第23夜 暖かな記憶
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「あきや! あんた自分が何したか分かってるの!?」
明希也は玄関で美奈の説教をうけていた。
「ちゃんと懐中電灯持って行ったからいいじゃん! それに学校の先生だって、『シャドウに遭遇するのなんて、人生で一回あるかにかだ』って言ってたよ!」
「その先生は夜に外出なんてしないから、遭遇してないのよ! あなたは今日、夜に外に出ていて、遭遇してたかもしれないのよ!?」
「お......おれの友達だって夜に見に行ってり、捕まえたりしてるやついるよ! 今日だって友達と一緒だったし――」
その日は結衣の誕生日であった。
明希也は星をまだ見たことがない結衣のために、星の様に綺麗に光る蛍を捕まえ、結衣に見せてやろうと、夜に外出していたのだ。
「他の人がしてるからって、真似していいことじゃないでしょ!?」
「あきにぃ......?」
リビングからひょこっと顔を出し、結衣が玄関の様子を覗く。
「あっ! ゆい!」
「ちょっと! まだ話は終わってないわよ!」
結衣の姿を目にすると、明希也は明るい表情で駆け寄った。
「ほら、ゆい! 見てみろよ!」
持っていた虫かごの中身を結衣に見せる。
明希也の考えていたプランでは、綺麗に光る蛍を見せて、結衣の感謝の言葉と笑顔がもらえる場面であった。
――しかし、
「あ......あれ? おかしいな」
虫かごを揺すっても――叩いてみても――その虫かごにいる蛍は光らなかった。動いてすらいなかった。
「ゆいごめんな、またこんど別なの捕まえてくるから――」
「ゆい、虫なんかいらない!」
「えっ......」
「早く帰ってきてほしかったのに! あきにぃのバカ!」
「なっ......なんだと~!」
明希也は結衣を突き飛ばした。
「うっ......うわぁぁぁぁぁん」
「何やってるのあきやぁ!!」
美奈の怒鳴り声から逃げるように、自分の部屋まで走り去る。
部屋に入ってすぐ鍵を閉め、ベッドに潜り込んだ。
「ちぇ、姉ちゃんのわからずや。 ゆいもゆいだよ、あんなこと言っちゃってさ」
おなかが空いていることも、ゆいを祝おうとしていた気持ちも、もうどうでもよくなった。
「......せっかく頑張ったのにな......」
まだ、1階で結衣の泣き声が聞こえてくる。その声が耳に入ってくると、なんだか胸がもやもやした。だから、深く布団をかぶった。
――何も聞こえなくなった。
だが、その代わりに今度は、どうしようもない寂しさに襲われた。
全然眠くない――が、仕方なく目を閉じる。
その嫌な気持ちを早く忘れるために、明希也は眠りにつくのだった。
■
――暗闇の中を走っていた。
右も左も、前も後ろも、暗くて暗くて、泣きながら走っていた。
『くるな! くるなぁぁぁぁぁぁ!』
後ろから迫ってくる無数の影から必死に逃げる。
だが、その驚異的なスピードで迫る影からは逃げられず、明希也は足をつかまれる。
それが、次第に上ってきて俺の全身を侵食していく。
『は......離せ! このっ!』
足に力を入れて影から抜け出そうとするが、深い沼にはまってしまったように、足が動かなかった。
足元に気を取られていると、今度は不気味な笑い声が耳に入ってきた。
それがヒトのものなのか、動物のものなのか判断できない。耳を塞ぎたくて仕方なかったが、すでに手が影に包まれていた。
――手がなくなってしまったみたいだ。ぴくりとも動かせない。
『......っ!』
いつの間にか、周りに紫色の光が広がっている。
その光の中から、得体のしれない影が異形な形をして、近づいてくるのが見える。
目をそむけようにも、もはや首も動かせない。
目を閉じようにも、まぶたが下がらない。
身動きが取れない中、視界を少しずつ恐怖が支配する感覚――。
『だ......だれかぁぁぁぁ! たすけてぇぇぇぇ! んぐっ......!』
あまりの恐怖で泣き声をあげ、助けを求めたが、口までもふさがれ、なすすべがなくなった。
(いやだ......いやだぁぁ)
その異形はヒトのような形に変わり、鋭くとがった影を明希也に狙いを定めた。
(かみさまぁ! ごめんなさい! 姉ちゃん、ゆい、ごめんなさい! もう悪いことしないから! いい子にするからぁ! だから――)
それでも、嘲笑う声は鳴り止まない。
