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相方は原始人  作者: てんさん
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プロローグ

 突然だが、俺の相方は原始人だ。いや、まだ確証はない。だけど、見てしまった。見てしまったんだ。そう、俺の相方は、間違いなく原始人だ。


 ――2039年・11月29日。

 今日はオフの日。俺が所属している組織「レジスター」の待機寮で、俺は相方と二人、部屋にいた。狭いがちゃんとベッドが二つ用意されていて、キッチンもあり、二人ならば十分暮らすことができる部屋だ。……とはいっても、実は俺の相方というのは、女である。だから二人で暮らすという表現は語弊があったかもしれない。というのも、部屋が足りないと俺たちが所属する組織のマスターが言い放つものだから、相方だから別にいいだろうと、共通で部屋を使うことになったのだ。まぁ、当然だが二人で何かけしからんことをしたという実例はまだない。いや、まだじゃない、これからもない。……たぶん。

 そんな俺の相方の名前はリム。黒髪のロングヘアーで、顔は一応、良いほうなんじゃないか?たぶんだけど。いやだけど、別にその、恋愛感情とかそんなものはない。保障しよう。

 そうそう、そもそもなぜ相方なのかというのは、それは俺たちが所属する組織で、ミッションを行うとき二人で行動するからだ。ミッションというのは、ほとんどがやばい組織へ潜入することだ。たまにだけど、政府の組織に潜入することもある。俺たちの組織「レジスター」は、まぁ簡単に言えばテロリスト。政府のやり方に気に食わない若者が集まってできた組織だ。

 と、俺たちの紹介はここまでにしておこう。俺はふかふかのいい匂いがするベッドで横たわりながら、スマホで今日の天気、出来事などをチェックする。相方はというと――

 リムめ、朝だというのに風呂に入りやがって。

 最近の俺の楽しみ……それは、絶対にバレてはならないことだが、リムが風呂に入っているところを見計らい、風呂場に潜入……。そのあとのことは言うまでもあるまい。俺はまたいつものように、狭いけれど何かといい香りが漂う風呂場のドアをそーっと開けた。やば。いつも思うけど、これ、バレたら半殺し程度じゃすまないだろ。だけど、俺も一応男なのだ。そりゃあ、女と二人で相部屋するなんていろいろ溜まって仕方がない。ごめんなリム。


「うお」


 俺はリムの……し、下着を見つけて、俺は興奮する。そーっと近づき、ちょこんと触った。そして、くんくんと匂いを嗅ぐ。やばい、これがまたたまらない。俺のことなど、傍から見れば誰もが変態という二文字で片づけることができるだろう。なんとでも言えばいい。これが俺の生き甲斐さ。

 下着、すなわちリムのブラジャーを手に取り、顔を赤らめる。

 風呂場の床は、もう秋も終わりだからだろうか、はだしの俺にとってはひんやりとつめたかった。そして俺の右側では、ドアを隔てて向こう側で、相方のリムが鼻歌を歌いながら髪を洗っていた。

 俺は右手で持っているピンク色のそれを鼻にあて、スーっと匂いをかいで、フーっと吐き出した。この作業を繰り返し、俺がやっと我に返ったのはそれを三回ほど繰り返した後だった。はっとなった俺は、リムが入っている風呂のほうへ視線を移した。バレてない、バレてない……。

 その時、身の毛もよだつほどの状況が俺に迫った。リムがいきなりシャワーを止めて、こちら側……風呂のドアのほうへ足を出したように見えた。そして、あろうことかドアに手をかけたではないか!


「やばっ」


 小声でそういった俺は、すぐさまピンク色のブラを元の位置に戻し、部屋に戻ろうとする。が、一足遅かった……。ガラっとあいたドアは、あちら側の世界を俺に一望させてくれた。


「え?」


 俺は、やばいという気持ちよりも、目の前に飛び込んだワンダーランドのほうへ気が行ってしまう。湯気を纏ったリムの胸にぶら下がったものは、リムの真っ黒で上品な髪の毛が覆いかぶさってよく見えなかったが、でも俺には十分なくらいのものだった。そして、彼女から漂う極上の香り。まさに女の香りというものだろうか。って、やばい、そろそろ弁解しないと殺される。でもこの状況、どんなに弁解しても殴られるフラグだろう。だんだんと俺の相方、リムの顔が赤くなってくる。逃げようか、思いっきり殴られようか……。


「い、いや、違うんだ……!

