四
武はこのゲームが楽しくてしかたがなかった。もうポイントは50を超えた。Growと出会ってから一週間しか経っていないというのにとてつもないスピードでポイントを増やしていっている。
「君って恐ろしいほどの才能を持っているね。君はなぜ今まで自分に才能を感じない人生を送ってきたのか分かったよ。君は戦闘においてずば抜けた才能を持っている・・・しかしそれはこんな平和な世の中では開花するはずもないね」
たしかに武は戦闘においての直観はずば抜けていた。Ghostの素早い動きにも的確に対応している。
「ありがと。こんなに楽しい・・・まるで一つのスポーツをしているような感覚だ。くくく・・・・これから僕の・・・俺の新たな人生の幕開けだ。」
武の精神の急激な変化にGrowは恐怖していた。二重人格などではない、今まで眠っていたそれに浸食されているようだ。Growと出会うまでの武は温厚で人との接し方も上手だった。しかし今は昼は今まで通り、夜は戦闘にあけくれる戦闘狂。ここまでの二面性を持つとそのうち隠しきれなくなるだろう。いずれはどちらかに完全に支配される・・・・。
すべてを倒し終えるとやさしい武になった。二人は夕食の買い物の準備をし、近くのスーパーへと向かった。めずらしくスーパーの帰り道は人通りが少なかった・・・・・。
「Growは今日の晩御飯のおかずはなんだと思う?」
「んー・・そうだなぁ、ひき肉と玉ねぎがあったからハンバーグとか?あれ今まで食べた中で一番好きだし」
あまり考える様子もなく自信ありげな表情でGrowは答えた。しかし理由もちゃんとしているところがなんとも憎たらしい限りだ。最後の発言は余計だが
「正解はロールキャベツでした。いい線いってたんだけどね。ハンバーグは来週にでも作ってあげるよ」
他愛のない話をしながらスーパーの帰り道を歩いて行く。夕食のロールキャベツを楽しみにするGrowの嬉しそうな動きが面白い。正直何がおかずでもうれしそうだ。しかしとても平和だ・・さっきまで戦闘していたようには見えない。
さっきの会話から数分後。
「んー、ちょっと買いすぎたかも・・・・Growもたくさんおかわりして食べてよね。残しは厳禁」
「えー、僕小食だからなぁ・・・あれ?あれって武の友達じゃない?何回か学校で話してるのみたことあるし間違いないよ」
Growが見ている方向を見るとそこには真理がいた。武と同じく買い物の帰りの真理だ。声をかけようとすると後ろから変な男につきまとわれているのが見えた。
あの服装・・・どこかで見たことある・・・たしか学校の配布物にあった。例の通り魔事件の・・・犯人の服装の絵がのっていた手紙・・・大変だ・・・。
「大変だ・・・真理!こっちにくるんだ!早く!」
とりあえず彼氏を装って男を離れさせよう。早くしないと何をされるかわからない・・・でも・・・噂では人通りが多いところでしか・・・いや・・・今日は人がほとんど・・・まずい・・今は僕とGrowと真理とあの男しかこの通りにはいないじゃないか・・・。
武は叫んだが男を見て驚愕した。男の頭上には巨大な龍が渦巻いていた。それに圧倒されていると男はこちらに気づいて目を合わせてきた・・そしてこちらを見たままにやりと不気味に笑った。
「武・・・」
真理がこちらを弱弱しい目で見ている。おそらく真理もこいつが通り魔の犯人だと気づいているのだろう。いくら気が強い真理でもうかつに手を出すことは出来ない。
「武、あいつ能力者だね。どうする?点を取っておくかい?ってそんな場合じゃなよね。友達が危険なんだ・・・やらないとまずいよ・・・」
焦って早口になるGrow。
たしかにこの状況は早く助けにいかないと命が危ない。しかし冷静を忘れることは戦闘において愚の骨頂。
「待って・・・まだ対能力者の実戦経験はないんだ・・・慎重に行かないと・・・助けるどころか僕まで殺されてしまう・・」
そんなことを話している暇なんてないはずだと武も分かっているが動けない。決して臆してるわけではないが慎重になりすぎている。そういう者に限ってミスをおかしてしまうことが多い。時には即座な行動が求められる時もある。
「おれみたいな能力は能力者同士でしか目視出来ないからよぉ。反応見りぁあすぐわかんだよなぁ・・Eaterみーっけ。」
まずい・・ばれた。できるだけ能力者との戦闘は避けたかったけど・・・これは避けて通れるものではなさそうだし・・。
「おいおい、そんなに能力者との戦闘は嫌かい?それとも怖いのか?おれはいろんな奴殺してデモンストレーションしてきたがなぁ・・まぁしかたない。火種を作ってやるよ。例えばそうだなぁ・・ああ、そういえばお前この女に声かけてたよな?・・この女をお前の目の前で殺してみるとか?・・・ヒヒ」
なんの冗談を言ってるんだ・・・?はは・・・まさかな・・これは関係ない人を殺すゲームじゃない・・・今までの殺人だってきっと能力者のはず・・・・きっと・・・。
真理をゆっくり見た。真理にアイコンタクトで指示を送るつもりでいた。『気を引いてる間にダッシュで逃げるんだ』と。遅すぎた・・。
「え・・・・・・?」
真理には頭が無かった。
だから何の冗談だって・・・・え?
