第32夜 可能性
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「リナは後で説教するとして......ここが、ちょうどあの場所の真上ですね」
防犯室から移動し、俺は工藤たちととある場所に来ていた。
「い......今から何をするんですか......?」
「明希也くん、パージスト......いや、人には霊力という不思議な力が存在する――という話を聞いたことはありますか?」
「し......霊力?」
記憶をたどってみる......。
確か授業で出てきたよな。何だっけか。ちょっと難しい内容だったよな。
「えっと......」
「い、今は不思議な力――とだけ覚えてれば、十分だよ。 あきやん」
頭の悪そうなこの人に、そんなことを言われるなんて......。
カイトからの助け舟――なんだか自分の無知さに悲しくなる。
「我々はその霊力を高め、上手く扱うことで、シャドウに対抗できる術を得ているのです」
それから、工藤のアイコンタクトを合図に、時任、カイトたちを含めた3人の顔つきが変わる......。
静かな呼吸――彼らの周りで漂う空気の流れが変わるのを、俺は肌で感じた。
「【霊力解放】」
瞬間――三人の体が白く光った。
まるで鎧の様に全身を包む光。さきほどパージストと戦っていたリナの状態とよく似ている。
とても神秘的で、見ていると――不思議と安心した。
(これが......霊力)
俺にもこの霊力というものがあるのだろうか――。
これがあれば、俺でもシャドウと戦えるのだろうか――。
そんな事ばかりを、俺は頭の中で浮かべていた。
「カイトは明希也くんを、よろしくお願いします」
「は~い。 ほらあきやん、乗って!」」
「え?」
カイトが俺の前でしゃがみ、背中を向けてきた。
「『乗って』ってどういう――」
「さっき、言ったじゃん。 今から突入するんだよ」
さっき言ったこと......ってまさか――
「地面を崩すとかなんとか......って、あれ本当にやるんですか!?」
「大丈夫! 着地は任せて!」
(よし分かった......ってなるわけないだろ!)
俺は心の中で強くそう思った。
作戦内容も全然理解できてないし......説明を詳しく聞く時間がないのは分かっている――が、今から起きることのイメージが全くできない俺としては、簡単に足を動かせなかったのだ。
「明希也くん」
工藤が俺の名を呼ぶ。
顔を見ると、彼は真剣な表情で俺に頷いた。
信じろ――そう言っている。俺にはそう感じた。
「......分かりましたよ」
背中に乗ると、カイトは軽々と俺を持ちあげ――
「いつでもどうぞ~」
と言い、二人に目配せをした。
それを確認した時任と工藤が武器を構え、地面に切っ先を向ける。
勢いよく、上へと振り上げて――いっきに突き刺した。
直後――2人の体の輝きが増す。それが刀身にも移っていく。
ほどなくして、地面が揺れ動き、地響きの音が鳴り始めた。
「はっ!」
時任と工藤が同時に、刀をさらに地面へと刺しこんだ――。
刺しこんだ場所から、白い光が広がり、地面の亀裂の中を瞬く間に駆け巡る。
それが、俺を背負うカイトの足元まで駆け巡り――
(うっ......眩しい)
亀裂から漏れ出る白い光の強さに、俺は目を細めた。
「崩れるぞ!」
工藤の声が聞こえた刹那――地面が大きな音を立てて崩れていった。
「うっ......! おわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ――」
■
工藤が紋章の中心に刺さった刀を抜き取る。
「リナ! 結界に入れ!」
そう呼びかけながら、工藤は紋章に手をかざした。
紋章を中心に、ドーム型の光の壁が形成されていき――内側には生存者たち、美奈、3体のシャドウ、そして工藤、時任、カイト、安田と川村、倉持、俺がいる状態になった。
「よっ! ほっ! とぉ!」
リナは呼びかけに応じ、シャドウの頭を踏み台にしながら、群れの中を進んできていた。
捕まえようとするシャドウを軽快に避けつつ、上手くバランスをとって移動している。
「工藤さ~ん! そこ開けて~!」
リナは勢いよくシャドウの頭を蹴とばし、結界に飛び込む。
