第28夜 絶望の群れ
この作品を見つけていただき、ありがとうございます。
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
パージストがショッピングモールに出現したシャドウを浄化するため、そして市民を救出するため、建物に突入する――という作戦内容であった。
その突入部隊に倉持たち3人も入っていた。
しかし、実際は作戦を行っているフリをしていただけ。
出入口のシャッターを下ろして、市民をこの施設に閉じ込め、防犯室や他の場所に隠れろ――そう命令されていたそうだ。
シャドウに施設内の市民を虐殺させる――それが終われば、屋上から出て任務完了、というとても信じられない計画だった。
結局、最初からシャドウを浄化し、市民を救出する気などなかったのだ。
突入部隊は20人ほどで、かなり少なく編成されており、倉持たち3人以外のパージストたちは、あろうことか、この状況を愉しんでいたそうだ。
逃げ惑う人々、泣いて助けを乞う人々の姿を監視カメラから見て、ゲラゲラと笑う彼ら。
その横で、倉持たちは必死に、必死に我慢していた――。
「......そして、私たちがここに来た......と」
ホントに......ここまで最悪な都市になっていたんだな。
滝川たちもそうだが、パージストたちも堕ちるとこまで堕ちてしまっている......。
俺ら市民はこんな奴らに日々守られていたのか......。
そう考えると、どうしようもなく怒りがこみあげてくる。
やはりあいつらは、死んでよかった......のかもしれない。
「しかし......さきほどのお嬢さんの戦いは見事だった。 君が倒したやつはシスト市でも有数の実力者で、副隊長レベルだったというのに」
「へぇ~、そうだったんだ。 弱すぎて一等兵くらいかと思ってた~」
「き、君は階級はどれくらいなの?」
「え? わたし? う~んと――」
「彼女にまだ階級はありません」
「えぇぇぇ!!? ってことは......訓練生!?」
「すげぇぇ!! すげぇぇよ!!」
隊長の後ろで安田と川村が、顔を見合わせて興奮する。
リナはそれを見て「そうでしょ、そうでしょ」と言わんばかり胸を張っていた。
「倉持隊長、一つ質問いいですか?」
「あぁ、俺が答えられるものなら」
「どうして今日、こんな事件を起こしたんでしょう。 滝川の話では、外へこの都市の情報をできるだけ――というか1ミリも流したくないはずです。 さすがに、こんな大々的な襲撃では、外に広まる可能性が高い......。 何か知ってますか?」
倉持は腕を組んで考え込んだ。
「ううむ......すまんが分からんな」
「ひょっとしたらですけど――」
倉持の横から顔を出し、安田が口を開く。
「計画が最終段階に移行したんじゃないですかね?」
「最終段階......ですか」
「そうです。 計画の達成――つまり、シスト市の市民を外へ逃がさず、一気に飲み込む準備ができたから、騒ぎを起こした......とか?」
「いや、それだったら、こんな騒ぎを起こすより、市民が寝ている間に一斉に動き出した方がいい」
「うわっ......恐ろし」
カイトは両手を肩に回し、身震いした。
「騒ぎを起こすこととは別に、何か目的があったのかもしれませんね」
「例えば?」
「我々をおびき出すため......とか」
「そうなると、狙いは霧生さんっぽいね。 まっ、あの人ここに来てないけど」
ショッピングモールの襲撃のような事件は、今まで一度も起きていない――。
都市の大半がシャドウに支配されていたのであれば、いつでも今日のような襲撃を起こせるはず......。しかし約2年もの間、大きな襲撃もなく、俺は平穏な暮らしができていた。
それを考えると、シスト市で今夜、計画を企てた奴らが本格的に動き出した――と考えるのが自然なのかもしれない。
「ところで、君たちはどこから入ってきたんだ? もしや、施設周辺で警備していたパージストたちを突破してきたのかね?」
「いえ、少し離れた場所から跳んできたんですよ」
「そうか、機動靴か......。 とにかく、これでようやく......シスト市の現状が外に出たんだな やっとこの地獄からシスト市は解放されるんだな」
「隊長さん......それがね......俺らしか、シスト市の現状知らないんだ~......あはは」
「なっ!? なんだとぉ!?」
倉持隊長はそれを聞いて、声をあげた。
「本部との連絡は!? してないのか!?」
「えぇ、色々あって、この男の言うとおり、私たちだけしかシスト市の事実を知りません」
「どうして伝えなかったんだ!!」
人が変わったように取り乱す倉持隊長。
しばらく、しどろもどろに脈絡のない言葉を並べた後――頭を抱え込んで、深いため息を吐いた。
「......終わりだ。 君たちの様に外から計画を潰そうとする者が現れた時は、希望の光が差し込んだ――と思っていたのに......」
「安心してよおじさん! わたし強いからどんな敵でも倒せるよ!」
