第29-1夜 ゲームスタート
美奈の視点に移動します。
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
「1時間逃げ切ったみなさん、おめでとうございま~す! 」
ヴァンプが笑顔で拍手をする。
「『どうして私たちは殺されずに集められたのか』、と不思議そうな顔をしていますね~そ・れ・は――幸運なみなさんにはこれから、私の用意した素敵なボーナスステージに参加してもらいたいからで~す! パチパチ~」
みな怯えていた――楽しそうに拍手をしているのは、ヴァンプだけ......。
大量のシャドウに囲まれ、いつ殺されてもおかしくない状況に、ただただ恐怖していた。
「あれ~? みんなノリ悪くない? こっからがいい所なのに~ ほら拍手~」
ヴァンプがそう促す――が、誰一人として拍手をする者はいない――できるはずがない。
シャドウによる突然の襲撃――。
私は友人の花子と友江がシャドウだったという事実に絶望し、逃げるのを諦めた――生きるのを諦めた――。
黒い影と紫色の目をしたシャドウ――あれらが、瞬く間にショッピングモールを地獄へと染めあげたのだ。
そんな中――なぜか、私は生かされていた。
大量のシャドウは、私に見向きもせず、他の人間を殺しに行った......。
そして、止まないのではないかと思うほどの悲鳴たちが、いつの間にか聞こえなくなったころ――『まだ絶望するには早いですよ』とヴァンプに耳打ちされ、1階の広い中央広場に生き残りの人々と集められたのだ。
「あ~あ......調子狂うな~。 せっかく生きて帰らせてあげよう......って思ってたのに」
「なっ!? それは本当か!?」
「もしかして、生きて帰れるの!?」
ヴァンプの口から放たれた何気ないその一言に、反応の声が上がる。
「おっ! やっとリアクションしてくれたか! でも、生きて帰りたいならもう一つ、やってほしいことがあるんだよね~、それを今から話すから、ちょっと――」
「本当だな!? 助かるんだな!?」
「お願い!! 何でも言うとおりにするから殺さないで!!」
「家で家族が待ってるんだ! 死にたくない!」
瞬く間にして、生を乞う人々の声であふれかえった――。
――生きて帰れる。
その事実を知って安堵するのは、私以外の全員なのだろう......。
完全に安堵などできるはずがない――友人2人がシャドウになってしまったのだから......。
私だけこのまま生き残っても、花子と友江が元に戻らないのであれば、生きた心地がしない......。
ふたりは――大切な友達だから......。
「はいはい、無事に次のゲームクリアで来たら返してあげるから、ちょっと話聞こう――」
「お母さん......帰れるの?」
「ええ、そうよ! 帰れるのよ!」
「あぁ、神さま! ありがとうございます!」
――私は気づいた。
話を聞かない彼らに、ヴァンプがイライラしていることに。
「みんな! 少し静かに――」
「あのさあぁぁぁぁぁ!!!? うるせえぇぇぇぇぇぇんだけどぉぉ!!?」
「うぐぇぇ......!」
遅かった......。
「あっ......あ~あ」
周りに静かにするよう、声をかけようとしたが、止められなかった。
――人々の生を願う声が鳴り止む。
自分も含め、全員がヴァンプの方に視線を移していた。
「感情昂って、思わず一人殺しちゃったじゃん。 クハハ」
ヴァンプから伸びている黒い影。
それが――ひとりの男の体を貫いている光景が、ここにいる者たちのあらゆる「動」を強制的に殺した。
「い......いや――」
「そこの女......今叫んだら殺すね」
にっこりと、一人の女性にほほ笑むヴァンプ。
それを聞いた女性は、自分の口を必死に手で抑えた。
叫び声が出ないよう――泣きながら――必死な様子で......。
周りも危険を察知し、声を出す者は一人もいなかった。
「......うんうん! やればできるじゃ~ん! だったら、初めっからそうしろよ」
息が苦しくなるほどの狂気的な威圧感――。
それがこの場を完全に支配していた。
ヴァンプが影を男から引き抜く。
そのまま地面に倒れる男――ぴくりとも動かない。
私は目を逸らした。
もう生を感じない人間を、恐ろしくて見ることができなかった。
「んじゃ、気を取り直してお話再会! ......っていきたいところだけど、実はまだみんなにやってもらうゲームの内容、決めてないんだよね~」
ヴァンプは淡々と話を進めた。人間を殺したというのに、平然としている。
それもそのはずだ――。
シャドウという怪物が、人を殺すことに対して、罪悪感や後悔なんて感じるはずがないんだ。
躊躇なく命を奪い、影を喰らう。
シャドウに人の思考や価値観など通用しない......。
「何がいいですかね~......うーん」
「あ......あの......」
一人の女性がゆっくりと手をあげ、立ち上がった。
さっき、叫びそうになっていた女性のようだ。
周りに緊張が走る......。
さきほど、静かにしているようヴァンプに脅されたすぐ後だというのに、このタイミングで声をかけるなんて――
(いったい、何を考えているの......!?)