結界に触れる寸前――リナの体一つ分の穴が開き――内側に入り込んだリナが綺麗に着地をしてみせた。
「す......すげぇ」
彼女の身体能力には驚かされてばかりだ。
あのシャドウの群れを相手に戦う勇気と実力――。
彼女の異常な強さに「恐い」と感じていたのだが......いつの間にか尊敬の念を抱いている自分がいた。
結界とやらの外側を埋め尽くす大量のシャドウ――自分が外にいるのを想像しただけで寒気がする。うめき声をあげ、結界を破ろうとする奴らの顔は、狂気に満ちていた。
「リナぁ! なぜ勝手に突入したんですかぁ!!」
「うひゃい! ごめんなさい!」
鬼の形相で、工藤はリナに怒声を浴びせる。
「全くもう......説教は後でたっぷりします。 今は明希也くんを頼みますよ」
「......っ! おけ~! あきやくん安心してね! 指一本触れさせないから!」
「あ......あぁ」
毎回思ってしまうが、女の子に守られるおれ、カッコ悪い......。
「安田! 川村! お前たちは生存者の守りにつけ!」
「は、はい!」
「了解です!」
2人はすぐさま生存者のもとへと移動する。
「気をつけろ......奴の名はヴァンプ。 影殻の量が尋常じゃない」
「脅威度は?」
「Bランクだ。 しかし、もはやAランクに近い強さだと俺は思う」
脅威度――シャドウの凶暴性、強さ、知能などを総合的に数値化し、ランク付けしたもの......だっけか。
あのヴァンプとかいうシャドウの脅威度を知っても、俺にはどうすることもできない。でも――
(あのシャドウだけは絶対に許せない!)
姉さんをあんな目に合わせた奴と、直接戦えないのはすごく悔しい。
だから......俺の分まで頼みます――そう工藤たちに、俺は思いを送った。
「おや、あのヴァンプとかいうシャドウだけ、結界に入れたと思ったんですが」
ヴァンプのもとに、上空から2体のシャドウが飛んできた。影殻が肩から伸び、翼のような形になっている。
(シャドウって空も飛べるのか......)
「あぁ~! 俺も飛べばよかったな~。 あの量のがれきを避けるのに、一番効率いい方法じゃん! ムカついてて、がれきぶち壊してたよ~。 クハハハハハハ!」
ヴァンプが頭を抱え、笑い始めた。
「気味の悪い奴ですね」
「お前、状況理解してる? 今から浄化されんだよ?」
「クハハ......あ?」
――ヴァンプの圧に背筋がゾクリとする。
「誰が浄化されるって?」
「お前に決まってんだろ~?」
カイトとヴァンプが互いに睨みを利かせる。
「カイト、私は結界を維持するのに、ここから離れられません」
「分かってるって~。 紋章を壊されたら結界消えちゃうもんね」
「どんな能力を隠し持っているか......。 気をつけ――」
「りょ~かい! サイちゃんいくよ!」
工藤の話を聞かず、カイトは先陣を切った。
「くそあいつ......細、頼みます」
「分かってます」
時任も後に続いて、ヴァンプに立ち向かっていった。
「リナはあの2体のシャドウの警戒を。 隙があれば浄化してください」
「はいは~い」
動き出していく戦況――。
俺がすべきことは......。
「リナ、まず姉さんの所へ合流しないか?」
「......っ!」
自分には何ができるのかを理解する。そして、状況を見極め、自分がすべきことを考え、行動に移す――。谷原明希也という少年は、この状況から、その能力を身につけようとしている。
工藤は明希也の言葉を聞いてそう感じていた。
リナや我々を信頼しきっている証拠だ。
でなければ――少なくとも、訓練された兵士でなければ、シャドウがいるこの空間で、自ら行動できる者など皆無だろう。
(明希也くん、君は自分が非力な存在だと思っているのかもしれませんが、案外そうではないようですよ)
リナからの視線――それに対し、工藤は小さく頷き、明希也と共に行動するよう促す。
我々にずっと守られているだけではなかった。
彼は彼なりに、考えていたんだ。自分自身と向き合っていたんだ。
「君は......強くなりますよ。 きっと」
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