一瞬の間に真理は龍に頭を噛み千切られていた。頭を食いちぎる時に背骨まで引きちぎられ、龍の口からボリボリという鈍い音が聞こえる。真理は見たこともない姿になっていた。ぐちゃっと肉体が地面に落ち、血の池に沈んだ。龍の口から臓器が少し見えている。
武は少しの間静止した。そしてゆっくりと男に近づいて目を合わせる。
「あぁ?なんだよ」
強気な発言をしていても武の目に内心恐怖していた。武もそれが虚勢だとすぐに理解し、さらに追い打ちをかけるように睨み続ける。武の目は恐ろしくよどんでおり、これが十六歳の子供の目とは思えない。
「おれの能力は物体を生物に再構築する能力。なぁ・・・ビビったか?あ?」
その発言そのものが恐怖していることをさらに主張していることに本人は気づいていない。男は自分と同じ心理状態に持っていこうと必死だった。
「うぁっ」
自分の頭の上で爆発のようなものが起きて驚いた。武は自分に近くないのに龍が消えてしまった。何が起きたのか全く分からなかった。
「っくしょおお」
男は地面に手を当てゴーレムを作り上げた。大きさは三階建ての家ほどある。しかしその勇姿は一瞬にして塵と化した。ただの土でできた出来損ないを消すことなど武にとって造作もなかった。
「な・・・なんなんだよお前・・・お前の能力って・・・一体・・。」
殴りかかろうと腕を振り上げた。しかし男の言葉に重なるように武は小さく、恐ろしい声で答えた。
「失せろ。」
男の振り上げた腕は無残に破裂した。体内の酸素が急激に増加し、耐え切れなくなった腕が破裂したのだ。武が言葉を発してから一秒もかからなかった。
「うひゃああああああああ」
男はただひたすらに走り続けた。路地裏に逃こんだが男は自らの本能で気づいていた。『助からねぇ』。気配に気づいて振り返るとそこには武が立っていた。さっきまでの幼さは欠片もなく、幾度の戦いを生き抜いてきた英雄の如きたたずまいであった。
「なぁ、同じ死に方・・・させてやろうか?」
「は、はい?」
男にもはや闘気は感じられない。戦意を失っている。
「頭をふっ飛ばされて死にたいのか?と、そう聞いている」
男はうろたえた。どうすることもできなかった。ここで抵抗しても勝てるはずがない、いや抵抗することも出来ないだろう・・・さっきのゴーレムでよくわかっていた。相性の類の問題じゃない。どうすることもできない力・・弱者を殺すことしかできない自分との圧倒的差がそこにはあった。
「ゆ、許していただけないで・・・」
破裂。最後まで男の台詞を聞くまでも無かった。自らの我欲のために関係のない一般人への殺人を繰り返した男に武は生きる資格を見いだせなかった。破裂した頭部の肉片は周りに飛び散りどれがどの部分か医者にも分からないほどだった。そして無残な死体をただの生ごみをみるかのような目で見ながら目玉であろうと思われるそれを踏みつぶした。
武の中で何かが外れた。絶対に外してはいけない重要な感覚をこの事件で落としてしまった。その時の武の目はもはやどこも見てはいなかった。虚空をむなしく見ていただけだった。この世界に視点を合わしてはいないかのように・・・・。ちがう何か、だれかを見ていた。
その場を離れると野次馬とともにかけつけた繁にこう呟いた。
「繁までいなくならないでくれ・・・」
何も知らない、だれが死んだのかもしれない繁にもこの言葉の重みは伝わった。




