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シャドウズ  作者: saji
16/55

第13夜 結衣との約束

前回からだいぶ時間が空いてしまいましたが、10話ぐらい書き溜められたので、また投稿再開しようと思います。

 

「あきにぃ、どうしたの?」


 我に返る。テレビの内容を理解するのに夢中になっていたようだ。明希也は慌ててリモコンを拾い上げ、テレビを消す。


「なんで消すの?」


 幸い、結衣はまだ内容を詳しく理解できていなかったようだ。しかし、自分の今の行動で、何か不審に思ったかもしれない。


「えぇ......っと、ほら! ちょっと内容がグロいニュース流れてきたからさ。 食事の時間にそういうの映すのは良くないんじゃないかと思ってな」


「......ねぇ、知ってた?あきにぃって、嘘つく時に瞬きの回数が多くなるんだよ」

「えぇ!? マジで!?」

「嘘だよ! そして、やっぱり何か隠したでしょ!?」

「くっ......!」


 やられた。我が妹ながら、上手い誘導尋問だ。


「さっき映ってた場所をチラッと見たんだけどさ。 あれってみなねぇが遊びに行ってた場所だよね?何かあったんじゃないの?」


 返答に窮した。何をどう説明すればいいのだろうか。実際には自分自身も、まだテレビの向こう側で起きていた状況を整理できていない。

 だが、結衣はじっとこちらを見ている。真実を教えるまで逃さない、という気持ちがその目から伝わってくる。

 こうなっては隠し通せるはずもない。そう思い、あきやは再びテレビをつけた。


 テレビが映ると、先ほどのニュースがまだ流れていた。結衣と一緒に黙ってそのニュースの内容を聞く。


「うそ......」


 少し経って、結衣の弱々しい声が聞こえてきた。 その後すぐに、結衣は自分のポケットから携帯を取り出し、忙しく操作する。 美奈にかけるつもりなのだろう。 耳に携帯をあて、しばらくの沈黙が降りる。

 しかし、いくら待っても、いくらかけ直しても、美奈は電話に出なかった。


「そんな......」


 結衣にこのニュースを見せたくなかった。それがやテレビを消した理由。だが、本当の理由は別にあった。それは、自分がこの事実を受け取めたくなかった、ということだ。


「あきにぃ、これ......嘘だよね? ドッキリか何かだよね?」


 弱々しい声に震えが重なっていた。信じられるはずがない。自分だってそうだ。嘘の可能性を考えた。だが、テレビに映る人々の反応や生中継であること、シャドウの徘徊が多くなる夜の時間帯に、大勢の人が外に出ていることなどから察するに、この状況は明らかに異常だ。

 テレビの企画か何かだとしても、これはさすがに、いき過ぎている。

 そう、嘘であって欲しかった。

 美奈が事件に巻き込まれているのを、実際に見たわけでもないし、巻き込まれていると感じる根拠もない。それでも、テレビで今も流れている以上、この事件は本当に起きていて、美奈が帰ってこないことと、何か関係している。その考えが、どうしても頭から離れてくれなかった。


