第1章5話 「なんか引けてくるよ」
すいません、又々設定説明みたいな回です。
どうか見捨てないで下さいませ。
宜しくお願い致します。
「こちらの品を見て戴けますか、御三方」
宮廷錬金術師長ジョアン・シン・ノード公爵が細長い木箱をテーブルに置きながら言った。
白木の飾りの無い木箱の一つに入っていたのは日本刀だった。
太刀と脇差のふた振り。
正直、日本刀の芸術品的側面の知識は皆無に近いので、詳しくは解らない。
しかし、どちらかというと実用品として使われた品物の様な気がする。
「今、小西殿がご覧になっているカタナは初代勇者がお持ちになっていた品です。
こちらもそうです」
そう言って、別の箱も空け中を見せるノード公爵。
「ちょ、ニッシー、これって」
と石井ちゃん。
「おい、オメー、どうすんだ、もう鉄砲あるじゃねーか」
とヨッシー。
そう、中にあったのはいわゆる火縄銃だった。
「初代勇者様はハンコウに学ぶ武士の見習い、と名乗ったと伝え聞いております」
と宰相。
「ハンコウ?」
とヨッシー。
「多分、藩校、つまり江戸時代に各藩が作った学校だよ。
士官学校みたいなものさ。
全ての藩にあったものじゃ無いけど、次代を担う若手藩士の教育にと作られたそうだ」
と僕が説明する。
「オメー、ホント色々知ってんな」
とヨッシー。
「ちなみに、教育に熱心な会津藩の藩校には水泳や初歩的な天測の教練もあったらしい」
と付け加える。
すると、石井ちゃんが
「もしかして、会津って事は大河ドラマ関連かい、ニッシー。」
と聞いてくる。
「正解。
あの放送協会は自分のところの番組宣伝に、更に自分のところの番組使うから。
よく見ている歴史ドキュメンタリー番組で会津特集してた、一ヶ月ほど」
ホント、あの局の執拗なまでの自局CMな番組構成はどうかと思う。
しかし、もう鉄砲伝来済みか。
予定と大きく違うな。
そして、更なる予定外があった。
「こちらは2代目の勇者様のお持ちになっていたものです」
とノード公爵が出した箱に入っていたのは38式歩兵銃だった。
「おいおい、38式なんてものまで有りかよ。
どうすんだよニッシー」
と首を振りながらヨッシーが言う。
「うん、確かに想定外だ。
でも考え様によっては更に凄い事が出来そうだ。
いっそ、アサルトライフルや戦車を目指すか。
機関銃もいいね」
と僕が答えると、
「いや、そこで目を輝かせるのは頼もしくはあるんだけどねえ。
でも、なんか引けてくるよ」
と石井ちゃん。
しかしそうは問屋が卸さなかった。
鉄砲は伝来済みだった。
でも火薬は伝来されてなかった。
さすがはファンタジー世界といったところか。
ノード公爵と宰相の説明によるとこうだ。
初代勇者は鉄砲の教練の最中に召喚されたそうだ。
火縄銃の扱いについては修得していたが、火薬の取扱はともかく、製造法までは知らなかった。
しかしながら、ここでファンタジー世界の生産チート、ドワーフ族の出番である。
そう、アマスラントにはドワーフもエルフもいる。
獣人も多くは無いがいるそうだ。
当時のドワーフの鍛冶師は火薬の代わりに魔石を使用する事を思いついた。
魔石とは、この世界に生きる生物の体の中から取れる結晶体だ。
体内をめぐる魔力が長年の内に結晶状に堆積して出来る石の様なものだ。
少し汚い例えだが、魔力の尿管結石と考えるとわかり易いかもしれない。
この世界では魔物や家畜等の動物から得られる魔石を魔力媒体として様々な道具に使用している。
そして、比較的安価な質の悪い魔石を使い捨てで、火魔法で爆発させる事で火薬の代わりとした。
魔石に火の魔法を刻印し、銃把から銀で出来た魔力回路で使用者の魔力を撃鉄へ誘導、引き金を引く事で撃鉄が動き魔石と魔力回路がつながり、魔石の火魔法が発動し爆発する仕組みを考案した。
ちなみに誘導される魔力は常時、人が自然に発している弱い魔力で呪文等は必要無い。
この魔力は切っ掛けであって、基本の術式は魔石に刻まれた刻印である。
この魔石式マスケット銃で武装した部隊を率い初代勇者は戦った。
本来なら大した戦力にならない魔法が使えない、体格にも恵まれない兵を、この銃は下級魔法使いクラスの戦力とした。
この事が他国を圧倒した。
ちなみにこの国では亜人差別は無い。
奴隷制度も無い。
初代勇者の時代に無くなったそうだ。
正確には、初代勇者がこのジンダ列島が群雄割拠の状態からアマスラント帝国を建国し、召喚したハーネス家の王女を娶り初代皇帝となった際、奴隷制度を廃止したそうだ。
以前は亜人差別も有り、多くの奴隷もいたそうだ。
しかし、日本人の初代勇者武藤兵衛もとい、ヒョウエ・ラ・ムトウ・ハーネス初代皇帝はそれを良しとしなかった。
基本、日本に奴隷制度や亜人差別はなかったからねえ。
一部差別等はあったが、アメリカ等の黒人差別に比べれば、かなりぬるいものだ。
その為、この人は勇者時代から差別意識が無く、ドワーフやエルフの協力が得られたらしい。
そして、ドワーフやエルフからアマスラント建国の英雄が幾人か生まれた結果、この国では亜人差別が無くなり、奴隷制度も無くなった。
それで、キリル大陸の亜人差別がある国から、エルフやドワーフの一部が逃れて来る様になったそうだ。
