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シャドウズ  作者: saji
13/55

第12-1夜 楽しみだった休日

 

「ふぁぁぁぁぁ~」


 重い体をベットから起こすと、口から自然とあくびが漏れた。同時に出てきた涙を手で拭い、ゆっくりと立ち上がる。カーテンの隙間からさす微量の光。

 しかし、今日は曇りらしい。光の量がいつもより少ない。なんて考えながら、窓の方へ行き、両手で自身の眠気を覚ますように勢いよくカーテンを開けた。


 予想通り、空には雲がかかっていて、太陽が隠れていた。せっかくの休日の朝。和やかな朝の光を体中で浴びたい気持ちだったが、まぁ仕方ない。


「今日も何事もなかく、平和な一日でありますように」

 静かに雲のる港で輝いているであろう太陽に向かって、美奈は願いを込めた――



 ■



 部屋を出て、朝食をとるべく台所へ移動する。いつもなら、明希也と結衣が先に準備を終えて、三人で食事をするのだが、今日は自分が起きる時間が遅かったのだろう。二人の姿はなかった。代わりに、自分の分だと思われる料理がぽつんと寂しくテーブルに置いてあった。


 改めて考えてみると、自分が明希也と結衣に料理を作るということが、最近少なくなってきているような気がする。いつの間にか二人とも、料理ができるようになっていて、なぜかやたらと先に準備をしたがる。やることといえば、後片付けぐらいしか残っていないのだ。


 優しい二人のことだ、きっと私に気を使っているに違いないーー


「よーし! 今朝は作れなかったから、今日の夕食は気合入れて作るぞ~!」


 頭の中で料理の献立を考えていると、ポケットに入れていた携帯が鳴りだした。取り出して、画面を見る。そこには、友人の友江の名前が表示されていた。


「......もしもし?」『おっはよー! ミナっち~!』


 電話に出ると、友江の陽気な声が聞こえてきた。


「おはよう友江。休日に電話なんてどうしたの?」


『......え?』


 まるで時間が止まったかのような沈黙。何かまずいことでも言ってしまったのだろうか。何か聞き返そうと口を開こうとしたその時--


『どうしたの......じゃないでしょ! まさか忘れちゃったの!? うちとミナっちとハナコっちの三人で遊びに行く約束してたじゃん! ねぇ! そうでしょ!? 約束したよねぇ!!』


「ひゃい! ごめんなさい!」


 友江の激しい怒りのこもった声が耳の奥まで響き渡る。おかげで「はい」と返事を返すところに変な声が出てしまった。


 学校が休みである今日は、前々から三人でどこかに遊びに行こうと約束していたのだ。小さいころからの付き合いで、昔はよく遊んでいたが、大学生になった今では三人とも忙しく、会う機会を作れないでいた。


 そんなわけで、久しぶりに三人揃って遊べるこの日を楽しみにしていたはずなのに、どうして忘れていたのだろうか。確かに最近はバイトや大学のレポートなどで、色々と忙しかったが、それだけのことで大事な日を忘れるというのは......いや、忘れっぽい私ならありえる。


『も~ホントしっかりしてよ~。 うちが電話してなかったら、ずっと忘れてたでしょ?』


「あ~あはは......そうかもね~」


『一応言っておくけど、集合時間は14時、場所はこの前新しくできた大型ショッピングモールの北入り口前ね』


 正直、集合時間と場所の記憶も怪しかったので助かった。もう一度、聞き返していたら先ほどの怒鳴り声がまた耳の中へと響き渡っていたかもしれない。美奈は礼を言った後、静かに通話を切るボタンを押した。


「友江って......怒るとあんなに怖かったっけ?」

 嵐が過ぎ去った後のような静けさ。美奈の耳にはまだ、友江の怒鳴り声の余韻が微かに残っていた。



 ■



 集合場所についたのは14になる10分前。何分前に着くようにするか少し迷ったが、これぐらいがちょうどいいだろうと考えての時間だった。


「友江と花子はまだ来てないのかな?」


 集合場所の辺りを見回したが、友人たちの姿は見えなかった。美奈は仕方なく、近くにあるベンチに腰掛けた。

 大勢の人が波にもまれるように激しく行き交う。今日は平日だあったが、ショッピングモールには多くの客が出入りしていた。


 シャドウという怪物が未だに存在するこのご時世。

 美奈の目には客のほとんどが太陽が出ているうちに、買い物などの用事を済ましてしまおう、というような感じに映っていた。いや、ちらほらと見える子供にはそんな心配事はなく、単に施設内にあるゲームや商品を見て、遊び、楽しみたいという気持ちしかないのだろう。


 そんな子供の無邪気な姿を見ていると、明希也と結衣、そして両親と一緒に遊園地へ遊びに行った時のことを思い出す。


 随分と昔の記憶。しかし、今でも鮮明に思い出せる。家族全員でアトラクションを楽しみ、食事をして、また来ようね、と約束をして家に帰っていく。とても楽しく、幸せだった。

(......っ!)


