第19夜 怖くないから
19話です。それでは、どうぞ〜!
霧生達が侵入してきた少女のもとへと歩み寄る。
彼らが近づくのを見て、やはり味方なのだと安心した。
「いや~、途中で何体かシャドウと遭遇しちゃって、思ったより時間かかっちゃいました」
え、今なんかすんごい事、言ってなかった?
おれの聞き間違いかな。
「げっ! 出やがったな!」
と声を出したカイトは、いつの間にかソファーの影に隠れていた。
「『げっ』ってカイトさん、ひどくないですか?」
身体を曲げ、彼女は頬を膨らませながら、隠れるカイトを覗きこんだ。
「あっ!」
少女と目が合ったーー
俺の存在に気づくやいなや、ズンズンと詰め寄ってきた。
「あなたが霧生さんが探してたっていう男の子だね!」
「ち......ちか――」
「初めまして~、わたしリナ。 よろしくね~」
「よ......よろし――」
「ねね、あなた何歳? 見た限りだと高2くらいだよね?」
俺が言い終わる前に話が進んでいってしまう。
「じゅ、16歳だけど――」
「わ~! やっぱり同い年だ~!」
リナは俺の手を握ると、嬉しそうな顔をして、腕ごとブンブン揺らしてきた。
「わたし、同い年の友達いなかったんだ~。 だから仲良くしてね」
いきなりインパクトの強い登場の仕方をされ、俺は呆気に取られていた。
加えて、彼女の表情の豊かさと、その気さくすぎる性格にペースを持っていかれていた。
ショートカットの前髪を綺麗なヘアピンで留めており、背は自分より少しだけ小さい。
こんなか弱そうな女の子が、シャドウと戦うパージストだなんて、にわかには信じがたかった。
しかも同い年――
でも、確かにパージストの軍服を着ているし、どこからともなく窓ガラスを割って登場したのを目の当たりにすると、この子は少し特殊な存在なのだと感られる。
「挨拶は後でしてくれ。 細、作戦内容、保護対象のデータこいつに渡しとけ」
「はい」
霧生の指示を受け、時任がフラグメントを操作する。
「リナさん、今送ったデータに目を通してください」
「はーい」
今度はリナがフラグメントを操作し、空中に浮かび上がるデータファイルらしきものを確認していった。
「......おっけー、だいたい理解できた。 サイさん、ありがとうございますー!」
「えっ? はや」
今の一瞬で、これから行う作戦を理解したというのだろうか。
「リナは頭の回転が速いというか、情報処理が他より優れているんですよ」
リナを見て驚いていた俺に、工藤がそう説明した。
「でも、ショッピングモールに入った後の作戦は何も決まってないわけだし? 今回の情報量だったら、俺だってあれぐらいできるし」
張り合おうとするカイトを工藤が「まぁまぁ」と静める。
「そんじゃあ、作戦開始だ。 全員死ぬなよ」
その霧生の一言で、俺の緊張が一気に上ってきた。
「あっ、コーヒーあるじゃん! 飲んでもいい?」
そして、そのリナの一言で、上ってきた緊張は一気に降下してしまった。
「リナ! ほら、もう行くぞ!」
とカイトが急かすが、リナはかまわず、コーヒーの入ったカっプを手に取り、ゴクゴクと飲み進めた。
「んっ......ふぅー、なんか......バカみたいに甘いね! これ!」
と笑顔で言ったリナは、カップを置き、部屋を出ていこうとするカイトと時任の後を追った。
「では明希也くん、私たちも――」
「あっ、その前に、ちょっと待ってください」
俺は霧生に近づき、目の前で頭を下げた。
「ただの知り合いの子供のために、ここまでしてくれて、本当にありがとうございます!」
改めて、自分を助けてくれた霧生に感謝の気持ちを伝えた。
「まだ全部終わってねぇよ。 事が済んだら俺だけじゃなく、全員に礼を言いな」
「はい!」
両親の知り合いだとしても、俺と霧生は何の接点もない。
それでも――危険を冒してでも、この人は俺と俺の家族を助けてくれる。
工藤達にも、感謝してもし足りない――そう感じた。
俺はこれからの作戦に向けて、気合を入れるために両手で頬を叩いた。
そして、喉の渇きを潤そうとコーヒーカップを手に取り、ゴクリッと多めに飲んだ。
「あっっっっんま」
■
部屋を出た後、霧生を除いた全員で、この15階建てであるマンションの屋上に向かった。
「わぁ、いい景色――と思ったけど、ほぼ真っ暗だね」
屋上の周りを囲む手すりから、辺りを見渡す。
明かりのついている住宅はほとんどなく、一定間隔で設置された街灯が、寂しく夜道を照らしているだけだった。
ただ、遠くの方ではっきりと見える明るい場所――あそこが襲撃の起きたショッピングモールなのだと予想がついた。
「そもそも、どうやってショッピングモールまで移動するんですか?」
目的地のショッピングモールを眺めていて、ふと思い出した。
移動手段についてはまだ何も聞いていなかったのだ。
「ヘリか何かで行くんですか?」
「いやいや、そんなんで向かったら警備してるパージストにバレちゃうよ~」
「じゃあ、どうやって?」
「跳んでいくんだよ」
「......すみません、今なんて?」
あれ、聞き間違いかな。
今跳んでいくとかなんとか聞こえたけど――
「跳んでいくの、ビューンって」
「......ヘリでですか?」
「いやだから――」
