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魔術師とおバカなスパイス  作者: 土車 甫
第一章 運命の出会い
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プロローグ

少し残酷な描写があります。ご注意ください。

 荒れた広大な大地を、一人の中年男性と鎖で繋がれたモノが歩いていた。

 炎天下の中、前に歩く男はフード付きのローブを着ていた。数十キロに及び歩き続けた今も、汗一つかいていない。むしろ、潤った顔に、余裕を見せるような自信ありげな笑み。どうみても健康体だ。それに比べ、後ろをゆっくりと、繋がれた鎖で前の男に引っ張られるように歩くモノは、ボロボロになった薄汚いシャツ一枚とズボンで、疲れきった顔をしていた。足取りも軽やかでなく、ふらふらと歩いている。


 もうしばらく歩くと、目の前に大きな山が現れた。――いや、それは山ではなかった。山はのそりと動き始め、男達を見下ろす。山の正体は、龍だった。

「へっ、やっと会えたぜ。こんな所に居住みやがってよぉ、こっちの都合も考えろっての。……さて、悪いがテメェを狩らせてもらうぜ。テメェには、多額の賞金がかかってんだからなァ!」

 吠える男に応えるように、龍も吠える。その咆哮は男の者とは比べ物にはならない、とてつもなく大きい声だった。その咆哮による威圧で、周りにいた生物はたちまち逃げ去っていく。


「かーっ、流石古龍様だなァ! ……それじゃあ、行きますかァ!」

 男が龍に向かって走り始める。それと同時に、後ろのモノを繋いでいる鎖が伸びる。その鎖を断ち切るかのように、龍は長い尻尾を振り下ろして攻撃する。――しかし、その鎖は切れるどころか、傷一つ付かず、龍の攻撃を貫通させた。

 それを見て驚きを見せる龍。しかし、すぐに次の攻撃に移る。龍は振り下ろした尻尾を、横に激しく動かし、繋がれたモノ自体に攻撃する。――だが、その攻撃は、攻撃が入る直前に見えない壁によって止められた。


「そいつはなァ、俺の賞金首狩り歴三十年で稼いだ巨額の大金を叩いて雇ってんだ。そんなやつを、安全性見落としてバリア張らない馬鹿がいるかよ!」


 走りを止め、不敵な笑みを浮かべながら、開いた右手を龍にかざすように前に出す。

「次は俺の攻撃のターンだァ! 味わえよ、超高級マナによるウィークマジック! ――《氷結フローズン》!」

 男が呪文名を唱えると、男の右手が白く輝き、次の瞬間、ここに存在することがない大きな氷が、龍の足を凍らせていた。

 龍が悲痛な声を上げる。突然凍った自分の足を嘆き、じたばたする。


「かーっ、こりゃヤベェ! 精々馬一頭分凍らす程度のウィークマジックを、四十メートルもある古龍の足を丸々凍らせやがったぞ!」

 男は頬を上気させて興奮する。続いて、右手を上に掲げる。


「次はこれだ――《雷焼ライジングバーン》!」


 黒雲もない、ギラギラと大地を焼く太陽が見える晴れきった空から、突如雷が落ちてきて、龍の左翼に直撃する。

 またも龍は悲痛な声を上げる。それも、先程より大きく悲しい声だった。自分の焼けてしまった左翼を見て、咆哮を上げる。


「ヤベェ! ヤベェよこれ!! 俺ってこんなに強かったのか!? 殺れる! 今なら、あの伝説の古龍を、この手で! 俺の最強呪文で、次こそ確実に!」

 怒りに身を任せ、口には次の攻撃に備えた火炎を溜めて突進してくる龍に向かって、男は両手を突き出す。


「奇遇だな、古龍。俺も炎系の魔法だぜ……テメェより遥かにハイレベルのなァ! ――《炎激爆破イグナイトフォース》ッ!!」


 男の両手から、特大な、この星ごと燃やし尽くすかのような炎の球が生成される。それを生成した張本人である男ですら、目の前に現れた規格外に驚く。が、それが勝利を確信に近づける。

 龍はそれを見ても動じなかった。腹を括っての最後の攻撃なのだろう。今でも動きに迷いを感じない。


「その威気、流石だぜ古龍様よォ! だが、テメェはもう終ぇなんだよォォォオオオオオ!!」

 男の咆哮と共に、放たれる巨大な炎の球。突撃する龍に直撃した瞬間、それは大爆発を起こした。男は咄嗟に自分の周りにバリアを張り、身を守る。


 ――数分後。

 爆風によって上がった砂煙がおさまり、視界がはっきりとしてくる。そこには、数百メートルもの巨体をボロボロに傷つかせた龍が、倒れていた。

「けっ、最後まで流石だぜ、古龍。あれほどの攻撃で吹き飛ばねぇなんてよ」

 勝利した相手に、賛美の声を送る。そして、

「やった……! やったぞ……ッ!」

 体の底から溢れ出てくる喜びを噛み締める。大きくガッツポーズを取り、何度も「やった」と言う。


「……くぅ~っ、しかし、お前も流石だぜ。まさかあれほどとはな……おい、待てよ」

 翼も折れ、皮膚が所々落ちている龍がピクリと動き、ギロッとした目を開ける。男はそれに気づき、身構えるが遅かった。龍は最後の力を振り絞り、特大の炎を吐き出した後に、力尽きて息を絶えた。

特大な炎に包まれた男の体がよろめく。男の体からは煙がこみ上げ、全身真っ黒だ。

龍との戦闘前から一歩も動いていないモノは、冷酷とした目で、男を見下ろしていた。

しばらくして、繋がれていた鎖が消える。それを見て、そのモノは呟いた。


「分かっていた事だ」


腹を抑え、片足を引きずりながら倒れた男のそばに歩み寄り、ロープを剥ぎ、自分の体にまとわせる。そしてそれ以上の事はせず、男に背を向けて歩き始める。

「――っ」

 突風が吹き上がり、顔に小石が飛んできて当たった。どうやら、あの男によって張られていたバリアは解かれたらしい。頬から血が滲み出る。それを指でなぞると、血は指にもつかずに消える。

 そして何も気にすることなく、歩を進み続ける。


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