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おっさん3匹異世界記  作者: 三色アイス
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第1章7話「姉上、危険は無いのだな」

石井ちゃん視点で小西が魔法(魔術)を使う場面です。

宜しくお願い致します。

私の名前は石井冬彦いしい・ふゆひこ

横浜都市交通の2級乗務員、つまりタクシー運転手をしていました。

過去形なのは、これから先はもうやっていけそうに無いからです。

私と同僚の2人は、異世界に来てしまったらしいのです。

同僚の一人、小西弘美こにし・ひろよしさんこと、ニッシーに拠れば一部の小説等ではありがちな状況らしいのだが、私にはどうにも手に負えない感じがする。



ニッシーはうちの営業所ではちょっとした有名人だ。

入社早々オタクです、とカミングアウトしていたらしい。

らしいというのは、私の入社がニッシーの半年後で、これは聞いた話だからだ。

当然、今も隠してはいない。



先日も配偶者控除の書類を主任に渡す際


「僕の嫁は画面から出てきてくれなくて。

出てこないんで控除されませんね」


と自虐ネタを飛ばしていた。

主任や所長は爆笑していた。

ただ、前職は派遣会社で機械設計をしていたとの事で、何でこんなところに来た、と多くの先輩乗務員に言われたらしい。



ただ、色々あったからここに居る、というのは多くの乗務員に共通している。

だから、そこは余り深く聞かないというのが、乗務員達の暗黙のルールである。



これはヨッシーこと吉田武彦よしだ・たけひこさんにもいえる。

彼が陸自にいたというのは酒の席で聞いた。

でも、出て来るのは馬鹿話ばかりで、詳しい事はわからない。

軍事オタクでもあるニッシーが質問して、砲科連隊の出身とだけ判った。

ニッシーもそれ以上聞かなかった。



私はそれで良いと思っている。

私も色々あったから。

そんな3人が中心となって立ち上げたのが酒豪の会だった。

仲間達からは呑んべ会と言われているが。

酒好きの乗務員を誘って月一で飲み歩いている。

積極的に新人を誘って、営業所に馴染める切っ掛けにしてもらったり、お互いの情報交換の場にしたり、といった感じで楽しんでた。

ニッシーがネットで新しい店を探して来たり、ヨッシーがいきつけの店紹介したり。



そんなある日、3人でキャンプ場で飲み会をしていたら、突然異世界とやらに来てしまった。

理解不能です。

そして、今、更に理解不能な事が起きています。



この世界に私達を呼び出したアマスラント帝国の皇帝達との会談中、突然ニッシーが席を立った。

どうしたんだろうと見ていると、右手を動かしながら呪文の様なものを唱えだした。


「アテー・マルクト・ヴェ・ゲブラー・ヴェ・ゲドゥラー・レ・オーラム・アーメン」


それを見て帝国の面々は顔色を変えた。

勿論私もヨッシーも驚いた。

ニッシーは気でも触れたのかと。

でも、帝国の人達の驚きの意味は違った様だ。

宰相が呟いた。


「ヒノモトに魔法は無かったのでは」


ソフィリア王女が答えて


「そう聞いていますが、これは」


あ、でもこの人目が輝いている。

宰相や皇帝の驚き顔は危機感が満載ですが、この人ワクワクしているみたいだ。

更に小西さんの呪文は続いた。


「ヨド・へー・ヴァウ・へー」


それを見てソフィリア王女が


「どうやら方位のエレメントにアクセスしようとしている様です。

攻撃や危険な魔法ではないです」


「そ、そうですか」


と皇帝。

ホウイのエレメント?なんじゃそりゃ。

宰相が


「しかし、どういう事です、ヒノモトに魔法は存在しないと先代の勇者は言っていたはず」


グラハルト王子が答えて


「使っている以上存在するのだろう。

姉上、危険は無いのだな」


ソフィリア王女は満面の笑みで答える。


