第九話 人間に遭遇
「ん?朝か?」
俺は唐突に起きた。今日は何時からバイトだったかな?
「時計は、っと。」
俺はいつも自分の上にある時計を確認しようとして・・・。
「あっ・・・。」
そこで気付いた。そういえば、ベッドが硬い。というかベッドじゃない。床だこれ。
「やっぱり、夢じゃ・・・ないんだよな。」
痛みを感じたのだ、当然だ。現実逃避をしたかった。あれは夢であればと。
「まぁ、夢じゃないなら次にやるべきことを考えないと。」
まずは恒例のスキルの確認だ。昨日はすごい眠気に襲われて何も見れなかったのだ。
〈基本スキル〉
鑑定Level 9
言語Level MAX
魔力抑制Level MAX
剣術Level 19
自動回復Level 6
回避Level 8
〈龍の瞳スキル〉
威圧Level 3
炎眼Level 4
なんだ?龍の瞳スキル?いつものスキル欄には「基本」というのがスキルの前に追加されたな。分けるためであろうか。
剣術Levelが何故かすっごく上がっている。刀一振りしか当ててないんだけど?それでここまで上がるもんなのか?
戦闘の間に使えば、それも一緒に上がるのか、それともトロールのLevelが異常に高かったかのどちらかだな。
後者なら、かなりトロールは強かったと言える。前者ならLevel上げが楽になりそうだ。
「何にせよ。本当に運が良かったな。」
前者にしても後者にしても、このLevelの上がりようは、今までとは別格だ。相当強かったと思う。しかしトロールは灰になるまで焼き尽くしてしまったので、鑑定できない。
あの声は本当に何だったのだろうか、あれからその声は聞こえない。
次は龍の瞳スキルについて考えてみよう。これはたぶん見た目通りだろう。俺の目の力のスキルだと思う。
威圧はもしかして、あのトロールが警戒したような怯えたような声を出した時のことだろうか。知らずうちに発動させていたみたいだ。上げる方法はきっと睨めつけることだろう。
炎眼は最後にやった攻撃だろう。目を通した攻撃だ。これは昨日考察したので、説明は省く。上げる方法は剣術と同じでひたすら使うことだろう。
でも、ひたすら使うことで強くなれるなんて、まぁ便利なことだ。この世界の人間はみんな強いんじゃなかろうか。
「うーん、炎眼か。ちょっと使ってみようか。この洞窟真っ暗だしな。」
いつまでも真っ暗は嫌なので、炎眼!と念じて、発動を試みる。が、
「あれ?何か目の前がウネウネしてる。しかも、真っ赤だな。失敗か?」
確かに見えるようになったが、何か違う。そう、まるで俺のすぐ目の前で火がユラユラ揺れているような・・・。
・・・これもしかして、目から火を吹いてる!?
「おわ!いかんいかん!」
俺は慌てて、炎眼のスキルを切った。別に熱くはなかったのだが、メラメラしていて、目を回した感じで気持ち悪いのだ。
「ふー、焦ったー。これだとまともに使えないな・・・。」
俺は初めて使った時のことを思い出す。そういえば、幼女神も工夫すればいい、とか言っていたな。大規模な魔法は使えないとかも。
初めて使った時は、腕に纏っていたな。俺はそれのイメージを崩さないように、再度、炎眼!と念じた。
すると・・・
「お、出来たみたいだ。ちょっと不安定だが。」
まだ慣れないのだから仕方ない。あの時はどうしてあんなに上手く使えたのだろうか。
昨日と同じように、腕を前に突き出してみる。が、
「ふん!あ、あれ?」
突き出した瞬間、すぐに消えてしまった。
「これは、相当な練習が必要だな・・・。スキルは取れていても、使用出来ないこともあるのか。」
難儀なものだ。つまり、一度使用できればそのスキルを取ることができるが、使うことが出来なければLevelも上がらないということだろう。
「暫くは練習だな。これは使えればかなり便利そうだ。」
それに、せっかくの異世界だ。魔法を使ってなんぼだ。
「そうと決まれば一度洞窟から出るか。ここ、真っ暗だし。」
朝なのか昼なのか全く分からないので、外に出てみることにした。
カツカツと、足音を立てて入り口に向かう。
やがて光が見えた。思わず目を細めた。
「暗いところから急に明るい所に出ると目が痛いな。」
外に出ると太陽が真上にあった。どうやら昼のようだ。
