第八話 森の中で寝床探し2
「随分時間、食っちまったなぁ。」
現在は夕方。未だに寝床を見つけられないでいた。
「ったく、随分な初日だ。はぁ、今日は厄日か。」
しかし、何やかんやあれから化け物とはエンカウントしない、その面で言えば幸運か。
そんな愚痴を言いながら歩く。確かに、俺がここに来たことが他の人のに見られたらマズイとは言え、流石にここに落とすのはどうかと思うんだが。
確かにすごい能力を授けて貰ったが、まだ開花していないのだ。ほとんど丸腰で来たようなものである。
「まぁ、愚痴を言っていても仕方が無い、か。」
一応、倒せてはいるのだ。倒せては。Levelも上がってきている。ここで上げていくのもいいかもしれない。イモムシ3体倒しただけで、Levelが6も上がるほど上がりはいいのだ。
「まぁ、それをしようにも、まずは拠点をだな。」
結局はそこである。何度こんな感じの思考をループさせたことか。
捜索しながら、一応木や、草などの鑑定をしていた。理由はLevel上げである。
この鬱蒼と生える木の名前は
ヒカアゲキ
暗くて若干乾燥している所に生えている木らしい。
そして、ずっと踏み潰している草の名前は
エゴタチギ
これも暗くて若干乾燥している所に生えるものらしい。
どうやら、やたら喉が乾くのはここが乾燥しているから見たいだ。
実は、かなりの量の水を飲んでいた。あれだけあった水も残りは半分とちょっとだ。何処かで補充しないといけないな。
そして、面倒ごとが増えた瞬間だった。
「はぁ、先が思いやられる。」
ここで、俺は一度スキルを確認する。
〈スキル〉
鑑定Level 9
言語Level MAX
魔力抑制Level MAX
剣術Level 6
自動回復Level 2
回避Level 3
おやまぁ、鑑定Levelがすごい上がったものだ。やはり、どんどん小さな物でも鑑定していったほうが良さそうだ。2倍でこのLevelか、普通だったらだいたいLevelは4か5あたりであろう。この恩恵の強さを垣間見た。
そろそろ夜である。もう何処でもいいからそこで休憩してしまおうか、とそこまで考えて・・・。
ーーぐおぉぉぉ・・・。
「何だ?何か聞こえるぞ?」
方角は東のほう。唸り声のような物が聞こえる。俺はその方向に目を向けた。
「あれは・・・洞窟か?」
俺の目と鼻の先にあったのは真っ暗な洞窟だった。そこから聞こえるのだろうか。
「近づいて見よう。」
俺は警戒しながら、その洞窟へゆっくりと近づき、入り口の横にへばりつき、様子を見る。
そこまで大きくない洞窟のようだ。縦が俺の身長の1.5倍くらいなものだ。横幅はだいたい2倍くらいだろうか。
ーーぐおぉぉぉ・・・。
どうやらここから聞こえてくるようだ。先程よりも大分声が近くなった。声からしてイビキだろうか?
「少し怖いけど、中に入ってみようかな・・・。寝床、欲しいし。」
あわよくば、イビキの主を倒せればと思いながら、忍び足で中に入る。
壁沿いにゆっくりと奥に入っていく。
「暗くてよく見えないな。一体何があるんだ?」
照らせるものがないから、うっすらとしか見えない。俺はあまり夜目が効く方ではないのだ。
ーーぐおぉぉぉぉ。
かなり声が近くなった。もうすぐその主を見られることが出来そうだ。
「ここまで来たら引き下がれないな。よし、行こう。」
俺は更に奥に出向いた。やがて・・・
ーーぐおぉぉぉ!
「この先にいるみたいだな。暗くてよく見えないけど、だんだん慣れてくるだろ。」
だんだんその存在が明らかになっていく。そして、その姿を見て俺は・・・絶句した。
「・・・ッ!」
それは・・・映画などでみたことのある・・・トロールのようなものであった。
「で、デカイ・・・。」
巨躯な身体は威圧を放っていた。俺の身長の3倍はありそうだ。
見る限り、やはり眠っているようだ。
「さ、流石にこれは無理だ。無理無理。早いとこ出よう・・・。」
しかし、現実は非情である。暗くて、トロールが集めたであろう、木の枝が沢山積んであるところに思いっきり躓き、倒れてしまった。
ーーパキパキパキ!ボキン!
盛大な音が鳴った。俺は冷や汗が止まらなかった。何故なら・・・。
「ぐおぉぉぉ!!」
トロールが起きこちらに咆哮してきたのである。
やってしまった。
「クッ!イモムシ何かと威圧感がまるで違う・・・!」
俺は威圧感だけで押し潰されそうになる。トロールは自分の住処を脅かしに来た存在である俺を排除しようとしている。
「ぐおぉぉぉ!」
「!?」
トロールは俺に向けて棍棒を振り下ろした。俺は咄嗟にそこから前転をし、トロールの股を抜けた。
後ろで枝がバキバキと折れていた。こんなの食らったら一溜まりもない。
「好奇心で来るんじゃ無かった!」
俺は自分の犯した馬鹿なことに唇噛み締めた。
すぐさま距離をとり、刀を引き抜く。どう考えても絶望しかないが、こんなところで死んでいられない。俺は目の前のトロールを倒す気で対峙する。
逃げる、という選択肢もあったが、ここで逃げても森の化け物に殺されるだけだ。だったらこいつを倒して、寝床を奪い取ってやる!
