第17夜 作戦会議
17話です。それでは、どうぞ〜!
「美奈を......家族を救いたい。 救うためにここに来た」
涙目になりながらも、霧生の目をしっかりと見て、俺は自分の目的を声に出した。
「......よし! それを俺たちが手伝ってやろう」
「ちょっ! 霧生さん!? 滝川から証拠も取りましたし、その子が例のやつなら、もう目的は達成してますよね! 帰りましょうよ~」
金髪の男がめんどくさそうな口調で言う。
「明希也、ちょいと聞くが、俺らがお前の家族救出に協力せずに、お前を街から連れ出したいって言ったらどうする?」
「そ、そんなの嫌だ! それなら俺はあんたらと一緒についていく気にはなれない!」
「自分が死ぬことになっても、だな?」
「死」という言葉に少し怯む......。
だが、すぐに俺は気持ちを奮い立たせ、滝川に向かって指をさし、
「大切な家族を置いて、自分だけ助かる道を選んだら、あいつと一緒だ」
そう自分の強い決意を霧生に示した。
「ほらな? まず、こいつの目的をかたずけないと、一緒に街を抜け出せねぇってことだ」
「そ、そんな~。 もう帰れると思ったのに~。 でも、霧生が言うなら仕方ないか~」
「では、すぐに新しい任務について話し合うべきですね」
合流した霧生の仲間二人とも協力してくれるみたいだった。
工藤の方にも目をやると、「僕も協力しますよ」というように黙って頷いてくれた。
「あ......ありがとうございます!」
感謝を込めて深くお辞儀をした。
安心と嬉しさと感謝の気持ちが心を埋め尽くしていくようだった。
「そんじゃ、話しやすい場所に移動するか」
■
駐車場から移動してきたのは、近くにあった15階建てのマンションの一室だった。
金髪の男曰く、ここは滝川がいくつも所有するマンションの一つだったようだ。
中に入るには電子ロックを解除しなければならなかったが、滝川から鍵をぶん取ったので、俺たち部外者でも簡単に入ることができた。
かくいう滝川はというと、護衛をしていた男たちと同じように、気絶させてから駐車場にある適当な車にぶち込んでおくことになった。どうやら、停めてある車も全部あいつの物だったらしい。
「とりあえずここでいいか」
エレベーターを上がり、10階に着く。
廊下にはドアがいくつもあり、霧生はその中から適当に一番近いドアを開けた。
広いリビングと、それに自然と溶け込む綺麗なキッチン。大理石の床には、派手なデザインのカーペットが広々と敷いてある。ガラス張りの窓の外は真っ暗だったが、ベランダがあるようだった。
家具も、照明も、どこを見ても高級感漂う内装で、明かりをつけた途端、それら全てがパッと一気に目に入ってきたもんだから「すげぇ」と声が漏れた。
「すげーとこ住んでんなぁ~、おっ! コーヒーメーカーあるじゃん~」
「カイト、余計な事するな」
「いいじゃん、みんなの分も淹れっからさ~」
金髪の男が無遠慮な感じで、部屋の器具を使いにキッチンへ行く。
「全員座れ」
すでにL字型の大きなソファに座っていた霧生が、こっちだと言うように手招きしてきた。
二人のこの遠慮のなさに、何とも言えない気持ちになったが、工藤と眼鏡をかけた女性が適当に座るのを見て、俺も何も気にせず座ることにした。
「まずは、自己紹介しとくか。 俺と工藤はさっきしたから、お前らもしておけ」
霧生がそう言うと、すぐに眼鏡をかけた女性がこちらに顔を向けた。
「時任細と申します。 よろしくお願いします」
落ち着いた空気を漂わせ、背筋をシャキッと伸ばして座っている。姿勢がめちゃくちゃよい。
細くもキリっとした目と長い黒髪、工藤と同じような丁寧な言葉遣い、おまけに眼鏡までかけているので、かなり理知的な印象を受けた。
「あっ! 俺はカイト、カイト・クルークだよ~。 よろっす!」
少し離れたところから自己紹介をしてきたのは金髪の男。
これまでの言動を見るに、とても自由奔放な性格だとうかがえる。
それに、最初に感じた陽気で人当たりが良さそうな人物、というイメージは間違いないようだ。
次は俺の番。やや緊張気味で二人に頭を下げながら――
「た、谷原明希也です。 よろしくお願いします」
「さっき言ったが、こいつが俺の探していた人物だ。 こっちに着いたらすぐに見つかると思っていたんだが......あきや、お前の家って引っ越ししたのか?」
「いや、してない......と思うけど」
「そうか......そういえば健二と真紀、二人は元気にしてるか?」
霧生の口から出てきた名前、それは俺の父さんと母さんの名前だった。
「えぇと、その......」
言葉が詰まった。その件について触れられると、一気に複雑な気持ちになる。それは表情にも表れていたことだろう。
でもここは――霧生には、正直に話した方がいいのかもしれない。
「実は2年ぐらい前から行方不明で......。 シスト市のラディウスで働いてたらしいから、問い合わせたんだけど、分からないって......」
「それは――」
霧生は何かを言い出そうとしていたようだった。でも――
「いや、あいつらならきっとどっかで生きてるさ」
ほんの少しだけ言葉を止めた後、そう口にした。
ーーおそらく、霧生が言おうとしていたことは、別の言葉だったのだろう。そう感じる。
失踪した日から、父さんと母さんについては何も分からないままだ。
結衣や姉さんとも探してみたが、はっきりした手掛かりは見つけられなかった。
急に親がいなくなった当時は、この先やっていけるか、不安で仕方なかった。でも、父さんたちの貯金を上手く使い、学校を休んでバイトの時間を作ったりもして、何とか三人で協力して今まで生活してこれた。