「ん? どしたの? 殺されたい?」
「は、はい」
女性の言葉を聞いて、周りが少しざわついた。
「わたし......もう耐えられません。 恐怖で頭がおかしくなりそうで......。 あなたが素直に、私たちを生きて返してくれるとも思えませんし。これからもっと酷いことが起こるって......私には想像がつきます」
(そんな......)
「なので......いっそ殺してほしいんです!これ以上恐怖で心を苦しみたくないんです! 早く解放されたいんです! 殺してください!」
大量のシャドウに囲まれ、常に殺気を全身で浴びている状態――。
彼女はこの絶望に、耐えられなくなってしまったのだ......。
(でも......そんなの)
「ふ~ん......じゃあ――」
「待ってください!」
私は女性のもとへ駆け寄った。
「諦めちゃダメです! 最後まで希望を持ってください!」
「でも......もう辛いんです。 恐いんです」
「あなたにも、帰りを待ってくれている家族がいるはずです。 その人たちの気持ちを無視して、あなただけ楽になろうとするんですか」
「そ......それは」
――この人の気持ちも理解はできる。
私自身、友人がシャドウと知ったあの時――絶望で頭の中を支配された。
今の今までどうしていいのか、分からなくなっていた。
私も、一歩間違えれば、この人と同じような考え方になっていたかもしれない。
でも......そうならなかったのは、大切な家族の存在をおもいだしたから――。
明希也と結衣――私の希望――かけがえのない存在......。
――きっと私の帰りを、待っているはずだ。
家に帰ると、結衣は必ず暖かい笑顔で迎えてくれる。
明希也は夕食の用意をほとんど毎日してくれて、台所から私が帰ってきたのに気付くと、決まって優しく微笑んでくれる。
生きる理由――希望が私にはある。
この人にも、そんな存在が必ずいるはずだ――。
「ヴァンプさん、本当にあなたの言う、その『ゲーム』をクリアすれば、返してくれるんですよね」
「......もちろんです。 私を満足させてくれたのであれば、必ず返しましょう」
それを確認し、私は女性の手を握る。
「生きて帰られる可能性があるなら、最後まで諦めないで。 きっとあなたの帰りを待っている人たちがいるはずですから......ね?」
真剣に訴えかける私の気持ちが届いたのか、女性の目から涙が流れた。
「......あ......ありがとう......ございます」
やっぱり、この人も本当は生きたかったんだ――。
なんとか説得できて、ホッとする。
ここで死ぬわけにはいかない。
明希也と結衣、ふたりの顔を二度と見れないなんて――そんなの嫌だ。
(ぜったい......生きて帰るんだ)
美奈はまっすぐヴァンプに視線を固定する。
その瞳の奥に強い希望が宿っていた――。
「......あっ! 閃いた!」
ヴァンプがポンと手を叩く。
「それではゲームの内容を発表したいと思いま~す! 内容は――」
ヴァンプの指が私たちの方をさした。
「そこの......女性2人を殺してくださ~い! 」
「......っ!?」
「誰が殺してもいいので、2人が殺された時点でゲームクリアで~す」
その内容に、私は衝撃を受け、言葉が出なかった。
「あれれ? 聞こえなかったのかな? それとも言葉の意味が分からない感じ? 簡単な内容ですよね?」
――誰も動かなかった。
まるで時間が止まったかのようだ。
周りは静まり返り、シャドウのうなり声だけが耳に入る......。
私たち二人を――彼らに殺させる......。
ヴァンプは私たち2人を生かす気なんてないんだ。
私たち以外の生き残りは約100人はいる。彼らにその気があれば、囲まれて簡単に殺される――。
それとも、彼らが全員花子と友江に殺されるまで、逃げろ――とでもいうのだろうか。
とにかく......ゲームの内容も、残酷な命令を平気で口にできるヴァンプも、ただただ恐ろしかった。
そして、そのゲームを実行できる者など、誰一人としていない――はずだった。
「あぁ、あと今から、この2体のシャドウがあなた達を殺しにきます。 なので、全力でそこの2人、殺さないとあっという間に、みんなあの世行きですよ?」
ヴァンプは友江と花子――だった2体のシャドウを私たちの前に立たせた。
「そ......そんなっ!」
――思考が追い付かない。
友人2人が人間を殺す......。
そんなの、見たくない――させたくない。
「ま......まって――」
「それじゃあ、よーい......スタート!」
読んでいただき、ありがとうございました。
次回も美奈の視点です。
よろしくお願いします。