「エレメントにアクセスして場と自分を浄化する魔法の様です。

攻撃に使用しようとしても浄化系の魔法ですから、私達にダメージは与えられません。

でも、こんな魔法初めて見ました」


そんな中、小西さんの呪文は続く。


「我が周りに五芒星は燃え、柱の上に6つの星は輝く」


ソフィリア王女が言う。


「佳境ですね」


「アテー・マルクト・ヴェ・ゲブラー・ヴェ・ゲドゥラー・レ・オーラム・アーメン」


小西さんがそう唱えて数秒後、突然崩れ落ちた。


「小西さん!」


「おい、どうした!」


私と吉田さんが思わず声を上げた。

えーと、こういう場合むやみに揺すったりしちゃいけないんだっけ。

タクシードライバーの応急処置講座で習った事を思い出そうとしていると、


「大丈夫ですよ、少ししたら気がつくと思いますよ。

マナにあてられただけだと思いますので」


とソフィリア王女。


「でも、場を開いたままになってますね。

エレメントを閉じないと。

『我は求める・方位・エレメント・閉会せよ』

これで宜しいでしょう。

その方はそちらのソファーに寝かされると宜しいかと」


おっとりした印象のソフィリア王女がテキパキと指示を出す。

しかし、


「いや、もう大丈夫」


そう言いながら小西さんが起き上がりだした。

少し首を振っている。


「大丈夫なの、小西さん」


「無理はすんな、オメー」


と私と吉田さんが言うと


「うん、大丈夫だと思う。

波動にあてられただけだと思う。

うん、この世界の波動は濃いんだろう、多分。

そのせいだと思う」


言ってる事が判らん、本当に大丈夫か。


「波動とはマナのことですか」


とソフィリア王女。


「いえ、オドもマナも含めた魔力やその流れを我々は波動、バイブレーションと呼んでます。

すいません、閉会して戴いたようですね。

ありがとうございます」


と小西さん。

大丈夫なら色々説明して貰いたいです。

しかし、そうはいかなかった。

ソフィリア王女が勢いよく質問してきたから。


「お礼より聞かせて下さい。

今のは方位のエレメントへアクセスして場と術者を浄化する魔法と思いますが、使われているシンボルや神名に記憶がありません。

そちらの世界のものとは思いますが、是非教えてください」


「え、ええいいですよ」


そこからしばらくの2人の会話は正直理解不能でした。

しかも、矢継ぎ早にソフィリア王女が質問するので、周りの私等は取り残されて、2人を唖然として見ているしか出来なかった。



ニッシーの話にはユダヤ教とかヘブライ語とか、知っている単語が幾つかあったが、全体としては理解不能だった。

そんな内容なのに、ソフィリア王女は嬉々とした表情で話をしている。

うん、巨乳は頭が悪いというのは嘘ですね。

しかし、この2人同じニオイがします。

ソフィリア王女もいわゆるオタクと呼ばれる人種なのかも知れません。

美人なのに実に残念です。



そんな風に2人を見ていると宰相が声をかけて来た。


「石井殿、そちらの世界の人は、その、こんなに魔法の知識に長けているのですか。

正直、ソフィリア王女はジンダ列島でも最高峰の魔法研究者です。

我々も魔法はある程度使えますが、ここの会話は理解出来無い内容が多々あります。

御2方もこのレベルにあるのでしょうか」


「馬鹿言わんでくれ。

コイツは特別だ。

俺等の世界でも変人の類だ、一緒にするな」


とヨッシー。

私も無言で頷く。



その後、2人の魔法談義らしきものは、焦れたグラハルト王子がソフィリア王女の頭にチョップして


「姉上いい加減にしてもらえませんか」


と止められるまで暫らく続いた、私等を置き去りにしたまま。

第1章8話「イタイんだよ、察してくれ」

読者様とおっさん達に幸多からん事を。

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