第二十五話 二人の過去
「うー・・・ん。」
俺は目を開けた。いつもの天井だ。
起き上がろうとして・・・身体が重いことに気付いた。
「ん?あれ?」
何で身体が重いんだ?
あ、そうか、俺はあのイノシシに・・・。取り敢えず、周りを確認すると・・・フィリフが俺に覆い被さるように寝ていた。
どういう状況ですかねこれ。あ、そうか、まだ夢見てんのか。あるよなー、夢の中で今が夢って自覚すること。
更によく周りを確認すると、リリンと目が合った。
「・・・。」
「・・・。」
リリンは口を開けて呆然としている。何か驚くようなことをしただろうか。
「カ・・・」
「か?」
「カズヤが起きたぞ!大丈夫か!?カズヤ!」
ぬお!?リリンがすごい勢いで寄って来た。
「ふぇ?」
フィリフもその声に起きたみたいだ。可愛らしい声を上げる。
「おい、フィリフ!寝ぼけてないでしっかりしろ!カズヤが起きたぞ!」
「ふぇー?カズヤが起きたー?夢じゃないのぉ?夢のカズヤなら何度も起きてたしぃ。」
「いつまで夢見てるんだ!?ほら、さっさと起きろ!」
リリンがフィリフの頬を叩いた。
「あたっ!何するの!リリン!」
完全に目が覚めたようだ。そんなフィリフ目が合った。その目は腫れ、泣いていたように見える。てか泣いてたよね。俺のために?ハハッまさか。
「カズヤ...?ほんとに起きたんだよね?夢じゃあないよね?」
「おう、夢じゃないぞ。俺は起きてるぞ。」
そういった瞬間、フィリフは目尻に涙をため、また泣き出した。
「ちょ!?」
えぇ!?しかも俺の身体に抱き着きながら泣き始めた。
それはつまり、色々当たっているといるということだ。17年間、同い年の身体にしかも女の子に何て、ぶつかる以外で触ったことがない。いや、わざとぶつかってたわけじゃないからな?その後顔を青くして逃げてったし。
因みに言うが、俺はひんぬー派だ。巨乳の何がいいのかさっぱりだ。そして、抱き着きながら泣いているこの子は・・・ひんぬーだ。
「あの、フィ、フィリフさん?離れてくれませんかね?」
「やっ!」
「えぇー・・・。」
ヤバイ、絵図ら的にもヤバイ。てかリリンがめっちゃニヤニヤしてる。助けてよ。そんな目線を送ると。自分でなんとかしろ、と返ってきた。
俺は女性の免疫が全くと言っていいほどない。
つまり、下半身の大将が踊り始める。これはダメだ。
「フィリフ?取り敢えず、落ち着こうか、ほら顔上げて?」
「ん・・・分かった。」
この子ほんとに同い年なんですかねぇ?年下にしか見えない。てか、子供にしか見えない。何はともあれ踊り始めなくて良かった。
フィリフは目線を上げて、俺の顔を見据えた。ずっと身体を寝たきりにさせているのも失礼なので身体を起こそうとした、が
「あれ?身体が起き上がらないな。」
「無理をするな。お前、5日間も眠りこけていたんだ。」
「5日間...」
随分と長いな、自動回復がついていてそれか。もしかして、魔力は自動回復では回復しないのだろうか。
「分かってると思うが、魔力の枯渇が原因だ。と言ってもカズヤは予想より早く起きたんだがな。」
「予想ではいつ起きる予定だったんだ?」
「治療術師によると、2週間って聞いたんだがな。まさか一週間も立たずに起きるとは、驚いたぞ。」
あぁ、だからあの時呆然としていたのか。そりゃ驚くわな。
てことは自動回復は機能していたみたいだな。
「俺が気絶した後どうなったんだ?」
「お前がいつ気絶したのかは知らんが、私達が着いた時、真っ先にフィリフがカズヤの事を見つけて、すごい速さで駆けて行ったぞ。」
「わわっ!リリン!言わないでっていったじゃん!」
「すまんな。だが、聞かれたんなら答えないとなぁ?」
何でリリンはこんなにニヤニヤしてんだ。
「そのあと、フィリフはカズヤを家に送り、他の冒険者達でアーマードワイルドボアを回収した。」
他の冒険者達?二人だけで来たんじゃないのか。
「他に人がいたのか?」
「うん、緊急依頼になったんだ。ほんとはその人たちで討伐する予定だったんだけど、カズヤが倒しちゃってたから、あなたは英雄扱いされてるよ。」
げっ!?マジか、目立つのは勘弁して欲しいな。
「あまり目立ちたくないな・・・。」
「カズヤならそういうと思った。」
「そりゃどうも。」
俺は一つ気掛かりなことがあった。それは、リリンとフィリフがどうしてすぐに離れなかったか、だ。
