七
会場の周りにはホテルのような建物が十個並んでいた。おそらく五人一組につき一つだろう。残った人数は五十人だった。きりが良すぎて怪しい。
「武様ですね。会場は四番ホテルになっております。それとこのカードをお受け取りください」
おれは四か・・ん?なぜ皆あんなに急いでホテルに入ってる?何をそこまで急ぐ必要があるのか、俺は昔からマイペースだからゆっくりいかせてもらう。
カードを見るとルールが書かれいた。
【愚者の鬼ごっこ~ルール説明~】
一,ゲーム開始の合図は全員が建物に入った瞬間である。鬼は最後に入った者が自動的になる。
二,建物はすべての部屋が出入り自由、しかし建物自体を出ることは禁止する。
三,建物内のすべての物は使ってよい、食糧は用意してあるが食べるかどうかは任意。
四,鬼交代は体がふれるまたは行動不能時のみである。能力でふれた場合交代にはならない。
五,一度タッチされると三分間逃げる時間を用意される。
※なお、死者がでてもこちらは一切責任を負担することはない。
なるほど・・まず部屋の出入りは自由か、隠れて残り時間を鬼と出くわさずに終わらせることも戦略の一つになるわけか。かくれんぼと違って見つかるだけではアウトにはならないことも有利だな。それに『死者が出ても』ということはもちろん戦闘は想定内。こういうのは近接系には絶対に向かないゲーム、しかしそれは鬼になった時の遠隔系もまた同じか・・。そんなことより困ったな・・・このルールによると鬼はまさに俺にならんとしている。最後に入るということは相手がトラップをしかけている場所に平気で行かねばならないということ。用心していかなければ・・・。
建物に入ると意外にも広々としたロビーだった・・・といってもロビーは霧がかかっていてほとんどまわりが見えない。こんな広い空間で霧なんてかけられたら敵の位置など皆目見当がつかない。
消臭用の炭が靴箱に山積みされている。いくらなんでも置きすぎだが一応細かい気遣いができている。即席の建物とはいえそういうところはしっかりしているようだ。他にも細部にわたるまで本物のホテルのようだ。
「消臭に気を使うのはいいが血なまぐさいゲームになるだろうからあってもしかたないと思うんだがな・・」
武はおもむろに数歩歩いてみた。自分以外に人が見当たらない・・部屋が山のようにあるこの中で人を探すのは骨が折れる作業だ。
「おーにさーんこーちら、手のなーるほーへ」
むかつく歌を歌っている男が居た。髪はオールバックで服装はラフ、遊びが好きそうだ。少し繁に似ていると思ったが武は心の中で否定した。
「おれの名前は『菅田 虎彦-すがた とらひこ-』まぁ死人に渡す土産としては上等すぎるくらいだよな」
手をパンパン叩きながらおちょくっている。
「簡単なトリックだ。姿が揺らいでるぞ?」
そう、簡単なトリックだ。ここ一帯には霧がかかっている。水のスクリーンだ。こいつはまず自分の姿を見せ、さらに歌や言動で挑発する、そして自分の幻影に惑わされている隙に相手を叩く、簡単な戦法だ。しかしこの技には欠点がある。これはまさに水面に映る自分の影そのもの、つまり・・・。いやまて、おれの真後ろならばおれが映るはず、ならば違う手か・・・そうか。霧を操ると考えているからだめなんだ。奴はおそらく水を操っている・・水を操るなら水に色をつけるなど容易なはずだ。奴はテレビのように水のスクリーンに自分を映しているのか。霧ならばそれは奴の能力そのものだが水ならばそれはおれの専門だ。
「さっそく騙されてるねぇ。おれの能力は普通の奴とは違って応用が利くのさ、だから強い。こんなゲーム早く終わらせて願いを叶えてもらいたいんだけどな。たく会長って爺さんはケチだぜ」
「おしゃべりご苦労」
そう言いながら武はゆっくりと数歩後ろに下がりながら何も見えないそこに手を置いた。するとその手は菅田の肩にのっていた。
「相手が悪かった。おれみたいに探知できる能力でなけらば見つけられなかっただろう。お前が漂わせてるこれはなんだ?」
「き・・霧だ・・・」
汗を垂らしながら答える菅田。
