第25夜 我がままな同行者
戦闘シーンって......書くの難しい。
「明希也くん、もう離れちゃだめだよ? さっきは危なかったんだから」
「わ、分かってるって」
シャドウを浄化した俺たちは再び、防犯室へと歩みを進めていた。
「全く、どうなってるんだ! 早く帰りたいってのによぉ!」
一人増えた同行者と共に――。
このおっさんは、さっきまでシャドウだったやつだ。
シャドウ化した人間は、乗っ取られてからの記憶はない。それに、乗っ取られる前からの記憶も混濁してしまうのだ。
元の人間に戻り、意識を取り戻したこのおっさんは、最初は状況が呑み込めず混乱していた。
しかし、浄化後の対応、状況説明など、工藤たちがうまい具合にこなし、この人は必要以上に混乱しないで済んだようだった。
(手慣れた様子だったな。 工藤さんたち......)
戦闘だけでなく、ああいう場面でも頼りになる人たちだ。
と考えていると、腕に柔らかい感触が襲ってくる。
「ちょ! ちょっと近過ぎないか!?」
「いやいや、周りは真っ暗の状態で、またいつ、どこからシャドウが襲ってくるか分からないんだよ? すぐ守れるようにしとかないと!」
(くっ......無意識でやってんのかコレ)
俺はリナに片腕をギュッと組まれていた。
それゆえ、俺の腕には定期的に、柔らかいリナのモノが当たってしまう。
腕を少し逃がそうにも、それを悟られて、ギュッとまたくっつけられてしまう。
守るためとはいえ、これはさすがに距離が近いのではないか。
リナの顔を横目で見る......至って普通だ。
少し顔に笑みを浮かべながら、ライトで前を照らしてくれている。
(変に意識してるのは、俺だけかよ......)
俺はリナに気づかれない程度に、ため息を吐く。
俺は他のことに考えを向けるため、リナに質問することにした。
「光兵器って、本当に人間の体は傷つけないんだな」
「すごいよね~、私には仕組みなんてさっぱりだよ~」
「おいこら! お前ら話してないで警戒しろぉ! シャドウが俺を襲ってきたらどうすんだ!」
「......でも、ただの人間も傷付けられるんだよ? 試してみよっか?」
リナはおっさんの方をチラッと目配せした。
「......じょ、冗談だよな......?」
リナは少し間を置いた後――「うん、じょーだんじょーだん!」と笑顔で答えた。
その時のリナから、冷たい気配がしたのは......気のせいなのだろう――。
話題を変えるために、俺は別な質問を投げかける。
「さっきの武器ってどっから出したんだ? 最初から腰に下げてなかったようだったけど?」
鞘に納められた刀を指さした。
「ああ、光兵器はね、ちっちゃくできるんだよ~、こんな風に」
リナが柄の部分にあるスイッチのようなものを長押しした――。
すると瞬く間にして、武器が鉛筆サイズの大きさに変形した。
「持ち運びにすっごく便利なんだよ~」
棒になった光兵器を指先でくるくると回しながら、そう言った。
「少し......おかしいですね」
工藤が周りを見渡しながら口を開いた。
「おかしい......って、何が?」
「シャドウとの遭遇が圧倒的に少ないんですよ」
「いいことじゃない?」
「もちろん、遭遇しないにこしたことはないんですが......この施設の襲撃時には、もっと多くのシャドウがいるはずなんですよ。 それがどこに消えたのか......」
「おい、そんなことより安全な場所には、いつになったら着くんだ? ここはひどい臭いで鼻が曲がりそうだ。 靴も血で汚れてしまったし、早く外に出られんのか?」
この人......俺の嫌いなタイプの人間だ。えらく我がままで、自己中。
どこかの社長か何かなのだろうか。
「もうすぐ防犯室に着きます。 そこでひとまず施設内の状況を把握しましょう。 我々はパージストですので、他の人質がいれば救出しなければ――」
「他の奴など、放っておけ。 私を無事に外まで護衛すれば、報酬は弾むぞ? ん?」
なんだか、話を聞いてるとイライラしてくるおっさんだな。
カイトも俺と同じ気持ちなのか、おっさんの後ろで中指を立てている。
「......すみません、市民は平等に守るのが我々ですので」
