ショダの町
見渡す限り大空が広がる小高い丘陵の上には,人ひとりも見えない。青々しいような草花の上に寝転び,手のひらを頭の下に敷いて,お日さまの光を私は浴びるのが好きだ。
ここは,ショダの町。町のほとんどは水田や牧場で,中心部には廃れた商店街のある田舎町。そしてここは,その中心部から少し外れた丘陵。
この丘陵は,珍しい薬草とか,美味しいキノコとかあるわけでもなく,ただっ広い草原が続くだけ。いつも私以外誰もいないここは,爽やかな風が草花や木々の葉を揺らす音だけしか出さず,とても静寂に包まれているところだ。
私は,レハナ=ジュラル。今年で15歳。家族は義父,スディク=ジュラルだけ。なぜ義父なのかというと,私が道端に捨てられていたところを拾ってくれたからだそうだ。。「自分は本当の親ではない」ということを私に小さい頃から言い続けて来たらしい。
そのスディクおじさんは,「冒険者」というものをやっている。あまり詳しい話は聞かされていなくてよく分からないけど,依頼のモンスター討伐などを引き受けて稼いでいるらしい。
来月で,私は齢15を迎えるのだが,その日と同時に,魔法学校に入学する。この国では,15歳を迎えた男女は,魔法学校に入学することが義務付けられている。
ここから1番近いとこならば,国立魔法学校。一般庶民が入学するのは,大抵ここだ。国立魔法学園は,国民の税金で教育費がただになっているらしい。そして,王族や貴族が入学するのは王立魔術学園。後者だと,より高度な魔術を習得することができる。しかし,王立だと自分で多額の金を払わなければいけないので,うちには大金などとても用意ができないから,おそらく国立魔法学校に入学することになるだろう。もちろん,王立魔術学園に行きたい気持ちは山ほどあるのだが。
日もだいぶ昇ってきて,結構眩しい。太陽はもう高いから,もう少しでお昼時なのかもしれない。
午後になったらスディクさんの稽古がある。それは剣術を磨くもので,教わり始めてから5年以上経っている。スディクさんはあまり誉めてくれないし,いつもダメ出しばかりしか言わないけれど,私はショダの町の剣術大会の青年の部では優勝したことがある。急激に上達しているわけではないと思うけれど,大会で結果を残すと自信にも繋がる。
「早く帰ろう。」
そう呟いて起き上がり,ローブについた葉っぱを手で払う。なんだかお腹も空いてきたし,早く帰って昼食にしたい。稽古の時間は13時からと昔から決まっていて,用事があってもそれまでに終わらせなければ回答無用で稽古に引っ張り出させられる。たとえ昼食をとっていなくてもだ。
坂を下って林を抜けると,広がるのは見慣れた小麦畑。目に見えるところには全て小麦があって,家はぽつぽつと点在しているだけ。ショダの住民同士は仲がいいけれど,自分の家から隣の家までは近くても500メートルはあるところがほとんどだと思う。それくらいショダの小麦畑は広いのだ。
畑と畑の細い道を歩く。ここから家までは10分くらいだけれど,昼食をとれる分の時間は残りそうだ。でも,やっぱり今の時刻が分かっているわけではないから歩く速度を落としたりはしない。
歩いても歩いても景色が変わらなくてつまらない小麦畑の間を通ることおそらく10分ほど。やっと私たちが住む家に帰ってきた。しかし,やっぱりいつ見てもそれは家だとは言い難い。
私たちが住むのは,家というより小屋。2つの狭い部屋と,小さなキッチン。トイレとシャワーは外にあるけれど,シャワーは壊れていて使えないので,近くの川まで行って髪の毛を洗ったりしている。そんな生活は,決して裕福だとはいえないしもっと綺麗な家に住みたいけれど,断捨離がもっとーのスディクさんらしいと思う。