第1章19話 「オークパペット」
どうぞ宜しくお願い致します。
「あの、この短剣はあくまで剣の象徴であって、剣そのものでは無いんですけど」
そう、だからこそ象徴武器の名前がついている。
武器の形な魔術礼装。
それが象徴武器の正体。
それくらいソフィリア殿下なら理解出来ると思ったんだけど。
「ええ、そうですね。
でも剣でもありますよね。
どうでしょう、試してみませんか、小西殿。」
うーん、何をさせたいんだ殿下は。
まあ、壊れない程度の事なら別にどうという事無いけど。
「では殿下、どの様に試すのが宜しいでしょうか。
壊れない程度なら構いませんよ。」
「それでこそ小西殿です。
では、少々お待ち下さい」
そう言って殿下は席を立つ。
この部屋は僕の執務室で後宮のゲストルームを改装したものだ。
ドアから入ると正面に応接用ソファーセットとその奥に執務用の大きなデスク。
その右側にはソファーセットから十分な間隔を開けてダイニングテーブルと椅子のセット。
左側には資料用の棚や本棚が並んでいる。
更に右側の奥にドアが有るが、そこは僕のプライベートエリアで、寝室とトイレと風呂がある。
殿下はダイニングテーブルの席を立つと、ソファーセットとの間、それも部屋の奥の方の空間に歩いて行く。
そして、おもむろに右手を振ると、いつの間にか木の枝を持っていた。
恐らくアイテムストレージのマジックアイテムから取り出したのだろう。
1メートル位の木の枝であった。
アイテムストレージ、アイテムボックスと呼ばれる一連のアイテムは高価ではあるが、その利便性からこの世界に広く使われている。
その性能、形は様々で、単に容積が見栄えの数倍有るというものから、無限に近い容積を誇るもの。
更にはカバン形から指輪やブレスレットの様なアクセサリー形まで様々である。
勿論重量も軽減出来無い物から、いくら入れても重量の変わらない物など豊富な種類がある。
殿下は木の枝の中央付近を両手で自分の前に持ち、ニコリと笑うと唱えだした。
『我は求める・枝に宿りし精霊よ・覚醒せよ・その姿表し服従せよ・我は汝の力開放せん』
殿下が両手を放しても枝は宙を浮き位置を変えなかった。
そしてみるみる太く大きくなり人に似た形となった。
『オークパペット・顕現せよ』
その変形した人型の木は根の様な足で床に立った。
オークパペットの魔法だ。
中級の下位呪文だ。
一人前の魔法使いなら使えて当然の呪文である。
ファイアーボールと並んでメジャーで最下級のゴーレム系魔法だ。
この世界には大きく二つのタイプのゴーレムがある。
岩や木といった自然物に精霊や聖霊、悪霊などを宿らせ、形を変えさせて操るタイプ。
フレームや人工筋肉等を作り、そこに精霊や聖霊、悪霊を宿らせたり、魔石と魔法回路を組み合わせて動作パターンを作って制御させたりするタイプ。
この二つが主流となっている。
オークパペットはオークの木を触媒に植物系の精霊を召喚すると同時に、触媒のオークに宿らせてゴーレムにする魔法である。
オークパペットのゴーレムはゴブリンなどと同じ下級の中位のモンスターに分類される。
力は平均的男性より少し強い。
しかし動きが鈍い分、脅威度が低く設定されゴブリンと同等とされる。
とは言っても、木で硬い分ゴブリンより厄介とする冒険者や兵士も多い。
「さあ小西殿、オークパペットに命令はしませんので動きません。
ですから思い切り攻撃してみて下さい。」
満面の笑で期待感を隠せない様子で殿下が言う。
素晴らしい笑顔なんだけど、なんだか残念な気分だ。
美人だし、戦術級を超え戦略級の胸を持っているのに。
とは言え女性の期待には出来るだけ答えたい。
木のモンスターを木の短剣で攻撃する。
魔法を帯びた木を魔術を帯びた短剣で攻撃する。
いかん、互角なぶん壊れる可能性もある。
ここは魔術を底上げして攻撃しよう。
ただし、大人気無くならない程度で。
室内という事を考えて地水火風の召喚はやめておこう。
そうなると精霊の五芒星、それの能動となるだろう。
短剣で右下から左上に五芒星を描き出し、その中心を貫いて略式で短剣に召喚する。
そして、オークパペットの正面に立つと、一息に体の中心に短剣を突き刺す。
この時自分の体の動きをイメージする。
足の踏み込みから始まり腰の回転と継がり肩から手の先へと動きを連らねると共に波動もそれに沿わせる。
最後に短剣がオークパペットに当たる瞬間、全てが最大になる様イメージして突き通す。
あれ、なんか刃の根元まで刺さってる。
刃渡り2〇センチ、全てがうまってる。
そんな事を確認した瞬間、オークパペットの姿が消えた。
床には砕けた木の枝が散乱していた。
左上から右下へ五芒星を描き精霊の退去を行う。
退去を終えると思わず頭を抱える。
どうなってんのこれ。
第1章20話 「恥じるばかりです」
読者様とおっさん達に幸多からん事を。