会って二日三日の何処の馬の骨かも知れないやつに、何故躊躇していたのかだ。
「なぁ、何で俺が逃げろって言った時にすぐに逃げなかったんだ?俺たちはまだ会って二日三日の関係だよな。そんなやつのために命を張るなんて・・・。」
俺がそこまで言うと、フィリフが怒った顔をした。ギョッとして、フィリフを見据えた。
「そんなの・・・友達だからに決まってるじゃん!確かに私達は会って二日三日の関係だった。でも、それでも友達って言ったじゃん!」
最後には泣いてしまった。また女の子を泣かせてしまった・・・。
「だから・・・そんなこと言わないで...!」
そうだ、俺は今まで友達がいなかった。だからあんな行動が取れた。俺が死んでも誰も心配しないからな。・・・いや一人、いたな。
しかし、ここに来てから俺には友達が出来たじゃないか。何でそんな大事なことを忘れていたのだろうか。
そんな自分に苛立ちを覚えた。
「ゴメン、そうだよな。俺たちはは友達、だよな。」
随分と心配をかけてしまったようだ。こんなことはあまり無かったからどう接していいか分からないな。
「私達が強くなろうって決めたのはあることがキッカケだったんだ。」
ふと、リリンがそんなことを言い出した。やはり訳ありか。この二人だって冒険者じゃなくて、普通に暮らすっていうのもあったはずだ。フィリフなんかは、戦うのは苦手って感じだったし。
「カズヤになら話しても言いかな。」
「無理に話さなくてもいいぞ?」
「ううん、聞いて欲しいの。カズヤだって色々疑問に感じていたでしょ?」
まぁ、そりゃあ初めて会った時とか、めっちゃ敵対意識を持たれたからな。
フィリフはポツポツと話し始めた。
▽▲▽▲▽▲
私達がまだ13歳の時の話よ。
私達はEランクの安全な場所での採取依頼を受けた時のこと。
「ねぇ、リリン。ほんとに魔物出ないんだよね?」
「確認しているから、この依頼が出てるんだろ。」
「そうだよね。でも何か嫌な予感がするの。」
私は何だかさっきから寒気を感じていた。それの正体は分からない。
「心配のし過ぎた。お前のお母さんも大丈夫だと言ってだろ。」
「う、うん。」
私は不安だったけど、リリンがいてくれたから先に進めた。
薬草がある場所に着いた。場所は森の近くである。
「あれ?薬草がないよ?ここであってるとおもうんだけどなぁ。」
「そうだな、他の人が取って行ったのか?」
私はそこにあったと思われる薬草を注視した。
すると、これはもぎ取られたものではなく、何かに食べられたあとだった。何かいる。私は確信した。
「リリン、帰るよ。ここにいたら絶対にマズイよ。」
「急にどうした?でも依頼が・・・。」
リリンがそう言いかけたところで、
ーーグルルルル・・・
「「!?」」
唸り声が森の入り口側から聞こえた。リリンが指を指す。
「あ...ぁ..サーク...ウルフ...」
絞り出すような声でそう言った。そこを見ると、3体いた。
私は足が竦んで護身魔術を放てない。
「誰か助けて!」
パニックになった私は大声で呼んでしまった。それを聞いたサークウルフ達が私達に向かって文字通り、牙を向いた。
怖くなって、しゃがんで頭を抑え、ギュッと目をつむった。誰か助けてよ!
しかし、いつになっても何も起きない。あの距離なら直ぐに来てしまうはずだ。私は恐る恐る目を開け、頭を上げた。そこには
「二人とも、大丈夫かい?」
私はすぐに確信した。この人が助けてくれたんだと。
3体のサークウルフの死体が助けてくれた彼の後ろに転がっていた。
手を差し伸べてくれた。
「「あ、ありがとうございました。」」
リリン一緒にお礼を言った。声が少し震えた。まだ恐怖が残っているみたいだ。
「きにしないでいいよ。困った時はお互い様だからね。落ち着くまで、うちに来るかい?安全だよ。ここに来たってことは薬草の依頼かな?」
「はい、薬草の依頼を受けていたんですが、サークウルフに食べられてしまったみたいです・・・。」
「だったらうちに来なよ。薬草もあるから、それで依頼を完了させたらいいよ。」
「えっ!?いいんですか!?ありがとうございます!」
私達がこの人を信じてしまうのはあっという間だった。
「それじゃあ行こうか。」
彼が私達に背を向ける瞬間、ニタァと気持ち悪く笑ったのは気のせいだろうか?
