第31夜 霊力
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『ねぇねぇ~、霧生さ~ん。 同じ技ばっかりつまんないよ~』
サンドバッグのカカシが、周りにいくつも立つ草原の中――リナは駄々をこねるように武器を手放し、地面に寝転がった。
『もっとこう......ドカーン! ってなる派手な技、いい加減教えてよ~』
そんなリナを無視し、霧生は煙草に火をつけて、吸い始めた。
『ねぇ、聞いてる~?』
『......はるか昔、妖精や精霊、女神と長い間生活を共にしたことで、人類には霊力というものが発生した。 今ではシンと呼ばれてるものだ』
『どういう原理で発生したの?』
『知らん』
『えぇ~......てゆうか、何の話なのこれ』
『まぁ、聞け』
めんどくさそうに顔をしかめるリナを横目に、霧生は話を続ける。
『霊力が発生し、人間だれでも特殊な力が使えるようになったが、現代じゃあ妖精も精霊も簡単にはお目にかかれない』
『ふーん』
話半分で、リナは前髪をいじったり、ヘアピンの位置を調整したりした。
『パージストは精霊・妖精との契約を交わし、霊力の限界値を伸ばしている。 自分と――そして光兵器と同調させて、霊力を鍛えていけば、シャドウとの戦闘で優位に立てるからな』
『結局、何が言いたいの~? 話長いよ~』
むくっと状態を起こし、不満げにぷくっと頬を膨らます。
『霊力には色がある、その色によって使える能力は異なってくるんだが――お前みたいに霊力の色を変えられるやつは、そうそういないんだ。 しかも5色以上......今まで見たことも聞いたこともないぞ』
『えへへ~、わたし天才だから!』
『まぁ、俺からしたらそれぞれの練度が、赤ちゃんレベルだがな』
『えぇ~!? そんな~!』
それを聞いてリナはガックリ――と肩を落とした。
『とにかく、俺が言いたいのは、その技を完璧にマスターしろってことだよ。 そうすりゃ、どんな状況でも敵でも臨機応変に立ち回ることができるからな』
『どんな状況でも敵でも......か』
霧生の言葉を静かに繰り返す......。
リナの目はここではないどこか遠くを見つめていた。
『分かったら、とっとと訓練に戻れ。 そんなんじゃいつまで経っても、俺には追い付けないぞ』
『よ~し! 霧生さんなんてすぐ追い抜いちゃうからね~!』
すぐさま立ち上がり、武器を拾い、リナは再び訓練に励んだ――。
■
「【閃光ノ印――白】」
目の前まで迫った3体のシャドウを同時に斬り伏せる――。
耳に痛い叫び声をあげながら、倒れるシャドウ。
それらには目もくれず、リナは次に迫るシャドウの群れへと武器を構える。
「【閃光ノ印――緑】」
しかし、構えた向きとは真逆の背後から、シャドウの攻撃がくる――。
「よっ......と!」
リナは正確に受け止めた。攻撃してきたシャドウに向き合うことなく。
それと同時に身体を――武器を回転させて、そのシャドウを素早く斬り捨てた。
それでも......シャドウの群れの勢いは止まらない。
次々となだれ込むように、襲い掛かってくる。
「準備オッケー! それじゃいくよぉ~!」
刀を鞘に納めるリナ。
視界には上下左右を埋め尽くす化け物たち......。
血走った無数の紫色の目が、一人の少女に向けられる。
今にも飛び掛かってくる――。
――リナにはそれがスローモーションに見えた。
リナ以外の動くものが――リナ以外の時間がゆったり流れていく。
彼女には、深呼吸する時間さえあった。
それも驚くほど、ゆっくり――ゆっくりと......。
――そして少女は、刀を抜いた。
「【閃光ノ印――青】」
青く光る一筋の線。
それがシャドウの群れの中を高速に移動していく――。
シャドウたちは、目の前の標的が突然消えたことにうろたえ、辺りをきょろきょろと見回した。
「......やほっ!」
消えた少女が目の前に現れる。
さきほどの標的だと認識するのに一瞬、動きが止まる......。
しかし、すぐにシャドウたちは、また一斉に飛び掛かった――。
