第六話 幼女神、願いを叶える
今回は幼女神の視点でお送りします。
「ふぅ、行ったわね。」
私はホッとした。断られるか不安だったのである。もし断られたらとしたら私は上に何で報告すればいいか迷っていた。それも杞憂に終わった。
「何はともあれ、受諾して貰えて良かったわ。かなり口は悪かったけど。」
そして、私は更なる悩みに打ちひしがれる。そう、和也の願い事である。実は和也の妹さんは・・・
死ぬ運命にある。
ガンに戦ったはいいが、結局身体の至る所にガンが転移し、和也が死んだ日から約1年後に死ぬ予定である。無論、私がそういう運命にしたわけではない。上からの物だった。
確かに私は人一人の運命くらいは変えられる。しかし、それには莫大なエネルギーが必要になるのだ。
「叶えて上げる、と言っちゃったからね・・・やらないと。」
勿論、これも私達の世界では、犯罪である。住んでいる者達は皆平等な運命にあるのに、その人だけを優遇してはいけないのである。
コストが掛からない、と言うのは大嘘である。実際はすごいコストが掛かる。それに加え、更にコストのかかる和也の再転移。
どう考えても無謀である。
自分の言ったことに苦笑した。我ながらすっごい馬鹿だと。
「兎に角、上の人に相談してみようか。多分手伝ってくれるだろうし。」
一緒に問い合わせに行ってくれた先輩である。彼は上の立場上、かなりのエネルギーを有している。それこそ、私の何十倍ものである。人一人の運命なんて、容易くできてしまうであろう。
「ただ、あの人はちょっと真面目過ぎるのよね・・・。」
真面目過ぎて、頼み事を聞いてくれるか分からないのである。何せ犯罪に手を貸せ、と言っているものだから。
「上手く口実に乗せられないかしら・・・。」
私は考えてみる。あの人は正義で動く人だ。しかし、正義の為に悪事を犯す、というのはきっとあの人には判断しかねることであろう。
「うーん、そこに甘い言葉をささやけば上手いこと乗ってくれるかな。」
私はそう考えて・・・結論を出した。
「よし!これならきっと行けるわ!・・・」
私は一度決めた事は何をしてでもキッチリやる主義だ。それに、あの人間も私の為に調査に行ってくれている。
「報酬はキチンと払わないと・・・ね。」
私は先輩を呼んだ。あの神様は何故か私が呼べばすぐに来てくれる。
「呼んだか?地球の神よ。」
「応じて頂き、ありがとうございます。」
私はぺこりと頭を下げる。彼は私なんかよりも神々しかった。いつもの事だが。細い目に、体型のいい、優男である。
「気にしなくていいぞ、私との仲ではないか。」
「しかし、そちらのほうも忙しいのでは?私はその後でもよかったのですが。」
「後輩が困っているのに、自分仕事を優先するのは私の意思に反するのでね。」
相変わらずよく分からない神様ではあるが、悪い神ではない。
「すみません、無理矢理呼んでしまったみたいで。」
「気にするな。それより要件とやらはなんだ?」
おっと、この人も忙しいのだ。早く要件を伝えなければ。
「実は・・・例の人間のことなんですが・・・。」
「ふむ、龍の瞳の少年だな?無事に送れたのであろう?」
「はい、そこまでは良いのですが、少々面倒なお願いをされまして。」
「むっ。その面倒なお願いとは何だ?」
「それは・・・例の人間の妹の病気を治し、かつ健康体というお願い事でした。」
まずは、率直に言われたお願い事を言う。変に変えるとだめな気がしたからである。
「そ、それは犯罪ではないか。それを分かっていて受諾したのか?」
「えぇ・・・例の人間は何かお願いをしないと俺は受諾しないと言っていたので・・・。」
もちろん大嘘である。実際は私が持ち掛けたことである。
「ふむ、それで私を呼んだというわけか。確かに私は上位の神だ。それくらいは容易い。が、流石にそれはまずいぞ。何せ犯罪を犯すのだ。かなり厳しいぞ。」
来た、やはり犯罪だからと断るみたいだ。
「無理を承知でお願いしたいのです。今は一刻を争います。これは私のプライドでもあります。それに、この龍の瞳の事件を解決し無ければ、私の地位も剥奪され、地獄に落とされてしまいます。」
私は涙目の上目遣いでそう言ってやった。本当に落とされてしまうのだ。これは事実である。その原因を放置するということは、その世界を放棄することに繋がるのだ。それが小さなことでも、である。
「う、む。」
あと一押し。
「お願いです!貴方は目の前の事件を放置するのですか!?龍の瞳は、かなりの大事件です!それを放置するのですか!?」
「しかし、龍の瞳の事件とその願い事を叶えるのはどういう繋がりがあるのだ?」
その問いも想定済みだ。
「例の人間は龍の瞳のせいで僅か17年の人生でその生涯を閉じました。そして、天国に行くと思いきや、例の人間は異世界、しかも死と隣合わせの世界に行きました。それは人生が狂ったも同然です。これ以上、例の人間を苦しめるというのですか?」
「確かにそうだ。例の人間は君の世界で争いのない平和な日々を過ごしてきた。しかし、そこでも彼は一人だったらしいな。そして、彼にとっての異世界への転生、これほどの悲しい人生はないな・・・。」
「で、では!!?」
「但し、これは私と君の秘密だぞ。誰にもバラすんじゃないぞ。例の人間が少しでも苦しみから解放してあげられればいいのだがな。」
私は思わず口元を抑えた。ニヤついてしまったのである。ここまで上手く事が運んでくれるなんて思ってもいなかったのだ。
「では、まずはその妹さんの特定から始めるとしよう。」
「はい、お願いします。」
私はぺこりと頭を再度下げた。