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シャドウズ  作者: saji
32/55

第29-1夜 ゲームスタート

美奈の視点に移動します。

最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

「1時間逃げ切ったみなさん、おめでとうございま~す! 」


 ヴァンプが笑顔で拍手をする。


「『どうして私たちは殺されずに集められたのか』、と不思議そうな顔をしていますね~そ・れ・は――幸運なみなさんにはこれから、私の用意した素敵なボーナスステージに参加してもらいたいからで~す! パチパチ~」


 みな怯えていた――楽しそうに拍手をしているのは、ヴァンプだけ......。

 大量のシャドウに囲まれ、いつ殺されてもおかしくない状況に、ただただ恐怖していた。


「あれ~? みんなノリ悪くない? こっからがいい所なのに~ ほら拍手~」


 ヴァンプがそう促す――が、誰一人として拍手をする者はいない――できるはずがない。


 シャドウによる突然の襲撃――。

 私は友人の花子(はなこ)友江(ともえ)がシャドウだったという事実に絶望し、逃げるのを諦めた――生きるのを諦めた――。


 黒い影と紫色の目をしたシャドウ――あれらが、瞬く間にショッピングモールを地獄へと染めあげたのだ。


 そんな中――なぜか、私は生かされていた。

 大量のシャドウは、私に見向きもせず、他の人間を殺しに行った......。


 そして、止まないのではないかと思うほどの悲鳴たちが、いつの間にか聞こえなくなったころ――『まだ絶望するには早いですよ』とヴァンプに耳打ちされ、1階の広い中央広場に生き残りの人々と集められたのだ。



「あ~あ......調子狂うな~。 せっかく生きて帰らせてあげよう......って思ってたのに」


「なっ!? それは本当か!?」

「もしかして、生きて帰れるの!?」


 ヴァンプの口から放たれた何気ないその一言に、反応の声が上がる。


「おっ! やっとリアクションしてくれたか! でも、生きて帰りたいならもう一つ、やってほしいことがあるんだよね~、それを今から話すから、ちょっと――」


「本当だな!? 助かるんだな!?」

「お願い!! 何でも言うとおりにするから殺さないで!!」

「家で家族が待ってるんだ! 死にたくない!」


 瞬く間にして、生を乞う人々の声であふれかえった――。


 ――生きて帰れる。

 その事実を知って安堵するのは、私以外の全員なのだろう......。


 完全に安堵(あんど)などできるはずがない――友人2人がシャドウになってしまったのだから......。

 私だけこのまま生き残っても、花子と友江が元に戻らないのであれば、生きた心地がしない......。


 ふたりは――大切な友達だから......。



「はいはい、無事に次のゲームクリアで来たら返してあげるから、ちょっと話聞こう――」

「お母さん......帰れるの?」

「ええ、そうよ! 帰れるのよ!」

「あぁ、神さま! ありがとうございます!」


 ――私は気づいた。


 話を聞かない彼らに、ヴァンプがイライラしていることに。


「みんな! 少し静かに――」

「あのさあぁぁぁぁぁ!!!? うるせえぇぇぇぇぇぇんだけどぉぉ!!?」

「うぐぇぇ......!」



 遅かった......。


「あっ......あ~あ」


 周りに静かにするよう、声をかけようとしたが、止められなかった。


 ――人々の生を願う声が鳴り止む。

 自分も含め、全員がヴァンプの方に視線を移していた。


「感情(たかぶ)って、思わず一人殺しちゃったじゃん。 クハハ」


 ヴァンプから伸びている黒い影。

 それが――ひとりの男の体を貫いている光景が、ここにいる者たちのあらゆる「動」を強制的に殺した。


「い......いや――」

「そこの女......今叫んだら殺すね」


 にっこりと、一人の女性にほほ笑むヴァンプ。


 それを聞いた女性は、自分の口を必死に手で抑えた。

 叫び声が出ないよう――泣きながら――必死な様子で......。


 周りも危険を察知し、声を出す者は一人もいなかった。



「......うんうん! やればできるじゃ~ん! だったら、初めっからそうしろよ」


 息が苦しくなるほどの狂気的な威圧感――。

 それがこの場を完全に支配していた。


 ヴァンプが影を男から引き抜く。

 そのまま地面に倒れる男――ぴくりとも動かない。


 私は目を逸らした。

 もう生を感じない人間を、恐ろしくて見ることができなかった。


「んじゃ、気を取り直してお話再会! ......っていきたいところだけど、実はまだみんなにやってもらうゲームの内容、決めてないんだよね~」


 ヴァンプは淡々(たんたん)と話を進めた。人間を殺したというのに、平然としている。


 それもそのはずだ――。


 シャドウという怪物が、人を殺すことに対して、罪悪感や後悔なんて感じるはずがないんだ。

 躊躇(ちゅうちょ)なく命を奪い、影を喰らう。

 シャドウに人の思考や価値観など通用しない......。


「何がいいですかね~......うーん」

「あ......あの......」


 一人の女性がゆっくりと手をあげ、立ち上がった。

 さっき、叫びそうになっていた女性のようだ。


 周りに緊張が走る......。

 さきほど、静かにしているようヴァンプに脅されたすぐ後だというのに、このタイミングで声をかけるなんて――


(いったい、何を考えているの......!?)


