第29-2夜 お願いします
主人公の姉、美奈の視点です。
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
ヴァンプの合図と同時に、友江が生き残った人々に飛び掛かり――
「ぎ......ぁっ......!」
気付けば、手から伸びた影で、一人の人間の体を貫いていた。
「あ......あぁ」
「おらぁぁぁぁ!! さっき説明したよなぁ!? ちんたらしてると死ぬって!!」
ヴァンプが怒声をあげる。
「う......うぉぉぉぉぉぉ!!」
一人の男が動いた――。
それをきっかけに、大勢の生き残った者たちが私たちのもとへと走ってきた。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
隣にいた女性が泣き出し、その場にへたり込んだ。
わたしは――状況に頭も体も付いて行けず、動けなかった。
「許してくれ!! もうこうするしかないんだぁ!!」
「うぐっ......!」
すぐ隣で女性が男に捕まり、首を絞められている。
「......安心しろ。 お前もすぐ終わらせるから」
自分の周りも、もう逃げ場などなかった。
「あぐっ......!」
首に両手をかけられる――。
相手の男が手に力を込めてくるのを感じる。
肺に送られる酸素が......止められていく。
(くっ......苦しい)
めまいが起こり、意識がもうろうとしてきた。
(あきや......ゆい......)
頭の中で流れる家族との日常――。
死ぬのがこんなに恐いなんて......。
次第に、明希也と結衣の記憶が遠のいていく――。
「ぐぁ......!?」
私の首から手が離れた。
直後、私は激しく――何度も酸素を肺に取り込んだ。
まだめまいが収まらない視界で辛うじて見えた光景――。
それは......花子が4~5人をまとめて、影で串刺しにしているものであった。
「......え」
自分が刺されたことに気付かない彼ら――。
反応を待たずして、そのまま花子は影を上に持ち上げ――大量のシャドウの群れへと投げ飛ばした。
そこに群がるシャドウ――そして、そこからぐちゃぐちゃと音が鳴り始めた。
私の周りにいた人たちが、花子を見て後ずさる――。
「う......うわぁぁぁぁぁ!」
「はなれろぉぉ! あぐぅっ......」
花子が立て続けに、周りにいた人間を切り殺す――刺し殺してく――。
悲鳴が鳴り止まない――。ショッピングモールを襲撃してきた時と同じだった。
周りはもう......血の海だ――。
「や......やめて......」
――気がおかしくなりそうだった。
でも、なんとかして、花子と友江を止めたかった。
「ふたりともやめてよ!! そんなことしないで!! ねぇ!!」
何度も叫ぶ。怪物になった友人を止めるために――。
しかし、ふたりの虐殺は終わらない。
「クハハハ! みんな~、こんな調子だと2人とも殺せないよ~。 いや、あと一人......かな?」
ヴァンプの言葉を聞き、私はすぐさま隣にいた女性の方を見る――。
彼女はすでに、口から泡を出し、動かなくなっていた......。
(こんなこと......止めないと!)
私は頭から恐怖をぬぐい取り、花子に向かって走った。
「花子! もうやめて!」
花子の体に抱きつく。ぎゅっと力を込めて、身動きが取れないように――。
しかし、人間離れした力で、体に回していた腕を振りほどかれる。
「いたっ!」
振りほどかれた勢いで、地面に投げ出された。
そして――花子は私に見向きもせず、次の標的を狙いに行ってしまった。
――何もできない。
放心状態のまま、友江の方を見る――。
もう何人殺しているのか分からない。顔も体も大量の血で染まっている......。
もはや私に近づいてくる者は――近づける余裕のある者は、ひとりもいなかった......。
冷たい目をした2体のシャドウ――彼女たちから逃げるので、みんな必死だった。
「美奈さん」
いつの間にか、ヴァンプが後ろに立っていた。
「彼女たちを止めてほしいですか?」
どういう意図があって、そんな言葉を言っているのか分からない。
でも、私は震えていた身体を少しずつ動かして、ヴァンプと向き合った。
「わ......私は殺されてもいいから......早くふたりを止めて」
「う~ん......ならそれ相応の態度を見せてもらわないと」
「お、お願いします!」
私は迷わず、ヴァンプの目の前で土下座をした。
「......もっと」
「お願いします!!」
「もっと! 足りませんって」
「お願いします!お願いします!」
ヴァンプが私の顔に近づいて――
「足りねえぇぇぇんだよ!! もっと死ぬ気で頼め!! ホントに止めてぇのか!!? 全員死ぬぞ!?」
そう怒鳴られてすぐ、私は――
「お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします」
――私は口を動かした。
狂ったように――神にでも祈るように――ただ、ひたすらに。
「くっ......ハハハハハハハハハハ!! さいっっこうだなぁ~!」
悲鳴が耳の奥まで鳴り響く――。
希望も何もない、この状況の中――私は血の水たまりに額をつけ、高らかに笑うこの悪魔に、懇願した。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――。
だれか......たすけて......。
読んでいただき、ありがとうございました。
次回からまた、明希也の視点に戻ります。
次回もよろしくお願いします。