 こ、これには訳が」


 俺はそう言いながら、切羽詰まった挙句、両手で自分の目をふさぐという行動に出た。

 ……というか、俺がリムの下着をくんかくんかしていたのを見られなかったのは不幸中の幸いだろう。あれ見られてたら死んでたな。


「は、はやく、ドアしめろよ!」


 そういってリムが「はいそうですか」といってドアを閉めるとは思えない。市中引きずり回しの上、河原で俺の首をはねるのだろう。俺の命はここまでか……。いやいや、俺の相方がそんなことするだろうか、いやしない。だけど、少なくとも拳の一つくらい叩き込んでくるだろう。だが、リムは動こうとしなかった。こちらへ攻撃する気配もない。彼女はいつもは攻撃的で、俺がやられっぱなしという一方的な性格なのだが……。

 というか、何もしゃべらないのもやめてほしい。すごく気まずい……。俺は両手で自分の目を隠してはいるものの、右手の中指と人差し指をちょこっとだけ開いて、その右目でリムのことを見ようと試みた。早くドアを閉めてくれ!

 と、そんな中だった。かすかに見える視界がとらえたもの……リムの背中のあたりで、何か揺れているものが見える。なんだろう……俺は少し人差し指と中指の間隔を広げ、もう少し見ようとした。

 ……って、いや、これは……

 リムの背中あたりで揺れているもの。いやいや、まずいだろ。趣味でつけてるのだろうか。明らかに、そ、それ、尻尾……!?


「ひゃっ……」


 リムが初めて声を出した。そして、リムの背中でゆれている、尻尾……。


「み、み、見ないで……」

「へ?」


 かわいらしく声を上げるリムだった。こんな姿、初めて見るな……。と、やばいやばい。両手で目を隠しつつも、少し指を開けて見ていたのがばれていたか。俺は瞬時に指の間隔をゼロにした。視界が真っ暗だ。

 その瞬間、目の前でワンダーランドとの入り口が大音量で閉ざされたのが聞こえた。どうやらリムが思いっきりドアを閉めたようだ。


「アホ!バカ!変態!」


 向こう側で何か言っているようだが、気にしない。すると、リムが再び湯船に戻って、浸かる音が聞こえた。そうだな、今日はひとまずここらへんで切り上げよう。


「いや待て、あの尻尾のようなものは何だ……?あいつ、そんな趣味してたっけ?」


 こちら側の世界で一人つぶやいた俺。なんだかむなしくなってくる。

 人間というのは、「分からない」という感情に陥った時、どのような行動に出るだろう。それは、「知りたい」という感情を伴ってそれを知ろうとする。少なくともかつての先人たちはそうだったはずだ。なら、俺もそうでなくてはならない。

 ――俺の名前はシグル。そう、俺、「レジスター」の幹部シグルは、相方リムの真実を突き止めるべく、ミッションに出るのだ。これは、組織のミッションではない。俺個人の、知への欲望のための潜入ミッションである!幸い、俺は潜入のプロ。いつも組織のためにやばいところへ潜入している。だから今回も、女が入っている風呂への侵入など容易(たやす)い!

 俺はすぐさま、慣れた手つきで風呂場の窓を無音で開けた。窓の位置はかなり高くて、俺の頭くらいがちょうど窓の下端という程度だ。冬も近づくこの待機寮の中に、外から風がビュービュー入ってくる。俺は右手で窓の下端をつかみ、あっという間に登り、足をかけてジャンプ。そのまま窓の上端をつかみ、足を窓の下端にかける。

 ――ここは四階なのでかなり高い。手を外したら、もちろん落ちて死ぬ。だが、幾千ものそんな状況を経験してきた俺だからこそ、このミッションは簡単だ。真下には木があって、近くは道路が走ってる。曇り空の中俺はミッションを遂行しているわけだが。そのまま、隣の窓――リムが入っている風呂の窓の下端めがけて飛んだ。容易くそれをつかんだ俺は、懸垂するような格好で、頭を持ち上げた。そして、見えてきたもの……こ、これは、明らかにリムが入っている風呂の中だ!って、何やってんだ俺、こ、こんなの、これは明らかに犯罪じゃないかぁ!

 幸い、リムは俺とは目が合わない方向を向いて湯船につかっていたのでバレずに済んだ。リムはあちら側を向いているので、表情が良く確認できない。だけど、恐らく……怒ってはいるだろうな。

 すると、リムが浴槽から出るのが見えた。やばい、こっち見るなよ。

 そして、俺はまた見た。リムのおしりでぶらぶらしているもの……尻尾だ。やはり見間違いじゃなかった。その尻尾を俺はよく見た。目を凝らして、よ~く。すると……


「えっ」


 こ、これは……。

 あの尻尾は、付けているものなんかじゃない。おもちゃでもなんでもない。あ、あれは……。


「本物の尻尾!?」


 ありえない場所で風呂を覗いている俺が叫ぶと、リムが気付いたのか、こちら側を光の速度で見た。やばい!隠れなければ殺される!俺は、すぐさま隣の窓へ飛び移った。すると、その窓は寒いからか、結露し、水っぽい。俺は手を外してしまい、そのまま落下してしまう。

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