五
次の日の朝。
「繁おはよう。そういえば今日体育あるよね?んー、今日あんまり体調よくないし休もうかなぁー。繁どう思う?」
いつも通りに話しかけてくる武に繁は唖然とした。繁は動揺してうまく返事が出来なかった。昨日の武とはまるで別人、いやただ戻っただけのはずだが・・。
「あ・・ああ、そ・・そうだな。ちゃんと休めよ。それより昨日の事なんだけどさ、ちょっとい・・・」
言いかけたその瞬間に繁は硬直した。一瞬だけ見せた武の視線に恐怖したからだ。見間違いかもしれないその視線は繁をとてつもなく圧迫した
「い・・いや、なんでもねぇ・・気にすんな」
「ん?そう?分かった」
武は自分でも理解していた。自分には二つ目の人格が生まれてきていること、そしてそれが繁に気づかれ始めているということ。自分では抑えようがないこと。
朝のホームルームが始まった。先生がいつもとは違う深刻な顔で語りだす。おそらく昨夜のことだろう。
「先日、買い物に行くと父に言い残して消息を絶っていた竹田のことでみなさんに話しておかなければなりません・・・」
話の途中で副担任の先生が座り込んだ。副担任の内田先生は若い女性でこういった話はとても苦手である。顔は青白く、とても立っていられる状態ではない。
クラスがざわつき始める。先生の重苦しい表情から皆が悟った。気を取り直して先生が続けた。
「スーパーの付近の死体を調べたところによると・・・その死体は竹田と同一であるとわかりました。死因は事故死だそうだ・・・私たちは本当に君たちのことが心配だ。今回の件で私たちは自分の無力さを情けなく思う。これ以上先生は生徒を失いたくない。皆竹田の死を無駄にしないでほしい・・・・」
武も見ていたはずだ、おれも見ていた。あれは事故死なんかじゃなかった・・・なるほど、通り魔の存在による混乱とそれを防げなかった警察の対処か・・・。おれがこの犯人を絶対に捕まえてやる・・・。
事件から二年後。
「良子元気でね。忘れたりなんかしたら許さないんだから・・・グスッ」
「馬鹿・・忘れたりなんかしないわよ・・・グスッ・・」
女子の会話。今日は卒業式のようだ。お互いの別れを悲しむ声がたくさん聞こえてくる。
「武、お前県外行くんだってな。がんばれよ」
「おれたちのこと忘れんなよ?」
「うん、ありがと。龍介くんも卓也くんもがんばってね」
さすが卒業式とあってか見たこともないモブキャラが勢ぞろいしている。
「武っ」
振り返ると繁が立っていた。
「県外の進学校がんばれよ。離れていても応援してっからな」
「うん」
卒業式はほとんどの人が泣いていた。こいつは泣かないだろうって思う人ほど泣くものなのだろうか?真面目な生徒も不良も頑固親父のような父も泣いていた。
担任の山田先生の前にクラスのみんなが集合していた。
「おれはこのクラスを持ててよかった。どの担任が文句いったっておれはこのクラスが一番なやつらだと思ってる。それは一人一人が優秀なやつらだなんてそんな安っぽいもんじゃなくこのクラスの一体感が他よりいいと思ってる。だからおれはお前らが大人になってもそういう人を探して欲しいと思ってるじゃあ今日でお別れだ」
三年間一緒だった先生にクラスのみんなは一つも文句を言わずに付いてきた。クラス替えもない学校で、本当にみんな仲が良かった。繁の事もみんな怖がってはいたがなんだかんだでただの不良と生徒とは違う関係をちゃんと持っていた。
「うう、びんだぁ。げんぎでだぁ(うう、みんなぁ。元気でなぁ)」
卒業式でみんなは繁がただの良い奴ってことを理解した。もう少し早ければ、なんて思ってしまうが。
「おばえらやざじいだぁ。ぐう、はんがじだんでいだでぇよぉ。だいででぇがら・・・ずびび(お前ら優しいなぁ。ぐうう、ハンカチなんていらねぇよぉ。泣いてねぇから・・・ずびび)」
おいおい涙腺からなんか透明の液体流れてますけどそれなんですかね、涙をお拭きになりなさいな。と言いたげな表情をみんなしている。男子三人と女子二人が繁の背中をさすったり涙を拭いたりしている。
彼らの学生生活は終わった。時には苦しく落ち込む時もお互いを支え合い頑張ってきた彼らの功績は後に継がれていくだろう。卒業式の帰り道、繁は交通事故で帰らぬ人となった。彼の目的はスタートに立つ前に塵と化した。