「その霧を使わせてもらった。おれはそれでお前を逆探知した。これほど初見の相手に使える技を見つけさせてもらえて礼を言おう。それと・・・なんと言ったか?応用が利くから強い?その通りだな」
半笑を浮かべながら武はその場から立ち去ろうとした。
奴は以外と慎重な男だった。二つ目の推理でまず後ろにはいないだろうという確信が生まれる。それを見越してあえて真後ろにいた。真後ろなら完璧に殺せるし、相手の姿も確認できる。しかし物陰に隠れず真後ろに立つというのは非常に危険だ。能力を知らない段階で使うにはあまりにも諸刃の剣。
「ちぃ・・俺はまだ負けてない・・・」
やべぇぜこりゃぁ・・・このままじゃあ初戦敗退。情けねぇ・・勘弁してくれよ。少々強引だがやるしかねぇ。あんま人を殺すのは好きじゃねぇが・・・。
声に反応して武が振り返る。菅田の顔を見て、まだ戦意を失ってないことに気づき戦闘態勢に入る。
「武?相手は動けないのになんで構えるの?」
「ルール上は動けなくなるだけだ」
そう、体が動けなくなるだけで能力は使える。霧が消えてないのがなによりの証拠。武は菅田の視界の霧を濃くし、静かにその場を離れようとした。
「俺はまだ戦える!」
霧が一瞬にして消える。集まった霧は水の玉へと変化し、その玉は巨人の上半身の姿に変わった。そしてその巨大な手からまるで激流の如く水が噴き出した。質量的にはあり得ないほどの水が武のいる方向に噴き出した。
「おれの能力はその名をPoseidon。神の名を持ちしこの能力が容易に負けてたまるものかああああ」
「おい武あぶない!」
Growの叫びも聞き取る時間もないほど一瞬にして武はふっ飛ばされた。量からして民家は飲み込んでしまえるほどだ。
「まだ安心できねぇ。もっとだあああ」
飛ばされた先はエル字型の廊下で、その先には参加者用の食堂がある。武は食堂までふっ飛ばされた。
「よし、やっと三分が経った。これで動ける」
菅田は早歩きで武の元に様子を見に向かった。そこには腕や足の取れた人間と思われる物体が無残に散らばっていた。勝利を確信した姿は笑みを浮かべた。
「くくく、ざまぁないぜ。図に乗ってるからそうなんだよ」
さらに早足で死体の元に近寄ると死体は燃やされたように焦げていた。
「いい焦げ具合・・?上手に焼けましたってか?・・・」
自分で言っていることの矛盾に気づく。水で飛ばしたはずの武が焦げている。これほど滑稽なジョークはあっただろうか?
「俺ってそんなに図に乗ってたか?気を付けないとなぁ」
武の後ろからマイペースな歩きでゆっくりと近づいてくる男、それは武である。菅田は表情に焦りを隠せないでいた。
また奴の策略にはまっちまった・・・二度も同じ過ちを繰り返すなど・・・なんて情けないんだ・・。
「見て分からないか?これは黒鉛だ。入口の炭を使わせてもらった。丁度思いだして使わせてもらったぜ。身代わりとしてな」
目の前の人形は菅田を模している。武の皮肉であろう。
「おれが人形と人を見間違えた・・・?」
頭を抱えてぶつぶつと呟き始めた。
「ついでに霧のコーティングもセットでな。お前の技術を使わせてもらったよ。ただの炭人形ではすぐにばれてしまうしな」
「でもなんでわざわざ人形を作る必要が!?」
たしかに幻影さえあれば十分相手をだますのに使える。
「幻影だけだとおれが見破ったようにブレでばれてしまう。なにより感覚がほしかった。何か物体に当たったんだという感覚が」
完全にしてやられた・・。
「ぐっ・・おれの負けだ。・・・・」
武はその場を無言で立ち去った。敗者にかける勝者の言葉など思いつかなった。菅田はしばらく膝をついてうつむいていた。
「武・・あいつさ、もう少し頭が切れるやつだったらかなりやばかったね。武も負けてたんじゃない?」
「ああ・・・」
たしかに今回の戦いは危なかった。ああいう単純な能力ほど恐ろしいものだ。水を操る・・人間のほとんどは水でできてる。考え方次第ではどんなにむごい殺し方だって容易にやってのける。周りに何かを生み出して戦うことよりも自分を構成する何かを使われるほうがよっぽど恐ろしい。
