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シャドウズ  作者: saji
12/55

第11夜 危機感

 電話が鳴っていた。


 その着信音とポケットから伝わる振動で、俺は目を覚ます。


『着いたよ明希也くん』


 電話に出ると、倉治の声が聞こえてきた。


 俺は大きなあくびと伸びをしながら、家の前で停まった車から降りる。

 車の中で今日の出来事を整理しようと思っていたが、どうやら寝てしまっていたようだ。


 ――仕方ない。何しろ今日はいつも以上に、身体的にも精神的にも疲弊(ひへい)しきった一日だったのだから……。


「あ〜倉治......今日はその、いろいろありがとな」


「いや〜いいっていいってそんなの。 一番頑張ったのは明希也くんなんだしさ」


 色々疑っていたが、ここまでしてくれたのは事実――。

 あまり好きにはなれないタイプの人間だが、今日起きた事件について色々と手助けしてもらったのだ。感謝の言葉の一つや二つ言っておくのが、礼儀というものだろう。


「今度お礼に何かさせてくれよ。 色々と話もしたいし。 だから、その〜......学校に来てくれないか?」


「僕は......もう学校には行かないことにしたんだ」


「どうして?」


「知ってしまったから」


 倉治の返してきたその言葉は、今まで聞いてきたどの言葉よりも、不気味な重さがあった。


「な......何にだよ? 」

「ん〜そうだね、明希也くんにならそこら辺の話をしてもいいかもしれないね。 でも、本当に聞く気かい?」


 深刻な話なのだろうか。そう言われると言葉が詰まる。


 少しの間、沈黙の空気が二人を包み込んだ――。


「その話って、長い?」

「長いし、疲れるかもね」

「......悪い、その話明日でもいいか? 今日はもう十分疲れてるんだ。 これ以上の疲れは体に入らねえよ」

「りょ〜かい。 準備が出来たならいつでも聞かせてあげるよ」


 話が終わり、明希也は電話を切ろうとしたが、ふとある事を思い出した。


「あと、これは確認なんだけど、今日の事件ことでさ」


「なんだい?」


「お前『()()()()』って言ったろ」


「……」


 倉治は無言だったが、続けて話した。


「俺の聞き間違いじゃなきゃ、ショッピングモールで俺に電話してきた時、『あいつらに一泡吹かせてやろうよ』って言ったよな。 これは誘拐犯が複数人いたってことが初めから分かってたってことだろ? なんで知らせてくれなかったんだ?」


 これはあくまでも推測でしかない。しかし、これだけははっきりさせておきたい、というのが明希也の心持ちだった。


「嘘じゃないなら疑って悪い。 けどこれは正直に言ってくれると――」

「ごめんなさい嘘つきました」

「即答かよ! 清々(すがすが)しいな」


 嘘をついた理由など、ある程度想像がつく。


 ――その方が面白そうだから。


 おそらくそれだろう。


 怒ってはいた。だが倉治の性格上、それはもう仕方のないことだと割り切るしかない。

 そうでもしないと、おそらく付き合いきれないだろう。


 実際、誘拐犯たちよりも、もっと恐ろしい存在と遭遇してしまったのだから、関係ないと言えば、関係ない――のかな。


「ほんと、いい性格してるなお前」

「僕を夢中にさせた明希也くんが悪い」

「なんだそりゃ」


 変わり者のようだが悪いやつではない。

 それが今日、倉治と接してみて感じたことだった。


 今度こそ話が終わり、電話を切る。

 車が去っていくのを見送り、重い足取りで俺は玄関に向かい、ドアに手をかけた。




「ただいま~」


 声に力が入っていないのが自分でも分かる。 だって、しょうがないじゃないか。

 今日は思い返すだけで具合の悪くなりそうな出来事を目の当たりにしたんだ。体験したんだ。生きているのが不思議なくらいだ。


 そんあことを思いながら家の中へと入っていった。


 リビングを見ると、結衣の姿があった。 部屋着に着替えているところを見ると、先に学校から帰ってきていたのだろう。

 長いソファーの上に仰向けで寝転がり、のんびりと棒状のアイスを食べている。

 んでもって、イヤホンを付けながら携帯をいじっており、どうやらまだ自分が帰ってきた事に気付いていないらしい。


 いつもなら『おかえり』と挨拶をしてくれるのだが、今日は朝の出来事もあり、まだ怒ってるかもしれない。

 しかし、このままでは後味が悪いと思い、俺は結衣に近づいて――


「ただいまー!」

「ひゃあ! ちょ......ちょっとあきにぃ、驚かせないでよ〜もう!」


 結果的に驚かしたという形になってしまったが、ある程度距離が近くなければ、そもそも気付かれないではないか。

 ただ、頬を膨らませて怒る結衣の様子はとても愛らしい。


 罪悪感はあったが、それと同時に俺は充実感を感じていた。


「ごめんごめん。 姉ちゃんはまだ帰ってきてないのか?」

「今日、学校休みだったから友達と遊びに行ってたらしいよ。みなねぇからメール届いてなかった?」


 それを聞いて携帯を確認しようとしたが、ちょうど充電が無くなってしまったのか、電源がつかなかった。

 しょうがない、あとで確認しよう――。


 そう思い、二階にある自分の部屋へと足を運ぶ。


「あきにぃ〜、少し休んでからでいいから、ご飯作るの手伝ってくれない?」


 二階への階段を登る途中、下から結衣に頼み事をされる。

 体も疲れていたし断ろうとしたが、今日の朝から結衣を怒らせてばかりだったことを思い出す。


「あ......あぁ、わかったよ」


 ――今までの罪滅ぼしのため。

 そう思い明希也は了承りょうしょうするのだった。



 自分の部屋に入り、電気をつける。今すぐベッドに飛び込みたかったが、携帯を充電しなければならなかった。

 コンセントに挿さっている充電器を見つけ、それを携帯に繋いだ。


(......そういえば俺、あいつの顔まだ分かんないままだ)