明希也の必死の願いも空しく、異形は無慈悲に、明希也の体を貫いた――。
「うわぁぁぁ!」
――目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋だった。
「......っ!」
明希也の向かった先は、姉の部屋だった。姉と結衣は、いつも一緒に寝ているのだ。
「姉ちゃん......姉ちゃん......もう寝ちゃったの?」
部屋のドアを開けて、声をかける。
「......なに?」
どうやら起きていたようだ――。
結衣とベッドで横になっていた姉。
しかし、その声は少し怒り気味だった――。
肝が冷える。
「あのさ......その......」
――上手く言葉が出なかった。
色々考えてから、ドアを開けた方がよかったかもしれない。
けれど、あの夢のせいで、気が付けば姉のもとへと足が動いていたのだ。
「......ええと」
一緒に寝てもいいか――。
それを言葉にすればいい。
恐い夢のせいで眠れない。眠るのが恐い。それを伝えればいい――。
ただ、それだけなのだが、夜遅くまで外出していたことをまだ怒っているようだった。さっきの声を聞いて、明希也はそう感じた。
「......やっぱ、何でもない」
これでは、願いを聞き入れてはもらえないだろう。
仕方がない。自分が悪いんだ。悪いことをした自分への罰なんだ――。
そう思い、諦めて部屋に戻ろうとした。
「あきや」
不意に名前を呼ばれて、びくっと動きを止める。
「......あきやも、一緒に寝よっか」
「......うん」
――怒られると思った。あの怖い声で。
でも、その時の姉の声は、すごく優しかった。
姉の横まで行き、布団を体にかぶせる。
姉と顔を合わせる勇気はまだ出なかったので、背を向ける姿勢で横になった。
それを待っていたかのように、美奈は寝返りを打ち、結衣の方に向けていた体を明希也へと移す。
――しばらくの間、沈黙が続いた。
姉の向こう側にいるであろう結衣は、すでに寝息を立てて、眠っている。
自分から尋ねてきたのだから、自分が始めに口を開かなければならない。
言わなきゃいけないこと――それも分かってる。だけど......
――拒絶されたらどうしよう
その考えが邪魔をして、なかなか言い出す勇気が出なかった。
「......っ!」
すると突然――頭に優しい手の温度が伝わってきた。
同時に「姉が自分のことを受けとめてくれる」という安心感が明希也の心を包み込んだ。
「......ごめんなさい......姉ちゃん」
その姉の暖かな接し方に、明希也の口が自然と開き始めた。
「おれ......ゆいのために頑張ったんだよ。 おそい時間まで外に出ていてさ。 ホントは怖かったけど、喜ばせてやろう......って、頑張ったんだよ」
「うん」
「よく考えたら姉ちゃんの言うとおりだ......。 自分がすごく......危険な事していたって、すごく反省してる」
「うん......うん」
知らないうちに、目からは涙があふれ出ていた。
泣いているのがバレる――というのは恥ずかしい。
そう思った明希也は、丁寧に――少しずつ、抱えていた気持ちをさらけ出していった――。
しばらくして、明希也が話し終える。
明希也の気持ちを最後まで聞いた美奈は、明希也をなでていた手をそっと止めた。
「すごく......心配したんだよ。 私も結衣も」
「ごめんなさい」
「結衣はね......ただ、誕生日にお兄ちゃんがいてくれれば、それでいいの。 遠くに行ってほしくないだけなんだよ」
「うん」
「私も、明希也が優しい子だって......分かってるから――大切な家族だから――危険なことはしてほしくないの。 それは分かってほしい」
「うん」
美奈は明希也をぎゅっと抱き寄せた。
「明日......結衣に謝んなさいよ」
「分かってるって......」
「また明日、ゆいの誕生日会やり直そうね」
「うん......」
暗闇から姉が、自分を守ってくれている――。
姉にくっついて寝ていると、それを強く感じる。
さっきまで、一人で布団に入っている時とは全然違う。
安心する――。
暖かい――。
完全に眠りにつくその前に、明希也は考えていたことを美奈に伝える。
「姉ちゃん」
「ん?」
「お......俺が今よりも大きくなったら、強くなったら、その時は俺が――」
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