「......君たちも、さっき聞いただろう。 シスト市でシャドウ化した者、殺された者たちの数を......」
俺はリナと戦ったタカの言葉を思い出した――。
――約25万人以上。
その圧倒的な数字を思い出すだけで、とてつもない絶望が押し寄せる......。
「いくら強くても、圧倒的な物量の差がある......。想像できるか? この都市に潜んでいる大量のシャドウが一斉に街を襲う光景を――恐怖で夜も眠れん」
想像できなかった――いや、したくなかった。
その光景が頭に浮かんでくる前に、俺は思考を停止させた。
「君たちはどうしてここに来たんだ。 計画を潰すつもりであれば、普通は中央本部を始め、支部から支部へとシスト市の事実を伝えるだろうに」
「まぁ......シスト市に来たのは、滝川から計画の証言を取ること――と、この少年の保護ですね」
「証言の方は分かるが......」
倉持隊長が俺を鑑定でもするかのように、観察してきた。
「なぜこの少年を?」
「それは言えません」
「えぇ!? なんでですか! めちゃくちゃ気になりますよ!」
「教えてくれたって――」
「すみません。 ちょっといいですか?」
時任が話に割って入ってきた。
あまり喋らない人だから――いきなり話し出すのを見ると、俺は毎回少しビクッとしていた。
「あまり無駄話をしている時間はないのでは? 一刻も早く施設内の情報を集めないと」
「そうですね......。 みなさん、切り替えましょうか」
工藤が両手を打ち合わせた。
「倉持隊長、今の施設内の状況を分かる範囲で教えてください」
「あ、あぁ......」
倉持は途端に暗い顔になった。
「どうしました?」
「......残念だが、ショッピングモール内には、もうほとんど生き残りはいない。 君たちが誰かを救出するつもりだったのなら、少し......遅かったかもしれない」
「そんなっ!?」
俺はすぐに奥の方にある――監視カメラの映像が映る、何台ものモニターの前に走り寄った。
(姉さん......姉さんは!?)
端のモニターから順に、視点を移動させていく。
「......倉持さんたちは、映す映像の切り替えの仕方は分かりますか?」
「あ、あぁ」
「彼が探している人物が見つかるまで、映像を切り替えていってください」
「分かった。 安田、川村頼んだ」
二人は返事をして、デスクの前に立ち、パソコンを操作していった。
切り替わっていく映像――動いているのは目だけだ。
――集中する。
正確に画面の向こうの情報を読み取っていく――すると、
「......っ!! 切り替え、止めてください!」
モニターの動きが止まる......。
俺の目も、一つの映像を映す一台のモニターに留まっていた。
「まじ......かよ」
――ぞっとした。その異様な光景に。
目から入るその光景が、恐怖を――絶望を湧き上がらせた。
「うわ......あれってもしかして」
「あのカメラから、音声も拾ってください!」
――そこには、大量にうごめく人の波が見えた。
人なら良かった......けれど、あれは――
紫色に光る眼が不気味に揺れる......。
もう聞きたくなかった、あのうなり声が聞こえてくる......。
あれは――
「全部......シャドウだ......」
画面全体を覆いつくすシャドウ......。
いったい、何体いるのか想像もつかない。
「あそこって......1階だよな? なんでこんなにシャドウが集まってるんだよ」
「すごい数だね~、私たちのいる3階には全然シャドウいなかったのって、1階に集まってたから?」
ただ――そのシャドウの群れは、大きな円の空間を作っていた。
その円の中には、さらに人の群れが見える。
「人......か?」
「ここの場所を映している別な監視カメラがあるはずです! 別なモニターにも映してください!」
俺はモニターに目を向けたまま、そう言い放った。
また、次々にモニターが切り替わる。
ほとんどのモニターにシャドウの群れ――中心の人の群れが映り込む。
「あれは......人だ! 生存者だ!」
カイトの言うとおり、円の中央で身を寄せ合っている人たちは、シャドウではなかった。
恐怖で震える大人たち......。
泣いている女性に、子供までいる。
いったい......何をしているんだ――。
「......っ!! あそこのカメラ! あのカメラをズームしてください!!」
俺は再び、指示を出した。
一台のモニターは、人質の群れの中を拡大していく......。
俺の目は、その人だかりの中にいる――あるひとりの人物だけに向けられていた。
近づくにつれ、早くなる鼓動......。
まさか――あそこにいるのは――あのシャドウの群れの中で、恐怖に染まった顔をしているのは――
「......ねえ......さん」
読んでいただき、ありがとうございました。
やっと......姉の姿を確認できた明希也!!
しかし、状況は最悪なようで――果たして、どうなるのか!?
次回もよろしくお願いします!