 ふとそう思い、自分の机にある引き出しをいくつか開けていった。


 探していたものは高校入学式の数日後に作られた簡単なアルバム。

 それには新入生たちの顔と名前、担任の名前などがある。いくら不登校気味の倉治でも、さすがに入学式には写っているだろうという考えだ。


(おっ、あったあった。 え〜と倉治、倉治っと)


 アルバムを見つけ、名前を頼りに倉治を探した。

 ページをめくるたびに懐かしさがこみ上げてくる。

 途中で快斗や彩華の姿もあった。二人とも緊張しているのか、表情が硬いようだ。


 ただ、肝心の倉治の姿がどこにも見当たらなかった。

 入学式にもいないなんて、とんだ引きこもり野郎だな。


 その後も、探してみたがやはり倉治の姿はなく、諦めてアルバムを閉じた。


(あいつ……本当にうちの学校の学生なのか?)


 倉治について調べようとしたが、さらに謎が深まっていくばかりだった。

 でも――今日はもう、考え事はできるだけしたくない。


「さて、少し休んだら結衣の手伝いしないとな」


 携帯を置き、そのままベッドに寝転がる――。


 ――温かく、柔らかいベッドの感触。余計な雑音はなく、耳に静かに入ってくる時計の秒針の音。次第に深くなる眠気に逆らわず、俺はゆっくりと目を閉じた。



 ■



「――、――にぃ、あきにぃってば!」


「ん、結衣......か? どうしたんだ?」


「『どうしたんだ』じゃないでしょ! 何回も呼んだのに起きないんだから〜!」


 体全体が心地良く痺れていた。 結衣の様子から察するに、随分と長く眠っていたらしい。 体の疲れも多少は取れた感じがする。


 それはそうと、また結衣を怒らせてしまった。


「ごめん結衣! 今すぐ手伝うから!」


「もうできてるよ。 一回起こしに来たけど、そしたらあきにぃ、ぐっすり寝てるしさ。 起こしちゃ悪いと思って私が全部やったんだからね!」


「すいませんでした! 次から気を付けます!!」


 結衣のおかげではっきりと目が覚めた。


 気まずい空気になりながらも、携帯を取り、部屋を出て、結衣と共に台所へと向かう。

 食卓(しょくたく)にはしっかりと夕食の準備がしてあり、もはや手伝う余地がなかった。


「あれ? 姉ちゃんまだ帰って来てない?」


「知らない! 友達の家にでも泊まってるんじゃない?」


 今日の朝と同じで、結衣は俺に構わず「いただきます」と言って、黙々と食べ始めた。


 一体いつになったら、仲直りが出来るのだろう――。

 そう思いながら、明希也は窓から外の様子を眺めた。


 外はもう暗闇に包まれていた。

 こんな時間に出歩いているのはシャドウかパージストだけだ。


(携帯に何か連絡入ってないかな?)


 携帯の電源を入れ、慣れた手つきで操作していく。

 メールを見てみると、新着メールがニ件入っていた。 どちらとも姉の美奈からだ。


 まず一つ目を確認する。内容は『友達と遊びに行くから帰りが遅くなる』とのことだった。


(くそ、こっちの気も知らないで)


 今日は危険な事件に遭遇したり、何度も妹に怒られたりと、苦労が絶えないというのに……。

 涙をこらえ、続いて二つ目のメールを確認した。


「......あれ? これだけ?」


 内容の欄らんには『ごめん』という三文字だけしか書かれていなかった。 


 ――メールの意図がよく分からない。


『友達の家に泊まるから帰れなくてごめん』という意味だろうか。


(それにしては、簡略化し過ぎだろ。 姉ちゃん)


 携帯を閉じてポケットにしまい、食卓の椅子に腰掛けた。

 結衣は相変わらず、こちらに見向きもしない。このままの空気では、夕食が喉のどを通らないのは確実だった。


「テレビ......付けてもいいか?」

「勝手にして」


 尖とがった声で結衣が返してくる。


 今は返事を返してくれただけでもありがたい。

 こちらは無視を覚悟で聞いたのだから――。


 俺はテレビのリモコンを持ち、恐る恐る電源ボタンを押した。


 テレビをつけた途端とたん、女性リポーターの落ち着きのない声が聞こえてきた。

 取材している現場は、なにやら人だかりができていて騒がしい。しかも、その映像は外からのようだ。


 ――夜の時間に人が外に出ている。


 その事実だけで、事態が深刻だということが分かる。

 リポーターの声に耳を傾け、俺は内容を確認していく。


『繰り返します。 現在ここ、シスト市の大型ショッピングモールに大量のシャドウが出現しました。 中には未だ大勢の民間人が残されている模様で、今もパージストたちによる民間人の救助とシャドウの浄化が行われています。 ショッピングモールの周りは複数のパージストが取り囲み、厳重な警備体制が――』


 事件の起きた場所は、姉の美奈が友達と遊びに行った所だった。


 いつもより遅い帰り。意味深(いみしん)なメールの内容。

 俺の中で最悪のシナリオが頭の中を過ぎる――。


 次第に俺の耳から音が遠ざかっていく。

 テレビのリモコンを持っていたはずの手には、もはや何の感触もなかった。


「ねぇ......ちゃん......」


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