十六
場所は変わって第二地区。ここには吉崎がいる。
「あの・・・あなたは・・」
「わんっわんわん!(我が名はグラディウス。犬種はグレイハウンドだ。女性に手をあげるのは気が乗らぬがこれも主人の命令だ。手合わせねがおう)」
なんで私だけこんな扱いなんだろう・・・でもわんちゃんかわいい・・。だ、だめ!いくらわんちゃんとはいえ手を抜いては・・・。
「あの・・・飼い主はどこに・・・?」
「わんわんっ(主人は死んだ。しかし死に際に命を受けた)」
悲しそう顔ををしている。おそらく死んだのだろうと吉崎も理解した。
「じゃ・・・じゃあお願いします」
「わんわんっ(少しお待ち願おう。今我が能力を発動するゆえ)」
特に言葉が分かるわけではないがとりあえず吉崎は待ってみることにした。グラディウスはその場に腰を下ろした。
「わんっ!わんわんわん!(我、気高き魔王の力を解放せし者なり)」
グラディウスが前足を少し上げ、地面につけると後ろから魔王が表れた。その姿は黒いマントを付け、日本の角を生やし、仮面を付けている。
「我を呼びし者よ・・我の力を借りて消したい敵とはどれだ・・・」
グラディウスが前足を吉崎に向けた。
「わんわんっ!(すまぬな。不本意だが死んでもらわねばならぬ)」
「何・・・あの人・・・。人?」
魔王・・おそらく私と似た能力・・・。でもこっちは・・・。
「では行くぞ・・・」
魔王が手を振り上げて殴りにかかったが吉崎の能力でガードされた。そしてすぐに手は消えてしまった。
「なるほど・・・我のような存在を背後に隠しておるな・・・姿を現せ・・・名も無き戦士よ・・」
「私のは攻撃を受けた時しか姿を現さない気まぐれな存在なの・・・だからわんちゃんのようにすぐ出てきてくれるわけじゃ・・・・」
吉崎の本来の能力は守護霊の召喚。しかし吉崎の守護霊は気まぐれで、自分が憑いている人間の危機を察知した時しか手を出さない。つまり本来は魔王のように姿を現せられるものなのである。
「使い勝手の悪い・・・弱者だから本体を出さぬのだろう・・・ならばこちらからそやつを引き出してやろう。こういった方法は好まぬのだがな・・」
突然魔王が紙を出した。そこに何か呪文のようなものをスラスラと書き始めた。人間の言語ではなく、まったく読めない。
「これは呪術。書ききるまでに時間を有すのであまり好きではないのだがな。これを書ききれば確実にお主は死ぬ。それがいやならば出てこい」
「わんわんっ(我もこの方法は好かぬ)」
「ふっ・・そうだろう。我もだ」
どちらも誇り高いを意識を持っているらしく、呪殺はこのまないようだ。しかしまだ吉崎の霊は姿を現さない。
「・・・ここまで・・かな・・」
吉崎は死を覚悟した。最後まで書いたら死ぬ術など攻撃されねば発動しない能力で止められるはずがない。
「あと一行だ・・・残念だ、名も無き戦士よ・・」
その時吉崎の背後から大きな手が現れ、魔王の紙を引き裂いた。そして本体も姿を現した。初めてみる姿に吉崎は何も言えなかった。
「あ・・・れ・・守護・・霊?」
「・・・。我は霊などという曖昧な存在ではない。まったく・・人間に手を貸すのはこれだから厄介なのだ・・・」
「名を聞こう」
魔王が謎の男に問う。
「我が名はカグツチ。父に殺されてからこの吉崎の家の者に代々憑いてきた者だ。何かあれば血が途絶え、我の存在も消えてしまう。故に助けていたが・・まさかこのような遊びで姿を現すはめになるとは」
カグツチ・・家にあった本で見た覚えがある・・たしか火の神。火の神であったために出産時に母親を火傷で殺してしまい、父親に殺されてしまったって書いてあった・・・それがなんで家に・・。
「しかたない・・これも何かの縁か・・。吉崎の子よ。これからお主を守るとしよう。呼びたい時には呼ぶといい」
「は・・はい」
急に・・や、やさしく・・・。
「では始めるとするか・・・」
魔王が拳を振り下ろすとカグツチはそれを容易に止めた。さすが神というべきである。しかし驚くのはこれからである。
「ぬんっ!」
自らの右手を火が包み、その掴んだ魔王の拳を焼いてしまったのだ。火の神が火を操ることなど容易である。
「ぐっ・・・貴様・・・」
魔王の左手は焼かれ、どろどろと溶けて無残な姿になった。
「肩から全部持っていきおったな・・・ぐ、なんと恐ろしい奴だ。しかし我も魔王と呼ばれし存在、そうたやすく倒されては名折れというものだ。悪いが少々卑怯な手をつかわせてもらうぞ」
魔王の背後から黒い竜の首が現れ、カグツチの首に噛みついたがカグツチはそれを燃やした。しかし一向に消える気配がない。
「なんだ・・・これは・・・」
「これは我が闇、実体に触れることは出来るが実体は触れることが出来ぬ。さぁ、どうするカグツチとやら」
「簡単な話だ・・」
カグツチは魔王の頭部に殴りかかった。それを右手でガードする魔王。
「ぐああああああ」
魔王の腕を焼き切った。恐ろしい火力だ。触れる物すべて焼切るその姿はまさに神である。しかし右手を犠牲にすることによって頭部への攻撃は防げた。
「そう簡単に行くと思うな・・」
カグツチは口から火の壁を吐いた。それが魔王の視界を遮っている。
「ぐっ・・どこからくる・・」
カグツチは魔王の頭部を掴んだ
「何をっ」
すると魔王の顔は焼かれ、残った骨も砕いてしまった。頭部を破壊された魔王は完全に消滅してしまった。
「わ・・わんわん・・・(ぐっ・・・完全に我の負けだ。好きなようにしろ)」
「じゃあ・・わ、私が新しい主人・・に・・なります・・それで・・・いいですか・・?嫌ならべつに・・・」
「わ・・わん(しかたない、我が主人は今からお主だ。よろしくたのむ)」
ね・・念願のわんちゃんが飼える・・。
「わっ、わんわん(そっ、そういえば主人の名を聞いてなかったな。主人よ、名はなんと言うのだ?)」
「あっ、そういえば私だけ名前言ってなかったですよね・・・私は吉崎 燈子といいます・・よろしくお願いします・・」
脅威のシンクロ率だ。
「わん(うむ、こちらこそよろしくたのむ)」