「Grow、このゲームは並大抵の神経じゃやっていけそうにないな。鬼ごっこなんて言うから単純すぎて甘く見ていたところがあった。あんな化け物とちんけなホテルに一日住み込みなんて考えただけで寒気がする・・・」
「そう、君の能力も恐ろしいが彼らも相当な手練れ、さっきの奴以上なんてざらにいるかもしれない。気を引き締めていこう。」
Growの言う通りだ。ここは慎重に動いた方がいい。こんな戦闘を何回もしてたにでは体力が持つはずない。ロビーは広すぎるし二階から見えすぎている。とにかく一階にはいない方がいいな・・・。
二階の個室に隠れてやり過ごそうと考える武・・しかしそう簡単に終わるはずがない。一難去ってまた一難・・・。
二階に上がるといくつもの部屋が横に並んでいる。さらに談話スペースのような場所も設けてある。そこにはソファーが向かい合うように二つテーブルの周りに設置してある。そのソファーの一つに男が一人座っている。そのソファーに座っていた男が立ち上がろうとしたのを武が止めた。
「待て、俺は鬼じゃない。どこのだれだか知らないがそのソファーから動かないでくれ。無駄な争いはお互いの利益を生まないだろ?おれはここを通りたいだけだ。ここまま素通りさせるのがお互いのためだ」
鬼でもなんでもない敵と一戦交える必要なんてない。耐久のゲームに無駄な戦闘はできるだけ控えておきたい。鬼以外の相手とはできるだけ近づかないようにするのが定石というものだ。二人は鬼でない証拠のために握手をして確かめた。武が鬼であるならば木場は動けなくなるはずだからだ。
「そうだな、でも話すくらいはべつにいいだろ?おれだって鬼じゃない。情報交換はお互いの利益を生まないか?」
「・・・・ああ、わかった。だがさっき鬼をタッチしてきたところなんだ。時間はあまりとらせないでくれるか?もう一度相手にしたくない相手なんでな」
その話を聞いて男はにやりとした。
なるほどね・・もう一度相手にするのが嫌な相手ということは相当な手練れだろう、ならそいつとこの男を戦わせればおれは漁夫の利。そのためにはこいつをできるだけ時間稼ぎさせないとな・・・。
「まぁこれから戦う敵同士まずは自己紹介といこうじゃないか。俺の名前は『木場 慎吾-きば しんご-』。職業はカメラマンだ。人の表情を見て感情を読み取るのが好きなんだ。出身は特にない、いろんな場所を転々としてるからな。歳は今年で十九になる。さぁ、次はお前の番だぜ?」
「ああ、そうか。俺の名前は『神童 護-しんどう まもる-』職業は小説家。そこらを歩きながら書いたりしてる。同じく出身は特にない。歳はお前と同じ十九。というかこの大会には同い年しかいない気がするが・・」
もちろん偽名だ。いきなり話をしようだなんて持ちかけてくる奴にそんな簡単に情報を与えたりなんかしないさ。おれをなめてるのか?
立ち上がってその場を立ち去ろうとした。こんな怪しい奴と長ったらしく話をする人はそうそういないだろう。
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA。君は実にユニークな人だね。歳も同じだし親しみやすいじゃないか。もっと話そう。」
気持ちの悪いやつだ・・・適当に流して帰ろう・・・。
「おいおい、他人の個人情報を聞いておいて笑うなんて失礼な奴だな。なにがそんなにおかしいんだ?」
少しの間があいた。そして人の顔を見てにやりと笑う。
「いや、HAHA。初対面の人間にあいさつ代わりに偽名を教えるなんて実にユニークな人だなと思ってさ。銀 武くん。」
「!?」
なぜおれの名前を知っている?相手の素性を読む能力?いや、それでGhostを倒せるはずがない。なにかあるはず・・・。しかし相手の素性を知ることも能力には含まれている・・おそらくそれはただの結果でしかない。何かをしたことによる結果・・・。
「なぜお前はおれの名前を知ってる?プライバシーってものを守ろうっていう気はないのか?これはお前の能力の一部か?」
「HAHAHA、よく気が付いたね。その通り、君に気づかせたそれはただの能力の結果にすぎない。しかし君のことはよく分かったよ。嘘つきは嫌いじゃないよ。だって人が嘘を付いた後にあばくのはとても楽しい。カメラよりすごく鮮明に相手の情報がわかる。いい趣味を持っていると誉めてくれてかまわないよ?」
