Last wish Part 1
―――これでわたしは…私はリュカ様の王妃になれる―――!!
不思議な光に身を任せて瞳を閉じる。
次に目覚める時、わたしは本当にこの国で一番王妃に近い令嬢になっていた。
そう…一番王妃に相応しい令嬢に。
□■□ Last wish Part 1 □■□
使者団の馬車に乗ってフランボワーズ王城へ参上したわたしを待っていたのは、お城に使える侍女達だった。
随分訝しげに侍女達はわたしを見てきたけど、使者が「陛下並びに殿下の御前に出させるに相応しい恰好にせよ。」と命じれば、たちまち仕事の顔になってわたしを磨いていく。
広く暖かい湯殿で身体を隅々まで洗われ、先日身に纏っていたドレスを着せてもらって、香油や白粉で化粧を施されて。
仕上げにこれまた先日身に着けていた紅い宝石の髪飾りと、シルクの手袋、そして硝子の靴を再び履いて。
唯一の違いは、先日取り返したピンクダイヤモンドのブローチが胸に輝いていることかな。
本当は舞踏会でも着けていたかったけど、お母様達に気付かれる可能性があるから敢えて着けて行かなかった。
姿見に映るわたしは、舞踏会の時以上に綺麗だった。
さっきまで訝しげに見てきた侍女達さえも、見惚れるように頬を僅かに染めている。
それからというもの時間は目まぐるしく過ぎていった。
王子様…リュカ様の妃になる為の淑女教育に始まり、マナー、外交、ダンスレッスンetc…。
どれもとても難しかったけどリュカ様の妃となる為に必要なことだからと、一生懸命頑張った。
「おはよう、私の可愛いヒト。勉強はどうだい?」
「リュカ様…!」
一日の内、一度はこうやってリュカ様がわたしのところに来て世間話をしていくの。
前に一度「こうやってお会いできることは…会いにに来て下さることはとても嬉しいです、でも…殿下も政務などでお疲れではないのですか?私に構わず、どうかご自愛下さい。」って聞いたら「そんなことないよ、私の可愛いヒト。私はね、君とこうやって話しているだけで、共に居るだけで癒されているんだ。…それと―――私のことは『殿下』ではなく『リュカ』と呼んで欲しいな。」って返されちゃって…。
本当、殿下―――じゃなくって、リュカ様の人っ誑し!素敵!!
こうやってリュカ様が支えてくれるから、わたしも早くリュカ様を支えられるように頑張らないと!って思えるんだよね。
さあ、今日も妃修行張り切って頑張らないと!!
「それにしても…殿下は一体どういうつもりなのでしょうか?」
今日は朝からダンスのレッスンがあるからとダンスホールへ行く途中に漏れ聞こえた声に歩みが止まる。
声のした方を見れば、眼下で小規模なお茶会が開かれていた。
主催者は…多分、赤いドレスのあのご令嬢だろう。
確か……マルタン侯爵家ご令嬢のレア様、わたしが現れる前までリュカ様の妃に一番近かった、有力候補だったご令嬢。
「本当に。あんな方を妃にするなんて…。」
「確か貿易で財を成した、新興貴族の男爵家の出身でしたわね。
殿下も地盤をお固めになりたいのなら、同じ貿易商で歴史もあるロベール伯爵家のイネス嬢を娶ればよろしかったのに。」
イネス嬢…長年父様が運営するベルナール貿易商商会の2番手に甘んじているロベール商会の2番目のご令嬢。
わたしも生粋の貴族だけれど、お母様達に虐げたられていたわたしと違い、今の今まで貴族として教育されてきた、本当の貴族のご令嬢。
「そういえばレア様、先日小耳に挟んだのですが…陛下がマルタン侯爵にレア様を王妃にと打診しているというのは本当なのですか?」
「!?」
レア様の取り巻きの言葉に心臓が止まりそうになる。
どうして?わたしがリュカ様の妃じゃないの?
「ええ、殿下の妃選出に口を出さない代わりに正妃…王妃の選出は全権を陛下が預かっているそうですわ。」
「成程、ですから陛下もあのお綺麗なご令嬢を妃とすることをお認めになったのですね。」
「まあ、所詮新興貴族のご令嬢。何やら必死に淑女教育を行っていると聞きますが…精々側妃として殿下を支えて下さればいいですわね。」
「ええ、本当に。間違ってもレア様の邪魔さえしなければ…ね。」
血の気が引く、息が上手くできない。
つまりレア様達がおっしゃっていることが本当なら、わたしは…わたしは、ただの肉体関係のある使用人じゃないか。
「エマ様、ダンスのレッスンの時間が押しています。お早く。」
同じく眼下の会話が聞こえていたであろうに私付きの侍女は全く動揺していなかった。
つまり、彼女も…侍女でさえもわたしの位置付けを知っていたということ。
「…ええ、行きましょうか。」
急激に頭が冴えていくのがわかる。
きっと顔色は未だ悪いままだろう、だけどわたしは音声にはおくびにも出さずダンスホールへと歩みを進めた。
失望が段々と怒りに変わっていくのが手に取るようにわかった。
許さない、許さない、許さない―――!!!
わたしがリュカ様の妃よ、わたしがリュカ様の唯一の妻よ、誰にもその立場を譲ってやるものですか―――!!!
その日の夜、わたしは再び小瓶を手に取った。
小瓶は初めて拾った時よりも、二度目の願い事を唱えた時よりも綺麗になっていて、中の羊皮紙もまるで新品かのようにシャキッとしている。
『I grant your last wish 』と書かれた羊皮紙を、最初の時同様小瓶を片手に握り締めながら広げて願う。
「わたしを誰の文句も出ない、陛下さえお認めになるリュカ様の王妃にして!!!」
するとどうだろう、小瓶と羊皮紙が光り輝きわたしを包み込む。
初めての現象に驚く気持ちはあったけれど、不思議と怖くは無かった。
―――だって小瓶は今までもちゃんとわたしの願いを叶えてくれたんだから!




