第20夜 夜空を駆ける少女
20話です。それでは、どうぞ〜!
どういう原理なのかは分からない。
でも、今――目の前で、人が空を飛んでいる。高速で移動している。
「あきやくん、だいじょうぶ~?」
「そ、そっちこそ、大丈夫なの!? これ!?」
「こんなのパージストならだれでもできるよ~。 あきやくんと話しながらでも全然余裕~。 あっ、あきやくんって好きな食べ物なに? わたしはねー」
「いいから! 今そういうのいいから! 跳ぶのに集中してくれぇ!」
震えた声でそう訴える。
何かのミスで、落ちるのだけは勘弁してほしかった。
横や下を見る余裕はなかったが、抱きかかえられているので、リナの動作が自分の体にも伝わってきた。
足場などどこにもないはずなのに、右足、左足と、交互に動かし、地面を蹴るような動作で移動しているのが分かる。
普通に走るのと変わらず空を走るーー
そんな彼女の姿に、抱いていた恐怖や混乱の気持ちが薄れていった。
だが逆に、女の子に抱きかかえられ、遠慮なく掴まっている自分に対しての羞恥心が増す。
複雑な心境の中、こっそりリナの顔を見てみる。
「......っ!」
ーーその顔はとても楽しそうな表情をしていた。
大変な様子など微塵も感じられず、リナはまっすぐに前を見て笑っていた。
「あきやくん、もう少しで着くよー」
そう声をかけらた瞬間、リナの顔から急いで目をそらした。
顔を見ていたと知られたら、なんかめんどくさそうだと思ったからーー
心に少し余裕ができ、リナの進む方向に目を向ける。
目的地であるショッピングモールの屋上が、もうかなり近いところまできていた。
リナが今までよりも少し強く、空中を蹴った。
その動作が体に伝わり、間もなく着地するのだと感じ取った俺は、目をギュっと閉じ、着地の衝撃に身構えた。
「よっっっっと! ......ふぅー! あきやくん、着いたよー」
(......あれ? もう着地したの?)
目を恐る恐る開いてみると、リナの足は屋上の地にちゃんと着いていた。
着地の衝撃がほとんど感じなかった。
それも、この機動靴という物のおかげなのだろうか――
と、考えていると、工藤、カイト、時任も後から着地してきた。
大きな音も出さず、難なく着地を成功させている彼ら。
やはり機動靴の性能は、自分の予想を遥かに超えるものだったと思い知らされる。
「あきやん、いつまでリナっちに抱っこされてるの? 」
「......っ!」
それを聞いて、ハッと我に返る。
そうだった――こんな状態でずっと晒されていては積もりに積もった羞恥心が爆発してしまう。
あたふたしながらも、早く頼んで下してもらおう。
という状況の中で――リナと目があった。
慌てた俺の顔を、なんかニコニコしながら見ていた。見られていた。
「アハハー! あきやん恥ずかし~! もう着いたから大丈夫だよー」
「い、今下りますって!!」
「えぇ~! そんなすぐに下りなくてもいいよー」
渋ってなかなか放そうとしないリナを押しのけ、俺は地に足をつけた。
自分は運ばれていただけで、何もしていないはずなのに......。
変な疲れがどっと湧いてくるのを感じる。
俺はその疲れを吐き出すように、大きく息をつく。
「あきやく~ん? 忘れてないよね?」
「えっ? あ~」
あれか――ショッピングモールまで跳べたら、名前呼んでほしいってやつのことか。
でも、なんだか名前だけ言うのも恥ずかしいな。
いや、もうすでに恥ずかしい思いならしてしまったんだ。これくらいはなんてことない。
「その......ありがとう、リナ」
お礼もかねて、彼女の要望通り名前を呼んであげた。
すると、リナはまたニッと微笑んでみせた。
「えへへ~、どういたしまして!」
ほんとによく笑う子だな。
さっき会ったばかりなのに、もう随分とリナとの距離が近づいたような気がした。
いや、この場合、リナのフレンドリーな性格で、距離を一方的に詰められていると言った方が正しいな。
ただ、別に悪い気もしないし、むしろリナとは仲良くしていきたい――そう思える。
多少疲れる場面もあるが......。
「あそこに、階下へ行く階段室らしきものが見えますね。 まずはあそこから入りましょうか」
「はーい」
工藤の指示のもと、全員が移動を開始する。
その途中、俺は後ろをチラッと確認した。
跳んできた滝川のマンションが、今度は遠くに見える。
数百メートルは離れていたあの場所から、ここまで跳んできたという衝撃を、改めて実感する。
「あのー、カイトさん」
「ん?」
「リナって本当に問題児なんですか? そりゃあ、個性が強くて会話がついていけない時もあるんですけど......今のところ元気で明るい女の子、って印象ですよ?」
リナに聞こえないように、カイトに耳打ちをする。
最初、カイトたちのリナに対する印象や反応を見ていて、いったいどんなヤバい人なのだろうかと、めちゃくちゃ警戒していた。
しかし今は、性格がマイペースすぎるぐらいで、思っていたほど、問題児ではないかもしれないと感じている。
「まぁ......これから付き合っていけば分かるよ」
この時、俺は表情がよく読めないカイトのその顔を見て、少しだけ――なぜかは分からなかったが、ほんの少しだけ背筋が寒くなった。
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