「グ......グァァッ!?」
その時――シャドウたちは気づいた。
胴体、腕、足、首、身体の様々な箇所に青く光る線が刻まれていることに......。
「闇へお帰り」
少女は刀を鞘に納める――。
すると、青い光の放出と共にシャドウたちは――
「グガァアァァァ!!」
苦しみの叫び声をあげ、地面へと倒れた......。
光の放出が収まったシャドウたちの体からは、黒い影が出ていた。
「......ふぅ~」
ひと段落――といった感じで、少女は息を吐く。
その周りには、30体ほどのシャドウが横たわっていた。
「次はあなたの番ね!」
にっ......と勝ち誇った微笑みをヴァンプに向ける。
それを目にし、ヴァンプはこめかみから額にかけて、ミミズのような血管を浮き上がらせた。
「......調子に乗りやがって――」
突如――大きな地響きが起こる。
しかし、それは地面ではなく、天井から発生した音だった。
「あぁ!? なんだ!?」
上を見上げるヴァンプ。途端に大きく目を見開いた――。
天井が崩れ落ちてきたのだ。
「影を拒み、その神聖なる魂を守り給え――」
無数のがれきと共に、落ちてくる声。
それだけではない。
真っ先に上から落ちてきた刀――それが地面へと垂直に突き刺さった。
「【収束する光壁】」
刺さった部分から紋章が浮かび上がった。
紋章は盾の形を形成し、黄金に輝き始め――
「あっ! 工藤さんたちだ~!」
生存者の周りに、黄金に輝く壁を形成する。
それから間もなく、がれきは大きな音を立て、次々と地面に衝突した。
「くそがっ!」
ヴァンプは影殻を使い、自分に向かって落ちてくるがれきを粉砕していった――。
砂ぼこりが、もうもうと立ち込める......。
天井から落ちきったがれきが、辺りに残骸の山を形成していた。
「次から次へと――」
ヴァンプは大きく広げた影殻で、突風を巻き起こし――
「なんなんだよ!!」
一気に砂ぼこりを晴らした。
「ど~も~」
「......っ!?」
視界が晴れた先――ヴァンプの目には、数人のパージストたちの姿があった。
「姉さん! 姉さん!」
美奈の方へと声をかける明希也。
工藤の作った光の壁に覆われており、がれきの下敷きになってはいなかったようだ。
明希也はそれを見て、ほっと肩をなでおろした。
「あ......きや?」
美奈は辺りを見回した。
毎日聞いている家族の――聞きなれた声。
それが、彼女の暗闇に沈む感情を救い出した。
「......っ!」
視界に明希也の――家族の――姿が映りこむ......。
目を大きく開いて、その存在をしっかりと認識する......。
――そこにいる。確かにいる。
それを理解した直後、彼女の目には光が戻り始めた。
「明希也!? 明希也なの!!?」
涙を流し、何度も呼びかける美奈。
「あぁ......あぁ! 俺だよ!!」
それを聞いて、美奈は顔を両手で覆い、前にかがんで安堵の涙を流した。
ふたりはまた出会えたということに強く――強く喜びを感じた。
今、自分が置かれている状況を忘れるほどに......。
(大丈夫......いま助けるから!)
明希也も泣きそうになった――が、すんでのところでこらえ、瞬時に思考を切り替えた。
――まずはこの状況から姉を救い出すことが第一だ。
涙をぬぐいとる......。
そして、美奈に向けていた愛情の目とは裏腹に、彼は殺意にも似た怒りの感情を宿して、ヴァンプを睨みつけるのだった。
「さ~てと......さっさとやっちゃいますか~」
「貴様には悪いが、ここで浄化させてもらう」
「時間が惜しいので、大人しく浄化されてください」
武器を取り出し、構えをとるパージストたち。
「......いや~、困っちゃうな~」
ヴァンプは笑顔で髪をかきむしった――かと思えば、表情を一変させ、鋭い殺気をパージストたちに向けて放ち始めた。
「死にたい奴らが多すぎて......」
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