長男だし、しっかりと自分が家族を支えていかなければ――そう決心して、俺は頑張ってきた。
それでも、親のいない寂しさや、自分ではどうすることもできない虚しさの気持ちは、ずっと頭の片隅に残り続けている。
ーーそんな消えない不安を抱えて生きていた。
だから、たとえ気休めでも、誰かの――霧生の励ましの言葉は嬉しかった。
「コーヒー淹れたよ~」
カイトがコーヒーの入ったカップをトレーにのせて持ってきた。
ソファーの前に膝の高さほどのテーブルがあり、そこにトレーを置いてから、一人ひとりにコーヒーが運ばれた。
「ほい、君の分」
「あっ、どうも」
渡されたカップに触れる。
熱くて飲めそうになかったので、しばらくテーブルに置いたままの方が良さそうだった。
「そんで、霧生さ~ん。 この子の依頼についてはいつ話すんですか~?」
「お前待ちで話せなかったんだろうが」
「ありゃりゃ、話してもらってても良かったのに」
「カイトさん、いつもみたいに後で私たちに内容を聞くといったようなことはやめてくださいね。時間の浪費ですので。 全員がそろって会議した方が効率的だということをいい加減覚えてください」
「へいへ~い」
時任に対して適当な返事をし、カイトは自分のコーヒーを熱そうにすすりながら、ソファーに座った。
「じゃあ、作戦会議始めるぞ~。 今回の目的はこいつの家族を、今シャドウの襲撃が起きているショッピングモールから救い出すことだ」
「人数は一人ですか?」と工藤が質問した。
霧生が俺の方へと視線を移す。ここは俺が説明した方がいいのだろう。協力してもらってる立場だし、それぐらいは自分でしなければ。
霧生の意を汲み取り、工藤の質問を踏まえて美奈について話し始める。
「一人です。救い出してほしいのは僕の姉、名前は美奈といいます。 身長は168cmで、黒色の長髪で――」
「はいは~い! 歳はいくつですか!?」
「えっ? あぁ、年齢は22歳です」
「ほうほう」
カイトが腕についてある時計型の機器を操作する。
すると、腕の周辺にはパソコンの画面とキーボードのようなものが立体的に展開された。
「『フラグメント』、ラディウスに所属する者であれば全員所持している物です。 連絡、手帳、地図など多機能で、あのように、ホログラムの製造技術で空間に立体画像・映像を映し出すことも可能です」
不思議そうにその腕の機器を見つめる俺に気づいたのか、工藤が説明する。
時任もそれを使って、何か作業を始めていた。
「へぇ~、すごい便利そうですね!」
「我々が任務をこなすうえでは欠かせない物です」
「そんなことよりさ、ねぇねぇ、質問続けるけどその子のスリーサイズは?」
「あっ、はい、スリーサイズは......って! 何聞いてるんですか!?」
予想外の質問に意表を突かれ、思わず立ち上がる。
「いやいや、大事だよこれは~。 おれにスリーサイズを話せば、すぐ見つけられるよ~」
「カイトお前、そんなこと言って自分が知りたいだけだろ」
「カイトさん、そういうのはやめてください。 コーヒーぶっかけますよ?」
「おぉ~こわっ」
その後、自分の携帯にある美奈の写真も霧生たちに送り、俺は美奈の特徴について一通り話し終えた。
「......これだけ情報があれば、出会ったときに見分けがつくな」
「はい、大丈夫だと思います」
「私も把握しました」
「問題ナッシング~」
「よし、んじゃ、次に作戦内容の話に移るぞ」
そう言うと、霧生はフラグメントを操作して、一枚の画像を空間に出した。
映っていたのは、ショッピングモールに出入りができないよう、周りを取り囲んでいたパージストたちと、そこに群がる人々の光景だった。
「例の襲撃のあった建物の周りは、シスト市のパージストが出入りを封鎖している。俺らの身分証を見せて素直に入れてくれると話が早くて助かるんだが」
「私たちは管轄外のパージストですからね。 簡単には入れてもらえないかもしれません」
「これ、よく見るとショッピングモールの入り口にシャッターが下ろされてるじゃん。 なんで?」
「おそらく、先に入ったパージストが、シャドウを外に出さないよう一時的に下したのかもしれない」
「俺は逆に、人間を逃がさないようにシャドウが下ろしたものだと考えている」
すでにシスト市のパージストが、シャドウの殲滅と市民の救助を実行していたようだが、中の様子は見えず、現状では失敗したのか、成功したのか確認ができない。
ただ、作戦実行からだいぶ時間が経っている感じだったし、もしかしたら失敗しているのかもしれない。
それに――
「シスト市のパージストは、滝川の話を聞いた後だと信用に欠けるし、頼れないよね~」
この都市のパージストたちは、滝川に操られ、シャドウと手を組んでいたという事実がある。作戦実行も偽装されていれば、いくら待ったところで、美奈は帰っては来ない。
味方どころか、もはや救出を妨げる敵になる可能性だってありえるだろう。
「施設内の状況が全く分からず、敵の数や強さも不明。 それ以前に中にはどうやって入るのか」
「霧生さん、どうしますか?」
「そこはもう考えてある」
「おぉ! さすがっす! それでそれで、作戦内容は!?」
圧倒的に情報不足のこの現状で、どうやって中に入り、救出しようというのか。
いったいどんな作戦が出てくるのだろうか。
訪れる静寂......。
俺を含め、この場にいる全員が霧生の発言に注目していた。
「このマンションの屋上からショッピングモールの屋上に飛び移れ。 中に入ってからは知らん。お前らでなんとかしろ」
(......んぇ? それだけ? てか飛び移るってドユコト?)
