Second wish Part 1
その時のわたしの頭の中にあったのはお姉様達への対抗心と、お母様への敵対心だけだった。
―――このドレスと宝石と靴で、必ずロマンティックに王子様を射止めてみせる…!!
□■□ Second wish Pari 1 □■□
ピンクダイヤモンドのブローチをお母様から取り返して、そして、あの不思議な小瓶を手に入れてから数日して、リス王国にある勅命がふれ渡った。
『三日後フランボワーズ王城にて第一王子であらせられるリュカ・プルミエ・リス殿下の妃選びの為の舞踏会を行う。
年頃の娘は皆王城へ参上すること、また、領地に居る者に関しては転移陣の使用を許可する。』
「お母様!このドレスはどうかしら?!」
「お母様!やっぱりこのエメラルドの髪飾りの方がいいかしら?それともあのルビーの髪飾り?」
「ああ、マノン。そのドレスよりこっちの方が貴女の髪色が栄えて素敵だわ!
そうね、クロエ。どちらも素敵だけど、こっちのダイヤモンドの髪飾りの方が舞踏会の街灯で輝いて素敵だと思うわ!」
今日も今日とてお母様とお姉様達は、衣裳部屋をひっくり返して明日の舞踏会の為のドレス選びに精を出していた。
そんなことをしても、お姉様達は貴族では無いから王子妃に選ばれる筈など無いのに…。
「いいこと、マノン、クロエ。貴方達はこのベルナール男爵家の長女と次女。きっと殿下のお眼鏡には留まらないかもしれない。
でも挫けては駄目よ?世の中殿下以外にもイイ男はいるわ!その方々をしっかり落としてくるのよ!」
「「はい!お母様!!」」
…意外とお母様もお姉様達も現実を見ていたらしい。
今度の勅命が出た時すぐに流れた噂の中に『第一王子の妃に身分は問われない』というものがあった。
民間まで流れた噂だから、きっと限りなく本当のことなのだろう、とは我が屋敷の情報通である料理長の推察だ。
だからお母様達も、てっきり噂を信じ切って準備をしているものだと思っていたけれど…。
「意外と現実主義だったんだ…。」
「サンドリヨン!何モタモタしているの?!早くドレスを持ってきなさい!!」
「は…はい!お母様!!」
「はあ…これで準備は万端、ばっちりね。」
夜が更け晩餐の席でお母様が一仕事終えたように呟く。
お姉様達も口々に「絶対素敵な殿方を捕まえてきますわ、お母様!」「私とお姉様の美貌にかかれば落ちない殿方などいませんわ!」と声高々に宣言している。
「あの…。」
「……ああ、居たの、サンドリヨン。一体何の用?」
さっきからわたし一人に晩餐の給仕をさせていた癖に、お母様は今気付いたと言わんばかりに鬱陶しそうにわたしを見つめる。
昔から、お母様のこの『眼』が怖くて怖くて仕方が無かった。
それでも、これだけはしっかり聞いておきたかった。
「あ…はい、あの…お母様。わたしは一体どんなドレスを着て舞踏会に行けばいいのでしょうか……?」
「……は?」
しんとなる食堂。
次の瞬間、貴族にあるまじき声を上げてお母様達は笑い出した。
「あ、あの……。」
「ククク…何を言い出すかと思ったら……!」
「アハハ…サンドリヨン、あんた本当に舞踏会に行けると思ってんの?
そんな汚い手を取ってくれる殿方なんている訳無いじゃない!」
「マノンお姉様…。」
言われて自分の手を見つめる。
皿洗いでひび割れあかぎれた指、風呂を沸かす為に何度も水を汲み直して出来た手豆…確かに貴族の令嬢として有るまじき手だわ。
「大体、そんな貧相な身体で籠絡できる相手なんて…王子様は勿論、他の殿方だって無理じゃない?