さすが工藤さん――冷静な対応だ。
反対に、おっさんはそれを聞いて、気に食わなそうに「フン」と鼻を鳴らした。
それから、ほどなくして――
「あっ! あれじゃない? 防犯室って」
リナがそう言い、持っていたライトを指さし代わりに、まっすぐ伸ばした。
ライトの照らす先――ドアの上部に「防犯室」と書かれた室名表示版が見えた。
「なんだ? あそこが安全なのか? 早く入らせろ!」
「おわっ!」
後ろからおっさんに肩を掴まれ、どかされたせいで、転びそうになった。
「......明希也くん、あいつやっぱ――」
「い、いいから! 俺たちも中入るぞ」
リナのその後に続く言葉は怖くて聞きたくなかった。
――ので、今度は俺がリナの腕を引っ張っておっさんの後を追った。
俺たちのことを待たず、おっさんが防犯室のドアに手をかけた――その矢先、
「ちょっとトイレ行ってくるわ~」
中の方から誰かが出てきた。
服装を見ると、その男はパージストの軍服を着ていた。
男は目の前のおっさんに気付くと、その途端に体の動きを止めた。
「お、おい! 役立たずのパージストども! こんなところにいるなら、早く助けにこんか! もちろん、中に水や食料はあるんだろうな?」
おっさんは指差ししながら大声でパージストに怒鳴った。
するともう一人、男のパージストが中から出てくる。
「ん? あれ? 生き残りまだいたんすね」
「......おいおい、ちゃんとカメラ見とけよ。 結局みんなしてサボってんじゃねえか」
(よかった......ここにはまだパージストが何人かいるんだ)
パージストの軍服を着た男が二人......人質の救出のために突入した部隊――の生き残りだろうか。
まだ全滅したわけではないのだと分かり、俺は少し安心した――いや、待て。
――シスト市のパージストを本当に信用していいのか......。
俺は滝川にされた話を思い出した。
あの話が本当だとすれば、パージストたちも侵攻計画を実行した共犯者だ。
だとすれば――
ドクン......。
予知で流れてきたその光景を見て、俺は確信した。
(このパージストたちは危険だ!)
「おい! 聞いてるのか!?」
パージストはおっさんを無視し、懐から何かを取り出した。
「おっさん! そいつらから離れ――」
「死んどけ」
取り出したものは光兵器だった。
刀の形を瞬時に形成し、パージストはそれを――
「か......はっ」
おっさんの首に向かって振った――。
おっさんの首から、噴水のように激しい勢いで血が噴き出す。
返り血を浴びないように、パージストはおっさんの体を足で蹴とばし、地面に倒れこませた。
(くっ......! くそ!)
陸でもがく魚の様に痙攣するおっさん。
あの血の量――もう助からない。
おっさんを斬ったパージストが、今度は俺とリナの方に目を向ける。とても冷たい目だ。
(来るっ......!)
一気に距離を詰めてきた。
その速さと勢いに体が対応できず、俺は手を前にかざして防ごうとするしかなかった――。
が、リナが俺の腕から瞬時に離れ、前に移動するのが見えた。
次の瞬間――パージストとリナの刀がぶつかり合い、互いに動きが止まる。
「な~んだ、やっぱシスト市のパージスト、敵なんだね」
「見ない顔だな。 別な都市のパージストか?」
と言葉を交わした直後、激しい剣戟が俺の目の前で起こった――。
(全然見えねぇ......)
人間離れした二人の動きに圧倒され、俺は立ち尽くすだけだった。
激しい戦闘の中、今までで一番鋭い音が鳴った。
パージストの重い一撃がリナの刀に当たり、距離が離れる。
「......攻撃が軽すぎる。 これはすぐ終わりそうだ」
「そうだね、すぐ終わっちゃうね!」
「......っ!」
男のパージストの頬には傷が付いていた。
いつできた傷なのか、全く見えなかった――が、リナが付けた傷なのだとすぐに分かった。
その傷から流れる血をパージストは拭い取り、怒りの目をリナに向けた。
「......殺す」
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