第30夜 暴走少女
明希也の視点に戻ります。
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
「明希也くん! どこへ行くのですか!」
怒りと恐怖が入り混じり、俺の心は極限まで追い詰められていた。
「......早く、あの地獄から......姉さんを救わないと!」
「落ち着いてください、今あそこに無策で行っても、助けられません。 かなり危険です」
防犯室の出入り口のドアに手をかけたまま、俺は動きを止めた......。
――すぐ助けに行きたい。
あんなところにずっといたら、気が狂ってしまう。
画面越しでも伝わってくる、血の気が引くほどの恐怖と絶望......。
やっと――やっと姉さんを見つけられたのに、あんなことに巻き込まれているなんて......。
俺があそこに行っても、死ぬだけだ。
俺ではどうすることもできない......。
「確認ですが、明希也くんのお姉さんは生きているんですよね?」
「......はい。 間違いありません。 だけど、一刻も早く助けに行かないと――」
「分かっています。 早急に作戦を立てましょう」
優しい口調だった。
冷静な工藤の対応に、俺は少し落ち着きを取り戻した。
今は――今は工藤さんたちに頼るしかない。
この人たちを信じるしかないんだ。
だから......黙って彼らの指示に従おう。
そう思い、俺は工藤たちの元へと戻った。
「で、どうやって助ける? さすがにあの数のシャドウは、俺らでも無理じゃね?」
「......シャドウは本来であれば、人間を見つけ次第すぐさま襲いに行くはずです」
◆ ◇ ◇
人間がシャドウに乗っ取られた場合、個人差はあるが数分から数時間の間、気を失うことになる。シャドウが、人間の奥底にある様々な負の感情を増幅させるため、脳に大きな負担がかかり、意識を保てなくなるのだ。
そして目覚めた時――それは完全にシャドウと同化したことを意味する。
強い殺戮衝動に支配されるため、理性は消え、知能も激しく低下するが、人間を遥かに超える脅威的な身体能力・生命力を持つ。
太陽を長時間浴びる、もしくはパージストの武器である光兵器以外では倒すことができない。
◇ ◇ ◆
「ですが、周りのシャドウの群れは、生存者を襲わず、円形を作って待機している」
「これはあれだね......シャドウを操れるシャドウ――B級以上がいるってことだ」
「それはだいたい予想が付きます。 あの状況を愉しみ、笑っている――おそらくこいつでしょう」
工藤が一つの画面を指さす――。
そこには紫色の目を不気味に光らせ、笑い続けるシャドウの姿が映っていた。
「支配者を持ったシャドウは少し厄介ですから......あいつさえ倒せば、救出も楽になるかもしれません」
「まぁ、倒すのはあいつだけとして......周りにうじゃうじゃいる他のシャドウの対処は?」
工藤は少し考えてから、口を開いた。
「あそこの場所......の真上の階から地面を崩します」
「いやいや、シャドウはともかく、生存者もぺしゃんこになっちゃうじゃん!」
「結界を張ります。 それなら、生存者も守れて、撃破対象のシャドウだけと戦える状況が作れます」
「今シャドウの群れが作ってる円形の空間より少し内側に張る......みたいなイメージだよね?」
「そうです」
「おけー! さっすがトモっち! それなら3分で片付けよう!」
「目標時間3分――承知しました」
3人の会話を黙って聞いてはいたが......俺には作戦内容がよく理解できなかった。
(地面を崩す? 結界を張る?)
頭で想像してみる......。
だめだ――全然イメージできない。ただ疑問点が出てくるだけだ。
本当に大丈夫だろうか。
「あなたたち3人も協力していただけますよね?」
「えぇ!? あんなところに行くんですか!?」
「無理ですって!! 絶対死にますよ!!?」
安田と川村が手を左右に振って、全力で拒否の意志を示す。
「いや、我々も惜しみなく協力しよう」
と言って、2人にげん骨をくらわせる倉持隊長。
渋々と言った様子だったが、2人も協力することとなった。
「明希也くんはどうしますか?」
「俺は......俺も行きます。 行って姉さんを守りたいです。」
あんな地獄に飛び込む勇気なんてなかった――姉がいなければ。
シャドウから守れる力なんて俺にはない。
でも――いますぐにでも、傍に行って姉のことを安心させてやりたかった。
「工藤さんたちの指示に絶対従います! 途中で俺を見捨てても構いません! だから――」
「私は反対です。 ただでさえ、保護対象を守りながら戦闘するというのに、それが増えるとなると......守れる保証がありません」
「......っ! お、お願いします!」
俺は工藤たちに頭を下げた。
「......大丈夫だって! そこはリナっちが守っててくれるから! ね? リナっ......ち?」
きょろきょろと辺りを見回すカイト。
「どうしました?」
「......あれ? リナっちいなくね?」
「......はぁぁあ!!?」
■
「ほら、顔をあげてください、美奈さん」
ヴァンプが美奈の髪を掴み、乱暴に顔を持ちあげた。
「......あぁ~、いいですよ! すごくいいです! その絶望に染まった瞳の色、涙と血でぐしゃぐしゃに濡れた顔! 怯える表情! 何もかもが私好みです!」
美奈の顔を見て、ヴァンプの口角がさらに上がる。
美奈の方はもう抵抗する気力もなく、ただ「お願いします」と口を動かす人形と化していた。
「きっと、今のあなたから影を奪ったら、最高に気持ちがいいんでしょうね~! あぁ、想像するだけで――」
「あのさー、あんまり私の友達悲しませないでよね~」
ヴァンプの耳にどこからか、少女の声が入ってきた。
「......あぁ? なんだ?」
周囲に視線を動かす。
「ここだよ~。 おーい」
「......お前ら、そこどけろ」
ヴァンプの命令を受け、大量のシャドウたちが、言われた場所に空間を作っていった。
すると――そこにパージストの軍服を着た少女が一人、手を振っていた。
「すぐにそっち行って、浄化してあげるから。 大人しく待っててね~」
その状況にヴァンプはポカンと口を開けた。
「......くっ......クク、クハハハハハハハ!」
しかし、すぐに美奈の髪から手を離し、少女の方へ向き合った。
「おやおや、まだ歯向かう気のあるパージストがいたんですか......それもこんな子供......って! 冗談にも限度ってものがありますよ! クハハハ」
「さっき画面で確認した限りだと......300体ぐらいかな? まぁ、いけるっしょ!」
「......はぁ? 何言ってんの? まぁ、いいか。 せっかくいいところだったんですから、邪魔しないでくださーい」
笑っていたヴァンプの顔に殺気が溢れ出す。
少女をまっすぐに睨み、右手を上にあげ――
「じゃ、バイバーイ」
振り下ろした――。
それを合図に、少女に向かって大量のシャドウが動き出す。
うなり声をあげ、殺気を放ちながら全力で走りだした。
「ふー」
少女は武器を取り出すと、それを腰に付け、抜刀の構えを取った。
「【閃光ノ印――白】」
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