やはりそうか。名前を知られたということは相手の脳内に情報を得る何かを侵入させた、と考えるのが妥当か?いや、憶測だけで動くとろくなことがない・・菅田がその例だ・・・。もしかして握手の時の・・奴は鬼かもしれない相手に触れるというリスクをおかした。奴はそこまでする理由がない。つまり奴の能力の発動条件は触れることじゃないのか・・?気づくのが遅すぎたか・・。
「なんか地面が湿ってるねぇ・・・そろそろ戻らないとね。僕まで巻き添えにされるのは嫌なんでね。君には今すぐ死んでもらうとしますか。では武くん、自分でそこに刺さっているナイフで首を切って死んでくれよ」
「はぁ・・?お前は何を言ってる?」
自分でそう言いつつも手にはナイフが握られていた。そしてそのナイフは少しずつ自らの首に向かって来ている。
「う・・・」
なんだこれは精神面では何も変化はないのに体だけ切り離されたように感覚がない。まさか頭に侵入するのではなく体の主導権のいくらかを奪うのか?奪うことで相手の情報が分かる・・・それが結果、というわけか・・・。
「グッ・・」
ナイフを一瞬にして消し飛ばした。塵となったナイフが空を漂う。武は動揺していた。しかし能力を理解した今、冷静さを取り戻した。
「あ、そうそう。君ってさぁ・・過去に両親や親友亡くしてるよね?親友の一人は通り魔によって殺され、父親ともう一人の親友は事故死。母親は君を産んで死んだ、か。まったく悲しい話だねぇ・・・」
何事も無かったかのように平然と武の過去を暴いていく木場。
「通り魔の犯人はなんと言ったかな・・?そうだ馬谷だ。あいつは本当に頭を使えないただの馬鹿だったよなぁ」
「それも能力で得た情報か。だがそれを知ったところで俺への挑発にはならない。ただの俺の出来事の一つでしかない。」
過去の事件について武はもう踏ん切りがついている。多少のゆさぶりは元より想定内の事だ。何も同様なんてすることではない。
「じゃあさ・・・もしその馬谷をお前に相手させたのがおれだとしたらどうする?仲間を殺したのも僕になるわけだ。」
「・・・・・・!?」
予想外の発言に驚いた反面、頭に血が昇った。
「落ちつけ武。ハッタリだ!」
「うるさい・・黙ってろ・・・」
感情を整理している。あの時の光景を思い返す。あの時は真理の事であまり周りが見えていなかったが今思い返せばたしかに後ろに人影が見えた。
「貴様・・・・あの時の人影がそうか・・・」
まずい・・・僕の記憶によると馬谷の後ろに人影なんて見えなかった。明らかに馬谷は快楽殺人者・・仲間など・・ましてやだれかに従って行動するなんて心理的にありえない。もし関わりがあったとしても間接的に殺人を行う人間がわざわざ被害者の友人の前に姿を見せるなんて事はしないはず・・・・つまり奴は武の記憶を偽装している・・?
「武!惑わされちゃだめだ。これはあいつの能力に違いない。どう考えてもそんな状況になんてなるはずないんだ!奴が元締めである決定的な要因がないんだ!冷静になって考えてみてよ!」
「・・・・・・・・・」
武は目からだらだら血を流し、虚空を見つめている。記憶の偽装は脳への負担が大きすぎるんだ。脳がパンクしている。突如、武の周りが少しずつ風化していった。自分で能力を抑えきれずにいるためだろう。
だめだ・・完全にキレてるよ。いつも冷静な戦いをする武が・・・記憶の偽装で疑心暗鬼になっている・・人の過去の辛い場面に自分を付け足すことがどれだけ人の感情を追い詰めるんだ・・・。しかしどうやってGhostを・・そうか、Ghostも元はただの幽霊・・昔の記憶もある・・それを暴走させて自滅させたのか。
「目を覚ますんだ、たけ・・・」
その瞬間、突然上から大量の水が落ちてきた。水道管の破裂とかじゃなく、滝に一瞬打たれたのではないかと言う衝撃。
「いきなり何すんだあああああ」
「ケッケッケ、やっぱりそこにいるのはてめぇかぁ。みぃぃぃつけたっ。フゥゥゥゥゥゥ。今日のおらぁついてるねぇ」