そろそろ水が切れる頃だ。水を探しながら、炎眼の練習をしよう。
「さて、行くか。こんな乾燥したらところに水なんてあるかも分からんが。」
まずは行動を起こそう。もしかしたら、水を探してるうちに村でもあるかも知れないしな。
俺は迷わないように、ひたすら洞窟から真っ直ぐ歩いた。そうすれば、今度は真後ろに歩けば戻れるからである。
いまは2時頃であろうか。もう2時間も歩いたことになる。炎眼の練習をしているが、あまり上達しない。せいぜい、火をつけられるようになった程度だ。
「うーん、何がダメなのかねぇ。原因がサッパリ分からないな。」
今まで魔法なんて見たことも使ったこともないのだ。制御なんてわかるはずも無い。やはり、イメージが足りないのだろうか・・・。
なんとなく刀を鞘から出して、そこに向かって魔力を流してみる。直接でだめなら何かに纏わせばいいかと考えた。結果は微妙だった。一応纏わせることは出来たが、炎が小さい。
でもこれは鍛えればすごい火力になるんじゃないか?よし、これを練習しよう。
ここまで来るのに、何度かエンカウントした。イモムシや蜘蛛だ。
蜘蛛は糸を吐いてきて、その粘着力は強く、足に当たった時は焦ったが、炎眼の火を使い、溶かした。そのあとはこっちに向かってきていたので、そのまま串刺しにした。
「すぐに対処できて良かった。経験が生きた、ということになるのかな。」
経験、というほど戦闘はしていないが。
またスキルを確認する。
〈基本スキル〉
鑑定Level 13
言語Level MAX
魔力抑制Level MAX
剣術Level 19
自動回復Level 6
回避Level 14
魔力操作Level 2
〈龍の瞳スキル〉
威圧Level 5
炎眼Level 7
基本スキルに魔力操作が追加された。たぶん、魔法系のスキルを使い易くする為のものだろう。これは非常にありがたい、これは練習すればするほどきっと上がるものだろう。
剣術Levelが19止まりだ。そこそこエンカウントをしたからもう20を超えているかと思ったが、止まっている。
20になるための条件か、熟練度が足りてないことになるだろう。出来れば熟練度であってほしい。また強い魔物を相手にしたくない。
トラウマである。
鑑定Levelは戦った相手に一体一体に使っていたから少しだけ上がっている。
「うーん、そろそろ戻ろうかね。こっちには何もないみたいだし。はぁー、水くらいあってもいいじゃないか・・・。」
本格的に水がヤバイ。携帯食料は上手く節約しているからまだ少し余裕がある。最悪、食べられる動物を探せばいいしね。実際、ちょっかいはかけなかったが、兎のようなものと、鹿のようなやつもいた。
しかし、水は中々取れない。こればかりは節約出来なかった。本当によく喉が乾くのだ。
「でもこのまま戻っても意味ないよな。何も収穫がなかった訳だし。」
俺はもう少し進むことにした。もしかしたら、誰か人にも会えるかも知れないし。
「そうと決まればサッサと歩こう。夜になる前に見つけないと。」
と、その時。
ーーてりゃあぁぁ・・・!
「こ、この声は!人か!?」
俺は直様耳を澄まし、その声はの元を探る。どうやら、戦っているようだ。何と戦っているのは分からないが、人がいたのだ。これは直行すべきだ。
俺は声がしたと思われるほうへ走った。それはもう全力ダッシュだ。苦戦しているなら割り込もう、でもそうじゃないなら、動きを見て学ぼう。
そんなことを考えながら走った。
「はぁはぁ、お?あれか?」
そこには、金髪で髪を後ろで纏めてポニーテールにしている綺麗な女性と、その後ろにローブで顔が隠れていて見えないがたぶん女性と思われる人がいた。
前に立っている女性は剣を持ち目の前の魔物と対峙しているようだ。
俺は目線を彼女達の前に向けて見た。そこには・・・
「あれは・・・狼か?初めて見るが、やはり異世界、牙がやたら長いな。」
そこにいたのは狼だった、しかもその数、6体。どう考えても分が悪い。
「これは助けに行ったほうがいいか?いや、様子を見よう。もしかしたら余計なお世話かもしれない。」
俺は剣を持つ女性を注視する。別にそういう意味ではない。断じて!