彼の家は近く、こじんまりとしていた。
「こんなところに住んで、危なくないですか?」
場所は森の入り口よりも少し奥に進んだところだった。
「僕はここの生活に慣れてるからね。魔物が来てもすぐに追っ払えるよ。薬草は奥にあるよ。いくらでも持って行っていいよ。
お茶を入れてくるから待ってて。」
そう言って、隣の部屋に向かって行った。
私達は奥に向う。
「優しい人だね。」
「そうだな。みんなあんな人になればいいのにな。」
「ふふ、そうだね。」
奥に向うと、大量の薬草があった。どうやってこんなに集めたのだろうか。
「じゃあもらって行こうか。」
「うん、8本だよね。」
そして、薬草を取って袋に入れようとした瞬間、
「むぐっ!」
「リリ...むぐぅ!」
突然布を口に押し当てられ、私達は意識を失った。
気付くと、私達は椅子に縛り付けられていた。私は隣にいるリリンに呼び掛けて、起こす。
「リリン!リリン起きて!」
「んん?何だ、もうちょっと寝かせてくれよ・・・。」
「んもう!そんなこと言ってる場合じゃないって!」
私が必死に呼び掛けていると、
「やぁ、気分はどうだい?」
「誰!?」
「僕だよ僕。助けてあげたでしょ?」
そこにいたのは助けてくれた男性だった。
「どうしてこんなことをするの?」
「ククッそれはね、お兄さんが盗賊だからだよ。」
ニタァと気持ちの悪い笑みを浮かべて、そう言ってきた。あの時のは勘違いじゃなかったのだ。
奥からたくさんの人たちが出て来た。みんな怪しい格好をしている。これが盗賊・・・。私はサークウルフに会った時よりも身体が震えた。
助けてくれた男性...盗賊の男性がクイッと私の顎を上げた。
「お兄さんが気持ち良くして上げるからねぇ、クッカカカカカ!」
目尻に涙が溜まる。怖い、この人達が、怖い。
「フィリフに触るな!」
リリンが声を上げるが、他の男が近寄る。
「嬢ちゃんは俺が相手してやるよ。クハハハハ!」
嫌だ、こんなところで・・・嫌だよぉ!
そう思ったところで、唯一の扉が開かれた。
バンッ!
そこにいたのは、お母さんとお父さんだった。
「リリン!フィリフ!無事か!?」
「お父さん!お母さん!」
「な!どうしてこの場所が!」
「ふん、この辺に盗賊が潜んでいることくらい知っている。ギルドからも依頼も出てたしな。覚悟しろ!」
お父さんは一人で複数の盗賊達に向かって行った。お母さんは私達を縛っている縄を切った。
「もう大丈夫よ。お母さんとお父さんが来たからね。よく頑張ったわね。」
私はホッとして腰が抜けそうになるが、グッと耐える。まだここを抜けたわけではないのだ。
お父さんは一騎当千のようだった。襲ってくる盗賊達を次から次へと倒して行く。
しかし・・・
「はぁ、はぁ、はぁ。」
体力が続かない。盗賊が多過ぎるのだ。扉からどんどん入ってくる。まるで巣から出て来る蜂のようだ。
それを見て、お父さんは覚悟を決めたようだ。
「フィリフ、リリン、母さんと一緒に逃げなさい。ここはお父さんが食い止めておくから。」
「・・・分かったわ。さぁフィリフ、リリン行くわよ。」
「でもお父さんが!」
「お父さんは後から必ず来るわ。そうでしょ?」
「あぁ!勿論だ!」
「だから、行くわよ。」
「・・・うん、わかったよ。」
お母さんは扉の近くにいた盗賊達を魔術で吹き飛ばし、外へ出た。
外にも沢山の盗賊がいた。私達は村へと走った。当然、盗賊も追いかけてきた。
「二人とも、止まっちゃダメよ!」
「うん!」
後ろにから短剣がずっと飛んできている。あれにあたったらおしまいだ。
私は必死に走った。しかし、目の前ばっかり見ていて、足元の蔦には気が付かなかった。
「あぅ!」
「フィリフ!」
お母さんが駆け寄って来る。
「ほら立って!逃げるのよ!」
私を立たせている途中に、短剣がお母さんの両足に突き刺さった。
「あぐっ!」
「お、お母さん!」
「やっと当たったか、すばしっこい奴らだ。」
盗賊が近寄ってくる。お母さんを助けないと...!
