Last wish Part 2
本日二話目です。
―――違う!こんな…こんな未来を望んだ訳じゃない……!!
しかしどれだけ叫ぼうとも、誰にもわたしの声が届くことなど無い。
何故ならわたしの声は、もう二度と声帯を通ってなどくれないのだから―――。
□■□ Last wish Part 2 □■□
翌日からも淑女教育は続いたが、先生が皆驚愕した顔をしていた。
当然だろう、昨日までは未だまごついていた勉強をスラスラ諳んじるように答え、水を得た魚のように動いてみせたのだから!
「どうしたんだい、私の可愛いヒト。教師から聞いたよ、まるで別人のようだって。」
「リュカ様…私、前から思っていたのです、このままでは駄目だって。このままではリュカ様の隣に立つのに相応しく無いって。
だからこっそり特訓して…自信がついてから、行動に起こしてみようって思ったのです。
―――そんなに、変でしたでしょうか?私、まだリュカ様の隣に立つには役不足でしょうか…?」
垂れかかるように、不安を瞳一杯に溜めてリュカ様を見上げる。
するとリュカ様の瞳が変わるのがわかった。
「…いいや、そんなことないよ、私の可愛いヒト。本当に、私の妃はいつも私を驚かせてくれる。」
「リュカ様……。」
そして抱きしめてくれるリュカ様の瞳は、ハッキリとわたしを捕えてくれている。
リュカ様も、わたしが王妃に相応しいと気付いてくれたのだろう。
絶対に側妃になんてならないんだから、絶対に。
それから暫くしてわたしの生活は激変した。
まず淑女教育その他etc.が終わり、殿下について貴族の前に出ることが増えた。
今までが準備期間と言うのなら、今は実地訓練と言った所かしら?
わたしを気に入らない貴族の殿方や令嬢が意地悪いことを聞いてくることもあったけれど、王妃になるわたしの敵ではなかったわ。
全員、未来の王妃らしく蹴散らしていってやった。
そののち わたしの実力が認められたのか、宰相であるデュボワ侯爵家から養子縁組の打診があって、この度見事わたしはデュボワ侯爵家の後ろ盾を得ることとなった。
これでもう、わたしを側妃にだなんて言わせない…!!
「エマ様、明日のドレスは如何致しましょう?」
昼餉の後のお茶の時間に衣装係の侍女が聞いてくるのが午後のスタートの合図。
今日は淡いピンクのドレスだったし、明日は久々に藍色のドレスにしようかしら?
そう言おうとしたのに、わたしの口から出たのは「そうね、明日はリュカ様と共にジュファ皇国からの使者をお迎えするし…リュカ様の衣装係は何と?」という言葉だった。
「いえ、侍従からはまだ何も。」
「そう…なら、ジュファ皇国の使者の衣装は何色かしら?被らないで、かつ友好を示せるようなドレスにしたいわ。」
「それでは、先日侯爵家から贈られました向日葵色のドレスはどうでしょう?
ジュファ皇国の国花であるクリザンテームの代表的な色ですので、友好の証にはピッタリかと。」
「そう…そうね、それでお願い。でもリュカ様と衣装の釣合が取れそうになかったらもう一度決め直すわ。」
自分の意志では無い、何かの意志がわたしの口を通っていく。
言いようもない気持ち悪さに、手が震える。
「畏まりました。」
そうして侍女が頭を垂れるのと同時に、その気持ち悪さが波が引くかのように無くなっていった。
多分、わたしの身体から、あの気持ち悪い、得体の知れない意志が出ていたんだろう。
「あ…待って……。」
震えそうになる声を懸命に抑え、侍女を呼び止める。
「?何かございましたか、エマ様?」
怪訝な侍女に再び衣装について話そうとしたけれど、先程口に出た案は、微々たるものだけど確かにリュカ様の功績の役に立つ案だった。
何がわたしにああ言わせたのか判らないけれど、わたしの益に繋がると言うのなら。
「…いいえ、何も無いわ。」
この時、わたしがその『何か』に抗っていれば何か変わったのだろうか。
今となっては、もう何が正しかったのかは判らないけれど、確かにあの時が最初の転換点であったことは間違い無いだろう。
それからも、時折『何か』はわたしの身体を乗ったけれど、どれもどれもわたしの、そしてリュカ様の益となるものばかりだったからわたしは得体の知れない恐ろしさに身を包まれながらも甘受し続けた。
そして月日は流れ―――。
「綺麗だよ、私可愛いヒト。」
「リュカ様……!」
春麗らかな今日、リュカ様の戴冠式より一ヶ月経った今日、わたしは遂に王妃となった。
陛下―――否、今はもう前王ね。
前王が王妃の打診をしていたレア様は、わたしの取り巻きの侯爵家の手によってリス王国の為に他国の男の…マルタン前侯爵と同い年の男に嫁いで行ったし。
もうわたしを邪魔する者なんていない、もう、わたしの幸せを邪魔するものなんていない!
