第12-3夜 最悪の休日だ
この話で美奈視点は最後になります。短いですが、読んでいただけたら嬉しいです。
花子の手を握り、ベンチから立ち上がった。
「おや? これはこれは、美奈さんたちではないですか。 奇遇ですね」
声のした方を向くと、そこにはヴァンプと友江の姿があった。
「え......あっ、どうも」
偶然鉢合わせてしまった、という驚きと、何を言えばいいかわからない戸惑いの気持ちで頭がいっぱいになった。
「も~、連絡をくれるといっていたのに、ひどいじゃないですか。 あまりに遅かったので、少し探し周りましたよ~」
「す......すみません」
ヴァンプは相変わらずの笑顔を向けて、近寄ってきた。やはり不気味だ。
しかし、今は友江のことを考えなければ。そう思考を巡らしながら、友江の様子をそっと窺ってみる。
あちらもやはり気まずいのか、顔をうつ向かせていてた。しかし、なんだろう。何か様子がおかしい。友江はふらふらと、体を左右に動かしていた。まるで、波に揺られている船のように。
「どうかしましたか?」
ビクンと反応する。友江に気を取られていて、ヴァンプが目の前まで来ていたことに気づかなかった。
「あっ......友江、大丈夫ですか? なんかふらふらしてるみたいですけど」
「え? あぁ......レストランでワインを飲んでいたので。 まだアルコールが抜けていないみたいですね」
私の気も知らないで――
少しむっとしたが、ヴァンプの後ろで、いまだに下を向いてふらついているので、だんだん心配になってきた。
「う......うー」
苦しそうにうなっているし。
はぁ、と小さなため息をして、
「ほら、ともえ大丈夫? いったんここのベンチに座って」
と友江の介抱をした。
ベンチに座らせたが、酔い覚ましの水もない。先程買った自分の飲み物はあるが、この状態でジュースを飲ませる訳にもいかない。どこかに自動販売機はないものか。
「ん~、ここら辺にはないか~」
雑貨店や洋服店、飲食店などは目に入るが、水が買えそうなところはなさそうだった。
先ほど利用した自動販売機に水を買いに行ってもいいが、少し遠いところにあるので、友達2人をヴァンプと待たせることになる。それには少し抵抗があった。いや、この酔っ払いは数には入らないか。実質花子と二人......。
それだけは避けなければ――。何となくだが、そう感じた。
かといって、ヴァンプに頼むのも申し訳ない気がするし......
「うー......ゔぅー」
うなり声が強くなった気がした。
仕方ない。ここでじっとしているわけにもいかない。
「花子、わたし飲み物買ってくるから、何かあったら連絡してね?」
返事も反応もないが、聞こえてはいる感じだったので、大丈夫だろう。
「友江、もう少し我慢してね。 今飲み物を――」
顔色をうかがおうと友江の顔を覗き込んで、そこで初めて気づいた。
友江の目が紫色に光っていたのだ。
「......これって――」
「おや、気づいてしまいましたか?」
というヴァンプの声が耳元でささやかれた。両肩を抑えられて振り返ることも出来ない。
明らかに、先ほどとは違う雰囲気に、戸惑いと恐怖を感じた。
「人間は学校で習いますよね?シャドウの特徴を」
見間違いではない。紫色の目はシャドウの典型的な特徴。それがはっきりと友江から見てとれる。
「いったい、どういうことなの」
震える唇から、やっとの思いで言葉を発する。
「教えてあげましょうか?」
ヴァンプがさらに口を耳に近づけてきて、
「実は、わたし――」
ふっと息を吐くように言った。
「シャドウなんです」
――ゆっくりと振り返って気がついた。
不気味な笑みを浮かべるヴァンプの目が、紫色に光っていることに――。
思考が停止する。もう何を考えていいのかわからなかった。だが、今自分を支配している感情が何なのかは、はっきりと分かる。
――恐怖だ。
「隙を見て人気の無い所に誘い込んだんですよ。 悲鳴を上げる間も無く、素早くやっちゃいました」
真っ白な頭の中――もう一度、友江を見る。
「......ねぇ、ウソ......だよね? そうやって、昔みたいに、私を騙そうとしてるんでしょ?」
「あぁ、あぁあ! いい、いいですよ! やはり私の読み通り、あなたはいい表情をする!」
ヴァンプが私の顔を覗き込み、友江と交互に視線を移す。 そんな反応を楽しんでいるヴァンプを無視し、私は必死に友江に呼びかけ続けた。
「無駄ですよ〜、もう私の言うことしか聞かないんです」
どんなに呼びかけても、ヴァンプの言う通り、何の反応も示さない。
嘘だ。こんな所にシャドウがいるはずない。ヴァンプは私たちの仲を引き裂こうとしているだけだ。美奈は諦めずに、友江の肩を揺すり、言葉を投げかける。
「お願い、友江! 私たち、まだ仲直りもしてないじゃん! ちゃんとさせてよ、仲直り。 そしたらさ、今度はまた違う日に3人で遊ぼうよ。 ね? だから、返事してよ!友江――」
「あぁ、そうそう。 追加でもう一つ、美奈さんに伝えなければいけないのですが......」
必死の呼びかけを遮るかのように、ヴァンプの口が開いた。
「実はすでにシャドウなんですよねー、あの子も」
その言葉が耳に入り、強制的に、友江に向けた意識が止まった。ヴァンプの方を見ると、右の人差し指である方向を指していた。そこには......
「あ......あぁっ」
花子の目は、紫色の光を帯びていた。
「随分前に、花子さんを見つけましてね。 私の勘が感じ取ったんですよ。 きっとこいつは強力なシャドウになれる、って。 実際、シャドウにしてからは、凄かったですよ。 同化のスピードも速かったし、太陽にも少しずつ耐性がついてきて。 いつか私に追いつくかもですね。 目の方もコントロールが上手くて、今まで気づかなかったでしょう? どうです? 美奈さ――」
ヴァンプは言葉を止め、人形の様に体が動かない美奈の顔を覗いた。
「......あぁ、なんて最高の表情だ」
「い......いっ――」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
叫んだのは私ではなかった。まるで、私の気持ちを代弁するかのような絶叫が遠くの方で鳴った。耳をつんざくようなその女性の悲鳴に、叫ぼうとしていた私の気持ちは押しつぶされた。
「おや、時間になってしまいましたか」
女性の叫び声など、全く気にせず、ヴァンプは淡々と腕時計を確認していた。
「ここからはとっても刺激的な時間になりますよ、美奈さん。」
不気味な笑みをこちらに向けるヴァンプ。いったい、何が起こり、どうなるのか、考える余裕などもはやなかった。
「あなたの心が絶望に染まっていくさま、もっと私に見せて下さいね。 クハハハハハハハハ!!」
脚の力が抜け、膝から崩れ落ちた。
増えていく悲鳴と獣の様なうめき声が混じり合っていく。次第に音を増すそれらは、絶望に突き落とされた私の耳に、容赦なく入ってくるのであった。
次回からは、、また明希也の視点に戻ります。投稿は結構遅めになってしまうかもしれませんが、投稿した際には、ぜひまた読んでいただきたいです。