武は水浸しの髪をかきあげるとそこには場の雰囲気を壊すような男が立っていた。懐かしいとは言い難い短い時間だった。
「お前はだれだ!僕の戦いを邪魔しないでくれたまえ」
木場は少し焦ったような表情をしたあと見えないようににやけた。それはもちろん木場の作戦が武と菅田を戦わせることだったからである。
「どこのどなたが存じませんがこいつには借りがあるんでな。おれは一度敗北したら次は二倍で相手に返してその敗北の二文字を上書きするのさ。だからとっとと捕まえてタッチしなきゃぁならないんだよ、邪魔しないでくれよな」
ああ、もちろん邪魔なんてしないさ。しかしすこしスパイスが必要なようですねぇ。彼がただタッチするだけではおもしろくもなんともない。それに銀を完全に殺してもらわなければ話にならない。
「おいおいよしてくれよ、勝手に僕のターゲットに触れないでくれ。薄汚い不良みたいなやからがこの厳粛なるゲームに参加している事実だけで実に不愉快でしかたないんですよ。少し運がよくてこの大会に参加できているからって自分が強いと勘違いしていないかい?図に乗るんじゃないよ小僧」
ピクリと菅田の動きが止まる。放心状態の武の元に向かう歩みを止め、木場を睨んだ。目はピクピクと今にも血管が切れそうに動き、歯をギリギリと鳴らし、拳を強く握りしめながら立ちつくした。
「俺は昔から馬鹿やってた。そんな俺でもな・・まともな友達がいたんだよ。すげぇやさしくてさ。宗助と涼子って言うんだけどよ。商店街で買い物してたらよ・・へへ、笑っちまうだろ?人とぶつかって落っこちた林檎を拾おうとしてかがんだら車にひかれたんだよ・・二人ともな」
ある日。菅田と宗助と涼子は買い物に来ていた。
「おいそんなに果物買っても食えねぇだろうよ」
「そうだよ涼子。虎彦の母さんは体がよくないから入院してるのに無理して食べさすと良くならないよー」
「うるさいなぁ・・・良いじゃんみんなで食べればさ!」
菅田の母親は急に頭が痛くなって倒れてしまった。病院では安静にとのことだった。
「いって・・・気つけろガキ」
「あ・・すいません」
なんだあいつ柄悪いな・・涼子にぶつかっておいて一方的に謝らすなよ・・自分が前見てなかったのに・・・。
「あっ・・林檎」
二人はそれを追いかけた。道路に出てるとも知らずに・・・。
「ん?ああ、分かってるよ・・その件は・・・うあっ」
運転をしながら電話をしていた。一瞬だった・・・一瞬で二人の命は奪われた。どちらにも悪いところはあった。しかしあまりにも短い人生だった。
「つまり何が言いてえかっていうとさ・・俺にもちゃんと目的があるんだよ。だから俺のこと侮辱しないでくれよ・・二度とな」
菅田の過去に武は反応した。死因は違えど自分と菅田の過去があまりにも類似している。同じ志をもった菅田に自分を重ねてしまった。
「す・・が・・た・・」
「なんだぁ?目覚ましたか?おらぁちょっくら野郎に気合い入れてくるからよ。ちょっと待ってろ。」
あいつの話は最初から聞いていた。こいつも俺と同じ苦しみを背負う者。甘い考えかもしんねーが今こいつを落とす気にはなれねぇ・・・。
木場は菅田の言葉に怒りをあらわにした。菅田の勝利を確信している言葉に自分のプライドが傷付けられたらしい。能力というのは使う人間の人格を鮮明に表す。相手を身体的ではなく精神的においつめる木場の能力は本人の性格をよく表している。自分の思い通りに事が運ばなかったり、格下に見下される発言を特に木場は嫌っている。
「俺がお前みたいな糞ガキにやられるわけねぇだろうがよぉ。今すぐお前もそこの腰抜けと同じようにしてやるからよぉ」
木場は腕を大きく振り上げて菅田に殴りかかろうとする。能力に反して本人の身体能力も相当なものだ。
「やる気かこの三下野郎。へっぴり腰のくせに無理して近接なんかするもんじゃねぇよぉ」
大見得切ったはいいが俺は奴の能力の伝達条件をしらねぇ。右手を大きく振り上げているがあの拳は殴る目的ではないのはよく分かる。すると触れることが目的か?ならば触れられないことを最優先すべきか。