「やってやる、やってやるよ!」
まだ足が若干笑っているが、そんな事を気にしている場合ではない。
俺はトロールを睨めつけた。特に意味はないと思うが、心意気だ。
「ぐ、ぐおぉぉぉ・・・。」
が、目の前のトロールは急に俺を警戒するような声を出した。同時に、怯えるような声も。
「何だが知らんが、これはチャンスだ。くらえ!」
俺はトロールの左足に向かって、刀を横に薙ぎ払った。トロールは避けようとせず、アッサリと足に傷が入った。しかし、脚が太い上に硬い。こんな銅の刀では大きな傷は付けられなかった。
俺は一度距離を取り、様子を伺う。三度目の戦闘だ、あまり身体は震えない。
「ぐおぉぉぉ・・・。」
やはり、というかダメージが入らない。切られた所をトロールは見て、次の瞬間、
「ぐおぉぉぉ!!!!」
「グッ!」
俺は思わず耳を塞いだ。森まで響くような咆哮を上げたのだ。
「これは・・・もしかして怒ったということか?」
どうもそうっぽい。地団駄を踏んでいる。やはり、全くダメージは入っていないようだった。
地団駄を踏んでいるせいで、地面が揺れ、俺はしゃがみ込んだ。
「どんだけ体重があるんだッ!」
そして次の瞬間、俺の身体は宙を舞っていた。バランスを取るのに夢中になっていた俺は、トロールに蹴られたのだ。
「カッ...ハッァッ...!」
息が詰まる。呼吸が出来ない。ヤバイヤバイヤバイヤバイ。死ぬ。これは死ぬかもしれない。
ドサッ!
俺は落下し、立てなくなる。落ちた衝撃で呼吸ももとに戻った。
クソッ!せめてこの部屋がもっと明るければ...!
対処出来たかは分からないが、それでも軽減は出来たであろう。たぶんだが。真っ暗でトロールが何をするか全く見えなかったのだ。
ドスン、ドスン。
ゆっくりとトロールが近づいてくる。しかし、どの程度近付かれたか、分からない。真っ暗で見えないのだ。
「グッ...アッ...」
苦しくて声が出ない。骨が折れているかもしれない。なんて様だ。蹴りの一発でこれとは...戦闘に慣れたからと慢心をしてしまったようだ。
あのイモムシは雑魚だ。しかし、目の前トロールはLevelが段違いであろう。何故、それを見極めなかったかと、今更後悔をする。
明かりが欲しい。何も見えぬまま終わるのは嫌だ。暗くて寂しいのだ。またあの頃みたいで・・・。
最後に愛美の笑顔が頭の中に広がった。走馬灯というやつだろうか。こんなに早く経験するなんて思っても見なかったな。
ゴメンな愛美、お兄ちゃん、ここでまた終わりみたいだ。一日も立っていないのに情けないと思うが、もう動きたくないんだ。人思いにやってくれたほうがマシなんだ。
本当に情けない。幼女神の期待を裏切る形になる。
あぁ、寂しいなぁ。また一人で死ぬのか。
明かりが欲しい。火が欲しい。ここを焼き尽くしたい。自分の死体とともに・・・。
ーーそのねがい、かなえてあげるよー。でもあなたのしたいはやきつくせないかなー。だって、まだあなたはいきるからね。きゃはは!
あの声が聞こえた。俺が死ぬ前に聞いたあの子供の声だ。一体どういうことだ?願いを叶えるなんて・・・。
次の瞬間、洞窟が明るくなった。そう、まるで真っ赤に燃える太陽の如く。
「ぐおぉぉぉ!?」
トロールは驚きの声を上げた。
そして、視界が明かるくなった。トロールが嫌でも目に入る。
「・・・気持ち悪いツラしやがって。」
自動回復の効果が出て来たようだ。漸く喋れるようになった。そして、立ち上がれるようにも。トロールはヨダレをたらし、鼻が大きく、顔面崩壊していた。
あの声がなんだか知らんが、いまはそれに頼ることにしよう。自分の両腕を見ると、赤色の何かが纏っていた。
それをトロールに向けて突き出して見た。なんとなくそういう感じかと思ったのだ。
すると、赤色の何かはトロールのほうへ飛んで行き・・・その身体を燃やした。見た目通り、炎のようだ。
苦痛の声が上がる。しかし俺はもっと出力を上げたいと思った。すると、不思議なことに熱量が上がった。
更に大きな声を出して、トロールが苦しんだ。
「うおおおぉぉ!」
俺は出力を出せるだけだして、トロールや燃やした。消し炭になるまでひたすら放った。
数分後、トロールはついに、倒れそのままボロボロと灰になり、消えた。跡に残ったのは真っ黒な燃えカスだった。
周りの火は消え、また暗闇に戻った。
「はぁ...!はぁ...!こ、これは一体...。」
魔法なのであろうか、そういえば幼女神も言っていた。
〈あなたの瞳は魔力が宿っているわ、それも膨大な量のだから、瞳を通してなら魔法を使えるわ、大規模な魔法は打てないけど、工夫すればいいかもね。〉
我ながらよく覚えている。俺は自重気味に苦笑した。
と、いうことは今のは目を通して、魔力が腕に伝わり、それを発射した。そういうことになるのか?
にわかに信じがたいが、実際に起きたことだから、信じざるを得ない。
「つまり、俺は「炎」の魔法が使えるようになったってことか。」
取り敢えず、もう今日は考えることをやめよう。これ以上考えると頭の整理が付かなくなりそうだ。
幸い、ここはさっきのトロールの住処だったみたいだから、他の化け物は近づいて来ないだろう。まだここにトロールがいると思っているはずだ。安全であろう。
「ふぅ、漸く一息付けるな。一日中歩きっぱなしで疲れた。」
俺は飛んで行った刀を回収し、適当に寝転ぶと自然と瞼が閉じいき、そのまま意識を手放した。きっと魔力の使い過ぎと、疲労が原因だろう。
異世界の一日目は過激だった。
何はともあれ、拠点を見つけられて良かった。