Second wish Part 2
本日二話目です。
優雅に流れ続けるヴァイオリンやフルートの調べに耳を傾けながらステップを踏めば、会場にいる誰もがわたしを…わたし達を見ているのがわかる。
―――このまま、この幸せな時が続けばいいのに…。
□■□ Second wish Pari 2 □■□
「可愛いヒト…貴女のお名前を教えて頂けませんか?」
軽やかなステップと共に囁くように問われる王子様のお声に、わたしは早くも腰砕けになりそうです。
「それは…。」
懸命に耐えて王子様のお相手として見劣らないようにステップを踏み続ける。
しかし遂に十二時を伝える鐘の音が王城を包み込み始めた。
「もう…行かないといけません。」
「もう…?何故です?宴はまだ中盤、私はもう少し、貴女と共にありたい……!」
「それは、私とて同じです。ですが…さようなら……!!」
わたしはそう王子様に告げると、少し強引に王子様から離れて舞踏会を後にした。
後ろから王子様が追ってくるのがわかるけど、今は止まれません。
「あっ…!!」
階段の中段の踊場に来た時、足が変な方向に捻じれて転んでしまった。
ピンヒールみたく硝子の靴のヒールは面積が小さくて、ダンスしていた時も何度かバランスを崩しかけていたけど、何もこんな時に転ばなくたって…!
幸い、捻じったと言っても捻挫した訳では無いようだし、このまま走る分には支障は無い。
支障は無いけれど、転んだ弾みで硝子の靴が片方どこかにいってしまった。
「待って下さい!私の可愛いヒト!!」
―――きゃっ、『私の可愛いヒト』ですって!王子様ってば…本当に素敵!!
内心感動していたけれど、ロマンティックに王子様の妃になる為にはここで挫けては駄目!
わたしは内心、とってもこの場にこのまま残りたい気持ちを懸命に抑えて王城から立ち去った。
最後の荷物に手をかけると、出てきたのは一枚の羊皮紙と木製の絡繰り人形だった。
驚いたことにこの絡繰り人形、通常の物とは違いわたしの肩辺りまであり、なんでこんな珍し物が屋敷の、しかも物置部屋に眠っていたんだろ…。
取り敢えず、このタイミングで出てきたということはわたしが王子様の妃になる為には必要だということだろう。
同封してあった羊皮紙を開き、読んでいく。
「えっと…『この度は弊社の自信作絡繰り人形をご購入頂き、誠にありがとうございます。
本書は使用にあたりご注意頂きたいことが数点あり、取扱い説明書とは別に同封させて頂きました。
まず一点、この絡繰り人形は魔石によって稼働します。
魔石が尽きればただの木製の人形になってしまうことをご了承下さい。
二点目に、今作は魔法付加を取り入れておりますが、攻撃性の高い魔法は使用できません。
変化の魔法・変身の魔法と言った、無属性のモノを数回使用できる程度ですのでご了承下さい。
最後に、最初に述べた通りこの絡繰り人形は魔石が稼働力となっており、最大3時間程度しか稼働できません。
具体的な稼働時間は絡繰り人形にお聞き下されば残量から大まかな稼働時間をお答えします。』
成程…でもこの子が居れば着替えも楽々、お城にだって行ける…!!」
わたしは取説に沿って絡繰り人形を稼働させお城へ行く準備を着々としていった。
お化粧っ気の無い顔は絡繰り人形に変身の魔法で、お化粧で整えられる程度に魔法をかけてもらう。
コルセットを縛ってもらって、ドレスに着替えて、アクセサリーを身に着けて。
最後に変化の魔法で庭にあった南瓜を馬車に、胡瓜を馬にしてもらってお城に急いだ。
お城に着く少し前に残りの稼働時間を聞いたら、帰りと着替えのことを考えたら12時にはお城を出ないといけないことがわかって、少なくとも1時間程で王子様の目に留まって落とさないといけないことになったけれど…。
やっぱり生粋の貴族とお姉様達平民からの成り上がりは違うわね、舞踏会会場に入った時から皆わたしに注目してて、王子様もすぐにわたしの元に来てくれたわ。
そして何曲も踊って、お互いに、お互いしか目に入っていなかった感じ。
最後はちょっと冷や汗をかいたけれど、無事に屋敷について馬車も馬も元の野菜に戻ったし、絡繰り人形に手伝ってもらって着替えも終えれたし。
後はどうロマンティックに王子様の妃になれるのかは判らないけれど、今日はもう寝てしまおう。
明日から暫くはまた今まで通りの生活だろうし。
だけど王子様が迎えに来てくれる、絶対に。
その事実が今のわたしの新しい心の拠り所だ。
精々一生懸命お世話してあげますわ、お母様、お姉様達。
「一体あのご令嬢はどこのどなただったのかしら?」
「本当!あのご令嬢の性で、お姉様も私も目当ての殿方には逃げられてしまうし…。」
翌朝のお姉様達はいつもと変わらず、否、いつも以上に姦しく食堂へと入ってきた。
「おはようございます、お姉様。あの…昨日の舞踏会がどうかしたのですか……?」
給仕をしながらお姉様達に伺えば、まるで般若のような顔でお姉様達は口々に謎のご令嬢について話してくれた。
曰く、舞踏会も中盤に差し掛かろうとした頃、お姉様達でさえ見惚れるような美しいご令嬢が登場したそうだ。
周りもどこかの国のお姫様が登場したのかと思い道を譲り、すぐさま王子様の目に留まったらしい。
