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シャドウズ  作者: saji
26/55

第23夜 暖かな記憶

この作品を見つけて下さり、ありがとうございます!

最後まで読んでいただけたら幸いです。

 

「あきや! あんた自分が何したか分かってるの!?」


 明希也は玄関で美奈の説教をうけていた。


「ちゃんと懐中電灯持って行ったからいいじゃん! それに学校の先生だって、『シャドウに遭遇するのなんて、人生で一回あるかにかだ』って言ってたよ!」


「その先生は夜に外出なんてしないから、遭遇してないのよ! あなたは今日、夜に外に出ていて、遭遇してたかもしれないのよ!?」


「お......おれの友達だって夜に見に行ってり、捕まえたりしてるやついるよ! 今日だって友達と一緒だったし――」


 その日は結衣の誕生日であった。

 明希也は星をまだ見たことがない結衣のために、星の様に綺麗に光る蛍を捕まえ、結衣に見せてやろうと、夜に外出していたのだ。


「他の人がしてるからって、真似していいことじゃないでしょ!?」


「あきにぃ......?」


 リビングからひょこっと顔を出し、結衣が玄関の様子を覗く。


「あっ! ゆい!」

「ちょっと! まだ話は終わってないわよ!」


 結衣の姿を目にすると、明希也は明るい表情で駆け寄った。


「ほら、ゆい! 見てみろよ!」


 持っていた虫かごの中身を結衣に見せる。

 明希也の考えていたプランでは、綺麗に光る蛍を見せて、結衣の感謝の言葉と笑顔がもらえる場面であった。


 ――しかし、


「あ......あれ? おかしいな」


 虫かごを揺すっても――叩いてみても――その虫かごにいる蛍は光らなかった。動いてすらいなかった。


「ゆいごめんな、またこんど別なの捕まえてくるから――」

「ゆい、虫なんかいらない!」

「えっ......」

「早く帰ってきてほしかったのに! あきにぃのバカ!」

「なっ......なんだと~!」


 明希也は結衣を突き飛ばした。


「うっ......うわぁぁぁぁぁん」

「何やってるのあきやぁ!!」


 美奈の怒鳴り声から逃げるように、自分の部屋まで走り去る。


 部屋に入ってすぐ鍵を閉め、ベッドに潜り込んだ。


「ちぇ、姉ちゃんのわからずや。 ゆいもゆいだよ、あんなこと言っちゃってさ」


 おなかが空いていることも、ゆいを祝おうとしていた気持ちも、もうどうでもよくなった。


「......せっかく頑張ったのにな......」


 まだ、1階で結衣の泣き声が聞こえてくる。その声が耳に入ってくると、なんだか胸がもやもやした。だから、深く布団をかぶった。


 ――何も聞こえなくなった。

 だが、その代わりに今度は、どうしようもない寂しさに襲われた。


 全然眠くない――が、仕方なく目を閉じる。

 その嫌な気持ちを早く忘れるために、明希也は眠りにつくのだった。



 ■



 ――暗闇の中を走っていた。

 右も左も、前も後ろも、暗くて暗くて、泣きながら走っていた。


『くるな! くるなぁぁぁぁぁぁ!』


 後ろから迫ってくる無数の影から必死に逃げる。


 だが、その驚異的なスピードで迫る影からは逃げられず、明希也は足をつかまれる。

 それが、次第に上ってきて俺の全身を侵食していく。


『は......離せ! このっ!』


 足に力を入れて影から抜け出そうとするが、深い沼にはまってしまったように、足が動かなかった。


 足元に気を取られていると、今度は不気味な笑い声が耳に入ってきた。

 それがヒトのものなのか、動物のものなのか判断できない。耳を塞ぎたくて仕方なかったが、すでに手が影に包まれていた。


 ――手がなくなってしまったみたいだ。ぴくりとも動かせない。


『......っ!』


 いつの間にか、周りに紫色の光が広がっている。

 その光の中から、得体のしれない影が異形な形をして、近づいてくるのが見える。

 目をそむけようにも、もはや首も動かせない。

 目を閉じようにも、まぶたが下がらない。


 身動きが取れない中、視界を少しずつ恐怖が支配する感覚――。


『だ......だれかぁぁぁぁ! たすけてぇぇぇぇ! んぐっ......!』

 あまりの恐怖で泣き声をあげ、助けを求めたが、口までもふさがれ、なすすべがなくなった。


(いやだ......いやだぁぁ)