「私たちが自力で跳んでいくんですよ、明希也くん」
横から工藤が割って入ってきた。
「ちょっ......と、それってどうゆうことですか」
「パージストが足につける装備、機動靴で一気にあそこまで跳んでいくんです」
工藤が片足を前に出し、履いている靴を指さす。
見ると、靴――というよりはブーツに近い形で、それも普通のブーツではない少し特殊な物に見えた。
「一応、学校の授業でチラッと名前だけ出てきたのは覚えてるんですけど――」
俺は工藤の履いている機動靴とショッピングモールとを、交互に見た。
「だいぶ距離ありますよ? それであそこまで行けるんですか?」
「はい、可能です」
工藤にそう断言された。が、やはり半信半疑だった。
特殊な物なのだろうが、いくらなんでも、ブーツの一足であそこまで行くというのは無理がある話だ。空中で足場でも作らない限り、跳んで届くわけがない。それは一目瞭然だった。
「あきやんのこと、だれが運ぶ?」
「あぁ、そうですね。 誰にしましょうか」
「はいはい! わたしが運ぶ! 運びたーい!」
なのに、四人とも飛ぶ気満々で、カイトは体を伸ばしたりしているし、リナはかかとを地面につけて伸脚しちゃっている。
え、マジで跳ぶ流れなの、これ――
「あきやくん」
ぼーっと考え事をしている体がビクンと反応した。
「安心してね! わたしが運んであげるから」
と言うと、リナは助走のためか、ショッピングモールへ跳ぶ手すりから後ろへと下がり、十分に距離を取りに行った。
「ちょっと、運ぶって――」
「ほら、あきやくんもこっちに来てよ。 怖くないから」
優しく微笑むリナ。
そう言われても、これからしようとしていることに、現実味がなく、どうしていいのか戸惑ってしまう。
すると痺れを切らしたのか、リナの方から歩み寄ってきて、俺の腕をつかんできた。
そして、そのまま助走地点まで強引に連れていかれてしまった。
「あきやくんは、お姫様抱っこと背中におんぶするの、どっちがいいかな?」
「......は?」
言葉の意味を理解するのに、少し間が空いた。
ま、まさか――今からこの子に、女の子に、本当に運ばれるというのか。
しかも、今言われたどちらかの方法で。
冗談にもほどがある。
「い、いやいやあそこまで跳ぶことだって信じられないのに、さらに人ひとり抱えて跳べるわけがないでしょ!」
「大丈夫! わたし、こう見えて力持ちだから」
「だから、君が力持ちだとか、そういう問題じゃないんだよ」
「あっ、跳んでいる間は、大きな声出さないでね。 あそこの周りの人たちに気づかれちゃうから」
俺の話を全く聞いていないようだった。カイトたちが言っていた通り、確かにこの子は問題児なのかもしれない。
不安な気持ちが拭えない俺の様子を眺めていたリナが、腕を組み始め、何か考えるそぶりを見せる。
「......あっ! じゃあ、成功したらわたしの名前呼んでみてよ」
「え? なんで?」
「だってさ~、わたしだけ『あきやくん、あきやくん』って呼んでばっかりじゃん? せっかく同い年の友達ができたのに......もっと仲良くなりたい!」
なぜそういう話になるんだ。
それがやる気につながったとして、成功の確率が上がるわけじゃあるまいし――
助けを乞うようにして、工藤の方を見る。
だが、期待ははずれ、工藤は首を横に振った。
「明希也くん、簡単には信じられないかもしれませんが、機動靴を使えば本当に跳んでいけるんです。 人を抱えていたとしても、一人くらいは問題ないでしょう」
「あきやん、もう諦めてその子に運ばれるしかないよ~」
「そんな......」
「で? どっちがいいの?」
まだ完全に信じられていないし、女の子に運ばれるのは非常に恥ずかしいことこの上ない。
しかし、工藤やカイトの反応を見て、ここはもう腹をくくって、従うしかないのだと悟った。
俺はリナに向かって――だけど、少しリナから目をそらしながら、
「お......おんぶで、オネガイシマス」と小さく言った。
それを聞いたリナがニヤリとした。
「おっけー、お姫様抱っこだね!」
「えっ!? いやちがっ、おわぁっ!」
瞬く間にリナにお姫様抱っこされてしまった。
「お、おんぶで! おんぶの方がいいって!」
「えー? なんかよく聞こえなかったし、もうこれでいいよー」
「待ってこれ、めっちゃ恥ずかしいんだけど!!」
「アハハ! 照れてるあきやくん、かわいいー! じゃあいっっくよー!」
抵抗も空しく、リナが走り始めてしまった。
徐々に上がっていくスピード――
リナは迷いなく、手すりに向かって跳び、その上を勢いよく蹴る。
俺を抱きかかえたリナの体は宙へと浮き、すさまじい勢いで空中を移動していった。
恐怖と混乱で口から叫び声が出そうになる。でも、頭の隅にあった『大きい声を出さないで』というリナの言葉が、喉元までに出かかった叫び声を押しとどめさせた。
恥ずかしさなんて、いつの間にか吹っ飛んでいた。
その時、俺はリナの首元に腕を回し、落ちないように――落ちないようにと、ただただ祈り続け、がっしりと掴まることしか出来なかった。
読んでいただき、ありがとうございました!
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