「ん?肩が上下に揺れているな。息が上がっているのか?後ろの女性も同じ感じだな。」
ちなみに後ろの女性は杖を構えて、へたり込んでいるように見える。杖、ということは魔法使いなのだろうか?
「これを見る限り、剣を持つ女性が狼から杖を持つ女性を守っているように見えるな。」
俺は狼を今度は注視し、鑑定を行った。
〈種族〉
魔物
〈名前〉
サークウルフ
〈スキル〉
突進Level 6
噛みつきLevel 8
〈ランク〉
E
と出た。俺はこのランクというのはよく分からないが、鑑定Levelが10を超えたあたりから出るようになった。ちなみにイモムシはF、蜘蛛はE+と出た。
そこまで考えて、一体の狼が剣を持つ女性に向かって襲いかかった。
「クッ!この!てぇい!」
女性はすごい剣捌きで、あっと言う間に一匹のサークウルフを切り捨てた。
「あれが本場の剣術か・・・。」
しかし、それが火種になったのか、残り5体のサークウルフが一斉に襲いかかった。
「あれはやばいんじゃないか!?」
俺は刀を引き抜き、突撃しようとしたが、後ろにいた女性が杖を振り上げると、杖の先端に水が集まり始めた。そして、
「ヴァッサーシルト!」
そう言った。すると、剣の女性の前に水の盾が出来ていた。
「おぉ!あれが本場の魔法!」
しかし、盾を張った彼女も既に限界らしく、もう消えそうだ。
「ダメだ、行こう!このままだと危ない!」
俺は決意し、サークウルフに向かって駆け出した。
「くらえッ!」
俺は水の盾に体当たりしていた一匹を切り捨てた。これで、あと4体。
「な、何!?誰なの!?」
剣の女性が戸惑っているが、まずは目の前だ。
「助けに来ました!その質問は後にして下さい!いまはこいつらを片付けます!」
初めて戦う相手だが、俺だって今まで適当に戦ってきたわけではない。俺はサークウルフに向き合う。
「グルルルル!」
威嚇してくるが、こちらも威圧で仕返す。
「グ、グルルルル・・・。」
まだLevel5だが、効果は少しあるようだ。俺はこの隙にさらに一体に向けて刀を振りかざす。しかし、避けてからこちらに突進してきた。同じようなことを蜘蛛もしてきたので、これは対処出来た。俺は炎眼を使い、両手で持っていた刀を右手で持ち、左手に魔力を送る。遠くまでは飛ばないが、近場ならいい火力が出るのだ。
「はぁ!」
俺は至近距離から炎を飛ばし、サークウルフを吹き飛ばした。残り3体。
俺は再度睨めつける。
「ぐ、くうぅ〜ん!キャイン!キャイン!」
とビビって、一体逃げ出した。残り2体は俺に向かって飛び込んできた。
「クッ!」
俺は咄嗟に刀で2体分の攻撃を受けた。そのせいでバランスを崩してしまった。
「うおあ!」
尻餅をついてしまう。力があまりにも強過ぎた。一体が飛び込んでくる。ダメージを受ける覚悟をしたが、その必要はなかった。
「てぇや!」
剣の女性がサークウルフを切り捨てたのである。
「すみません!ありがとうごさいます!」
俺はお礼を言い、すぐに立ち上がり、最後のサークウルフに向かって刀を振り上げ、落とすふりをして、蹴り上げる。
サークウルフは若干宙を舞い、その隙に、振り上げておいた刀を振り落とした。
「これで終わり!」
俺はサークウルフを斬り裂いて、絶命させた。
俺はいつもの如く、刀から血を落とし、鞘に仕舞おうとしたが、
「うん?何だ?刀が・・・。」
刀が変化したのである。銅から別の物質に変化したみたいだ。これには驚いた。
「これも幼女神の力か。」
聞こえないように呟いた。多分、剣術のLevelが20になったのであろう。それ以外考えられない。
これも熟練度のようでホッとした。
「ふぅ。」
と一息付いた。