 その異形はヒトのような形に変わり、鋭くとがった影を明希也に狙いを定めた。


(かみさまぁ! ごめんなさい! 姉ちゃん、ゆい、ごめんなさい! もう悪いことしないから! いい子にするからぁ! だから――)


 それでも、嘲笑う声は鳴り止まない。


 明希也の必死の願いも空しく、異形は無慈悲に、明希也の体を貫いた――。



「うわぁぁぁ!」


 ――目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋だった。


「......っ!」


 明希也の向かった先は、姉の部屋だった。姉と結衣は、いつも一緒に寝ているのだ。


「姉ちゃん......姉ちゃん......もう寝ちゃったの?」


 部屋のドアを開けて、声をかける。



「......なに?」


 どうやら起きていたようだ――。

 結衣とベッドで横になっていた姉。

 しかし、その声は少し怒り気味だった――。


 肝が冷える。


「あのさ......その......」


 ――上手く言葉が出なかった。


 色々考えてから、ドアを開けた方がよかったかもしれない。

 けれど、あの夢のせいで、気が付けば姉のもとへと足が動いていたのだ。


「......ええと」


 一緒に寝てもいいか――。


 それを言葉にすればいい。

 恐い夢のせいで眠れない。眠るのが恐い。それを伝えればいい――。


 ただ、それだけなのだが、夜遅くまで外出していたことをまだ怒っているようだった。さっきの声を聞いて、明希也はそう感じた。


「......やっぱ、何でもない」


 これでは、願いを聞き入れてはもらえないだろう。

 仕方がない。自分が悪いんだ。悪いことをした自分への罰なんだ――。


 そう思い、諦めて部屋に戻ろうとした。


「あきや」


 不意に名前を呼ばれて、びくっと動きを止める。


「......あきやも、一緒に寝よっか」


「......うん」


 ――怒られると思った。あの怖い声で。


 でも、その時の姉の声は、すごく優しかった。



 姉の横まで行き、布団を体にかぶせる。

 姉と顔を合わせる勇気はまだ出なかったので、背を向ける姿勢で横になった。


 それを待っていたかのように、美奈は寝返りを打ち、結衣の方に向けていた体を明希也へと移す。



 ――しばらくの間、沈黙が続いた。


 姉の向こう側にいるであろう結衣は、すでに寝息を立てて、眠っている。



 自分から尋ねてきたのだから、自分が始めに口を開かなければならない。

 言わなきゃいけないこと――それも分かってる。だけど......


 ――拒絶されたらどうしよう


 その考えが邪魔をして、なかなか言い出す勇気が出なかった。


「......っ!」


 すると突然――頭に優しい手の温度が伝わってきた。

 同時に「姉が自分のことを受けとめてくれる」という安心感が明希也の心を包み込んだ。


「......ごめんなさい......姉ちゃん」


 その姉の暖かな接し方に、明希也の口が自然と開き始めた。


「おれ......ゆいのために頑張ったんだよ。 おそい時間まで外に出ていてさ。 ホントは怖かったけど、喜ばせてやろう......って、頑張ったんだよ」


「うん」


「よく考えたら姉ちゃんの言うとおりだ......。 自分がすごく......危険な事していたって、すごく反省してる」


「うん......うん」


 知らないうちに、目からは涙があふれ出ていた。


 泣いているのがバレる――というのは恥ずかしい。

 そう思った明希也は、丁寧に――少しずつ、抱えていた気持ちをさらけ出していった――。



 しばらくして、明希也が話し終える。


 明希也の気持ちを最後まで聞いた美奈は、明希也をなでていた手をそっと止めた。


「すごく......心配したんだよ。 私も結衣も」


「ごめんなさい」


「結衣はね......ただ、誕生日にお兄ちゃんがいてくれれば、それでいいの。 遠くに行ってほしくないだけなんだよ」


「うん」


「私も、明希也が優しい子だって......分かってるから――大切な家族だから――危険なことはしてほしくないの。 それは分かってほしい」


「うん」


 美奈は明希也をぎゅっと抱き寄せた。


「明日......結衣に謝んなさいよ」


「分かってるって......」


「また明日、ゆいの誕生日会やり直そうね」


「うん......」


 暗闇から姉が、自分を守ってくれている――。

 姉にくっついて寝ていると、それを強く感じる。


 さっきまで、一人で布団に入っている時とは全然違う。


 安心する――。

 暖かい――。


 完全に眠りにつくその前に、明希也は考えていたことを美奈に伝える。


「姉ちゃん」


「ん?」


「お......俺が今よりも大きくなったら、強くなったら、その時は俺が――」


読んでいただき、ありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!

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