「いま助けるよ!」
「お母さんのことはいいから、貴女たちは逃げなさい!私はもう走れないから、お父さんを待つわ。これでもBランク冒険者よ。時間を稼ぐくらいは出来るから。」
そう言って、柔らかく微笑んだ。その顔には汗が滲んでいる。
この時の私はこの言葉をそのまま信じてしまった。お父さんが助けてくれると、お母さんは死なないと。
「すぐに憲兵の人を呼んでくる!」
「えぇ、任せたわよ。」
私達はまた全力で走った。盗賊は追ってこない。お母さんが止めているのだ。
必死走っているうちに、村へと戻ってきた。私はすぐに近くの憲兵に伝えた。
▽▲▽▲▽▲
「憲兵の人はすぐに冒険者達に呼び掛けて、森に向かわせたの。」
そんな壮絶な過去があったとは思わなかった。それで両親共々・・・。
「でも間に合わなかった。お父さんは八つ裂きにされ、お母さんは短剣が何本も突き刺さって死んでいたの。」
俺は絶句した。そんな惨い殺され方をしたのか。そして、この世界の人たちはそんな惨い殺し方をするのか。酷い話だ。胸糞悪い。
「それから、私達は疑心暗鬼になった。二人で必死に強くなった。もう助けてもらわないように。何をしてもらっても、手伝おうかと言われても、全部無視した。
そう、あなたに会うまでは。」
それで俺が囮になると言っても渋っていたのか。
俺に会うまでは?なんで俺の時は庇ってくれたんだ?突っぱねれば良かったのに。
「何で俺の時は庇ってくれたんだ?リリンに剣を向けられた時さ。」
「何でかな。私もそう思ったよ。あの時と全く同じだって。シチュエーションがさ。だから逃げなきゃって思ったけど、貴方のあの時の顔を見てさ。」
「俺の顔?」
「うん、不安そうな顔をしてた。これからどうしようって顔。まるで、自分を見ているようだったの。あの時も不安で仕方なかった。
だから確信したの、この人は大丈夫だって。」
そうか、そんなに顔に出ていたか、ま、実際かなり不安だったしな。
「それで私は信用することにしたの。まぁリリンは当然の反応をしてたけどね。」
そう言って苦笑した。
「当たり前だろう。あの時と全く同じタイミングで現れたんだ。警戒もするさ。」
「それもそうか。」
「はぁー、話してスッキリしたー!聞いてくれてありがとうカズヤ。」
「いや、礼を言うのはこっちのほうだな。あの時、信用してくれてありがとな。
あれで突っぱねられてたら、また森を彷徨うことになってたからな。」
思い出すだけでゾクリとする。あんなところ、一人でずっといたくない。
「お互い様だね。」
「まぁ、私はあの時カズヤが命を賭けてサークウルフリーダーを倒さなかったら信じなかったがな。」
「たはは・・・。」
「私は行動で示さないと信じないタイプなんだ。」
リリンはそんな感じだな。何かやたらトゲトゲしてるし。
「なぁ、フィリフのお母さんとお父さんの遺体はどうなったんだ?」
「ちゃんと火葬されたよ。それで、いまは村のお墓に入ってる。村の英雄だからね!」
フィリフは胸を張って言う。胸はないが、それがいいのだ。なんてジロジロ見てたのがばれて
「どこ見てるの、カズヤはエッチねー。」
「い!?いやすまん、そんなつもりは・・・。」
「ふふ、気にしてないよ。それで、急に遺体の話何てどうしたの?」
どうやら許してくれたようだ。眼福だ。
「あぁ、フィリフがいいならお墓参りはどうかと思ってな。」
「お墓参りかぁ、うん、いいよ。カズヤならさ。お母さんもお父さんもきっと喜ぶよ。」
「そういえば、最近は依頼で忙しくてあまり行けなかったな。」
どうやら許しが出たようだ。これは偽善だ。しかし、話を聞いてしまった以上、何かしてあげたい。
「でも、いまは休んで。まだ本調子じゃないでしょ?」
「そうだな。まだ俺の身体もガタが来てるな。起き上がれないし。」
身体のほうは大丈夫だが、如何せん、魔力が足りない。疲労感が凄まじいのだ。
「じゃあ、俺はもうひと眠りするよ。」
「おやすみカズヤ。」
「さっさと元気になれよ。」
フィリフは柔らかく微笑み、リリンはフッと笑った。




