十八
武は扉を開けるとそこは第三地区だった。たぶん一発で着くのはラストが待ち遠しい上の者の拝領であろう。
「ようやくですか・・・私が第一地区の最後の一人。『紅 帝-くれない みかど-』といいます。おそらくこのゲームの最後の相手となるでしょうからね。名前を覚えておいてくださいね。あ、昔この名前でいじめられてたこともありまして・・」
「そうか」
「おやおや、思っていたより冷たいお方ですねー。もっといい反応を期待していたんですが・・・あなたの名前は?」
紅は思いのほか陽気な男だった。しかしそれはピエロのようなつくられた感情のようにも見えた。
「銀 武」
「おぉ。同じ苗字も名前も一文字な方ですか。銀色の刀の武士と紅のマントの帝王といったところですかね・・私の方が優位だ」
何を言っているのだろうか、と武は紅を見た。つかみどころのない相手のようだ。
「では行きましょうか・・・そろそろ始めないとお偉いさんもしびれをきらすだろうし・・では・・来いっGuardian」
すると後ろから紅と同じくらいの仮面を付けた者が現れた。そしてそいつは一瞬でどろどろと溶けだし、紅の色をした鎧となって紅と一体となった。そして落ちた仮面を拾い上げて自分に付けた。奇妙だった。自分を見ているようだった。
「私の能力は自らとともに成長する守護霊。能力もさまざまに変化する。どうだ!驚いたでしょう?」
「・・・・」
返す言葉も無かった。あまりにも自分と似ている。自分と似た境遇の持ち主なのだろうか・・それは分からないがとにかく能力は恐ろしい。
「お前が俺と真逆の人間ならば・・・・」
武の考えだと今の能力では勝ち目はない。かすかな希望もなく負けるだろう。つまり策は一つしかない
「Grow・・・レベルアップだ・・」
「りょーかいっ」
レベルアップするとGrowは武と同じくらいの身長になった。
「行くぞ・・・」
武はGrowを纏うと、いつものガントレットが両腕に付き、全体にも装備がほどこされた。それは紅のような大きな鎧ではなく、どちらかといえば佐野のようなすらっとしたデザインだ。防御力は紅にくらべれば薄い分劣るが動きやすさは圧倒的だ。しかし相変わらず黄土色のローブはつけたまま、フードで顔もあまりよく見えないまま、そして静かに仮面を拾った。
「なるほど・・・似た者同士が引き寄せられたわけか・・・やはり私たちのように重い過去を持っていないと人間の真価は発揮されないのですかね」
本当にそうなのだろうか・・・。友が死なないと自分の願いはかなわない、しかしその願いは友に使う。そんな事になんの真価を見出すのか。無駄な事にしか思えない。
「どうだか・・・」
二人は向き合った。お互い探り合うようにじりじりと距離を詰める。
「あれは・・・・使えますね・・」
一瞬で何もない民家が建ち並ぶ場所が宮殿へと変わった。
「帝王の命令です・・・死になさい」
そこには心配で様子を見に来た吉崎の姿があった。
「・・・・はい」
吉崎の背後からカグツチが現れた。
「ぐ・・・何かに操られているようだ・・・やめろっ・・・ぐああ」
カグツチは抵抗むなしく吉崎の頭を吹き飛ばした。
「な・・・・に・・・我を・・・こんな・・・」
カグツチは消えた。
「わんわんっ!(我が主人よっ・・・なんてことだ・・・)」
「・・・・・」
武は無言でその光景を見ていた。まるであの時のデジャブだ。
「チッ・・・・」
「くくく・・・さぁひざまずきなさい」
武はひざまずかされた。
「私は帝王としてあなたたちに命令が出来る。それを実行しなければならないのですよ。愚民はね。命令します、自殺しなさい。ナイフを貸してあげましょう」
ふところからナイフをとりだして武の前に滑らせた。紅は玉座から見下ろしている。
「ああ、分かった」
言葉とは裏腹に武はナイフを砕いた。帝王の命令は絶対実行せねばならいはず、というか逆らうことを体が反対させられるのだ。
「な・・何・・・」
俺は佐野の能力の話を聞いた時に羨ましかった。自分の思いを必ず実行できる・・しかし俺にはそんな真っ直ぐな思いなどない。紅の能力もそうだ、相手を屈服させるほどの能力、それはあいつの意思の強さも表している。俺にはそんな強さはない、ならばどうするか・・嘘付きだ。感情とは裏腹な嘘ならいくらでもつける・・・だから俺は嘘を付く。
「ど・・どういうことだ・・・」
紅は何が起こったのか分からず、玉座で唖然とした。
「俺はいつもぶれていた・・・最初の能力は真っ直ぐだった・・ただ殺してやりたかった、次は関係ない人間でも苦しみを味あわせた。でも気づいた・・自分と同じ思いをして来てる奴らにこの仕打ちはあんまりじゃないかと・・三番目は相手に苦しみを与えずに殺す方法を見に付けた、そして今・・自分の真の気持ちを反対の言葉で出すことが出来た」
やはり私と同じように成長の能力か・・
「俺はお前に屈服などしたくない・・だが嘘を付く。そしてそれを破壊する。矛盾した能力だよまったく・・・」
武は自分の本当の望みを抑えてきた。元々外に吐き出せるタイプではなかった。だから真理が殺された時も誰にも気持ちを吐き出せなかった。しかし今は嘘をつくことでその裏の気持ちを出せる。
「意味がわからぬ!自殺しろ!ナイフで腹をかっさばけ!簡単な話だ!」
「ああ、切る・・・」
いくら命令しても武が嘘を付けばそれは無かったことになる。
「だだこねてるみたいでまったく情けないよ・・・・俺はお前を殴りたくない・・お前を痛めつけたくない。菅田を殺されたことも恨んでない」
「そ・・そうか・・・はっ!」
武は紅の元に一瞬でジャンプした。殴りたくない、痛め付きたくない、恨んでない。全部嘘だ。しかし気づいた時には紅は宮殿の後ろに飛ばされいていた。
「ゴフッ・・・・わがままな能力だ・・」
ほんと身勝手だ・・口ではやるといって本心ではやりたくないと思っている。しかしそれは相手ぼ責任ではない自分が言えないのが悪い、しかし世の中には俺のような人間がいる・・言いたくても言えない。ならば無理に反発する必要などない・・・嘘を付いてやればいい。
「命令だ!お前は嘘をついては・・・」
「命令してくれ」
武が言うと紅の口は命令を口にできなくなった。
「ぐっ・・・これでは能力が・・・」
「たしかに俺とお前では反対のようなものだった。命令される側と聞く側・・しかし相手の立場になってみないと見えない者だってある・・・」
感情に反映して成長する能力とはよく言った物である。
「貴様のやっていることは正当化だ!自分が自分を出せないのは自分がそれはいけないことなのだと思っているからではないのか!しかしそれでも自分を出したいから貴様は能力という卑怯な方法で自分を出している!」
「ああ・・・そうかもしれないな」
正当化。まるで自分が正しいかのように言うこと・・しかしそれは相手の目線の話なのではないだろうか。むしろ自分から見れば正しいかのようではなく本当に正しいのであろう。悪の反対が正義であるように。
「なぁ・・たのむ・・助けてくれ・・・」
俺は影だった。だから何もかもしまいこんできた。お前は光だった。だから何もかも自分の思い通りにしようとしてきた。
「ああ、助けてやろう」
今お前を楽にしてやる・・・負の連鎖から。
「ぐっ・・・・」
瞬殺だった。武は帝王を下した。