それが更なるアマスラントの発展に継がり、初代勇者、皇帝の評価は後世でも高いそうだ。
初代勇者よ、なんて事するんだ。
男のロマンをどうしてくれる。
ヨッシーや石井ちゃんには言えないが、少しは奴隷ハーレムに期待してたんだぞ。
少しだけだけど、エルフや獣人の美少女奴隷をはべらせての御大臣プレイに。
ほんの少しだけど憧れてたんだぞ、美少女奴隷とのハーレムプレイ。
僕の異世界性活の夢も希望も打ち砕きやがって。
ああ、なんて冷たい現実だろう、酷です、残酷です。
話を戻そう。
その後、この魔石式マスケット銃は錬金術の進歩で廃れた。
この当時は家畜(主に豚)から取れる質の悪い小さな魔石には、余り使い道が無かった。
その為、使い捨てするのにも躊躇が無かった。
でも、錬金術の進歩で小さな質の悪い魔石を複数合成して、質、大きさを共に上げる事が出来る様になった。
しかも、魔石の使い道自体も、多種多様の魔術道具の発明で多様化して需要が大きくなった。
こうなると、魔石式マスケット銃の費用対効果のバランスが大きく崩れてくる。
そして、ジンダ列島の政情が安定してくると、魔石式マスケット銃は生産、使用されなくなっていった。
2代目勇者が召喚されたのは7代前の皇帝ジークハルト・ラ・アスラムの時代だそうだ。
ジンダ列島の東、船で3日の距離にあるキリル大陸の大国ソンファ帝国が、属国のハンソム王国と共に侵攻してきた際に召喚された。
2代目勇者大川大二郎軍曹は演習中に召喚されたそうだ。
明治天皇の時代だそうだ。
帝国陸軍の軍曹として演習参加中、装備と共に召喚されたそうだ。
当時新鋭の38式が優先配備された精鋭部隊、と本人は語ったそうだ。
どうも話に聞くと、典型的脳筋タイプだったらしい、この人。
初代勇者は、武勇以外に稲作や水田をもたらしたり、味噌、醤油なんかの製造法も伝えた。
農村の出だったらしく、当時、味噌、醤油は店で買わず、村の農家で作っていたので製造法を知っていたらしい。
水田についても同様らしい。
2代目の評判では、こういった内政面での活躍は無く、最後まで軍人だったらしい。
ただ、軍人としては優秀だったようだ。
一つは近代的軍事教練をもたらした。
当時、アマスラントの教練の基礎は素振りと立会い稽古だった。
そこに筋トレや行進、行軍(部隊移動)といった近代的軍事教練を取り入れさせた。
一見大した事無いように見えるがそうでもない。
まず筋トレだ。
これは某格闘漫画(達人が多く出る漫画)の受け売りだが、立会い稽古のみで筋肉をつけようとすると、必然的に怪我が多くなる。
勿論立会いでの経験は重要だが、体が出来る前に怪我してしまっては意味がない。
そこで筋トレや柔軟体操が重要になって来る。
まずは体の基本スペックを上げてから戦闘技術を磨くという事だ。
次に行進や行軍訓練だ。
これは何よりも、部隊全体で息を合わせる協調性や、連帯責任を修得させる重要な訓練だ。
基本的に個人の武勇を競う中世式軍隊から、部隊全体で任務遂行を目指す近代的軍隊に切り替る為の訓練といえるだろう。
騎士から兵士へ、といったところだろうか。
まあ、ここまで考えていたかどうかは定かでは無いが、近代的軍事教練をもたらした。
次に塹壕や銃を使った戦術の伝授である。
ここで使用されたのは魔石式マスケット銃では無く、新たな銃だ。
38式がもたらされても、依然火薬の製法はもたらされ無かった。
しかし、錬金術の進歩と生産チートのドワーフ族の出番だった。
38式の構造を解明、理解すると参考に新たな銃を生み出した。
魔石を使い捨てにするのでは無く魔石、もしくは使用者の魔力を用いて爆発を起こそう、という構造の銃を開発したのだ。
当然38式をモデルにしている為、後装式で複数の銃弾を装填出来る。
しかも薬莢が無い為、クリップ式にしづらいとの理由(薬莢のリムが無いので)でスプリング式の弾倉まで作っている。
ドワーフ、マジでチートです。
更には、この大川軍曹、保有魔力が馬鹿でかかった。
この世界では保有魔力は重要である。
よって、長い歴史の中で魔力の大きな人物を積極的に家系に取り込んで来た、貴族や王族が大きな魔力をもって生まれて来るのが常識である。
勿論、後天的に訓練である程度は強化出来るが、家系の差を覆すのは難しいらしい。
鬼畜とお人好しの義理の親子が主人公の正義の味方物語の魔術師達みたいだなあ。
そんな中、大川軍曹の魔力保有量は王族なみにあったらしい。
この魔法式小銃、一発撃つのに初級魔法のファイアーアローの半分位の魔力が必要だった。
これを大川軍曹、百発撃っても平気だったと記録にある。
一般の人で2発、訓練で魔力強化した才能無い兵士で3発撃てたそうだ。
下級魔術師で20発前後である。
この魔力量にいわせて大活躍したそうだ。
ただ、大川軍曹、魔法の才能は無かったそうだ。
魔力は沢山あるが、その魔力を魔法として発現出来なかったらしい。
ただ、体内で魔力を使う事は出来たので、魔力に寄る筋力サポート等で怪力無双にはなれたそうだ。
ホント脳筋キャラだね、この人。
でも、異世界人でも魔力を大量に保有していた。
これって、僕等でも魔法が使えるかもしれないって事か。
うん、試す価値あるかもしれない。
第1章6話 「アーメン」
読者様とおっさん達に幸多からん事を。