに比べたら、いま戦っているシャドウの攻撃なんて、単調に見えてくる。
(これはチャンスだ! 予知が途切れる前に、俺がシャドウを......倒す!)
ドクン......。
右からくる攻撃をしゃがんで避ける。
ドクン......。
今度は攻撃を受け流す――けど、すぐ攻撃に移らないと飛んで逃げられる。
もっと動作に無駄をなくさないと......。
次は当ててやる。
ドクン......。
避けるコツを掴んできた。
ドクン......。
「そこだっ!」
避ける――と同時に、俺は攻撃してきた影殻に向かって、刀を振った――。
全力で振りぬいた刀は、影殻を斬り落とす――寸前までいった。
予想以上に硬い......思いっきり振ったが、今の俺ではこれが精一杯か。
影殻を攻撃しても倒せない。倒すには――
(体に直接、攻撃を当てるしかない!)
「少年! 出過ぎるな!!」
「こいつは俺が倒します! 倉持さんはそっちのやつを!」
いつ予知が限界を迎えるか分からない......だったら、積極的に攻めこんで――。
(さっさと終わらせてやる!)
ドクン......ドクン......。
連続でくる攻撃を避け、シャドウに向かって刀を振り下ろす――。
しかし、惜しくも刃は空を切る。
向こうも警戒を強めてきたのか、さっきよりも攻撃、回避が早くなってきている。
(もっとだ......もっと......)
倒したい――俺だけの力で。
ドクン......ドクン......ドクン......。
使いこなしてやる。今ここで、この能力を――。
今まで何度も何度も、起こってきたんだろ――。
「途中で途切れたりすんじゃねぇぞ!!」
ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......ドクン......。
「......っ!」
――チャンスだ。
「うおぉぉぉぉ!!!」
まっすぐ突っこむ――と見せかけ、最小限の動作で――予知で見えた攻撃を避ける。
影殻が頬をかすった――が、
(当てられる!)
一気に距離を詰め――
「とどけぇぇえ!!!」
すばやく刀を突き伸ばした――。
手に伝わってきたのは、肉を切り裂く感覚。
それとともに耳をつんざく絶叫が鳴る。
ついに――ついに俺の攻撃が......シャドウの体を貫いた。
「グギャァァァ!!」
シャドウが刀を抜こうと暴れる。
(逃がさねぇぞ!)
さらに深く刃を突き刺す――手に伝わってくる感触が気持ち悪い。
だが――
(いける! シャドウに勝て――)
「うっ......! ぶっ――がはぁ!!?」
のどの奥から込み上がってきたそれを――大量に吐いた。
下に吐いたそれ――真っ赤な......血だ。
「うぐっ......!」
ひどい目まいだ......視界がはっきりしない。
息が苦しい――体が熱い――心臓が破裂しそうなほど、激しく動いている。
(な......何が起こってる!? もしや、予知をし過ぎたせいなの......か)
まだ、シャドウに決定的な攻撃を当てていない......。
もう少しで倒せるってのに......。
(このままじゃ、シャドウに殺される!)
くる――殺意が迫ってくる。俺を殺そうと――。
でも......もう、一歩も動けない......。
(やっぱり、俺じゃ勝てないってことかよ......)
激痛と悔しさを感じながら、俺はぎゅっと目を閉じた――
「はぁあ!!」
「......っ!」
再び聞こえたシャドウの絶叫――。
武器から伝わる気持ち悪い感触が消え、だらんと腕を下にさげた。
(くらもち......さん?)
強い脱力感――身体の力が抜けていく......
「おっと!」
地面に倒れる直前――大きな腕に抱えられた。
「よく頑張ったな......少年」
「......はは」
向こうで地面に横たわっている体が一つ。
あれは......もう一方のシャドウだ。
倉持さんが倒したんだ。勝ったんだ......。
「あとは......彼らに任せよう」
読んでいただき、ありがとうございました。
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