 不意にきゅっと胸を締め付けられるような悲しみがわく。その感情が心の中を埋め尽くしていく。家族全員での楽しい思い出のはずなのに、自然と両親のいなくなった今と比較してしまい、逆に美奈の心は苦しくなっていった。


 目頭がだんだん熱くなっていくのを感じる。

 もう両親のことでは泣かないと決めていたのに......。


 (もうこのことで泣いちゃダメよ。明希也と結衣に顔向けできないじゃない)


 美奈はゆっくりと、大きく深呼吸をしていく。涙をこらえ、心の中にある悲しみの感情を吐き出すために。ゆっくり......ゆっくりと......。


(よし、落ち着いてきたわ)


 美奈は最後にもう一度、深呼吸をしようと大きく息を吸って――

「あっ! ミナっちごめーん! 遅くなっちゃった」


 激しくむせた。いきなり話しかけられ、驚きのあまり呼吸が崩れてしまった。


 乱れた呼吸を整え、涙目になりながら声のした方を向く。


 そこには友人の友江と花子の姿があった。

 だが、近くに立っているもう一人の男は、友江たちの知り合いなのだろうか。完全に初対面だった。


「ちょっとミナっち、大丈夫!?」


「だっ......大丈夫だから。 で? そちらの男性の方は?」


 落ち着きを取り戻し、友江に質問する。


「いや~、ついさっき、ここに来る途中で『人が大勢集まる楽しい場所を知りませんか?』って聞かれて、ちょうどいいから一緒に行こうってなったのよ」


「へぇ~」


 彼氏でも連れてきたのではないかと初めは疑っていた。が、そういうことなら納得だ。三人だけで久しぶりに遊べるいい機会。次はいつ三人が集まって今日みたいに遊べるのかわからない。

 だからこそ、三人水入らずに過ごしたい、そう思っていたのだ。


「あなたが美奈さんですね? どうも初めまして。ヴァンプと申します。 道中、友江さんから色々と聞かせてもらいました」


「あっ......どうも」


 ヴァンプと名乗る男は突然握手を求めてきた。少しなれなれしい感じもするが、ここで嫌そうな態度をとってしまうのも、なんだか悪い気がしたので、顔に少しばかりの笑みを作り、差し出してきた手を握り返す。