「まぁ、そうなりますよね」
「霧生さんだしね~」
「こういう無茶振りは慣れています」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~!? ウソだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!?」
あまりにも簡素、雑、しょぼい、そしてしょぼい。
あれだけ間を溜めたのに口から出てきたのは作戦らしい作戦じゃない内容。
開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。
それに、霧生の作戦を聞いた三人の反応。それにも驚きを隠せなかった。すんなりと受け入れているじゃないか。
「いいんですかぁ! こんなので!?」
「いいのいいの~、霧生さんはそういう人だから。 てか、『お前らでなんとかしろ』って、霧生さんは行かないんですか?」
「俺は少し準備がある。 それが終わり次第そっちに合流する」
「りょ~かいです」
そんな彼らのやり取りを見て、力なくソファーに座り込む。
ホントにこんな計画性のない作戦で、大丈夫なのだろうか。先が思いやられる。
そう強く感じ、俺は小さくため息をついた。
「ってわけで、早速作戦を開始してもらうわけだが――その前に明希也、お前に聞いておかなきゃならないことがある」
霧生と目が合う。
さっきのいい加減な作戦を口にした人間とは別人のように感じる、真剣な面持ちだった。
「お前をあの建物の中に入れるのはかなり危険だ。 おとなしくここで俺たちが戻ってくるのを待っているのが一番いいとは思うが――」
「俺も一緒に行きます」
ただ一言、強いまなざしと覚悟を持ってそう言った。
俺はまともに戦うことは出来ないし、付いて行っても足手まといになるのが関の山だ。それは十分に理解している。
だけど、やっぱり一人でただ待っていることが、俺には耐えられない。
それは、何もできない無力感を、何か行動して紛らわしたいって考えがあって出てきた感情かもしれない。
でも、一番は――美奈を助けたい。
それが一番、今の自分を動かしている原動力だと断言できる。
自分に力がないのは悔しいけど、たとえ危険を冒してでも、助けに行きたい。
ーー大切な家族なんだから。
そう思わずにはいられなかった。
「そう言うと思った」
「霧生さん、さすがに危険ではないですか? せっかく保護対象を見つけられたというのに、わざわざ危険な場所に連れていくというのは」
「さっきの家族を救いたいって言葉を聞けば、止められないだろうなとは薄々思ってたよ。」
「ですが――」
「まぁ、あれじゃない? シスト市はもうだいぶシャドウに侵攻されてるみたいだし――安全な場所なんてないし――ここも例外じゃないでしょ。 的な? だから、連れてってもいいんじゃない?」
「たし......かに、我々といた方が安全といえば、安全......か?」
「戦う時とかは隅っことかに隠れてもらって、基本は俺らでやればいいでしょ」
「そうなると、守りながら戦うことになりますね。 私たち三人で霧生さんが来るまで守り切れるかどうか? 人探しとなると少し時間がかかりそうですし。」
「敵の数も強さも分かんない状態だからね~。 いくら俺らでも、そこはちょ~っと心配かもね~」
「それに関しては、問題ない」
「おっ! さすが霧生さん! 用意がいいですね~!」
また、いい加減な作戦がその口から出るのだろうか。と、少し不安になる。
「秘密兵器を呼ぶ、てかもう呼んである」
(おっ? 以外とまともそう。 他の仲間か何かかな?)
今度こそ期待ができそうだ。
そう思いながら、他の三人の反応も横目で見てみたが――
「「「三人で行きます」」」
そう口をそろえて言い放った。
細という女性の方はもともと表情が読めなかったが、工藤やカイトですら、感情が全く感じられなかった。
その時ーー彼らの目はどこか遠くを見ていたんだ。
読んでいただき、ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!