これから本当に幸せになるんだ―――!!!
「…今、何と言ったのですか?リュカ様……。」
「側妃を娶ろうと思うんだ、私の可愛いヒト。」
相も変わらず優雅に微笑みわたしを見下ろすリュカ様に、わたしは急激に熱が冷めていくのを感じる。
初夜の途中でリュカ様が語ったのは、ある遠い日のリュカ様の初恋だった。
幼いあの日、リュカ様は異国のある街で下級貴族の娘と出会い、恋をした。
一時の熱かと思ったけれど、その後成長していく過程で何度も出会い、遂に二人は真実の愛で結ばれた。
下級貴族の娘だと思っていた娘は、実は異国の王族の末娘で、継承権を放棄する為に下級貴族の養女となっていたのだ。
しかし両国の友好の証として婚姻を結ぶには障害がありすぎた。
彼の愛しいヒトを手に入れたい、しかし前王が選んだ王妃では軋みを生みかねない。
だからリュカ様は捜したのだ、王妃に相応しい自国のご令嬢を。
そして選ばれたのが、わたし、だった。
「彼の国と同盟を結べれば何より国も豊かになる。君には彼女の友となり、味方となり、支えて欲しいんだ。私の可愛いヒト。」
どこまでも優雅に残酷に告げるリュカ様に、わたしは初めて殺意すら抱いた。
―――わたしへの愛は、その愛しいヒトを手に入れる為のまやかしだったの?全部が全部、嘘偽りだったと言うの?
「…それを、ご側近の方々はご存知なのですか…?」
「いや、この話をしたのは君が初めてだよ、私の可愛いヒト。」
『私の可愛いヒト』…そう言えば、出会った当初からリュカ様はわたしを名では呼んでなどくれなかった。
―――なんだ。初めから、わかっていたことだったんだ。なのに、わたし……。
「謹んでお請け致しますわ、リュカ様。」
悔しさに、悲しさに、惨めさに、だけど矜持の高さから涙なんて見せることなど出来ずにリュカ様を凶弾した筈だったのに…口から出てきたのは『是』という答えだった。
「国が、民が豊かになるというなら、王妃たる私にリュカ様の…陛下のおやりになることを反対する理由などありませんわ。」
「そうか…ありがとう、私の可愛いヒト。君を選んで、本当によかった…。」
「陛下……!」
そう呟く私を陛下は殊更優しく、優しく抱きしめてくれた。
違う、違う、違う…!!こんなこと、わたしは思っていない!望んでもいない!!
――――――世界のどこかで「アナタ ノ 願イ事 全テ 叶エマシタァ」と言う不気味な声が聞こえていたが、最早身体の自由を奪われたわたしに、その声が聞こえる筈も無かったのでした。
後世、14代目リス王国国王リュカ・ロワ・リスの治世は王国を大きく発展させ、周辺諸国との摩擦も最も少なかった時代として歴史では大きく取り上げられることとなる。
彼の国王がここまで国を発展できたのは、偏にエマ・レーヌ・リスという理想の王妃とも呼べる存在があったからだと、国王は語る。
愛妻家でも有名だった国王の惚気話だと言う歴史研究家もいたが、「王妃エマは異国の王族でもあった側妃と、まるで姉妹のように手を取り合い国王を支え続けた」という側近の手記が残っているように、正に国王の言う通り『理想の王妃』『王妃に成るべく生まれてきた令嬢』であったのだろう。
史実に夫共々名を残す王妃エマは、時の吟遊詩人によってその出自を語り継がれ、今日までに広く知られることとなる。
そして500年程先の未来で、とある作家の手によって一つの物語に編集されるのであった。
タイトルは―――『サンドリヨン』。
※元々正室と側室の違いは家族か非家族か。
つまり正室は「家族の一員」として認められますが、側室は「使用人」という位置付けです。
今作での側妃も同等の位置付けにしています。