「......結衣、少しここで待っていてくれ」

「え!?」


 俺はリビングを出て、玄関へと向かった。


「ちょ、ちょっとあきにぃ!? どこ行くの!?」

「少し様子を見てくるだけだ」


 玄関で靴を急いで履く。結衣の言葉を聞き流し、外に出て、自転車を停めている場所へと向かう。が、結衣は靴も履かずに追いかけてきた。


「何言ってんの!? 今行ったら危険だよ! 行っちゃだめだよ!」


 自転車の前に着き、鍵を入れる。学校が近いので、通勤には使っていないが、休日に散歩をする時のために、簡単な整備はしていた。正常に動いてくれるだろう。

 サドルに腰掛け、ペダルに足をかけたが――


「あきにぃ、行かないで!!」


 今までで一番耳に響く声がして、動きが止まる。


「ちょっと......待ってよ」


 息を整えながら結衣が腕を掴んでくる。


「あきにぃまで帰ってこなかったら、わたし......」


「結衣......」


 結衣と目が合う。今にも涙が出てきそうな目。それを見ると、体が動けなくなった。


 結衣の気持ちが分からないほど、俺も鈍感ではない。大切な家族を危険な場所に、黙って行かせられない、そういう気持ちでいるはずだ。

 それぐらい分かっている。でも、今はこうでもしないと心が、体が落ち着かなかった。不安で自分を制御しきれなかったのだ。


「だ、大丈夫だって。必ず帰ってくる。姉さんもどこかで、無事でいるに決まってるよ」


 不安にさせないように、柔らかい口調でそう言う。しかし、結衣は離してはくれない。緩むどころか、俺の腕を掴む結衣の手の力は、いっそう強くなった気がした。

 痛い。と感じてふと思った。結衣はこの何倍ほどの痛みを抱えているのだろうか。不安を感じているのだろうか。考えると自分まで辛くなる。


「え......ちょっ!? 何するの、あきにぃ!?」


 自転車から降りて、結衣を引き寄せ、抱きしめる。

 突然の行動に結衣は激しく動揺し、手をぱっと離す。


「おれも不安なんだよ。 恐いんだよ。 姉さんが危険な目にあって、もう帰ってこないんじゃないかって」


「あきにぃ......」


「俺が行っても、何ができるか分からない。 危険なだけかもしれない。 でも......それでも、ただ黙って待っているだけじゃいられないんだ。 後で後悔しないように、今、姉さんのために何かをしたいんだ。 それにさ――」


 そっと結衣の頭に手をのせて、優しく撫でた。


「おれは男だから、結衣も姉さんも守らなくちゃな。 だから、結衣は安心して、帰りを待っていてくれ。 もしかしたら、平気な顔して姉さんが帰ってきた時に、誰も家にいないと可哀そうだろ?」


 そう言って、結衣に笑顔を見せた。


 少しの沈黙の後、結衣はクスッと笑い、「確かに、そうだね」と表情を柔らげた。


「ぜっったい無事に帰ってきて。 みなねぇも連れて。 約束だよ?」


 まだ不安を全て拭い切れてはいないようだったが、結衣の表情はさっきよりも明るく、俺も結衣の言葉に強くうなずいた。


「あっ! 行く前に、ちょっと待って!」


 結衣はそう言って、家の中へと入っていった。

 しばらくして、何かを手に持って戻ってくる。


「はい、これ」


 と渡されたのはルミナの光が出る、懐中電灯だった。シャドウ対策として、パージストが住民に配布しているものだった。


「ほとんど使ってないやつだから、エネルギーもたくさんあるよ」

「いや、でも――」

「大丈夫だって。 それとは別にもう一つ、家にあるんだし。 いざと言う時に、あきにぃが使ってよ」

「......ありがとう」


 結衣に強く押され、渡された懐中電灯を自転車のカゴに入れた。


「じゃあ、行ってくる」

「うん、気を付けてね」


 ペダルを強くこぎ出す。家の敷地を出て目的の商店街へと向かう。こんな時間に外に出ことなど、全くなかった。静まりきった夜の空気は少し冷たい。


(これが夜の世界か......)


 昔から知っている場所のはずが、全く違う世界のようだ。いつかは、シャドウによる危機もなくなり、彩華や快斗と一緒に夜の世界を歩き回りたい、とずっと思い続けてきたが、まさかこんな形で、しかも自分だけ実現してしまうとは思ってもいなかった。少し後ろめたさを感じてしまう。

 とはいえ、ほぼ初めて見る夜の景色の数々は、とても心を引きつけられ、胸が高鳴った。


(いつかあの2人とも、結衣や姉さんとも......自由に歩きたい)


 辺りに立ってあるルミナの街灯と、遠くに見える商店街の明かりを頼りに、おれは夜の道を進んでいった。


読んでいただき、ありがとうございました。

次話もよろしくお願いします。

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