いつもの菅田なら真っ先に殴り返そうとするだろう。しかし菅田は頭に血が昇っても冷静さを欠くような人間ではない、むしろ逆である。頭に血が昇るほど冷静に対処できる。菅田はすかさず後退し、木場の攻撃を避ける。
「貴様を甘く見ていたようだ。てっきりガンガン攻めてくるタイプかと思っていたよ。さっきの腰抜けより楽しい戦いになりそうだ」
「おいおいおれのライバルをあまり悪く言わないでもらいたいね。いくら初戦で気が緩んでいたとはいえおれが負けた相手だぜ?おれが凹んじまうじゃねぇか」
菅田の肩が大きく引っ張られる。何か肩に違和感を感じる。
「フハハ、貴様の肩にワイヤーを仕掛けさせてもらったよ。さっきのパンチが本当にただ触れることのみの目的だったと思っているのかい?だとしたら安易だよ・・・・実に安易だよ臆病小僧が!」
菅田は一生懸命地面に足を付けて引っ張られないように踏ん張る。しかしぐらついてまともに体勢を整えられない。
「俺の能力を知ってるかい?知るはずないよなぁ。俺の能力は水を操るのさ、俺が持っている水以外の水を操る方法は自分の水と同化させること以外ない。まぁそんなこと今関係ないんだけどさっきからこの空間に違和感を感じてないか?」
木場は自分の行動や発言を思い出してみた。するとある発言がひっかかった。『なんか地面が湿ってるねぇ・・・そろそろ戻らないとね。僕まで巻き添えにされるのは嫌なんでね。君には今すぐ死んでもらうとしますか。では武くん、自分でそこに刺さっているナイフで首を切って死んでくれよ』。
そうだ、なんで地面がぬれているんだ。何階もあるホテルで水漏れなんかがあるはずない。そしてなによりそんな異常に私が気づかないはずはない。
「即興な建物なんで水漏れがあるんだとでも思ったのかぁ?最初から水で地面がぬれていたから違和感があっても頭のどこかで勝手に納得してたのか?まぁ問題なのはその水滴がお前のズボンについているかだ。」
菅田の指差すズボンには水滴が付いていた。しかしほんの少したったほんの少しだ。しかしそのほんの少しがこの勝負では大きな鍵となる。
「水を地面にはわせることで敵の探索と戦いの下準備。どうやらこの戦い、俺の方が一枚上手だったようだな」
「おれが負けるはずがねぇ・・・こんな水滴一粒で・・・」
自分でも気づいていた。人間を構成する物質で多くをしめるのが水分。一粒肌に触れるということは体の水分はすでに菅田の水となっているということ。
「自分で気づいているんだろ?もう終わりだよ。相手が悪かったんだ。最初から決まっていた勝負・・・」
菅田が木場の胸に手を当てるとまるで銛のような形になって水が体から奪われいていく。水を奪われた木場はみるみる細くなっていき、最後には見るも無残な姿へと変わってしまった。奪われた後の無残な死体とは裏腹に、水はとても美しかった。水は菅田が腰に付けいていた大きい水筒のような入れ物に入っていった。
「手間かけさせんじゃねぇよ」
突如天井のスピーカーから係員の声がした。さっき武たちにルールカードを渡してきた男の声だ。聞き覚えがある。
「四番会場の試合の結果報告をいたします。戦闘不能者が一名出たため、自動的に残った四名を次のゲームの出場者といたします。なお、他の会場でのゲームが終わるまで四番会場の参加者は休憩となります。お好きな部屋を選んで休養をとっていただいてかまいません。休憩中に戦闘を行った場合、その者を即刻退場といたします。」
なんだ・・なんとか残れたのか・悔しいが菅田のおかげだな。次のゲームの用心としてゆっくり休養をとっておくとするか。
「じゃあな、おれはもう行くぜ。隣同士で休むのもあれだしな。今回みたいな情けない戦いを今後も続けるようなことはやめてくれよな」
菅田はそう言い残し、振り返り様に軽く手を振ってからそそくさと上の階に向かった。
「では四番会場での合格者を発表させていただきます
・菅田 虎彦
・『佐野 正義-さの まさよし-』
・『吉崎 燈子-よしざき とうこ-』
・銀 武
見事二回戦出場おめでどうございます。次の集合は明日の午後六時となっております。それまでは時間をどう使われてもかまいません。ではごゆっくり。」




