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腕の繋がり  作者: ユナ
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牢の塔

冷たい部屋の中で、瞼を閉じてみる。

すると浮かんでくるのは朱い玉。その球は触ろうとすると砕けてしまう。

少年は瞼を閉じるだけで浮かんでくるこの光景にも、研究モルモットとして生活していることにもウンザリしていた。毎日毎日拷問のような実験。何をされているかすら理解出来ない痛みで、自分が狂ってしまったのではないかと心配になる。

ちょうど実験が始まった頃に見始めたこの光景を少年は「球の夢」と呼んでいた。


「はぁ、ひまだなぁ。球の夢もさすがに飽きた」


外はどんな景色が広がっているのだろう。想像に身を任せてみるが何も見えない。生まれてこの方、塔から出たことがないのだ。

物心ついた頃には塔におり、窓も一つもついていない部屋からは外の様子を見ることなど、到底無理だった。

そもそも子供たちを集めていると聞くが、今まで一度も見たことがなかった。自分一人がこの塔に閉じ込められているのではないかと不安になる。

少年はそんな不安を振り払い、無機質なベッドに横たわって痛んだ身体を労わる。今日は腕が取れるかと思った、そう小さく呟くと腕輪をそっと撫でた。

針金のように細いリングが二つ重なっており、二つがぶつかるたびにカランカランと心地良い音が響く。この音が少年にとってと唯一の楽しさであった。

いつものように腕輪を弄んでいると、カリカリと腕輪の音とは違った何かが聞こえてきた。その音はどんどん近づき、少年は不気味がって辺りを見渡すと、部屋の隅が微かにひび割れていることに気が付いた。


「なにこれ?昨日はなかったはずなんだけどな…」


少年はひび割れた所を掘り返す。するとたちまち小さな穴があき、微かに風が流れてきた。そして風の流れとともに奇妙な声も聞こえてきたのだ。


『おっ、開通したか?やったぜ!これで脱出まであと少し!』


「………」


少なくとも囚われている子供は自分だけではない。その安心感と共に不信感もやってきた。この小さな穴で声の主はどのように脱出するつもりなのだろうか。

そもそもこちらに出口などないが。


「ねえ、君は誰?」


『おぉ!?穴が喋った!さすがは牢の塔。奇妙な作りをしているな』


少年は呆れた。その発想が何処から湧き上がってくるのか理解できなかった。

ガリガリという音と共に腕が伸びてくるのがわかった。こちら側には少し届かないようだが、こちらから手を伸ばせば届く距離であった。声の主はまるで握手を求めるかのように手を伸ばしている。その腕には黒い文様が入った腕輪が付けられていた。


「ちがう、僕は人間だよ。」


『ほお!ってことは、お前も囚われているのか?』


「たぶんね」


『そうか…って、待てよ?この穴は囚われているお前に通じているってことは…出口じゃないのか!!?』


穴の向こうから嘆く声が響く。本当に脱出できると信じていたらしい主は、落胆した様子で腕を引っ込めた。


『ところでオマエ、名前は?おれはウィルトス!』


「ないよ、そんなの。物心ついた頃には塔にいたし」


『ぐっ…』


予想外の返事で声の主、ウィルトスは沈黙してしまった。少年は穴の周りを削り、少しずつ大きくしていった。なんとか腕一本通る大きさにまですると、こんどはこちらから手を伸ばす。



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