それからの二人にダンスは、まるでバレエやオペラの一幕を見ているかのように優雅で素晴らしいものだったけれど、突然ご令嬢が姿を消してしまったそうだ。
戻ってきた王子様はどこか茫然自失としているし、当然、今までイイ雰囲気だった殿方も何だか上の空になってしまい、舞踏会は白けたまま終わってしまったらしい。
「あのご令嬢さえいなかったら、私達だって、私達だってぇ……!!」
お姉様達の悔しそうな声が食堂に木霊する。
それを背に聞きながら給仕していたわたしは、秘かに口元を引き上げていた。
それからまた数日して、再びリス王国に勅命が触れ渡った。
『この硝子の靴にぴったり合った娘を第一王子であらせられるリュカ・プルミエ・リス殿下の妃とする。』
最初は皆冗談かと思っていたお触れだったけれど、王家の紋章を掲げた馬車が一軒、また一軒とお屋敷を訪ねている姿を見て、王子様が本当に靴の持ち主を妃に迎えるつもりだと、瞬く間に民間から貴族まで触れ回った。
当然、どの令嬢も王子妃になれるチャンスだと意気揚々と硝子の靴を履いてみたけれど、大きすぎたり小さすぎたりと、今まで誰一人として履けた者はいなかった。
そして―――。
「ベルナール男爵家マノン・ベルナール、クロエ・ベルナール、共に不適合。」
とうとう、我がベルナール男爵家に硝子の靴が、やってきた。
仰々しく使者の一人が羊皮紙に何かを書き込んでいく。
多分、不適合の×マークだか、レ点マークだろう。
「使者様、お勤めご苦労様でございました。どうかこの先、硝子の靴の持ち主が現れになることを、娘共々臣下として願っております。」
そう祝辞を送りながら礼をするお母様に、仰々しく書き込んでいた使者は訝しむように顔を上げて尋ねた。
「してベルナール男爵夫人、この家にはもう一人ご令嬢が居る筈ですが?」
「…いえ、我が屋敷には……。」
お母様は「ここに呼びましたマノン・ベルナールとクロエ・ベルナールしかおりません。」とでも言おうとしたのだろう。
でも、そんなことさせない。
「お待たせしました、お母様。エマ・バロン・ベルナール、ただいま参りました。」
お母様とは違って臣下の礼をとるわたしに、この場にいる全てのヒト達が注目しているのがわかる。
「この娘は…?」
「も、申し訳ありません!この者は―――。」
「ベルナール男爵家当主エンゾー・バロン・ベルナールと、リシャール子爵家が三女 前妻カミーユ・バロン・ベルナールが第一子、ベルナール男爵家嫡子のエマ・バロン・ベルナールでございます。
使者様のご訪問をお聞きし急ぎ参上致しましたが、遅れてしまったこと、ここに平に謝罪申し上げます。」
完璧な貴族としての受け答えに、使者勢が困惑しているのがわかる。
親のフルネームと関係性、そして自身のフルネームを告げる自己紹介は、決闘や誓約を立てる時に使う魔法を用いた神聖な自己紹介だ。
もしここで偽りを少しでも含んでいようものなら、魔法がわたしを戒め、最悪死に至る。
フフフ、どうかしらお母様、お姉様達。
これが生粋の貴族というもの…たとえボロを纏わせようが、その心根までは落とさせない。
「…ふむ、ではエマ・バロン・ベルナール。ここに来て硝子の靴を試せ。」
「仰せの通りに。」
硝子の靴の前に立ち、ゆっくりと片足を上げ指先からスルリと流れるように―――ピッタリと、履いてみせた。
「おお!」
「そ、そんな…!!」
「どうして…!?」
周りが驚いているところに、もう一つ、爆弾を投下する為わたしは持ってきた包みから残りの硝子の靴を出してみせた。
勿論その際、あの舞踏会で着ていたドレスや宝石がチラリと使者にのみ見えるようにして。
「確かにこれは私達使者団が所有している硝子の靴の一対のようですが…。ベルナール男爵令嬢、これはどちらで?」
「詳しい経緯は存じ上げませんが、どれも我が屋敷で眠っていた品物でございます。
私は見ての通り、継母である現ベルナール男爵夫人であるお母様に嫌われていまして…。
先日の舞踏会へ参加する為、物置部屋から己一人で揃えた品の一つでございます。」
視界の先でお姉様達が何か反論しようとしていたけれど、何を言っても今以上にマイナス評価を与えると悟ったのであろうお母様によって止められていた。
そういった計算ができるから父様を籠絡できたのでしょうね、本当、先日も思ったけれど意外と現実が見えているのね。
「ふむ…、エマ・バロン・ベルナール。」
「はっ。」
「王命に乗っ取り、ベルナール男爵家嫡子エマ・バロン・ベルナールを第一王子であらせられるリュカ・プルミエ・リス殿下の妃として迎えることをここに宣言する。」
「有難き幸せ。臣下として、妃として、精一杯殿下にお仕えすることをここに誓います。」
頭を垂れ、使者の宣言に誓いを立てる。
―――これで、わたしは願い通り、ロマンティックに王子様の妃になれる―――!!!
今までわたしを妬み、無理矢理下女の立場まで落としてきたお母様達を見返せたことに優越感を抱き、そして、これからの新しい生活に夢を馳せていたわたしには気付かなかった。
――――――世界のどこかで、また「アナタ ノ 願イ事 1ツ 叶エマシタァ」と言う不気味な声が聞こえていたことに。