「ん? どしたの? 殺されたい?」

「は、はい」


 女性の言葉を聞いて、周りが少しざわついた。


「わたし......もう耐えられません。 恐怖で頭がおかしくなりそうで......。 あなたが素直に、私たちを生きて返してくれるとも思えませんし。これからもっと酷いことが起こるって......私には想像がつきます」


(そんな......)


「なので......いっそ殺してほしいんです!これ以上恐怖で心を苦しみたくないんです! 早く解放されたいんです! 殺してください!」



 大量のシャドウに囲まれ、常に殺気を全身で浴びている状態――。

 彼女はこの絶望に、耐えられなくなってしまったのだ......。


(でも......そんなの)


「ふ~ん......じゃあ――」

「待ってください!」


 私は女性のもとへ駆け寄った。


「諦めちゃダメです! 最後まで希望を持ってください!」


「でも......もう辛いんです。 恐いんです」


「あなたにも、帰りを待ってくれている家族がいるはずです。 その人たちの気持ちを無視して、あなただけ楽になろうとするんですか」


「そ......それは」


 ――この人の気持ちも理解はできる。

 私自身、友人がシャドウと知ったあの時――絶望で頭の中を支配された。

 今の今までどうしていいのか、分からなくなっていた。

 私も、一歩間違えれば、この人と同じような考え方になっていたかもしれない。


 でも......そうならなかったのは、大切な家族の存在をおもいだしたから――。

 明希也(あきや)結衣(ゆい)――私の希望――かけがえのない存在......。


 ――きっと私の帰りを、待っているはずだ。



 家に帰ると、結衣は必ず暖かい笑顔で迎えてくれる。

 明希也は夕食の用意をほとんど毎日してくれて、台所から私が帰ってきたのに気付くと、決まって優しく微笑んでくれる。


 生きる理由――希望が私にはある。

 この人にも、そんな存在が必ずいるはずだ――。


「ヴァンプさん、本当にあなたの言う、その『ゲーム』をクリアすれば、返してくれるんですよね」


「......もちろんです。 私を満足させてくれたのであれば、必ず返しましょう」


 それを確認し、私は女性の手を握る。


「生きて帰られる可能性があるなら、最後まで諦めないで。 きっとあなたの帰りを待っている人たちがいるはずですから......ね?」


 真剣に訴えかける私の気持ちが届いたのか、女性の目から涙が流れた。


「......あ......ありがとう......ございます」


 やっぱり、この人も本当は生きたかったんだ――。

 なんとか説得できて、ホッとする。


 ここで死ぬわけにはいかない。

 明希也と結衣、ふたりの顔を二度と見れないなんて――そんなの嫌だ。


(ぜったい......生きて帰るんだ)


 美奈はまっすぐヴァンプに視線を固定する。

 その瞳の奥に強い希望が宿っていた――。


「......あっ! 閃いた!」


 ヴァンプがポンと手を叩く。


「それではゲームの内容を発表したいと思いま~す! 内容は――」


 ヴァンプの指が私たちの方をさした。


「そこの......女性2人を殺してくださ~い! 」

「......っ!?」

「誰が殺してもいいので、2人が殺された時点でゲームクリアで~す」



 その内容に、私は衝撃を受け、言葉が出なかった。


「あれれ? 聞こえなかったのかな? それとも言葉の意味が分からない感じ? 簡単な内容ですよね?」



 ――誰も動かなかった。

 まるで時間が止まったかのようだ。


 周りは静まり返り、シャドウのうなり声だけが耳に入る......。



 私たち二人を――彼らに殺させる......。


 ヴァンプは私たち2人を生かす気なんてないんだ。

 私たち以外の生き残りは約100人はいる。彼らにその気があれば、囲まれて簡単に殺される――。

 それとも、彼らが全員花子と友江に殺されるまで、逃げろ――とでもいうのだろうか。


 とにかく......ゲームの内容も、残酷な命令を平気で口にできるヴァンプも、ただただ恐ろしかった。

 そして、そのゲームを実行できる者など、誰一人としていない――はずだった。


「あぁ、あと今から、この2体のシャドウがあなた達を殺しにきます。 なので、全力でそこの2人、殺さないとあっという間に、みんなあの世行きですよ?」


 ヴァンプは友江と花子――だった2体のシャドウを私たちの前に立たせた。


「そ......そんなっ!」


 ――思考が追い付かない。


 友人2人が人間を殺す......。

 そんなの、見たくない――させたくない。


「ま......まって――」

「それじゃあ、よーい......スタート!」


読んでいただき、ありがとうございました。

次回も美奈の視点です。

よろしくお願いします。

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