よくて幼女愛好者、悪くて変態思考者が関の山でしょう!」
「マノン、クロエ、品が無いわよ。例え事実だとしても言い方を考えなさい。」
クロエお姉様の言う通り、わたしの身体は貧相だ。
働いている量に比べ食事量が圧倒的に足りないのだもの、貧相になったって仕方が無いじゃない。
お母様がお姉様達を窘めるけれど、お母様だってそう思っているのか瞳はお姉様達以上に歪みわたしを嘲り笑っているのがよくわかった。
「だけど…だけどわたしは!このベルナール男爵家嫡子です!参加資格は十分にあるわ!!」
「ふふふふ…例え資格があったとしても、何で私が貴女のドレスを誂えてあげないといけないの?
貴女だって大嫌いな私に誂えてもらうなんて屈辱でしょう?
でも…そうね、舞踏会に参加できるだけの準備が出来たら連れて行ってあげてもいいわよ?尤も…用意できたらだけどね!」
そういうと、お母様達は再び品の無い貴族にあるまじき笑い声を上げたのだった。
仕事を終え、自室として宛がわられた物置部屋に戻る。
―――悔しい、悔しい、悔しい、悔しい!!!
嘲笑われたことが、事実を的確に言い当てられたことが、何一つ自分では舞踏会に参加できるだけの用意もできないことが。
全てが悔しくて悔しくて憎らしかった。
少し前のわたしなら、きっとまた隠れて涙に濡れていただろう。
だけど今のわたしは違う!
扉を乱暴に閉め、今にも壊れそうな机の引き出しを開ける。
そこにはあの夜拾った小瓶がコルクで封をして『I grant 2 more of your wish』と書かれた羊皮紙を収めて鎮座している。
『「そんな汚い手を取ってくれる殿方なんている訳無いじゃない!」』
『「そんな貧相な身体で籠絡できる相手なんて…王子様は勿論、他の殿方だって無理じゃない?」』
お姉様達の嘲笑が頭の中を木霊
「だったら…わたしが、わたしが王子様のお妃様になってやるわよ!!」
羊皮紙を広げ小瓶を握り締めて強く願う。
「わたしを明日の舞踏会で誰よりもロマンティックに王子様の妃にして!!!」
やはり前回同様、すぐには何も起こらない。
でもわたしは確信していた。
小瓶は、必ずわたしの願いを叶えてくれる、と―――。
「じゃあ行ってくるわね、サンドリヨン!」
「ふふふ、お土産話位はしてあげてもいいわ、楽しみに待っていることね!」
「そうそう、他の使用人達は皆、今回の舞踏会を記念した祭りに出掛けているから。貴女はちゃぁんと留守番しているのよ?
…まあ、他の使用人達と違って給金も無い貴女が出掛けられる筈も無いしね!しっかり屋敷を守るのよ?」
次の日の夕暮れ、お母様達はそう言って貸し馬車にしては大層豪華な馬車に乗って王城の舞踏会へと出掛けて行ってしまった。
お母様の言った通り、使用人も侍女も下女も、皆特別給金を貰ってお祭りに出掛けるそうだ。
マチスや料理長と言った人達も、お母様の命令には逆らえない…否、逆らう気なんて無いから「お土産を買ってくる」と言って出かけてしまった。
一時間、また一時間と過ぎても、何も起こらなかった。
「アハハ…何だ、やっぱりアレはただのお母様の気まぐれで、こんな小瓶に願いを叶える力なんて…力、なんて……。」
惨めで泣きそうになった時、ガタンッ!と大きな音が部屋に響き渡った。
暗い部屋の中よく目を凝らして見ると、自室に残ったままだった荷物がいくつか雪崩を起こして落ちてしまったようだ。
「なんでこんな日に…え……?」
本当に今日は厄日だと崩れた荷物に手をかけると、そこには見たことも無いような美しいドレスが仕舞われていた。
他の荷物も開けていくと紅い宝石の髪飾りや、シルクの手袋、そして硝子の靴が仕舞われていた。
「素敵…!これを身に着けていけば、きっと…!!」
―――王子様だって、モノにできる…!