 曇りなく笑いかけてくるヴァンプ。

 どこか抜けているような楽天的な感じで、とてもさわやかだ。身につけているものはどれも上品で、細かいところまで気を配っている印象を受けた。

 生活に余裕のある様子、この町では珍しい名前などから察するに、別の街から来た人なのかもしれない。


「あれ~? ちょっとミナっち、ヴァンプさんに見とれてない?」


「えっ!? いや、別に見とれてなんか――」


「わかる! わかるよ~、ヴァンプさんイケメンだもんね~」


「これはこれは、恐縮です」


 笑い合う友江とヴァンプ。

 しかし一瞬、ヴァンプの笑顔にはどこか違和感のようなモノを感じた。とはいえ、それを感じた根拠など、どこにもないのだが。


「それでさ美奈......今日はこのヴァンプさんを混ぜて四人で遊ばない?」


「そ、それはちょっと、話が急すぎない? 私は三人で――」


「ミナっち、ちょっとこっち来て!」


 話の途中で友江が急に腕をつかんできた。強い力で引っ張られ、バランスを崩しながら、仕方なく友江の後についていった。


「ここなら、大丈夫ね」


 友江はヴァンプから少し離れたところで立ち止まった。どうやら聞かれてはまずい会話が始まるらしい。さて、何を話してくれるのか。皆目見当がつかない。

 あれこれと思考を巡らせる美奈の両肩をつかみ、一呼吸置いた後、友江が口を開いた。


「これはチャンスよ! ミナっち」


「......え? チャンスって、なんの?」


「決まってるじゃない! 彼氏よ! カ・レ・シ! あんなイケメンに出会う機会なんてそうそうないわ。 しっかりものにしないとね」


 手を打つように表情を明るくする友江。喜びの気持ちが自分にも流れてきそうな勢いだ。だが、気持ちが浮き立つ友江とは対照的に、美奈は真剣な面持ちで口を開く。


「ねぇ友江、さっき言いそびれちゃったけど、今日は私たち三人だけで遊ぶ約束だったでしょ?」


「あ~、そんな約束もしてたね。 でもさ、私たち三人で遊ぶのは、この先何度でもできるでしょ? ヴァンプさんとは今日しか会えないかもしれないんだよ? なんとか連絡先を交換しなくちゃ!」


 空気を読まず、自分勝手な所は昔から変わっていないらしい。三人で遊ぶという約束を破ることに、なんとも思わないのだろうか。少しだけ、怒りがこみ上げるが、それ以上に――寂しさを感じた。


「だから、私は三人だけで......」

「ん? 何か言った?」


 反論しようとしていた自分の声は、次第に小さくなっていった。こうなってしまっては、どうしてもない。友江にこれ以上、何を言っても無駄に思える。


「......ごめん友江。 私今日は帰るね」

「え!? ちょ、ちょっとミナっち!?」


 友江に背を向け、足早に歩く。花子にも悪いが、今日はもう楽しく遊べないような気がする。こんな気持ちになんてなりたくなかったのに。でも、仕方ない。今日はもう......


「――えっ? 花子!?」

 不意に腕をがっしりつかまれる。


「だ......め」

 小さい声だったが、美奈にはしっかり聞こえた。昔から口数が少なく、激しい人見知りの性格だったため、私や友江でさえ、あまり声を聞いたことはなかった。

 さらに、今まではほとんど自分から話しかけることはなかったので、花子の行動にかなり驚いた。


「花子、どういう意味――って、ちょっと、痛いってば!」


 つかまれた腕の部分がジワリと痛み、思わず眉をひそめた。小柄なその体からは想像できないような力だ。

 振りほどこうとしても、花子の方が力が強く、腕がほとんど動かない。


「ダメ」

「え? 帰っちゃダメってこと?」


 痛みに耐え、花子の表情から行動の意図を探ろうとしたが、今日は珍しく帽子をかぶっていて、下を向きっぱなしなので、顔が見えない。

 質問にも答えず、ただじっと腕をつかんでいるだけだった。


「わ、わかったから! 花子の言うとおりにするから、とりあえず手を放して!」


 このままでは腕が折れてしまうかもしれない。そう思い、美奈は花子に主導権を渡した。すると、花子はゆっくりつかんでいた手を放し、今度は服の袖を引っ張り始めた。

 されるがまま、黙って花子の後についていくと、立ち止まったのは友江とヴァンプおいる場所。また戻ってきてしまったのだ。


(気まずいなぁ......)


 友江と目を合わせることができない。何を言えばいいのかわからない。友江もたぶんそうだろうーー。


 空気が四方から押し縮まっていくような息苦しさを感じる。それほどにここの空気は重かった。


「あの~ミナっち、これからどうしよっか?」


 少しして、友江が口を開き、話を持ち出す。美奈は誰とも視線を合わせないように、しばらく話すべき言葉を模索した。


「――友江は最初、ヴァンプさんと二人で遊んできて。 私も花子と二人でショッピングモール回ってるから。 それで、しばらくしたら、また集合しましょ。 連絡は私からするから」


 時間を取り、色々考えた結果出てきたのは、友江とは別行動という考え方だった。これなら家に帰ることはなく、花子も怒らないだろうし、友江との事も少しは気持ちを整理できると思った。

 また再会した時に気持ちは整理できているのか、何を話せばいいのか、まだわからないが、私には今、考える時間が必要だ。


 花子は何もしてこない。ということは、一応正解の選択肢だったのだろう。

 その後、友江たちとは少し時間を置き、花子とショッピングモールに入った。


「ねぇ花子、もしかして私と友江に仲直りしてほしかったの?」

「......」

「だから、帰っちゃだめって言ったの?」

「......」

「何かしゃべってよ......」


読んでいただき、ありがとうございました。ひき続き、素人ながら執筆頑張ります!

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